ブラザー工業株式会社(以下「ブラザー工業」)は、1908年にミシン修理業として創業しました。
現在はプリンターや複合機などの情報通信機器を中心に40以上の国と
地域に拠点を置き、グローバルに事業活動を展開しています。
地域別売上構成比では、約8割を日本以外の国が占めています。
2015年時点、連結で34,988名いる従業員は、アジア・オセアニア・中近東・アフリカに
59.8%、ヨーロッパに4.9%、南北アメリカに4.0%と約7割が日本以外の国にいます。
各国にグループ従業員が存在しているブラザーグループならではの社会貢献活動として、
2011年より「リレー・フォー・ライフ」(*1)や、類似のチャリティーイベントに各地域で参加しています。
ブラザーグループの各国の拠点の活動の軌跡をつなげると、世界地図にリングが描けることから、
この取り組みは「ゴールデンリング」プロジェクトと名付けられました。
現在、ブラザーグループの生産・販売拠点がある世界18の国と地域に広がっており、
年々参加する拠点が増えています。
その一方で、ブラザー工業は本社と4つの工場、研究開発センター、物流センターが愛知県に
集約されており、グローバル企業としての側面と地域企業としての性格も併せ持っています。
ブラザー工業は、従業員本人に加えて家族も健康になり幸せになるよう、コラボヘルスや
労働組合との連携など、様々な体制づくり、イベント開催、啓蒙活動に取り組んでいます。
今回は、その具体的な事例と想いを担当者様にインタビューさせていただきました。
(*1)
海外駐在員も帰国時にブラザー記念病院で健康診断を受診しています。
病院をもつ健康保険組合
【勤次郎】
貴社の健康経営の取り組みには、どのような特徴があるのでしょうか?
【ブラザー工業】
健康経営に関する大きな特徴の一つとして、健康保険組合が病院を保有していることが挙げられます。
ブラザー健康保険組合は、昭和24年に設立され、その後昭和29年には
ブラザー健康保険組合によってブラザー病院が設立されました。
その後、平成20年に全面改装され名称もブラザー記念病院となりました。
ブラザー記念病院は、ブラザー工業本社正面にあります。
診療科目として内科、外科、整形外科、眼科、婦人科、歯科、小児歯科、放射線科があり、
健康診断を担当する健診センターも備えています。
ブラザーグループの従業員に非常に近い病院が存在していることは、従業員の健康増進
にとって非常に大きな役割を果たしています。
その一例として、定期健康診断が挙げられます。
従業員及びその家族は、海外駐在員含めて(*2)その多くがブラザー記念病院で定期健康診断を
受診しており、その健診結果は健康保険組合にて保存されています。
従業員は、産業医に依頼すれば健診結果を過去に遡って参照することができます。
そのため、この過去からの健診結果の蓄積は従業員が自らの健康状態を把握する上で貴重な資料となっています。
また、全従業員の健診結果が時系列でデータとして保存されていることは
様々な健康に対する施策を行う上で有益です。
健康保険組合としては、組織としての従業員の健康状態の傾向をデータとして把握しています。
例えば、従業員の中で30歳代の従業員のメタボが増えているという傾向をつかみ、
対策を行っているという事例もあります。
さらに、法定健診以外の項目もオプションとして健診項目として追加しています。
その際、ブラザー記念病院があることによって、どういった健診項目をオプションとして設定することが
望ましいかといった内容を病院に直接相談することができます。
(*2):ブラザー工業は通信カラオケ事業で培ったコンテンツ技術や配信技術などを活用し、
2009年からフィットネスクラブ向け業務用レッスンシステム「JOYBEAT(ジョイビート)」を提供しています。
ブラザー工業健康管理センター
【勤次郎】
ブラザー工業健康管理センターと、コラボヘルスにおける具体的な取り組みについて、教えていただけますか?
【ブラザー工業】
もともと従業員の健康づくりは、健康保険組合が中心となって進めてきました。
その後、2006年から健康保険組合とは別に、企業内に健康管理センターを設置することになりました。
健康保険組合が企業に非常に近い位置にあったので、それまでは社員産業医・保健師はいませんでした。
健康管理センター設立に伴い、新たに社員産業医・保健師を採用しました。
そこから、ブラザー工業健康管理センターとブラザー健康保険組合が一体になって従業員の
健康増進を目指す「コラボヘルス」が開始されました。
ブラザー健康保険組合とブラザー工業健康管理センターのそれぞれの存在意義や目的といった点を
あえて言うならば、就業時間内に健康増進活動に取り組むかどうか、対象は従業員なのか家族なのか、
医療費削減が目的なのか生産性向上が目的なのか、それぞれ別の背景ということになります。
しかし、そういった背景は全く別として、ブラザー工業の従業員として、本人も家族もみんな健康に
なって幸せになりましょうということがコラボヘルスの根本的な思想です。
コラボヘルスにおける代表的な取組事例として、「ブラザー健康生活月間」があります。
「ブラザー健康生活月間」は10月、11月の2か月間を指し、この間、健康に関する様々な活動を行います。
一つ目の活動は、「健康づくり宣言活動」です。
従業員各自が、「ブラザー健康生活月間」期間中に取り組む健康づくり活動を宣言し、
毎週取り組んだ結果をチャレンジシートに記録します。
2014年の例では、食事、運動、睡眠などA~Fのコースとそれに当てはまらない
オリジナルコース(G)とチームで競うウォーキングコース(H)の8つのコースが設けられました。
「健康づくり宣言活動」は自主的な活動ですが、約3割の従業員が参加しています。
特に盛り上がっているのが、Hのウォーキングコース「チームDEウォーク」です。
健康保険組合のホームページに、直接歩いた歩数を入力することができるようになっています。
随時、そのホームページ上にチーム対抗での歩数ランキングが表示されるため、
参加者は競い合って歩数を稼いでいます。
二つ目の活動は、「健康教室」です。
毎年、『疲労よさらば!元気回復術』など、テーマを決めて保健師が職場へ出向き、
健康に関する講話を行っています。
三つ目の活動は、「わくわく健康カーニバル」です。
11月下旬の土曜日に開催し、家族や友人と楽しみながら健康測定や運動などを行っています。
またその他にも、労働組合主催のスポーツ大会、健康クイズ、セントレア空港や東山動物園を
一緒に歩く健康ウォークといったイベントも「ブラザー健康生活月間」に行っています。
その他、コラボヘルスによる取組としては禁煙したい人を支援するイベント「スワンの会」、
毎週月曜日にポータルサイトへ掲載する「健康コラム」、毎月10日に全従業員に
メールで配布する「ウキウキ通信」、前述した若年層のメタボ対策として行った「JOY BEAT」を
用いた「音楽エクササイズ」、社員食堂での栄養指導(*3)、インフルエンザ費用の補助、
がん検診の奨励などがあります。
それぞれ健康管理センター、健康保険組合で共同でまたは役割分担をしながら行っています。
(*3)
社員食堂での栄養指導としては、食堂での血管年齢、ヘモグロビン量、肌水分量の
チェック、スープ試飲による減塩指導、喫食データを用いた栄養指導などがあります。
産業医・保健師の役割
【勤次郎】
様々な取り組みをされているのですね。
【ブラザー工業】
このようにコラボヘルスで様々な活動を行っている結果、産業医や保健師は社内に
おける健康増進活動に注力することができています。
従業員の大半が名古屋にいて、それ以外は東京などの支店と海外拠点にいます。
そのため、産業医は国内にいる従業員の多くを継続的に見守ることができる状況にあります。
また、定期的に海外拠点を訪問し、海外駐在員の健康管理を行っています。
万が一従業員が職場でケガをした場合でも、近くにブラザー記念病院があるため、産業医
ではなく病院の医師が直ちに治療を行うことができます。
このおかげで、産業医は治療に時間を取られることなく従業員の啓蒙活動や従業員の相談相手に
なることに専念することができています。
産業医・保健師が行っている内容としては、メンタルヘルス講習、新入社員問診、30歳問診などがあります。
メンタルヘルス講習は、全従業員が5年に一度受講する「セルフケア講習」を保健師が行い、
管理監督者が3年に一度受講する「ラインケア講習」を産業医が行っています。
メンタルヘルス講習を続けてきた結果、メンタル不調に対する認識は全従業員に認知され、
メンタル不調は特別なものではなく誰でもなり得るという考え方が社内では普及してきました。
今では、本人からまたは場合によっては上司から、産業医に対して都度相談が来るようになり、
メンタル不調者の未然防止にはかなり役立っていると思われます。
30歳問診は、30歳から不摂生をしていると40歳になった時に健康状態に現れるため、
健康状態が悪くなる前にしっかりと健康管理を認識してもらおうということで実施しています。
健診結果では基準値内におさまっていたとしても、徐々に基準値に近づいているようならば
生活習慣を改めなければならないことや、メンタル面など、予防を目的とした問診を行っています。
今後の取組
【勤次郎】
今後の取り組みについて教えていただけますか?
【ブラザー工業】
ストレスチェックや健康診断など、法定で定められている内容については、今後も
ブラザー健康保険組合、ブラザー記念病院とうまくタッグで取り組み、ITも
活用しながらより効果を高めていく予定です。
現在も様々な取組を行っていますが、それぞれの取組がうまく効果が出るか
否かということについては明確な答えはない状況です。
しかし、従業員の健康は従業員本人にとっても、企業にとっても、健康保険組合にとってもメリットのある内容です。
一つ一つの施策を毎年工夫して改善を重ねながら取り組んでいく方針です。
「健康づくり宣言活動」にしても、かつて半強制的な活動としたところ、チャレンジシートに
正しく記載されないということが散見され、自主参加に変更しました。
自主参加に変更すると当然参加率が落ちましたが、その分効果は高まっています。
従業員自らが健康になるためには、自らが自発的に取り組むことが重要です。
そのためには、しっかりとした体制を整えることに加えて、イベントや啓蒙活動を
地道に続けていかなければならないと考えています。
【勤次郎】
本日はありがとうございました。