近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた様々な疾病においても生存率が向上し、「長く付き合う病気」に変化しつつあります。
労働者が病気になったからと言って、すぐに離職しなければならないという状況が、必ずしも当てはまらなくなってきています。
そこで今回は、治療をしながら仕事を継続する「両立支援」についてのお話です。
増える疾病を抱える労働者
企業を対象に実施したアンケート調査によれば、疾病を理由に、1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%です。
また、「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計によれば、仕事を持ちながら、がんで通院している人は、32.5万人に上っています。
近年の診断技術や治療方法の進歩により、疾病も治療を継続できれば、元気で仕事をしながら、QOLの高い生活を送る人も増加しました。
一方、仕事上の理由で適切な治療を受けられない場合や、疾病に対する労働者自身の不十分な理解、職場の理解・支援体制不足で、離職してしまう労働者もいます。
例えば、糖尿病患者の約8%が通院を中断しており、その理由としては「仕事(学業)のため、忙しいから」が最も多くなっています。
また、連続1か月以上の療養を必要とする社員が出た場合に、「ほとんどが病気休職を申請せず退職する」「一部に病気休職を申請せず退職する者がいる」とした企業は、正社員のメンタルヘルスの不調の場合は18%、その他の身体疾患の場合は15%あるそうです。
過去3年間で、病気休職制度を新規に利用した労働者のうち、38%が復職せず退職していたという調査もあります。
事業場等における現状と課題
治療と仕事の両立支援の取組状況は、事業場によって様々です。
支援方法や産業保健スタッフ・医療機関との連携について悩む事業場の担当者も少なくありませんが、産業保健スタッフが在籍する企業は限られています。
全ての疾病を抱える労働者が、そのサポートを受けられるとは限りません。
実際、人事労務担当者や上司、衛生担当者などが、個々に対応し、手探り状態で支援を継続している状態です。
それまで健康だった人が病気にかかり、治療が必要になると、以前の通りには働けなくなるケースが出てきます。
その場合、治療に専念することになるか、あるいは、治療しながら働くかは、ケースバイケースであると考えられます。
また、治療期間は疾病の種類などによって長さが異なります。
働きながら治療をしたい人にとっては、「それらをいかにして両立させるか」が、大きな問題となってきます。
企業に出来る両立支援
企業側が治療と仕事の両立を支援するには、治療をしながら働く人から事前に知らなくてはならない情報があります。
例えば、症状や治療の状況、そもそも就業可能なのか、避けるべき作業や残業の可否などがその情報に該当します。
治療をしながら働く人やその主治医から情報を得て、また、産業医からも意見を聞いて、どんな支援を行うのか検討し、実行に移すことが求められます。
厚生労働省がガイドラインを発表
治療をしながら働く人の職場、とりわけ、人事労務担当者や産業保健スタッフ、そして、共に働く上司や同僚にとっても、治療と仕事の両立支援は重要な課題です。
治療をしながら働きたいという思いがあり、主治医によって、それが可能だと判断された人が働ける環境の整備が求められているのです。
厚生労働省では、労務管理担当者や産業保健スタッフによる組織的な支援、および、治療と仕事を両立する意思がある労働者の上司や同僚の深い理解へ導くためのガイドラインを発表しています。
『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』には、その支援にあたっての留意事項や準備事項、支援の進め方が記載されています。
また、『企業・医療機関連携マニュアル』には、様々な書類の様式と役立つ事例が掲載されています。
これらを利用して、疾病を持つ労働者をサポートしつつ、更なる人手不足にも適応していくことが、企業に求められる役割になりつつあると考えられます。
出典
厚生労働省 『事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン』
監修:佐藤祐造(医師、愛知みずほ大学特別教授・名古屋大学名誉教授)