電話健康相談事業のパイオニアとして、またメンタルカウンセリング提供事業のリーディングカンパニーとして
成長を続けられている、ティーペック株式会社にインタビューさせていただきました。
【インタビュー先】
ティーペック株式会社
代表取締役 社長 砂原健市様
商品開発部 部長 益満秀一様
経営企画部 経営調査室(広報担当) 主任 大井美深様
(写真:左から砂原様、大井様、益満様 )
創業のきっかけ
【勤次郎】
創業のきっかけを教えていただけますか?
【砂原社長】
1982年に、私の母がくも膜下出血で倒れました。
その時に救急車で搬送された病院が脳外科のない病院で、17時間もなにも処置されないままでした。
ようやく脳外科のある総合病院に転院した時に、脳外科の医師からは
「これだけ時間が経っていると、できることも限られてしまう」と言われました。
元気だった母は、半身まひの後遺症が残り、10年間寝たきりとなりました。
今ならば、病院に搬送する前に状態を分析して、どの病院に搬送すべきかを
救急隊員が判断する「トリアージ」が必要になっています。
しかし、当時は、救急隊員は最寄りの救急病院に運び、病院は運ばれてきた
患者を受け入れるという制度になっていました。
だから救急隊員も、受け入れた病院も、適法だったのです。
大好きな母が、そのために大きな後遺症を持つことになってしまったというのが大きなショックでした。
もしあの時、「脳卒中の可能性が高いから脳外科のある病院に運んで下さい。」
と適切な指示を出してくれるサービスがあれば、母の人生も大きく変わっていました。
そのため、そういった民間救急を何とか立ち上げたいと思ったのが創業のきっかけです。
1989年の創業時は「東京民間救急センター」という名称で、この英語表記【Tokyo Private Emergency Center】
の頭文字をとったのが社名ティーペック(T-PEC)の由来です。
なお、英語表記は2009年の20周年を機に【Total Private Emergency Center】に変更しています。
※ 詳しくは「ティーペックの歩み」に記載されています。
(代表取締役 社長 砂原様)
創業時に行われていた事業
【勤次郎】
民間救急という、従来なかった分野を立ち上げてこられたのですね。
【砂原社長】
創業当初は何をやってもうまく行きませんでした。
創業時に4つの保険会社のトップの方々に協力をいただきましたが、運転資金が無くなり、
協力者に相談し、増資をして、ということを繰り返していました。
4回目の増資は1991年9月であり、バブル崩壊の直前です。
今思えば、5回目の増資はなく、まさにタイトロープだったなと思います。
【勤次郎】
現在は様々な事業を展開されていますが、創業時の中心となる事業は何だったのでしょうか?
【砂原社長】
最初は「まごころ24」という、「患者搬送サービス」と「24時間の健康相談サービス」
をパッケージにした商品でした。
「患者搬送サービス」の方は5~6年程続けましたが、あまりニーズがなくてうまくいきませんでした。
一方、コールセンターでの24時間の健康相談サービスは、当初はドクター1名、看護師1名、
オペレーター1名でスタートしました。
今では「ハロー健康相談24®」として、コールセンターが東京3カ所、大阪1カ所、名古屋1カ所の
合計5カ所にあり、合計250ブースになっています。
1日3000~3500件、1ヶ月9万~10万件、直近では1年間113万件の健康相談に応じており、創業からの
累計では、2019年の3月には2,000万件を超えたところです。
【勤次郎】
どういった相談が多いのでしょうか?
【勤次郎】
1989年から初めていますが、この30年の中でどんどん進化しています。
身体の健康だけでなく心の健康の相談も受けるようになったので、臨床心理士も加わり、
メンタルの相談に対応できる体制も整えていきました。
その後、医療機関の情報が欲しいといった相談も受けるようになりました。
例えば産婦人科の情報だけでも、立会出産可能とか、ラマーズ法とか、様々な情報が必要とされています。
全国の医療機関情報は「T-PEC 医療機関検索メフィックス」で管理しています。
さらに面談や電話によるセカンドオピニオン、ドクターの紹介手配を行うサービスも展開しています。
【勤次郎】
臨床心理士もコールセンターで対応されていらっしゃるのですね。
【砂原社長】
臨床心理士などメンタルヘルス関連の有資格者も多く在籍しています。
これまでは保険証をもって心療内科や精神科のドアを叩かなければいけませんでした。
それが電話相談ならば、匿名で、臨床心理士にダイレクトに相談することができます。
電話相談は、相談をするまでの敷居を下げたと思います。
メンタルの相談は累計で235万件となっており、当社のサービスによって、何万人という
単位で、自殺を思いとどまらせることが出来ているという自負があります。
さらに、メンタルヘルスについては、電話でのカウンセリングだけでなく、日本全国
約230カ所のカウンセリングルームでカウンセリングをしています。
また、1回50分のカウンセリングを年間5回までというサポートシステムを
企業の福利厚生としても提供しています。
企業向けのサービスで行われていること
【勤次郎】
企業向けサービスについて教えていただけますか?
【砂原社長】
企業の福利厚生としては、数百人規模から数万人規模まで1,000社を超える様々な企業と契約しています。
特にストレスチェックが義務化されてからは、企業との契約が増えています。
最初は相談だけでしたが、予防、そして研修といった要望にも対応してきました。
経営者向け、マネージャー向け、一般社員向け、産業保健スタッフ向けといった対象に応じた研修を行っています。
社内外に講師がいて、様々な先生方に顧問になっていただいています。
また、最近では、パワーハラスメントの予防と対策にも取り組んでいます。
こちらも最初は相談と研修の2つのみのサービスから開始しましたが、今は「ハラスメント総合プログラム」で、
予防から事後対応、再発予防までサポートをしています。
ハラスメントを繰り返す「ハラッサー」向けの個別プログラムも作り、先日初めてセミナーを行いました。
定員150社で受け付けたところ、200社以上から申し込みを頂きました。
喫煙率0%に尽力する理由
【勤次郎】
「集団禁煙プログラム」も提供されていますね。
【砂原社長】
集団禁煙プログラムについては、当社が2年9カ月かけて、喫煙率0%に取り組んだことが背景にあります。
当社は2013年3月時点で、喫煙率が男性44%、女性10%、社員全体で25%となっていました。
「お客様の健康を願うT-PECの社員が健康を害するタバコを吸っていては説得力がない。
社員が健康でなければお客様を幸せにできない、社員の健康は会社の財産である。」
ということで、喫煙率0%を目指して取り組みました。
【勤次郎】
貴社の喫煙率0%への取り組みについて詳しく教えていただけますか?
【益満部長】
実際に取り組んだことは8項目で、特に重要なのはトップの宣言です。
社内だけでなく、社外にも喫煙率0%を目指すことを情報発信しました。
(資料出所:ティーペック株式会社提供資料)
(商品開発部 部長 益満様)
【益満部長】
禁煙を推進しようとする企業の場合、タバコを吸う人だけ集めて研修や禁煙プログラムをやる
ということがありますが、喫煙者だけでなく非喫煙者も含めて全社で取り組むことが重要です。
例えば、朝礼で社長が全社員に向けて、定期的にタバコによる健康被害や事例を発表しました。
2013年2月から3月のわずか1カ月の間に禁煙に取り組む社員が大きく増えていますが、その時に
社長が発表されたエピソードを聞いて、多くの社員が行動変容したのです。
【砂原社長】
私の人生の恩人が62歳で肺がんで亡くなってしまったのです。
その時のエピソードを紹介しました。
タバコを吸っていると、寿命は大半の人は10年短くなると言われています。
あるデータによると、70歳時点の生存率は非喫煙者81%に対して、喫煙者は58%です。
90歳時点の生存率は、非喫煙者24%、喫煙者4%です。
それにもかかわらず、タバコを吸っている人は、「自分だけは大丈夫」と思っています。
タバコを止めれば寿命は延びる、そのことを知ってもらいたいと思いました。
【益満部長】
あと、禁煙に成功した人にはお祝い金が支払われるのですが、それでは元々タバコを吸っていなかった
人に対して不公平なので、タバコを吸わない人に対しても手当が出ることになりました。
給与明細に健康促進手当として毎月3,000円が追加されています。
【砂原社長】
全社員の人数を考えると結構な金額になります。
「社長が本気だな」ということが、社員に伝わったと思います。
喫煙率0%を達成した今も、禁煙は続いています。
「全員がタバコを止めたら終わり」ではないので、手当は今も続いています。
タバコをやめた人には成功体験を発表してもらいます。
発表は必須ではありませんが、男性の場合は「発表させてほしい」という人が多かったです。
禁煙成功者の体験談発表後は、全社員で拍手します。
全員で温かく包もうと。
全社員から拍手されることはなかなかありません。
【益満部長】
当社の場合、役員の喫煙者が多くいました。
時間がかかりましたが、役員、部長、次長といった役職者が率先して禁煙に成功して、
その体験談を発表していったことの効果は大きかったと思います。
社員の中には、「あの人は絶対に禁煙しないだろう」と思われている人もいます。
そういった人が、禁煙に成功したということを全員の前で発表すると、
「あの人が出来るなら自分にもできるのではないか?」という気持ちにもなります。
取組開始から2年9カ月たった時に2名喫煙者が残っていましたが、その2名も同時に禁煙に成功しました。
そのうちの1名に聞いたところ、「最後の一人になりたくなかった」とのことでした。
喫煙率0%を達成した後で、社員にアンケートを取ったのですが、非喫煙者が喫煙について
思っていた率直な意見がボロボロと出てきました。
(資料出所:ティーペック株式会社提供資料)
通常、アンケートをとってもフリーコメント欄には空欄のまま提出されることが多いと思います。
が、7割~8割くらいの回答者が、タバコへの嫌な想いをしっかりと書いてきたので驚きました。
他の会社でアンケートをとった場合も同様で、かなりきついコメントがあります。
【益満部長】
がんに罹患して、復職した社員が、「空気がきれいな会社で働けるということがどんなにいいことか」
ということをブログで書いてくれました。
【大井主任】
「禁煙」と「仕事と治療の両立」については、それぞれ別の問題と一般にはとらえられていると思います。
しかし、がん治療が終わった後に会社に戻ってきて、もしタバコ臭い環境だと、それは
治療と両立できる環境とは言えないと思います。
(経営企画部 経営調査室(広報担当) 主任 大井様)
【益満部長】
一生涯考えたら、2人に1人ががんになる時代です。
また、3人に1人が就労可能年齢で、がんになっています。
がんの治療と仕事の両立はどの会社でもあり得ることです。
当社の場合、外から来られるお客様に対してもタバコを吸った場合は45分後に
お越しいただくようにお願いしています。
吐く息のタバコの匂いは45分間残ります。
つまり、有害物質が45分間残っているということになります。
【勤次郎】
私たちがもし喫煙者だったら、45分間待たないと、今日のインタビューには応じてもらえませんでしたね。
【益満部長】
禁煙に成功した社員からのコメントについては良いことばかりが記載されていました。
「呪縛がなくなった」というコメントもありました。
喫煙者はいつも、どこでタバコを吸うかを考えて行動しているのですね。
確かに、タバコをやめれば、その呪縛からは解放されるな、と思いました。
(資料出所:ティーペック株式会社提供資料)
【勤次郎】
禁煙については、健康経営を推進する中で、多くの企業が「一定の効果があっても、その先がなかなか進まない」
という課題を持っていますが、喫煙率0%は本当に達成できるのですね。
【益満部長】
禁煙は、個人の努力だけでは難しいです。
「ポピュレーションアプローチ」と「ピア・プレッシャー」が重要です。
組織全体で禁煙に取り組む意義は大きいと思います。
喫煙者の6割がタバコを減らしたい、いつかやめたいと思っている潜在的禁煙希望者です。
他の企業でアンケートを取っても同じような割合になります。
全社での取り組みは、「会社がやるならば、この機会に止めてみようかな」と、
こういった潜在的禁煙希望者の背中を押すきっかけになります。
最後に
【勤次郎】
最後に一言お願いできますでしょうか?
【砂原社長】
当社では禁煙以外にも様々な健康経営への取り組みをしています。
企業の健康経営のサポートという点でも、様々なサービスを提供しています。
一方で、健康経営は各企業が経営の視点で取り組むものなのでアウトソーシングはできず、
結局のところ企業自身が本気にならないとできません。
当社でも毎年と3カ年の経営計画に定め、専門のチームをつくって、一つずつしっかりと取り組んでいます。
当社では産業医科大学教授の森晃爾先生に監修していただき編集した健康経営に関する冊子を取りまとめています。
その冊子には「健康経営を成功させるタイプ別診断」を掲載しており、改善点は何なのか、
何をどう進めていけばよいかといったことが分かるようになっています。
各企業が自社の課題を把握して、目標をもって取り組んでいく上で参考となると幸いです。
(資料出所:ティーペック株式会社発行「健康経営」)
【勤次郎】
本日はありがとうございました。
【その他参考リンク】
※ 職場の禁煙に関する総合的な情報サイト「禁煙の教科書」
※ ティーペックの「健康経営」
※4 年連続認定!「健康経営優良法人 2020 ~ホワイト 500~」に選ばれました