週1回以上スポーツを実施している人の割合は成人全体で51.5%で、30~50代に限ると40%台半だそうです。
また、「自分は運動不足だ」と感じている20~50代は80%という統計データがあります。
このデータをどう解釈するかはさておき、時間のない働き盛りの方にぜひおすすめしたいのが「歩く」こと、「ウォーキング」です。
「ただ歩くだけでは若い人に物足りないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、最近の研究によると「歩く」ことには、素晴らしい健康効果があることがわかってきました。
それも、たった「10分」なのです。
たった「10分」歩数アップの効果とは?
(資料出所:中之条研究「1年の1日平均の身体活動からわかる予防基準一覧」)
上記の表は、1日の平均歩数から予防できる病気一覧です。
群馬県中之条町の住民5000人の「歩き」と病気の関係を15年間追跡した研究の一部です。
この研究では、健康づくりにおいて、早歩きなどの「中強度の活動時間」と「どれくらい歩けばよいのか?」が明確に示されています。
高齢者だけでなく、成人している方であれば同じようにあてはまると考えられています。
表をよく見てみると、1000歩増やすごとに予防できる病気が増えていくことがわかります。
国民健康・栄養調査では「1000歩=10分」とされており、歩く時間を「10分」増やすだけで将来の病気を防ぐことができるかもしれないのです。
2016年の同調査では、成人の1日あたり平均歩数は男性6984歩、女性6029歩とのことです。
今よりもプラス「10分」多く歩くことで、生活習慣病の予防を目指しましょう。
歩くことがうつ病を予防する?
何故、歩くだけで病気を防ぐことが可能なのでしょうか?
働き盛りの人にとって身近で、かつリスクの大きいうつ病を例にとってみましょう。
厚生労働省の統計によると、うつ病などの気分障害の患者数は110万人を超えています。
年代別に見ると、働き盛りの40代が全体のおよそ1/5(19.6%)を占めています。
このうつ病には、1日4000歩(うち中強度の活動が5分)で効果があると考えられています。
歩くことで脳内ホルモンの一種であり、欠乏するとうつ病の原因になるセロトニンが増え、脳に変化をもたらします。
興味深いことに、走ることより歩くことの方がセロトニンを増やす効果は大きいと言われています。
一方で、歩きすぎて疲れてしまうと逆効果になることもあるそうで、ちょうどいい歩行時間は「10分」です。
朝に日光をあびることで、セロトニンが増える効果もあるそうです。
よって、ビジネスパーソンは朝の通勤時に「10分歩き」を習慣化することで、脳は確実によい方向に変化していきます。
「10分」プラスで歩くと血管が若返る
いつもの歩行時間に「10分」プラスして、1日の歩数が5000歩(うち中強度の活動が7.5分)に達すると、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を著明に予防できます。
鍵となるのは、血管内皮細胞です。
動脈の最内層には血管内皮細胞という細胞が敷き詰められており、大切な働きをしています。
たとえば、動脈を流れる血液が増えると、血管内皮細胞がそれに反応して動脈を弛緩させます。
悪玉コレステロールなどから動脈を守るのも、血管内皮細胞の仕事なのです。
歩数を増やすと、血管内皮細胞が丈夫になり、動脈硬化が起こりにくくなります。
これは、歩くことで生じる血流の変化(ずり応力)が、血管内皮細胞の機能を支える一酸化窒素(NO)の産生を増やすためです。
最近になって、強弱をつけた歩き方(インターバル歩行)が、血管内皮細胞をより丈夫にすることも分かってきました。
糖尿病予防の要はミトコンドリア
1日の歩数が8000歩(うち中強度の活動が20分)になると、糖尿病の予防が期待できます。
歩くことで血糖値が安定化することは知られていますが、最近になって、その背景にあるミトコンドリアの働きに注目が集まっています。
ミトコンドリアとは、私たちの身体の細胞の一つひとつに入っている細胞内小器官です。
筋肉のミトコンドリアの働きが落ちて、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなる糖尿病の患者さんもいます。
歩くことで筋肉のミトコンドリア機能が上がって、インスリンの働きがよくなり、血糖値が安定化するといった効果も期待できます。
強弱をつけた歩き方(インターバル歩行)は、ミトコンドリアの数を増やします。
中之条研究(上表)で、糖尿病の予防のために中程度の強度の運動が推奨されているのは、ミトコンドリア機能の面からも正しいかもしれません。
エネルギー消費量を大きく
「弱い強度の運動の方が脂肪は燃える」と考えられていた時代がありました。
ですが現在は、「強くて長い運動の方が脂肪の減り方は大きい」と考えられています。
8ヶ月間の減量プログラムの効果を追跡したところ、唯一効果があったのは、「強度が強くて時間の長い運動」を続けた群でした。
エネルギー消費量は「運動強度×運動時間」に比例します。
やはり、エネルギー消費量が大きい方が効果的なのです。
この結果は、中之条研究の結果からも見て取れます。
「階段登り」は歩行と比べて2倍以上の運動強度(METS)です。
13階までの「階段通勤」は効果的な習慣と言えるでしょう。
ただし、運動習慣がない方が急に強い運動を行うと、心筋梗塞の発症リスクが高まるため注意しましょう。
資料出所: 歩くことを「もっと楽しく」に変えていくプロジェクト Fun+Walk Project
歩くなら、「楽しく」歩きたいですよね?
スポーツ庁では、働き盛りの人に“歩きやすい服装”で通勤・勤務するプロジェクトに取り組んでいます。
また、楽しく歩くきっかけづくりとなる「アプリ」(歩数に応じたゲーム機能やクーポン獲得)も提供しています。
毎日の通勤を少し工夫することで、一日の滑り出しがスムースになり、ついつい歩いてしまうこともあるかもしれません。
この「ついつい」が大切なのです。
「気持ちがよく気がつけば歩いていた」となれば、その習慣を長続きさせることが出来るかもしれません。
FUN+WALK PROJECTのコンセプト
スポーツ庁では、働き盛りの方のスポーツ参画人口拡大を通じて国民の健康増進を図る官民連携プロジェクト「FUN+WALK PROJECT」を推進しています。
歩くことをもっと楽しく、楽しいことをもっと健康的なものに変えていく本プロジェクトにおいて、スポーツ参画人口の拡大を通じて国民の健康増進を目指しています。
スニーカービズの試み
福井県庁は、“歩きやすい服装”での通勤・勤務(スニーカービズ)が、歩数をどのくらい増やすかどうかを検証しました。
その結果、スニーカーやウォーキングシューズ、ソールの厚い革靴などの歩きやすい靴で通勤・勤務した方が、1日当たり平均で1,273歩(約27%)歩数が増えたとのことです。
中には、約2,900歩増加した人もいるそうです。
業種によっては、大きく通勤スタイルを変えることが難しい方もいらっしゃるかもしれませんが、休日などに意識して取り組むだけで効果はあると言えそうです。
まとめ
国民医療費が40兆円を超える現在、スポーツを通じた健康増進は、国民医療費の抑制への貢献も期待されます。
中之条研究では、積極的に歩数を増やすことで医療費抑制の効果があったという報告もしています。
たった「10分」で、もっと「楽しく」歩数をアップできます。
声をかけあいながら、楽しく健康への一歩をスタートしてみませんか?
弊社が提供する「ヘルス×ライフ」では、歩数をシステム及びアプリ内に登録し、いつでも確認することが出来ます。
健康状態の改善に、是非「ヘルス×ライフ」をご活用ください。
出典
スポーツ庁WEB広報マガジン DEPORTARE 数字で見る!たった「10」分プラスで病気が防げる?
監修:佐藤祐造(医師、愛知みずほ大学特別教授・名古屋大学名誉教授)