2021年4月に、高年齢者雇用安定法の改正により、「70歳定年制」が始まりました。
(※ 本改正は、定年の70歳への引上げを義務付けるものではありません。)
「70歳で定年」と聞くと、どんなことを思うでしょうか?
「そんなまだまだ先のこと・・・」と思われるかもしれませんが、一緒に働く人が70歳になるかもしれないと考えたら、どうでしょうか?
今回は、「70歳定年制」を機に考えておきたい、高齢労働者の安全と健康について紹介します。
労働災害防止と健康づくり
少子高齢化の進展に加えて、高年齢者雇用安定法により高年齢者雇用確保措置が義務づけられていることなどにより、労働者の高年齢化が一層進むものと予測されています。
また、2019年6月21日に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2019」において「サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止する為の取組の推進」が盛り込まれました。
それに伴い、同日閣議決定された「成長戦略実行計画」において「高齢者の安全・健康の確保など、高齢者が能力を発揮し、安心して活躍するための環境整備」が盛り込まれました。
高齢労働者がこれまでに蓄積した知識や経験等を活かして活躍できるよう、高齢労働者の労働災害の防止、予防的観点から労働者の筋力強化等の身体機能向上のための健康づくり等が重要な課題のひとつとなっています。
特に多い労働災害とは
労働災害による休業4日以上の死傷者数について見ると、60 歳以上の労働者が占める割合は増加傾向にあります。
2018 年においては、4人に1人が 60 歳以上という状況です。
また、脳・心臓疾患につながるリスクのある血圧や血糖、脂質等の結果を含めた一般健康診断における結果の有所見率は全労働者の半数を超えています。
関連する疾病の有病率は、年齢が上がるほど高くなる他、事故の型について見ると、労働者の高齢化の影響もあり、転倒災害や腰痛が増加傾向にあります。
災害の発生率は女性が高い
発生率が最小となる30歳前後と比べると、70歳前後の高齢労働者の発生率では、男性で2.3倍、女性で4.9倍にもなります。
さらに、業種によっても違いがあります。
若年者に多い建設業よりも、高齢者は圧倒的に陸上貨物運送事業が多い傾向にあります。
65歳を過ぎても勤めるために
65歳を過ぎても勤めるためには、「健康・体力」が必要であると考える高齢者は66.8%、次いで「仕事の専門知識・技能があること」と考える高齢者は47.2%でした。
また、事業者が求める国からの支援は、労働安全衛生に関係するところでは、「個人の健康管理への支援」(39.9%)、「働きやすい機械や設備の開発や導入支援」(8.9%)が必要であると考えているようです。
「エイジアクション100」
「エイジアクション100」は、高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善策です。
厚生労働省及び中央労働災害防止協会でマニュアルを作成しています。
まず、このマニュアルにそって職場をチェックし、職場環境改善を図ります。
高齢従業員の意見も聴取しながら行うことで、視力、聴力など個人個人の違いも把握することが出来ます。
高齢者やハンディキャップのある人たちが働きやすい職場というのは、誰にでも働きやすい職場であると考えられます。
まずは、高齢者目線で職場を見つめることから始めてみましょう。
高齢者の特徴を踏まえた環境整備、体調などを考慮した健康管理、高齢者ならではの勤労条件による作業管理などを念頭に置く必要があります。
そうすることで、事業者や周囲の従業員の配慮ひとつで、ベテランが光る職場にすることが可能です。
「職場で一緒に働く人の中に70歳の人がいることになったら?」という想像をすることは、今後、とても重要になるのではと考えられます。
出典
厚生労働省 第1回「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」
厚生労働省 エイジアクション100~ 生涯現役社会の実現につながる高齢労働者の安全と健康確保のための 職場改善に向けて
監修:佐藤祐造(医師、愛知みずほ大学特別教授・名古屋大学名誉教授)