「スマイル100歳社会」の実現に向けて健康づくりを行う 神奈川県

神奈川県イメージキャラクター

 

 

神奈川県は西部の山地、中央の平野と台地、東部の丘陵と沿岸部と、豊富な地形により形成されています。

県の中央部には相模川、西部には酒匂川が流れています。

全国の主な湖の中で7番目に高い位置にある芦ノ湖をはじめ、相模湖、津久井湖、

丹沢湖、宮ヶ瀬湖など水資源利用のための人造湖があります。

海岸線は426kmの長さで変化に富む景観を持ち、東京湾側の京浜地帯は

高度に発達した港湾となっています。

 

また、富士箱根伊豆国立公園の一角をなしている箱根や湯河原の温泉地帯、

丹沢の山岳地帯や4つの県立自然公園があります。

京都、奈良とともに史跡名勝を有する「歴史の都」鎌倉など、産業、文化とともに

豊かな自然環境と観光資源に恵まれた郷土となっています。

 

2018年7月1日時点での人口は9,181,389人、全国の都道府県で東京都に次いで2番目の人口です。

19市、13町、1村の33市町村からなっており、この中には横浜市、川崎市、相模原市の3つの

政令指定都市が含まれます。

政令指定都市の数として、3市を抱えているのは全国の都道府県で唯一です。

 

 

「スマイル100歳社会」の実現

 

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、高齢者の弱体化や認知症の

増加など、超高齢社会の課題が一気に顕在化する「2025年問題」が危惧されています。

 

神奈川県では、2025年に向けてヘルスケアの分野で先進的な取組を進めることで、超高齢社会の

課題を解決するとともに新たな市場・産業の創出を図っています。

 

それにより、『すべての世代が元気で自立したライフスタイルを実践し、

100 歳になっても健康で生きがいと笑顔あふれる健康長寿社会(スマイル100歳社会)

を実現することが目標です。

 

行政における、健康・医療の分野と産業振興といった分野はそれぞれ異なる部門が担うことが多くあります。

神奈川県では、この2つの分野を兼ね備えた独立の部門として「ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室」

を設置しています。

医療・保健・健康・産業・先端技術といった分野に包括的・組織横断的に携わり、多様な

主体と連携しながら、イノベーションの力で「スマイル100歳社会」の実現に向けて取り組んでいます。

 

「スマイル100歳社会」の実現のために、神奈川県では「最先端医療・最新技術の追求」と

未病の改善」という2つのアプローチを融合させ、持続可能な新しい社会システムを

創造していく「ヘルスケア・ニューフロンティア政策」を推進しています。

 

以下の図は「ヘルスケア・ニューフロンティア政策」のイメージになります。

 

健康寿命日本一

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

そして、2018年3月には、この政策が目指す姿、県民メリット、主要目標(2025年)、

中間目標(2020年)、具体的な取組等を示した「ヘルスケア・ニューフロンティア推進プラン」が策定されました。

 

 

県の施策 6つの柱

 

「ヘルスケア・ニューフロンティア推進プラン」では、生活習慣、生活機能、認知機能、メンタルヘルス・ストレスを

重点領域に位置づけ、当該4つの重点領域でのイノベーションの創出に向けて、技術革新、産業化、社会実装の

3つの戦術に基づき、未病(ME-BYO)、最先端医療・最新技術、次世代ヘルスケア社会システム、国際展開、

ヘルスケアICT、人材育成の6つをそれぞれ施策の柱として定めて、各主体と連携して取組を進めています。

 

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

6つの柱について、簡単に記載します。

 

 

 

 

【未病】

 

未病とは、『健康と病気を2つの明確に分けられる概念として捉えるのではなく、

心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものと捉え、このすべての変化の過程を表す概念』です。

 

ヘルスケア・ニューフロンティアでは、この「未病コンセプト」を基軸に捉えています。

エビデンスに基づいた未病指標を県民が活用し主体的な未病改善に向けた

取組を行うために、健康や未病に関する知識の普及を図っています。

 

また、県民のライフスタイルの見直しを促進するとともに、行動変容に向けた選択肢を

増やすため、様々な分野の企業が参加する未病産業研究会を基軸とした未病改善のための

商品やサービスの普及・拡大を図っています。

 

未病とは

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

「未病」の施策をまとめると、以下を目標に取り組んでいます。

・ 未病指標の活用により、未病の見える化を一般化する

・ 神奈川県民の健康リテラシーを向上させる

・ ビッグデータやAIなどの活用により未病産業の発達を加速させる

 

 

【ヘルスケアICT】

 

県民が自ら未病指標を活用し主体となって未病改善に向けた取組を行うための

プラットフォームとして、神奈川県では「マイME-BYOカルテ」を開発・運用しています。

 

当初はWEBブラウザとして、PC上で運用できる形になっていました。

これからはスマートフォンの普及に応じてより多くの県民の方に未病に向けた

取り組んでもらうために、2017年度よりスマートフォンアプリでの運用を開始しました。

「マイ ME-BYO カルテ」は、健康情報を「見える化」し、毎日楽しく簡単に健康管理を

行う機能を提供することで「未病の改善」を応援するアプリです。

 

主に、以下の機能から構成されます。

 

スマホに毎日の歩数や歩いた距離を自動で記録

 

歩数や歩いた距離などの運動量や体重、血圧、心拍数など毎日のからだの

状態を一覧で表示でき、日々の健康管理に役立ちます。

 

毎日の歩数を自動で記録

(資料出所:「マイ ME-BYO カルテ」 リーフレット)

 

お薬手帳をスマホで管理

 

薬局でもらったQRコードをスマホで読み取れば、自動でお薬の情報が

記録され、面倒な入力作業は不要です。

 

スマホでお薬情報を記録・管理

(資料出所:「マイ ME-BYO カルテ」 リーフレット)

 

いつでも自分の健康状態をスマホから確認

 

災害時、外出時の急な病気など、万が一の場合も、予防接種歴やアレルギー情報などを記録しておくと、

紙の記録がなくてもスムーズな支援を受けることができます。

 

大切な健康情報を県が保管

(資料出所:「マイ ME-BYO」 カルテ リーフレット)

 

「マイ ME-BYO カルテ」には他にも、家族管理機能が備わっていています。

子どもが学校で受診する健康診断結果のデータをアプリで管理できたり、

電子母子手帳アプリと連携して子育て支援に活用できたりといった機能もあります。

さらに情報発信機能があり、自治体から子育てや健康に役立つ情報も配信できるようになっています。

 

「マイ ME-BYO カルテ」の利用者数を増やすため、「神奈川県から県民への直接の普及」、

「市町村を通じての普及」、「企業を通じての普及」を行っています。

後述する県民が参加するかながわトクトクウォークや、企業単位で参加する

企業対抗ウォーキングでも、「マイ ME-BYO カルテ」がツールとして活用されています。

 

「ヘルスケアICT」の施策をまとめると、以下を目標に取り組んでいます。

・ 「マイ ME-BYO カルテ」の活用で、自分の健康情報を自分で管理し、主体的に未病改善を実践する

・ 様々な主体による健康情報の共有の推進と、最適なサービス提供を加速させる

・ 「マイ ME-BYO カルテ」の災害時活用の仕組み構築による県民の安心を確保する

 

 

【人材育成】

 

県民の健康寿命の延伸に寄与するため、新たな技術や社会システムの変革を担う人材の育成を進めています。

 

その一環として、2019年に、公立大学法人神奈川県立保健福祉大学に新たな大学院である

ヘルスイノベーション研究科(通称 ヘルスイノベーションスクール)を開設しました。

 

同スクールでは、イノベーション人材の育成に加え、シンクタンクとして県施策について

学術的な研究を進め、県の健康医療施策への反映につながるような提言の実施を目指しています。

 

「人材育成」の施策をまとめると、以下を目標に取り組んでいます。

・ ヘルスイノベーションスクールから排出された人材が技術、産業、政策面におけるヘルスケアのイノベーションを牽引する

・ シンクタンク機能を発揮し、県民の健康寿命の延伸に寄与する

 

 

【最先端医療・最新技術】

 

2025年を見据えた場合、現在の社会保障制度の仕組みに依存し続けるのではなく、最先端医療の

有効性や安全性を検証し、医療・保健に関わる新たな技術の可能性を探っていくことも必要です。

 

そこで、ヘルスケア・ニューフロンティア政策において、ヘルスケア領域における研究開発を

支援するとともに最新技術の市場化を促進し、県内における関連産業の集積促進を図ることが

「未病の改善」と並んで重要なアプローチとなっています。

 

神奈川県では、2016年4月に川崎市川崎区殿町地区に「ライフイノベーションセンター」を開所しました。

このライフイノベーションセンターを中心に大学や企業等ネットワークの強化を行っており、

「かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK)」設立などを通じて

バリューチェーン構築に取り組んでいます。

 

その他にも、慶應義塾大学等と連携して、産学官が連携した異分野融合プロジェクトとして

「リサーチコンプレックス推進プログラム」の展開、「ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンド」

の組成等を行っています。

 

「最先端医療・最新技術」の施策をまとめると、以下を目標に取り組んでいます。

・ 革新的技術の実用化を加速させ、再生・細胞医療などの最先端医療機器をより早く県民に普及させる

・ 革新的医薬品や最先端医療機器が広く活用されるようにし、新たな産業として県経済を牽引する

 

 

【国際展開】

 

ヘルスケア・ニューフロンティアでは、健康や医療に関する優れた技術を神奈川県から海外の

市場に展開する、あるいは、海外企業の県内誘致や海外企業との事業連携に取り組んでいくことも推進しています。

 

スタンフォード大学医学部、メリーランド州政府、マサチューセッツ州政府(以上北米)、

セルアンドジーンセラピー・カタパルト(英国)、バーデン=ビュルテンベルク州(ドイツ)、

オウル市(フィンランド)、シンガポール政府機関、スコットランド国際開発庁などと覚書(MOU)を

締結して、ヘルスケア・ニューフロンティア実現に関わるテーマでの相互協力を行うなど、

アカデミアとの連携に取り組んでいます。

 

神奈川が展開するグローバル戦略

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

また、2015年度には、世界保健機関(World Health Organization / WHO)との共催で

高齢化に関するシンポジウムを行いました。

神奈川県の職員として医師が1名、WHO本部の高齢化部門に出向し、WHOの最新の動向に

関するタイムリーな情報入手や連携が出来ています。

 

神奈川県では、県内19市町がWHOの「エイジフレンドリーシティ」に参加しているなど、

国際的な動きと方向性を併せてヘルスケア・ニューフロンティア政策を推進しています。

 

「国際展開」の施策をまとめると、以下を目標に取り組んでいます。

・ 最新技術、社会システムを世界各国へ普及させ、県内企業等が世界市場に進出する

・ 世界の最先端医薬品、医療機器を県内に導入し、県民の健康寿命延伸に寄与する

・ WHO「エイジフレンドリーシティ」の取り組みで、県内全域で高齢者も暮らしやすい地域づくりを進展させる

 

 

【次世代ヘルスケア社会システム】

 

県民の主体的な未病改善を後押しするために、行政や企業等が支える仕組みが必要です。

神奈川県発の新しい社会のしくみづくりとして、「神奈川 ME-BYO リビングラボ」を立ち上げ、

未病関連商品・サービスの有効性を検証・評価するスキームの構築を行っています。

 

 

未病関連商品・サービスの機能・効果等を検証する実証フィールドを提供する上で、

企業や市町村の抱える健康課題を把握し、解決するための商品・サービスの有効性を

企業や市町村で実証していくことが必要となります。

 

そのために、企業に対しては後述するCHO構想、市長村に対しては国家戦略特区構想等の活用を推進しています。

 

「次世代ヘルスケア社会システム」の施策をまとめると、以下を目標に取り組んでいます。

・ 県民一人一人が様々な未病関連商品やサービスを活用し、主体的かつ日常的に未病改善を実施する社会システムの構築

 

 

「マイ ME-BYO カルテ」と「かながわトクトクウォーク」

 

神奈川県は、プラットフォームとしての「マイ ME-BYO カルテ」を多くの県民に

活用してもらい、自ら未病の改善に取り組んでもらうことを目指しています。

 

「マイ ME-BYO カルテ」の利用者は2017年度末に5万人を超えました。

しかし、自発的に「マイ ME-BYO カルテ」を活用している人は、もともと健康への意識が高い人の傾向がありました。

今後、健康に無関心な層も含めて、多くの人に活用してもらうためには、「マイ ME-BYO カルテ」を

利用して未病改善に向けて行動するための「きっかけ」を作ることが必要です。

 

そのきっかけの一つが、2018年7月24日から2019年2月28日の間、開催された「かながわトクトクウォーク」です。

※現在は終了しています。

 

かながわトクトクウォーク

 

参加には、「マイ ME-BYO カルテ」スマートフォンアプリをダウンロード、ログインし、

画面上部のキャンペーンバナーをタップし、参加登録を行うのみと、簡単です。

スマートフォンを持ち歩いていれば、「マイ ME-BYO カルテ」が自動で歩数を計測し、集計を行う仕組みです。

自分でデータを入力したり、送信したりする必要はありません。

 

集計期間中に平均歩数5000歩以上を達成した方を対象に抽選を行い、合計10,000名に豪華賞品がプレゼントされました。

 

かながわトクトクウォークスマホ画面

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

 

CHO構想

 

CHO構想とは、企業や団体が事業所に健康管理最高責任者(Chief Health Officer / CHO)を設置し、

従業員やその家族の健康づくりを行う取組です。

つまり、「健康経営を推進する」ことを意味します。

 

神奈川県では、CHOという役割をもって、責任をもって健康経営の旗振り役を

担ってもらいたいという思いを込めて、CHO構想としています。

 

神奈川県では2014年に「CHO構想推進コンソーシアム」を設立し、企業に実際に健康経営に

取り組んでもらい、その効果を検証する事業を行ってきました。

 

また、「マイ ME-BYO カルテ」を健康経営推進のためのツールとして活用し、従業員の日々の

健康管理に役立ててもらうといった形での支援も行っています。

 

健康情報の一覧化

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

また、CHOを設置して健康経営に取り組む企業や団体の県内事業所を

「CHO構想推進事業所」として登録する制度も行っています。

 

この制度は、まだ健康経営への取組実績がなく、「これから健康経営を行う」という

企業も参画できる仕組みになっています。

CHO構想推進事業所として登録した企業には、登録証やステッカー、名刺に刷り込めるイメージロゴを配付しています。

 

CHOを設置して健康経営に取り組んでいます

(資料出所:神奈川県ホームページ)

 

また、CHO構想事例集を発行し、CHO構想推進事業所の中から、健康づくりの取組事例の紹介も行っています。

さらに、健診結果を入力すれば、県が事業所の従業員の健診結果の平均値と神奈川県内企業の

健診結果の平均値とを比較できるように、分かりやすくグラフ化して結果を返すことを行っています。

 

また、従業員の健康づくりに関心のある県内の業界団体等に、県職員と中小企業診断士等の

専門家が訪問し、職域での効果的な健康づくりについて説明する出前講座を行っています。

 

神奈川県では、「マイ ME-BYO カルテ」を活用して、企業・団体の従業員と

その家族を対象とした「企業対抗ウォーキング」を行っています。

参加企業ごとの平均歩数ランキングを県のホームページで公表し、ランキング上位企業には県から表彰状を贈呈しています。

企業対抗ウォーキング参加事業所の従業員の場合は、併せて「かながわトクトクウォーク」に参加することも可能です。

 

 

企業との連携

 

神奈川県では、ヘルスケア・ニューフロンティア政策を推進する上で、企業と連携した取組も積極的に推進しています。

以下、その例を記載します。

 

【ME-BYO de Pokémon GO】

 

位置情報ゲームアプリである『Pokémon GO』とのコラボを行いました。

市町村がおススメするウォーキングマップを作成し、県内の市町村窓口などで配布しました。

「マイ ME-BYO カルテ」に体重や血圧を記録すれば、ウォーキングの効果を見える化することができます。

 

 

ME-BYO de Pokémon GO マップ

 

(資料出所:神奈川県提供)

 

【ABC Cooking Studio「未病を改善する」レシピ】

 

神奈川県と株式会社ABC Cooking Studioは、2014年12月18日に「食」を通じた

「未病」の概念の普及・啓発等を目的として覚書を締結しました。

「未病を改善する」ための様々なレシピや、健康にまつわるコラムを発信しています。

 

 

最後に

 

超高齢社会を迎え、また2025年問題を控え、健康づくりはあらゆる自治体にとって重要なテーマとなっています。

しかし、国際的な方向性を踏まえた取組を意識している自治体は、全国でもまだ限られている状態です。

 

そんな中、神奈川県内だけで、これだけ多くの市町がWHOの取組に参加していることに

衝撃を受けたとともに、県レベルで高い目標を掲げることの重要性を感じました。

 

神奈川県では、「県民」、「市町村」、「企業」の3つのアクセスルートで取組が行われています。

それぞれのアクセスルートで共通して、「未病の改善」を実践するための具体的なツールとして

「マイ ME-BYO カルテ」を活用することができる環境が提供されています。

 

当事者が異なることで施策の内容も方向性もバラバラになりがちであり、また、たとえ

バラバラになったとしても問題はないと考えます。

それを「マイ ME-BYO カルテ」という一つのプラットフォームを共有することで、

たとえ取組の内容が異なっていても、最終的に同じ方向に向かうことができると感じました。

 

また、個人によって健康状態も異なれば、健康への意識も異なることが、健康づくりの施策を遂行する上で難しい点です。

「未病の改善」という表現は、個人への負担感がなく、より多くの人が参加しやすい呼びかけであると感じました。

 

出典

神奈川県ホームページ 神奈川県の概要

神奈川県ホームページ 「ヘルスケア・ニューフロンティア推進プラン」