株式会社日本政策投資銀行の歴史は、1951年(昭和26年)に復興金融公庫の後を
引き継ぐ形で、閣議決定により日本開発銀行が設立されたところから始まります。
1999年10月には、日本開発銀行及び北海道東北開発公庫の一切の権利義務を
承継し、日本政策投資銀行が設立されました。
そして2008年10月に、特殊法人としての日本政策投資銀行が解散され、新しく
株式会社日本政策投資銀行として設立されました。
このような形で新たに株式会社として発足した、株式会社日本政策投資銀行(以下「日本政策投資銀行」)は
「投融資一体型の金融サービス」を行う専門性の高い金融機関として、従来から中心として取り組んできた
長期の融資業務に加えて、多様化するニーズに対応するため、仕組み金融やファンド投資も行っています。
日本政策投資銀行に、インタビューをさせていただきました。
世界初の健康経営格付
【勤次郎】
「健康経営格付」について、教えていただけますか?
【日本政策投資銀行】
日本政策投資銀行では、社会や顧客の問題解決、価値向上を目指し、財務情報のみならず、非財務情報を
積極的に取り込むことで、企業価値をより適切に評価する「責任ある金融」に取り組んでいます。
金融機関や投資家は企業価値評価において、財務情報や数値データに重きを置いています。
それだけに留まらず、定性的な情報も積極的に見ていくことが、より深く多面的に企業を理解することに
つながるという考えを持っています。
財務情報による企業審査に加えて、環境、BCM、健康経営という3つの非財務情報で企業の経営状況を見る
「評価認証型融資」(DBJ評価認証型融資)を行っています。
(資料出所:日本政策投資銀行提供資料)
このDBJ評価認証型融資の一つである「DBJ健康経営格付」は、2011年に世界で初めて導入した融資メニューです。
「健康経営」の概念は、米国の臨床心理学者ロバート・H・ローゼンが1980年代に
「Healthy Company」という概念を提唱したことが始まりといわれています。
我が国でも、経済産業省が「健康資本グランドデザイン研究会」を立ち上げたことを
きっかけに「健康経営」の検討を進めていました。
その流れを受けて、2010年から経済産業省の補助事業として、『企業価値を高める「健康経営」プロジェクト』に
ヘルスケア・コミッティー株式会社と株式会社電通とともに、健康経営コンソーシアムのメンバー
として取り組み、「健康経営格付」を開発しました。
健康経営格付では、社員の健康管理にスポットを当て、企業の健康経営に対する取り組みを評点化し、
融資条件に反映させています。
格付は、その得点率に応じてランクとして分類されています。
Aランク企業には特別金利Ⅱ、Bランク企業には特別金利Ⅰ、Cランク企業には一般金利が
適用される仕組みとなっています。
評価項目は「運営全般」、「実施事項」、「成果」の3つに大別されます。
経営層の意識、健康診断結果を管理するためのツールの導入、啓蒙のための研修やPDCAサイクルを
活用する為の体制づくりなど、約110項目あります。
さらに、毎年見直しを行って改善を図っています。
健康経営格付では、通常の企業審査と並行して健康経営スクリーニングを実施するだけでなく、
融資後のモニタリングも実施しています。
さらに、顧客からの希望に応じて、健康経営格付評価のフィードバックを行っています。
また、健康経営スクリーニングでは、特にヒアリングを重視しています。
健康経営を企業の戦略としてどのように位置付けているかといった観点を、当行との間で秘密保持契約を
締結しているヘルスケア・コミッティー株式会社が同席して、専門的な視点から分析を行っています。
さらに、東京大学の政策ビジョンセンターとも連携して、健康経営の研究にも継続的に取り組んでいます。
健康経営格付の動向
【勤次郎】
健康経営格付の動向について、教えていただけますか?
【日本政策投資銀行】
「環境格付」「BCM格付」「健康経営格付」の3つからなるDBJ評価認証型融資は、
2004年(平成16年)に導入されました。
以来、その合計融資額は下図の通り伸びており、2014年度において累計の融資実績も1兆円を超えました。
「DBJ健康経営格付」は、2015年3月末時点での融資実績は累計件数で45件、累計金額で671億円となっています。
(資料出所:日本政策投資銀行提供資料)
格付ランクが高いと金利面での優遇幅が得られるというだけでなく、高い格付を得ることで
取引先や顧客にアピールできるという利点があります。
「DBJ健康経営格付」を取得した企業は、自社のホームページやサステナビリティレポートに
掲載するなど格付取得をPRにも活用しています。
また、「DBJ健康経営格付」取得のニュースは全国紙、業界紙、地方紙など様々な
新聞媒体でも取り上げられています。
「DBJ健康経営格付」を取得した企業には、自社の製品が直ちに健康のイメージと直結する食品メーカーや
労働安全衛生との関連性が強い化学・機械などの製造業や物流業が多くいます。
最近の傾向として、小売業や飲食業も増えています。
社員の健康に注力していることを、「DBJ健康経営格付」取得によって対外的にPRできます。
そのため、それが若年労働力の採用確保につながる効果が期待できるということが、
格付取得の背景の一つとしてあるようです。
一方で、健康経営格付取得をPRする目的ではなく、組織内で健康経営を進めていく際の
チェックリストとして利用する企業もあります。
こういった企業に対しては、上述の通り、評価実施後にフィードバックを実施し、問題点の
改善等をアドバイスします。
さらなる健康経営の取り組み向上につなげてもらうようなサポートも行っています。
このように「DBJ健康経営格付」は、各企業が健康経営の意義を認識し、自社における
健康経営の考え方を確立していくことをサポートする役割も担っています。
今後の取り組み
【勤次郎】
今後の取り組みについて、教えていただけますか?
【日本政策投資銀行】
「DBJ健康経営格付」は前述の通り、東京大学やヘルスケア・コミッティー株式会社と一緒に取り組んでいます。
また、各企業へのフィードバックや融資後のモニタリングなども行うなど、手間もコストもかかる融資手法です。
しかし手間やコストがかかっても「DBJ健康経営格付」を行うことで、その企業のより深い理解につながり、
通常の融資とは違った意味でのコミュニケーションも可能となること、さらには各企業が健康経営に関する認識を
高め、積極的に取り組む後押しとなることも期待しつつ、「DBJ健康経営格付」の普及・利用に努めています。
現状では、健康経営の概念自体が普及途上にあると考えられることから、大企業を中心とした取り組みが目立ちます。
今後は、地域・業種・企業規模を問わずさらに広く「健康経営」が社会に浸透することを願っています。
そして、この取り組みにより、従業員の健康が組織・企業の生産性改善や経営基盤の強化を通じて、
企業価値の向上につながることを期待しながら、同行としては評価体系の一層の高度化を図る予定です。
他の認証格付では、内部管理の向上を目的として、毎年継続的に融資申請をする企業もあります。
「DBJ健康経営格付」はまだ始まったばかりの融資制度ですが、今後、「DBJ健康経営格付」を
取得する企業が増えてきます。
さらに毎年継続して申請する企業が増えると、当行にとっても、申請する企業にとっても、
また我が国全体にとっても、望ましいと思います。
【勤次郎】
本日はありがとうございました。