長期的な視点で自発的に取り組む健康経営 フジクラ

会社外観

 

 

株式会社フジクラ(以下「フジクラ」)の歴史は、創業者の藤倉善八氏が

1885年(明治18年)に絹・綿巻線の製造を始めたところから始まります。

 

その後、1893年(明治26年)には日本で初めてゴム被膜線の製造を開始し、

1901年(明治34年)藤倉電線護謨合名会社が設立されます。

 

1903年(明治36年)には日本で最初の逓信省ゴム被膜線指定工場となり、以降、

日本の電線業界を牽引する企業の一社として日本の戦後復興と高度成長期を支えてきました。

 

その後、世界トップシェアを誇る光ファイバ融着接続器や電力ケーブルをはじめ、

電子電装分野など電線以外にもグローバル市場で高く評価される新技術が開発されました。

それに伴い、1992年には社名を藤倉電線株式会社から株式会社フジクラに変更し、現在に至ります。

 

フジクラは、2005年に創業120周年を迎えました。

そしてこの年を「第三の創業の年」と位置づけ、全社員が共有すべき新しい

経営理念である「ミッション・ビジョン・基本的価値(MVCV)」を策定し、実行しています。

 

また、中期計画立案プロジェクトである「15中期」の策定過程で、

企業の競争力はそこで働く社員の良好な健康状態が基盤となる」という理念をベースに、

10年後も20年後も社会に必要とされる企業であるためには社員の「健康」が重要との

論議を経て社員の健康への取り組みを進めていくことを決定しました。

 

フジクラは、厚生労働省から「第2回 健康寿命をのばそう! アワード」の

『厚生労働省健康局長 優良賞』を2013年11月に受賞しました。

また、2014年1月には「フジクラグループ健康経営宣言」を対外的に公表しました。

 

フジクラに、健康経営の取り組みについてインタビューしました。

 

 

健康経営の考え方

 

【勤次郎】

健康経営に取り組むにあたって、どのようなお考えをお持ちだったのでしょうか?

 

【フジクラ】

健康経営を「第三の創業」における経営戦略として位置付けています。

ワークライフバランス、女性の活用、ダイバーシティといった「人」を中心におく

経営戦略とあらゆる点で結びつく、企業として永続していくために不可欠な取組としています。

 

もし、社員の健康増進のための取組にコストといった考え方が入ってくると、社員の健康が原価になってしまいます。

逆に、健康経営で人の生産性が上がるという考え方に立った人財への投資ととらえています。

例えば、社員が健康になることによって、長期的なリターンや費用対効果が出るという考え方です。

これも、短期的な視点でリターンを期待すると、多くの場合、効果がでる前に

「失敗だった」と結論づけられてしまうと思います。

 

そこで、健康経営を長期の視点での人財への投資と考えています。

社員の健康のための取組は上限のないものであり、そのために企業としての資源を

投入していくことは経営戦略上不可欠という考え方に立っています。

このような考え方に立っているため、健康経営に短期的な効果を期待していません。

 

例えば、社員の誰かが自発的に健康活動に取り組み始めます。

そうするとある時間的に遅れを伴って、その社員の何らかの健康指標が良くなります。

そしてさらにしばらくたってから、その社員の心身の健康状態が良くなります。

またしばらくたって、その社員の所属する組織の何人かが、同様に健康活動に取り組み始めます。

その組織の中で健康になる人が多くなると、組織のパフォーマンスとして向上します。

 

このように、健康経営が何かしらの結果として表れるには、何年という長い時間軸で見なければなりません。

その時間軸の先にあるゴールは、

疾病、障害、年齢にかかわらず、皆が誇りとやりがいを持って安心して、『活き活きと』働ける職場の実現」です。

 

社員が健康になり、職場が活き活きとして、そしてそれが地域全体に広まればフジクラとしての社会貢献にもなります。

20年後、30年後、40年後になるかもしれませんが、このゴールを目指してやり抜くつもりです。

 

 

取り組みの特徴

 

【勤次郎】

具体的に、どのような取り組みをされているのでしょうか?

 

【フジクラ】

フジクラの健康経営は、徹底して社員個人一人一人にフォーカスしています。

どういうことかというと、「あなたには、こういったことが効果的だと思いますが、やってみますか?」

という情報を、ITを用いた複数の将来予測エンジンから導かれるデータ分析に基づいて、

健康管理エージェントから、各社員に対して「個別に」情報提供を行っています。

その分析結果には、「個人の好み」といった要素まで含まれています。

 

本社では、各フロアに血圧計や体組成計を設置して、希望者が好きな時に測定できるようになっています。

健康経営推進室では、その測定データを蓄積し、その蓄積された日々データと年に1回の

健診結果から、各個人が生活習慣の改善が必要な場合、その人に適切な活動の候補を抽出します。

最後に対象者個人の好みを勘案した上で、その対象者が最も行動につながりやすいと思われる

情報を情報管理エージェントから提供しています。

 

情報提供の目的は、心身の不調(活き活き度の低下)の予防です。

しかし、まだ健康を害していない人に対して「今の生活習がよくないから、改善してください」

という提案をしたとしても、「大きなお世話」と思われてしまう可能性があります。

そこで、個人の趣味嗜好を踏まえた提案を行うことで行動変容につながりやすくするとともに、

情報提供に基づいて行動するか否かはあくまで個人の自由としています。

 

実際に、健康管理エージェントからの情報提供に応じて社員が直ちに生活習慣の改善を行うとは限りません。

しかし、健康経営推進室としては、それでよいと考えています。

何等かのきっかけで社員が改善しようと思い立った時、

具体的に何をすればよいかインプットされていることが重要であると考えています。

そういった考え方に基づいて、健康経営推進室は、社員に対する健康管理エージェントからの提案を続けています。

 

健康経営は、社員の健康をサポートする活動ですが、決して社員を手厚く保護する施策ではないと考えています。

例えば、健康経営で守ってくれるから大丈夫だと社員が思って、暴飲暴食するならば逆効果です。

会社が社員の健康を守ってくれると思った時点で、努力をしなくなる可能性があるためです。

あくまで「社員自らが、自発的に生活習慣を改善して健康になろうという意識を高める後押しを行うこと」が、

健康経営であるといえます。

 

健康増進プログラム

(資料出所:フジクラホームページ)

 

 

 

健康経営の開始時の対応

 

【勤次郎】

自発的に健康になろうという意識を高めるのは、なかなか難しそうですね。

 

【フジクラ】

実は、健康経営を始める際、社員の一部から反対がありました。

そこで、希望者のみを参加対象とし、参加したい人には、健康データ等を会社に

提供してもらう自由参加の方式にしました。

 

その結果、開始当初の段階で社員の約6割が参加することになりました。

そして半年後には約9割が参加を希望し、今では96%の社員が参加しています。

 

100%の参加を求めず、100%参加を目指すつもりもないと考えています。

労働安全の話であれば、法律上の義務なので100%を目指さなければいけませんが、健康経営は

法律で決められた活動ではありません。

96%の社員が活動に参加しているのならば、参加していない残りの4%の社員に支援が必要になったら、

産業保健スタッフが手厚くサポートすればいいのです。

 

ITを使った取組に参加しない理由も人それぞれで、参加しないことも個人の自由です。

仮に健康上の問題で参加しないのならば、産業保健スタッフが医療専門職をして親身に

対応した方が、その社員の健康のためには間違いなくプラスになるはずです。

逆の言い方をすれば、96%の社員に対してITを活用してプログラム提供が出来ているが故に、4%の社員を

重点的に産業保健スタッフが重点的にサポートすることができるのです。

 

 

活き活きした職場の実現に向けて

 

【勤次郎】

活き活きとした職場づくりの為には、メンタル面でのサポートも同様に重要な取り組みだと思います。

どのような取り組みをされているのでしょうか?

 

【フジクラ】

現代においては、あらゆる仕事が高度化、専門化しているため、個人一人一人の仕事の領域が狭くかつ深くなっています。

一人一人の仕事の領域が狭く、深くなると、お互いの領域が分からなくなるので

同じ部署内でもコミュニケーション量が低下します。

結果として、一人で仕事を抱え込むケースが多くなります。

 

これは社会や技術の進歩なので仕方がありませんが、各個人に対する責任やプレッシャーは年々強くなるばかりです。

以前より、メンタル不調が増えていくのは当然の成り行きであるともいえます。

だからこそ、現代では意図的にコミュニケーションを作り上げていくことが必要となります。

 

そこで、同じ職場の社員が集まって、全員で活き活きする職場を考えましょうという

いきいき職場づくりワークショップ」を実施しています。

ワークショップの開始直後の状況と異なり、議論が始まると白熱し、発表が始まると笑顔になります。

社員同士が仲間同士だと思うと、組織の活性度が上がります。

社員一人一人はコミュニケーションを求めているのに、それができない前述した職場の社会心理的環境があります。

 

社内で統計をとって分析をしたところ、歩数計を「日頃から携帯している」人とその日数が

多い職場と職場の一体感の高い職場は、見事なまでに正の相関関係がありました。

「持っている」だけで関係するのは、職場内で共通の「歩数」という話題があることで

職場内のコミュニケーションが醸成されているからであると思われています。

健康経営と組織の活性化が、密接に結びついていることは間違いないのです。

 

組織が活性化すると、社員の健康度も上がります。

フジクラの健康経営は、そういった組織からのアプローチにも取り組んでいます。

コミュニケーションが活性化すると、イノベーションも生まれやすくなります。

企業が生き残っていく上で変化への適応が不可欠であり、そのためにはイノベーションは生み続けなければなりません。

個人が健康になり、組織内外のコミュニケーションが活性化し、イノベーションが生まれてくると、

ますます健康経営には経営戦略的価値があるということになります。

 

病気になるとネガティブになるのは、人間の本能として備わった特性です。

ネガティブになれば不平不満も広がり、コミュニケーションも低下し、さらに生産性も低下します。

逆に、社員一人一人が元気になれば、会社全体が元気になり、会社が元気になれば、日本が元気になります。

このような長期的な視点で、健康経営に取り組み続けています。

 

【勤次郎】

本日はありがとうございました。