働き方改革が世に広まり、様々な企業がこの改革に対応すべく奔走しています。
今回は、「これから働き方改革を実施しよう」と考えている企業が行うべき「5つのこと」を紹介します。
実行計画案で定められていること
2017年3月末に働き方改革実行計画案が提示され、様々な法制度の枠組みが
実行計画案に従って定められました。
実行計画案では、以下の9つの検討テーマと19の対応策が示されました。
1)非正規雇用の処遇改善
① 同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備
② 非正規雇用労働者の正社員化などキャリアアップの推進
2)賃金引き上げと労働生産性向上
③ 企業への賃上げの働きかけや取引条件改善・生産性向上支援など賃上げしやすい環境の整備
3)長時間労働の是正
④ 法改正による時間外労働の上限規制の導入
⑤ 勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備
⑥ 健康で働きやすい職場環境の整備
4)柔軟な働き方がしやすい環境整備
⑦ 雇用型テレワークのガイドライン刷新と導入支援
⑧ 非雇用型テレワークのガイドライン刷新と働き手への支援
⑨ 副業・兼業の推進に向けたガイドライン策定やモデル就業規則改定などの環境整備
5)病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障害者就労の推進
⑩ 治療と仕事の両立に向けたトライアングル型支援などの推進
⑪ 子育て・介護と仕事の両立支援策の充実・活用促進
⑫ 障害者等の希望や能力を生かした就労支援の推進
6)外国人材の受け入れ
⑬ 外国人材受入れの環境整備
7)女性・若者が活躍しやすい環境整備
⑭ 女性のリカレント教育など個人の学び直しへの支援や職業訓練などの充実
⑮ パートタイム女性が就業調整を意識しない環境整備や正社員女性の服飾など多様な女性活躍の推進
⑯ 就職氷河期世代や若者の活躍に向けた支援・環境整備の推進
8)雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実
⑰ 転職・再就職者の採用機会拡大に向けた指針策定・受入企業支援と職業能力・職場情報の見える化
⑱ 給付型奨学金の創設など誰にでもチャンスのある教育環境の整備
9)高齢者の就業促進
⑲ 継続雇用延長・定年延長の支援と高齢者のマッチング支援
多様な働き方に対応できる労務就業管理
ここでいう「多様な働き方」とは、勤務間インターバル、時短勤務、在宅勤務、
テレワークなどを指します。
働き方改革は、「休み方改革」であるともいわれます。
多様な働き方を受け入れ、育児や介護をしやすい環境を構築すること、
社員が自己啓発のための時間をつくることが求められるようになります。
記憶に新しいところでは、2020年に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、多くの企業が
在宅勤務やテレワークを導入しました。
その結果、一部の企業では在宅勤務やテレワークを基本のワークスタイルとして定着させようと
考えているところもあるようです。
また、「努力義務」となる予定の「勤務間インターバル」により毎日一定以上の休みを時間を
確保することで、勤務中のパフォーマンスが向上するといわれています。
これらの制度を導入するためには、定時出勤、定時退勤と残業時間管理だけでは対応できません。
例えば、勤務間インターバル11時間を導入したとします。
前日23時まで残業すると、翌日の出勤時間を10時以降に設定できるようにする必要があります。
また、テレワークを導入した場合、テレワークの労働時間管理の仕組みの構築と、テレワークの場合の
業務時間管理とオフィスワークの業務時間それぞれの管理が必要になります。
多様な働き方を受け入れていくためには、こういった労務管理の手法を早い段階で確立しておくことが重要です。
残業時間のアラート管理 36協定チェック
2019年4月より、労働基準法の改正によって時間外労働の限度を超えた場合に罰則が科せられるようになりました。
これが「36協定」であり、働き方改革の最も大きな論点であるといえます。
本来あってはならないことですが、36協定で定めた残業時間を超過した従業員がいながら、会社側が
タイムリーに把握できていないというケースは、決して珍しいことではありません。
36協定の基準を超えたかどうかを把握するだけでなく、超える前に対象者を把握した上で、超える可能性が
ある対象者に事前にアラートを発して、残業を控えるよう呼び掛ける仕組みを構築していく必要があるといえます。
長時間労働への迅速な対応
時間外労働の制限の例外として、以下のような条文があります。
特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、
上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とする。
かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、
上回ることのできない上限を設ける。
この上限について、
① 2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで、
80時間以内を満たさなければならないとする。
② 単月では、休日労働を含んで100 時間未満を満たさなければならないとする。
③ 加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、
これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。
労使それぞれの団体が、協議を重ねた上で決定したものです。
法改正はこの内容に従っていくことになりますが、現行法の下で定められている基準を
下回っていた場合でも過労死認定されている事例がたくさんあります。
「法の基準さえ順守できていればOK」という考え方はすでに通用しなくなっているといえます。
業務の都合上、やむ得ない事情により法の定める範囲内で長時間労働が発生した場合、
その対象者をケアするための体制があるかどうかで、社員の健康状態に与える影響は大きく異なります。
長時間労働を削減して、「生産性を向上させていこう」という考え方が働き方改革の背景にあります。
業務の都合で長時間労働が生じたら、当該社員の上司との面談実施、早期のストレスチェック実施、
個人が過剰なストレスを一人で抱え込まない体制を組織として構築する必要があります。
人事・総務部門と産業保健スタッフとの連携
ストレスチェック制度をはじめ、社員の健康を守る産業医の役割が拡大する方向にあります。
2017年1月25日の日本経済新聞では、
『企業に対し、月100時間を超え残業している従業員を産業医に報告することなどを義務化』
という内容が掲載されています。
現在は、本人が希望した場合に産業医との面接が行われるようになっています。
今後は、長時間労働を行った対象者の名簿を産業医に報告して、必要に応じて産業医から
主体的に何らかの措置を講じてもらうことが必要になってきます。
しかし、現在も残業時間のデータとストレスチェックや健診の結果などの健康データを
連携して管理できている企業は多くありません。
また、長時間労働の社員の名簿を産業医に報告したとしても、産業医としても別途
その従業員の健康状態のデータを調べる必要があります。
産業医の負担を軽減するため、また組織として効果的な措置を講じていくため、
労務就業データと健康データは都度連携できるように管理してくことが理想です。
正規社員と非正規社員の待遇の違いの把握
同一賃金同一労働ガイドラインでは、
『賃金のみならず、福利厚生、キャリア形成・能力開発などを含めた取組が必要』と記載されています。
手当を含めた様々な制度で、正規社員と非正規社員の待遇の不公平感がないように改善していくことが求められています。
『非正規という言葉を一掃することを目的とする』とあることからも
同一労働同一賃金実現への取り組みは、働き方改革の一つの大きな柱なのです。
まず、自社の正規社員と非正規社員で、待遇面でどのような違いがあるのか把握することが大事です。
この待遇面の違いがきちんと棚卸できていなければ、いざ対応するときに
本当の意味での同一労働同一賃金への対応を行うことは困難です。
逆に、いったん棚卸すると、待遇の違いにおかしな点が見つかるかもしれないので、
そういった点がもし見つかったら、早い段階で改善していきましょう。
具体的な法令が定まる前に、自社としての本当の意味での同一労働同一賃金への対応が実現できるかもしれません。