自治体による、健康経営のサポートが注目されています。
これまでは、健康経営の推進主体はあくまで企業を中心とした雇用主であり、
自治体が行うのはあくまで地域企業の健康経営の「サポート」です。
しかし、今後はサポートを受ける企業だけでなくサポートを実施する
自治体側にとっても重要な施策となりつつあります。
今回は、自治体が健康経営をサポートすることによるメリットを5つ紹介します。
社員の健康増進が住民の健康増進につながる
地域企業の場合、社員がその地域の住民であることが多いです。
社員=住民である場合、その地域企業が健康経営を実践するかどうかが、住民としての、
当該社員の健康状態に大きな影響を与えることは言うまでもありません。
そして、多くの方が定年退職後に、従来の健康保険組合や協会けんぽから、住民票
のある自治体の国保に移ることになります。
まず、「働く世代」の間に身につけた生活習慣が、退職後の健康状態を大きく左右することになります。
そのため、健康経営によって企業が社員に生活習慣改善を呼びかけているかどうかが、
医療費の負担を考えた上でも保険者としての自治体の財政状態に大きな影響を与えることが容易に想像できます。
さらに、「働く世代」の間に健康に対して必要な知識を身につけている場合、退職後も
地域の保健センターの保健師さんからのアドバイスを比較的素直に聞くことができます。
一方で、「働く世代」の間に健康に無関心な場合、退職後に地域の保健センターの保健師さんが
頑張って健康増進のアドバイスをしても、なかなか聞いてもらえないことがあるようです。
人生100年時代で考えた場合、「働く世代」の20歳~65歳は、人生の半分にも満たない期間です。
しかし、生涯にわたって健康状態に最も大きな影響を与える期間です。
自治体としては、被保険者ではない職域の方に直接的にアプローチすることができません。
そこで、地域の企業の健康経営をサポートすることで、間接的にアプローチして、
住民の方々の生涯にわたっての健康維持・増進をサポートすることができます。
企業を巻き込んだ施策で自治体施策も活性化
近年、地域住民の健康づくりの一環としてウォーキングイベントを実施したり、
ウォーキングマイレージ制度を導入する自治体が増えています。
ウォーキングイベントでは、各地域の素晴らしい景観があるウォーキングコースを地域の仲間と一緒に歩きます。
ウォーキングマイレージ制度では、地域特産品や地域企業がスポンサーとなった商品などプレゼントがもらえます。
いずれも、大変魅力的な企画です。
しかし、ウォーキングイベントもウォーキングマイレージ制度も、魅力的な企画にも
関わらずなかなか活性化しないという課題を抱えている自治体が多くあります。
地域で実施するイベントのため、忙しい「働く世代」の参加が少ないということが背景にあるようです。
一方で、ウォーキングが健康によいということは、科学的に立証されていてエビデンスもあります。
独自でウォーキングイベントを開催したり、ウォーキングマイレージを導入している企業も少なくありません。
企業の健康経営をサポートする意味を含めて、ウォーキングイベントや
ウォーキングマイレージを実施している自治体もあります。
こういった自治体は、企業からまとまった数の参加者があるため、事業として活性化しています。
また、企業からの参加者の方々は、リピート率が高いというお話をお伺いしています。
健康経営の一環として企業から参加の後押しを受けていると推測できます。
中小企業にとって、自前でウォーキングイベントやウォーキングマイレージ制度を企画することは簡単ではありません。
自治体が地域の企業を巻き込む形でウォーキングの事業を行うことで、
自治体にとっては事業の活性化、企業にとっては健康経営の推進と、ダブルでメリットがあるといえます。
保険者努力支援制度などに取り組みやすくなる
保険者努力支援制度とは、保険者(都道府県・市町村)における予防・健康づくり、
医療費適正化等の取組状況に応じて交付金を交付する制度です。
2016度と2017年度に前倒し分が実施され、2018年度からは700~800億円の予算で実施されました。
2016年度、2017年度の保険者努力支援制度【共通指標④(1)個人へのインセンティブの提供の実施】
では、以下の2点が指標とされていました。
① 一般住民の予防・健康づくりの取組や成果に対しポイント等を付与し、
そのポイント数に応じて報奨を設けるなど、一般住民による取組を推進する事業を実施しているか
② その際、PDCAサイクル等で見直しを行うことができるよう、インセンティブが
一般住民の行動変容につながったかどうか、効果検証を行っているか
ここに、2018年度からは以下の指標が新たに加わりました。
③ 商工部局との連携、地域の商店街との連携等 の「健康なまちづくり」の視点を含めた事業を実施しているか
健康増進、健康づくりに取り組んでいる自治体の部門が、地域の産業と接点を持つ機会はなかなかありません。
しかし、「健康づくり」は一人で行うのではなく、地域一体となって取り組む
という考え方から、「健康なまちづくり」という視点は不可欠になっています。
地場産業と連携した健康づくりの重要性は、今後も高まっていくと考えられます。
地域の人の流れが活発になれば、地域の商店街が活性化して地域の産業振興につながります。
逆に、地域の商店街が活性化すれば、そこに地域住民が足を運ぶようになり、ウォーキングや
コミュニケーションの促進といった健康づくりの活性化にもつながります。
健康都市宣言をしている自治体では、産業振興に取り組む部門と保健福祉に取り組む部門が
積極的に連携してお互いに補完し合いながら取り組んでいます。
自治体による地域企業の健康経営のサポートは、この性格も目的も異なる二つの部門が
一緒に取り組む格好のテーマであるといえます。
産業が活性化し税金が増え、住民が健康になり医療費が削減でき、さらに保険者努力支援も
受けることができれば、財政面から見ても一石三鳥といえるかもしれません。
地域におけるヘルスケア産業の振興
超高齢社会を迎えた我が国において、予防産業の育成が望まれています。
地域に拠点を置く企業が健康経営に熱心に取り組むようになると、そこには
新たなサービスやサポートのニーズが生まれます。
特に、運動・栄養・休養に関するサービスやサポートは、スポーツクラブ、飲食店、
マッサージやリラクゼーションなど、地域密着の企業によって提供されることが多いです。
地域で健康経営が盛り上がるほど、地域におけるヘルスケア産業が振興することが期待できます。
例えば、従来より経営していた飲食店が新たなにヘルシーメニューを提供するようになった
結果、健康経営を実践している企業の従業員がよく来店するようになったとします。
そのことで、当該飲食店は収益が向上し、さらに他の来店客に
とってもヘルシーメニューを通じて健康増進をはかることができます。
このように、地域におけるヘルスケア産業の発展は、地域産業の活性化ばかりでなく、
地域住民の健康意識の向上、健康のための活動の活発化にもつながります。
地域の多くの企業が健康経営に取り組むようになると、地域企業も健康経営で業績が向上、
地場のヘルスケア産業もユーザーが増えて業績向上、相乗効果で地域がますます活性化する
というシナリオは、決して夢ではないと考えられます。
対外的な評判が良くなる
どの自治体も、一生懸命健康づくりに取り組んでいらっしゃいます。
自治体が健康づくり、そして健康になる街づくりをする目的は、
もちろん「地域住民のため」ですが、外の立場から見る目も結構重要です。
例えば、企業が工場を立地する拠点として、A市にするか、B市にするか、迷ったとします。
企業にとっては、ヒト・モノ・カネが経営資源です。
A市もB市も条件が同じで、企業が判断を迷う状況だったとします。
企業の経営者は、必ず、「大事な従業員には健康で長く働いてほしい」と思っているはずです。
実際に健康経営に取り組んでいるかどうかは別として、人財は自社の経営状態を
大きく左右する重要な資産です。
その人財の健康を願わない経営者は、いないと思います。
「この自治体なら、住民の健康づくりにしっかり取り組んでいて、健康経営のサポートまで行っている。
工場を建てても社員がイキイキ働いてくれるはず」と思ってもらうことができたら、
企業を誘致する上でも大変有利になるのではないでしょうか?
例えば、市内に健康経営優良法人の認定を受けた企業がたくさんあると、外から見ると、
「この自治体には、健康な人が多いだろうな」と思うのではないでしょうか?
住むだけで健康になる街。
働くだけで健康になる街。
そういった魅力的な街をつくりあげていくことだけでなく、対外的に発信していく上でも、
健康経営のサポートはメリットがあると言えます。
最後に
以上、主観的な内容ですが、これまで多くの自治体様にインタビューさせていただいた経験から、
自治体が健康経営をサポートするメリットを5つにまとめて掲載させていただきました。
自治体の健康推進部門は業務量が大変多く、また住民の方々と直接やりとりを
されているので、様々な要望にも対応されています。
そういった大変忙しい中でも、新たに職域に向けた取り組みを行われており、本当に頭が下がる思いです。
ヘルスケア産業の企業として、今後も自治体の方々の負担が軽減できるような地域・職域連携での
健康経営を推進するためのソリューションを提供していきたいと考えています。。