株式会社メディカルトラスト(以下「メディカルトラスト」)は2001年、現代表取締役社長森山氏と
現取締役事業部長佐藤氏によって、企業内健康管理のアウトソーシング事業等を行う会社として設立されました。
メディカルトラストの取締役事業部長である、佐藤典久様(以下 「メディカルトラスト」と記載します)に、
創業のきっかけやサービスの特徴をインタビューさせていただきました。
創業のきっかけ
【勤次郎】
創業のきっかけについて、教えていただけますか?
【メディカルトラスト】
メディカルトラストの設立前、病院の事務局長・事務長の職務に約12年従事していました。
当時勤務していた病院はTHP に基づき企業向けのサービスを行っていましたが、
病院の立場で企業向けサービスを行う中で、一つの疑問を抱くようになりました。
例えば大手企業から、全国拠点の従業員向けということで、健康診断の依頼を受けたとします。
すると、その病院が全国の他の病院に依頼して、それぞれ各地での健康診断を実施してもらい、
データをもらってから、まとめて企業に納品するということを行う必要があります。
このように病院が、企業向けに全国一律サービスを行うことになると、他の病院に
頭を下げてサービスをお願いしなければいけません。
病院はそれぞれ、地域密着のいわば一国一城の主のような立場で地域社会のために医療に
携わっているのに対して、企業側は全国一律のサービスを求めています。
「病院による企業向けのサービスにはそもそもミスマッチが存在している」
と感じました。
そこで、企業向けのサービスについては、病院とは別の立場で役割を担う方が望ましいのではないかと考えました。
病院ではなく、民間企業の立場であれば、黒子の立場で病院や専門家をつなげて、企業に対して
全国一律のサービスを提供できると考えたためです。
このように考え、アースサポート株式会社の代表取締役社長である森山氏に呼びかけ、
アースサポート株式会社の出資を得て、一緒にメディカルトラストを立ち上げました。
(写真出所:株式会社メディカルトラスト社提供)
現在は、東京・札幌・仙台・名古屋・大阪・福岡に拠点を持っています。
各拠点で、企業向けに産業医業務のアウトソーシングサービス、医師面談サービス、
健康診断サポートサービスなどを行っています。
メディカルトラストの特徴
【勤次郎】
貴社のサービスの特徴について、教えていただけますか?
【メディカルトラスト】
最大の事業は、企業に対する産業医業務のアウトソーシングサービスです。
アウトソーシングとは「派遣」ではなく、「業務を委託してしまうこと」です。
したがって、ただ企業に対して産業医を紹介するだけでなく、産業医の先生が
各企業できちんとニーズに対応できる働きができるようにサポートをしています。
例えば、全国には産業医の資格を持つ先生が8万7000人くらい存在していますが、
各産業医には経験に応じて大きな個人差が存在しています。
これはあらゆる職業において共通のことですが、契約する企業としては当然、
自社のニーズにきちんとこたえてくれる産業医の先生に来てほしいということになります。
そこで、企業側のニーズを把握している当スタッフが、産業医一人一人へのサポート
を行って企業のニーズに応えられるようにしています。
そうやって、スタッフがサポートしている間に、産業医も徐々に
企業側のニーズがわかるようになります。
次第に、そのサポートをあまり必要としなくなっていきます。
いわば、産業医の先生が離陸して安定航行していくためのお手伝いをしているような形です。
もちろん、アウトソーシングならではの制約もあります。
例えば、企業から、「明日100人の産業医の先生を紹介してほしい」という依頼を受けたとします。
ただ産業医の紹介を行っているだけの事業体ならば、難しい話ではありません。
しかし、弊社ではスタッフが各企業で衛生委員会を立ち上るところから、各企業の
ニーズに産業医の先生が対応できるようになるところまでサポートする必要があります。
たとえ、産業医の先生は100人いても、弊社のサポート専門スタッフは現在20数名
しかいないため、「一度には対応できません」と回答せざるを得ません。
我々の事業は、一つ一つの契約がオーダーメイドになるため、各企業と契約をした
初期段階だけ見れば赤字となることも多いです。
売上だけ追求するならば、オーダーメイドするアウトソーシング事業よりも、
紹介するだけの事業の方が良いかもしれません。
しかし、「紹介するだけの事業では、50年後は存在できない」と私は考えています。
アウトソーシングによって、全国一律に質の高いサービスを提供し、それによって企業に感謝され、
契約が都度更新されて初めて各契約は収益化し、事業は安定化していきます。
それが、アウトソーシング事業の良さであると考えています。
我々の最大の喜びは、派遣した産業医の先生が、知り合いの産業医の先生に
「メディカルトラストで採用されていること」を高く評価されることです。
このように、企業からも、産業医からも認められる高いサービスを提供し続ける
ことができるように日々取り組んでいます。
【勤次郎】
どのようにして、全国へ拠点の展開をされたのでしょうか?
【メディカルトラスト】
そもそも事業の立ち上げの背景が、全国一律という企業のニーズに対応することでした。
そのため、最初から拠点を全国に広げることを念頭に置いていました。
当初は東京、次に大阪・名古屋と順次拠点展開をし、2015年には福岡・札幌・仙台の3か所に拠点を出しました。
2006年から企業向けに産業医による過重労働者の面接を全国で行っていますが、その中で拠点の
ないところのベスト3が、この福岡・札幌・仙台だったためです。
例えば、仙台に注目すると、企業の東北支社が仙台にあり、その営業所が青森や山形にあります。
そうすると、青森や山形の営業所の所長や所員は、会議などで東北支店に集まります。
そういった時に、仙台の拠点で産業医の面談を受けることができます。
小規模だからメンタル不調にならないかというと、そうではありません。
そのため、各企業は全国各地で働いている人たちの問題を、これからますます
考えなければならなくなると思われます。
そういったニーズにこたえるために、今後もニーズがあるところに、拠点展開をしていきます。
高まるコンプライアンスと健康経営の意識
【勤次郎】
コンプライアンスと健康経営の意識が、年々高まっていると言われています。
貴社では、どのようにお考えでしょうか?
【メディカルトラスト】
まず、顧客として多いのが、大企業の子会社や孫会社です。
大企業の本社などならば、社員の健康に対するケアを自前で行うことができます。
しかし、その大企業の子会社、孫会社の場合は、すべてを自前で行うことが難しいケースが多いです。
一方で、親会社はコンプライアンス方針を打ち出して、その方針に従うことを子会社・孫会社にも求めています。
その結果、子会社・孫会社が我々のサービスを活用して、社員の健康のケアを行うことが多くなっているのです。
さらに、こういった動きは、大企業の子会社だけでなく、さらに下請会社にも広がっています。
かつて、大手消費財メーカーの製品について、新興国における下請企業の
児童労働の問題をきっかけに世界的な不買運動が起こったことがあります。
こういった事例をきっかけに、企業の関連企業へのコンプライアンスが重視されるようになりました。
今では、例えば工場に入ってくる取引先の車両からオイルが垂れ流し状態であるとしたら、それすらも問題になり得ます。
したがって、大企業は、子会社、孫会社だけでなく、その下請会社にもコンプライアンスを求めるようになっています。
そのコンプライアンスには、社員の心と体の健康ケアまで含まれるようになっているのです。
つまり逆を言えば、社員のこころとからだのケアができない企業は、今後大企業の仕事を
受注できなくなってくる可能性が高いのです。
こういったコンプライアンスという観点からも、
すべての企業にとって社員のこころとからだの健康のケアは不可欠になってきています。
また、健康経営という観点からも企業のニーズが高まっています。
例えば、採用においても社員の健康ケアをしているという観点が重視されるようになっています。
一世代前は、給与・福利厚生など待遇面が重要でした。
現在は待遇面よりも、ブラック企業ではないか、社員が活き活きと働いている
企業かどうか、ということの方が重視されるようになってきています。
今は時代のスピードが速く、小さい企業でも、すぐに大企業になるかもしれません。
逆に、大企業でも存続が保障されているわけではありません。
また、今の若い世代は「今日食べるものがない」といった経験はしていません。
食べていくためよりも、職場を通じて自分達が充実した人生を実現したいという気持ちの方が強いのです。
さらに、最近は親も子の就職先をチェックするようになっていて、マスコミの
影響で、過労死などの労働災害のイメージが定着してきました。
そのため、健康管理が整っていると、親から見ても安心するようになっているのです。
特に今は、売り手市場であるため、企業にとっては質のいい社員を集めるために「健康経営」は大変重要です。
ホームページに、弊社のサービスを記載して、
「ここまで社員の健康面のケアをしていますよ」といったPRをしている企業もあります。
社員の手前、実態と違う内容はホームページには絶対に掲載できません。
企業がホームページを通じてPRできるということは、逆に
自社の取り組みに自信があるからだろうと思われます。
ストレスチェック制度への対応
【勤次郎】
ストレスチェックに対応したサービスは、あるのでしょうか?
【メディカルトラスト】
2014年の労働安全衛生法の改正により、従業員50人以上の
事業場にストレスチェックが義務付けられることになりました。
弊社では、このストレスチェック制度にも対応できるサービスを提供しています。
ストレスチェック制度そのものは、企業の現場から生まれたニーズ
というよりも、法律によって義務化されたものです。
しかし、企業にただ法律上の義務として対応するのではなく、
ストレスチェックを一つの機会として、職場の環境改善につなげてほしいと考えています。
大事なのは1年に一度のストレスチェックではなく、そのストレスチェックの実施前後だと考えています。
ストレスチェックをきっかけとして、PDCAをどう回して職場環境を改善していくかということが重要です。
ストレスチェックは年1回でも、社員の勤務状況は毎月確認して、過重労働者を毎月把握できます。
そして、専門的な視点から職場環境を分析して、改善活動を行っていくことが重要であると考えています。
今後の取組み
【勤次郎】
今後の取り組みついて、教えていただけますか?
【メディカルトラスト】
企業にとってのニーズは、いかに「労災リスクを減らすか?」ということです。
労災によって、企業にも従業員にも健康リスクが高まります。
昔は労災といえば労働安全を指していましたが、今ではメンタル不調の
労災認定件数が労働安全の1.8倍~2倍近くの数になっています。
さらに、労働安全の場合の件数には軽微なやけどや怪我などが
含まれますが、メンタルの場合はいずれも深刻な内容です。
我々のサポートもかつては労働安全が中心でしたが、近年は
メンタル面のサポートが中心になってきました。
このように企業側のニーズも年々変わり、それに応じて提供するサービスも年々、変化しています。
企業に真摯にサービスを提供し続けていると、しばらくすると時代
とともに企業側から新しい要求を受けるようになります。
そうやって、困っている問題を一つ一つ解決するという積み重ねを地道に取り組んできました。
机の上で考えるような戦略があったわけではなく、
「現場で困っている問題の解決をサポートする」というその姿勢はこれからも変わりません。
そうやって一つ一つ地道に取り組み続けた結果、社会の中で
「あって当たり前の存在になっていく」ということが、究極の目標です。
例えば事業の採算だけを見れば、拠点は一極集中した方がよく、拠点を地方に
展開するようになればなるほど、採算的にはマイナスになります。
しかし企業が、「メディカルトラストならば全国で対応できる」と思って
もらえるようになれば、それは長期的には必ず我々にとっての強みになります。
100年先でも生き残っていることが重要であり、そのためには、
むしろ薄利でなければいけません。
それは簡単に利益が得られる事業は、必ず大企業が参入してくるためです。
薄利でも、社会の中で必要とされる存在であり続けるために、地味に
一つ一つの活動を積み重ねていきたいと考えています。
【勤次郎】
本日はありがとうございました