スポーツは「気晴らし」? 豊かな未来につながるスポーツの真価とは

ラグビー

 

 

スポーツ庁では、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことはすべての人々の権利」という「スポーツ基本法」に掲げられた理念の下、誰もが身体を動かすことを心から楽しみ、健康で、豊かな日本を作るべく取り組みを進めています。

 

その大前提である「スポーツ」ですが、実は勘違いをされていることが多いのです。

では、スポーツとはいったい何か、日常の中でどのようにスポーツと関わり合うことができ、どのような効果を享受できるのかについて紹介します。

 

 

豊かな未来につながるスポーツの真価

 

 

「スポーツ」と聞いて、頭に思い浮かぶものは何でしょうか?

陸上や水泳、野球にサッカー、テニスといった球技など、体育の授業や部活動で経験したことがあるような競技を思い浮かべるかもしれません。

 

このような競技としてのスポーツには、ルールや勝ち負けがあり、また自分の限界に挑戦していくような、どこかストイックなイメージがあります。

「少しとっつきにくいなあ」と敬遠してしまったり、そもそも激しい運動に苦手意識を持っていたりする人もいるのではないでしょうか?

 

しかし、「スポーツ」という言葉が示す範囲は本来とても広いもので、決して「競技スポーツ」に限るものではありません。

スポーツ庁が定める「第二期スポーツ基本計画」では、スポーツとは「身体を動かすという人間の本源的な欲求に応え、精神的充足をもたらすもの」と定義されています。

 

例えば、朝の体操から何気ない散歩やランニング、気分転換のサイクリングから、家族や気の合う仲間と行くハイキングに海水浴など、その範疇はさまざまです。

つまり、スポーツとは一部の競技選手や運動に自信がある人だけのものではなく、それぞれの適性や志向に応じて、自由に楽しむことができる「みんなのもの」なのです。

 

そして、スポーツとの関わり方は、「する」ことだけに留まりません。

例えば、野球やサッカーなどの試合を観戦し、応援した経験はないでしょうか?

そういった、スポーツを「みる」「ささえる」という行動で、自分との戦いに身を投じる一流アスリートの姿に心を震わせ、勇気をもらうことができます。

 

ワールドカップや、オリンピック・パラリンピックも同様に、「する」だけでなく「みる」「ささえる」ことも含めて、スポーツは「日常生活の一部」といえます。

スポーツは、あらゆる人の人生に、活力や感動を与えてくれるものなのです。

 

 

本来、「スポーツ」とは「気晴らし」

 

そもそも、スポーツという言葉の語源は何でしょうか?

 

スポーツ史という分野の研究によると、英語の「Sport」は19~20世紀にかけて世界で一般化した言葉です。

その由来は、ラテン語の「deportare」(デポルターレ)という単語だとされています。

 

デポルターレとは、「運び去る、運搬する」という意味です。

転じて、精神的な次元の移動・転換、やがて「義務からの気分転換、元気の回復」、仕事や家事といった「日々の生活から離れる」気晴らしや遊び、楽しみ、休養といった要素を指します。

 

つまり、これらがスポーツの本質なのです。

人生を楽しく、健康的で生き生きとしたものにするために、より楽しむために勝利を追及するもよし、自分ペースで楽しむもよし。

誰もが自由に身体を動かし、自由に観戦し、楽しめるものであるべきなのです。

 

 

 

 

ストレス解消と生活の充実につながる

 

スポーツ庁から発表された2016年度の体力・運動能力調査の結果から、「ストレス」と「運動習慣」には密接な関係があることが読み取れます。

 

体力・運動能力調査結果の分析グラフ

 (資料出典:スポーツ庁「平成28年度体力・運動能力調査結果の分析」)

 

楽しく、適切にスポーツを習慣継続することは、われわれの健康寿命を伸ばすことにつながります。

加えて、ストレス解消生活の充実度向上にも、スポーツは貢献しているのです。

 

2016年にスポーツ庁が実施した調査によれば、運動・スポーツのストレス解消効果について「大いに感じる」「まあ感じる」と回答した人は男女・年代問わず90~95%にのぼります。

さらに、週1日以上運動をしている人は、週1日未満の人よりも、「大いに感じる」と答えた人が約20%も多いという調査結果も出ています。

 

こうした感覚的な評価に加え、医学的にも運動とストレスの関係は実証されています。

例えば、2000年から群馬県中之条町にて高齢者の日常的な身体活動と心身の健康に関する研究が行われてきました。

「中之条研究」と呼ばれるこの調査から、1日あたり4000歩を歩き、うち5分間を中強度の運動(速歩きなど)にあてることで、うつ病を予防・改善できる可能性があることが分かりました。

これを8000歩、20分に増やせば、今度はがんや高血圧症、糖尿病などの生活習慣病の予防にもつながるとされています。

 

ウォーキングやジョギングによってうつ病を予防できることは、その他の様々な研究からも明らかになっています。

有酸素運動をすることで、脳や心のバランスを保つ「セロトニン」という成分が活性化し、不安や抑うつ状態が改善され、幸福度が高まるのです。

 

 

運動・スポーツの実施状況別で見る「充実度」

 

また、同じくスポーツ庁の調査には、「毎日の生活が充実しているか」という質問項目がありました。

この結果を見ても、運動・スポーツと生活の充実度には相関関係があることが分かります。

 

体力・運動能力調査結果の分析グラフ

(資料出典:スポーツ庁「平成28年度体力・運動能力調査結果の分析」)

 

男女・年代を問わず、毎日の生活が「充実している」と答えた人の割合は、週1日未満の群と比べて週1日以上運動・スポーツを実施している群の方がおよそ1.5倍も多いのです。

このことからも、日々の運動習慣、スポーツを楽しむことが、人々の「心の持ちよう」と密接に関わっていることが分かります。

 

 

最後に

 

スポーツは、「する」「みる」「ささえる」といろいろな形で、誰もが気軽に楽しめるものです。

加えて、高い志や負荷がなくとも、ほんのちょっとした運動によって生活がより豊かになることが分かっています。

 

空き時間を使ってのウォーキングや、家族との散歩など、簡単なことからで構いません。

普段より少しだけ「身体を動かす」ことを意識してみるだけで、楽しく、充実した生活を送ることが出来ます。

 

 

参考

スポーツ庁WEB広報マガジン DEPORTARE  スポーツ庁が考える「スポーツ」とは?Deportareの意味すること 

 

監修:佐藤祐造(医師、愛知みずほ大学特別教授・名古屋大学名誉教授)