ロート製薬株式会社(以下「ロート製薬」)は、1899年に創業した製薬会社です。
パンシロンの前身、「胃活」という胃腸薬の販売で事業をスタートしました。
その後、1909年にロート目薬を販売しました。
ロート目薬が一般用医薬品の目薬でここ40年間トップシェアを維持するなど、ロート製薬は
今も日本における一般用目薬のトップメーカーとして広く認識されています。
ロート製薬は医薬品以外にも機能性化粧品をはじめとするスキンケアにも取り組んでおり、
現在売上の約60%は「肌研(はだらぼ)」などのスキンケア関連製品です。
ロート製薬のスローガンは、喜びを伴う驚きを追求する「よろこビックリ誓約会社」です。
企業として顧客に喜びを伴う価値を提供するだけでなく、喜びを超えた驚きを顧客に提供することを意味しています。
このキャッチフレーズに基いて全世界110か国のネットワークを活かし、驚喜(おどろき)の輪を
グローバルに展開すべく、開発・製造・マーケティングの3つの機能を融合させながら
新しい商品やサービスを生み出しています。
ロート製薬は、世界中に健康と美を提供するために
「まず社員が健康で美しくあってこそ良い商品・サービスが提供できること」
が経営の根幹であると考えて企業活動を行っています。
そのための様々な活動の結果、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、取り組んでいる企業
として2015年3月25日に経済産業省と東京証券取引所より、『健康経営銘柄』に選定されました。
(写真:ロート製薬 東京支社にて撮影)
ロート製薬に、健康経営に関する様々な取り組みと今後の展望についてインタビューしました。
健康経営導入の背景
【勤次郎】
健康経営に取り組むきっかけを教えていただけますか?
【ロート製薬】
元々、健康経営を意識する前から社員の健康と関係のあるイベントを行ってきました。
例えば、2002年から毎年秋口に全社員の体力測定をやっています。
また、本社敷地内には広い芝生グランドやかつての山田スイミングクラブ のプールがあります。
そのため、札幌や九州の営業所の社員も含めて多くの社員が本社に集まって、
毎年ではないものの、スイミング大会や運動会を開催しています。
特に、運動会は綱引きや大縄跳びなど年配の人も参加できます。
今は、製造・営業・開発などの部門や年齢・性別もバランスがとれるような形で
企画側がチーム編成し競っているので、大いに盛り上がっています。
具体的に健康経営を意識するようになったきっかけは、2004年頃のことです。
もともと製薬メーカーとして医薬品や医薬部外品が事業の主体となっていましたが、
2000年代になると女性向けのスキンケア商品の売り上げが徐々に増えてきました。
それに伴い、企画部門における女性の割合が増え、残業や休日出勤をする女性の数が増えてきました。
スキンケア商品が事業において重要な位置を占めていくにつれ仕事にのめり込む
女性社員が増え、心身の健康という意味で不調を訴える社員が以前より増えてきました。
そこで、会社としてもなんとかしなければならないということで
2004年に『オールウェル推進計画』を発足させました。
具体的な取り組み
【勤次郎】
そのような背景があったのですね。
具体的に、どのような取り組みをされたのでしょうか?
【ロート製薬】
『オールウェル推進計画』で最初に取り組んだのが、社員のための福利厚生施設「スマートキャンプ」です。
残業が増えると料理を作る時間がなく、市販の弁当やお惣菜で済ませてしまうこともあります。
そこで、まず体にいい薬膳の食事を食べてもらおうということで、第二社員食堂の
ようなコンセプトですべて手作りの和を中心とした薬膳を食べてもらうための食堂を作りました。
その食堂は本社の敷地内に作られたのですが、
会社ではなく異空間にいるような雰囲気で体にいい食事タイムを楽しもうという
コンセプトで社員の間で人気になりました。
その後、東京社員からのリクエストもあって、2008年には東京支社の1階に同じ食堂(カフェ)が作られました。
東京のスマートキャンプは一般顧客にも「福利厚生のおすそわけ」として開放し、
毎日昼になると10~20人の行列ができるようになっています。
また、大阪のその食堂の2階にはリラクゼーションとしてマッサージ室をつくり、
会社の疲れを家に持ち帰らないようにしましょうということで、食堂と同時にオープンしました。
2007年頃から、「薬やスキンケアを提供するロート製薬の社員たるものは、
自らも健康で肌つやも良くなければならない」として、トップの考え方で禁煙を推奨しました。
まず、禁煙を始めるにあたってニコチンパッドを会社が無償で喫煙者に配布され、
そして社屋からすべての喫煙スペースを排除しました。
応接もすべて禁煙で、お客様も敷地内では一切喫煙できないように協力してもらっています。
2011年には、会長・社長・国内外出向者を含む総勢1,464名が参加する
プロジェクト『健康増進100日プロジェクト』に取り組みました。
疾患率が最も低いといわれている、「BMI値 20-22」の範囲にするという全員共通の個人目標を定めました。
同時に、チーム目標として各チームで設定した「+1(プラスワン)種目」を
加えて点数を競わせることで楽しみながら健康になることを推進しました。
100日くらいが適切だろうということで、「100日」プロジェクトとしました。
30日だとそこまで劇的に改善は期待できず、30日で改善を目指そうと
する人はハードに取り組み過ぎる可能性があります。
逆に、1年間ということになると長すぎるのでなかなかなじめません。
また、団体戦にしたことで仲間同士励まし合いながら取り組み、
「私だけは無理」ということができるだけなくなるようにしました。
その結果、開始時はBMI20-22をクリアしていたのは全体の36%だった
ところ、100日後には42%がクリアしました。
さらに開始時にBMI23以上だった社員に限定してみると、65%が-1ポイント以上
BMI値を改善することに成功しました。
(資料出所:ロート製薬提供資料)
さらに、+1(プラスワン)種目における腹囲部門では、8割が腹囲1cm以上改善しました。
また、かつて喫煙者だった社長自身も、このプロジェクトを機に禁煙に成功しました。
(資料出所:ロート製薬提供資料)
チーム制にしたことで社員が土曜日に集まり、一緒にウォーキングをしているといった姿も見られました。
100日プロジェクトが終わった後も、引き続き継続して努力している人も多くいます。
100日継続すると、ある程度習慣になるという効果が見られます。
(資料出所:ロート製薬提供資料)
2014年6月からはCHO(チーフヘルスオフィサー)を設置し、社内外における健康に関する取組の強化を目指しています。
ほぼ同時に『健康企業・健康社員プロジェクトチーム』を発足させましたが、
そのプロジェクトチームの声掛けにより、社会貢献も兼ね備えたイベント
「大阪グレートサンタラン」に社長以下120名の社員で参加しました。
健康経営の効果と今後の取組
【勤次郎】
様々な取り組みをされているのですね。
どのような効果が、得られたのでしょうか?
【ロート製薬】
日常的に健康のための取組を行い、実際に健康になることで、
工場での事故やけが人の発生は以前よりも目に見えて減っています。
そういった意味では生産性も上がり、製造中のトラブルも減っています。
健康経営への取組は、プラスに作用していることは間違いないと思います。
しかし、こういった短期的な目的ではなく、「社員の健康寿命を延ばす」
ということを健康経営の真の目的としています。
日本人の寿命はまだまだ伸びそうですが、寝たきりの期間よりも健康な期間を伸ばしたいと考えています。
特に日本は他国に先駆けて高齢化社会を迎えており、日本の取組は世界でのモデルケースになります。
まずは社内で健康になるための取組を行い、社員の健康寿命を伸ばし、その
成功事例を対外的に発信して日本人全体の健康寿命が延びれば良いと思っています。
【勤次郎】
今後の取り組みを教えていただけますか?
【ロート製薬】
製薬メーカーでありながらも、薬や病院なしで生きていけることが一番望ましいと考えています。
もちろん、生業としての薬や化粧品も将来像を描き、本業として新規開発を
続けていきますが、それらの本業にとらわれない、人々が健康になるための事業も模索していきます。
特に今、注目しているのが「食」です。
日本の食材は世界に誇れる程、質がよく栄養価が高いです。
製薬メーカーとして培ってきた科学的なアプローチは、食の分野にも応用できます。
そういった分野でも、新たな事業を通じて人々の健康に寄与していきたいと思っています。
(写真出所:勤次郎撮影)
季刊誌を発行し、季刊誌の中で薬膳レシピの紹介を行っています。
これが大変評判が良い為、こういった社内で培ったノウハウを今後とも
積極的に対外発信していく予定です。
【勤次郎】
本日はありがとうございました。