株式会社ヘルスケアシステムズは、名古屋大学発ベンチャーとして2009年に起業しました。
「検査・研究で健康を届ける」を企業理念として、未病・予防領域に関する検査項目の研究開発と、
受託検査事業を展開しています。
(写真出所:株式会社ヘルスケアシステムズにて撮影)
生活習慣病の原因となる血圧や血糖値などの異常を改善するためには、まずは
自身の状態を把握して、ただしい方法で生活習慣改善に取り組むことが必要です。
もし間違った方法で取り組むと、いくら本人が頑張っても、むしろ悪化する場合もあり得ます。
そこで、ヘルスケアシステムズは、未病検査を通じて「カラダの見える化」を提案しています。
「カラダの見える化」とは、具体的には、検査によって自らの体質を知った上で、塩分摂取量や
野菜摂取量などの行動目標を数値で明確にすることをいいます。
これによって、正しい生活習慣改善を行うための方向を定めることができます。
(資料出所:ヘルスケアシステムズ提供資料)
ヘルスケアシステムズは、「カラダの見える化」のために以下の4つの検査キットを提供しました。
いずれも郵送のみで検査が行うことができるため、病院や薬局等に足を運ぶ必要はありません。
郵送検査は身近な食材の持つ健康機能性に着目し、生活習慣や老化、美容など誰もが
関心の持てるテーマと結び付いた検査となっています。
また、いずれの検査も、尿または便を検体としており、血液を検体とした場合の
採血のような痛みを伴う検査は行っていない点が特徴です。
ヘルスケアシステムズは統計解析技術に基づき、これまでに未病検査の領域で
豊富な検査・試験実績を積み重ねてきています。
(資料出所:株式会社ヘルスケアシステムズ提供資料)
新ヘルスケア産業フォーラムでの取組
ヘルスケアシステムズの本社がある中部地域には、2012年3月に設立された
産・学・官による連携・協同の取り組みである新ヘルスケア産業フォーラムがあります。
ヘルスケアシステムズの瀧本社長はこのフォーラムの設立当初から参画し、予防・健康増進ビジネス部会の
部会長として以下のような活動を行ってきました。
① 予防・健康増進に携わる各事業者のビジネス課題を発掘する
② 新規参入する企業に対し、現場や関連産業からのニーズを提供する
③ 事業者間の連携・協業により、ビジネス課題の解決と新たなサービスを討議する
④ 具体的な取組に繋がる案件に対しては、部会内でメンバーを募り、実現に向けたプロジェクトチームを産み出す
健康経営優良法人に認定
ヘルスケアシステムズは、人々の健康増進に寄与するための活動を事業として行っている
一方で、社員の健康増進にも積極的に取り組んでいます。
2017年2月に経済産業省・厚生労働省が推進する「健康経営優良法人」に、中小規模法人部門
として日本健康会議より認定を受けました。
(写真出所:株式会社ヘルスケアシステムズにて撮影)
あいち健康経営会議事務局として、株式会社ヘルスケアシステムズの瀧本社長と
梯経営企画室室長にインタビューさせていただきました。
健康経営へ取り組むきっかけ
【勤次郎】
健康経営への取り組みのきっかけを、教えていただけますか?
【瀧本社長】
新ヘルスケア産業フォーラムの活動などで経済産業省・中部経済産業局の方から最新の情報を
得る機会が多く、早い段階から健康経営については意識していました。
当社は「カラダの見える化」ということで検査事業を行っているので、健康経営に取り組む
企業に対しても当社の検査が役に立てるのではないか、とも考えていました。
(ヘルスケアシステムズ 瀧本社長)
【勤次郎】
当初は、自社で健康経営に取り組むというよりも、健康経営に取り組む企業を
サポートするという立場から、健康経営と関わり始めたのですね。
【瀧本社長】
最初、健康経営というものは大企業に対するものだと思っていました。
健康経営銘柄など上場企業向けの制度ができて、大企業の取り組み事例等も発表されていました。
そういった情報は知っていましたが、正直なところ、ベンチャー企業の我々が
自ら「健康経営に取り組む」という意識はありませんでした。
ところが、「健康経営は大企業だけじゃない、むしろ7割の従業員がはたらく中小企業が積極的に取り組むべき」
という話を徐々に聞くようになりました。
健康経営優良企業の認定を中小企業に対しても行うという計画もあり、社内の取り組みとして意識をし始めました。
その時点で、どんな形の制度ができるのか全くわからなかったのですが、ぜひ第1回目の認定を取ろうと決めました。
【勤次郎】
まさに宣言どおり認定を獲得した、ということですね。
【瀧本社長】
それが、実際にはなかなか制度の詳細が分かりませんでした。
公募がいつ始まり、いつ締め切りか分からないので、それを待とうと思っていました。
結局業務に忙殺されていて、公募を把握したのは締め切りの1週間前でした。
当然、そこから何も新しいことはできません。
結局、これまでやってきたことを真剣に考えて、正直に記載して提出しました。
【勤次郎】
では、認定基準はもともとクリアしていたのですね。
【瀧本社長】
認定基準はかなり多岐に渡っており、健診受診率実質100%など、多くの企業にとって
簡単ではない事項も多く含まれていました。
健康に関する事業を行っている以上、まず社員が健康でなければ、皆様に
「健康になりましょう」とは言えません。
医師の先生から病気や健康に関する情報に触れる機会も多く、健康診断や過重労働防止の
大切さはよくわかっていましたので、何とか基準をクリアすることができました。
後になって、認定された他の企業を見ると、建設業や運輸業など、健康イメージの
強くない企業がたくさん受賞されていました。
そこでは経営者と社員の皆さんがたくさんの努力をしていらっしゃったのだろうと思います。
特に、現場で働いている方が多い企業の場合は、基準を満たすためのご苦労が多いのではないかと思いました。
今回、健康経営優良法人の認定を受けた企業は、もともと経営戦略として
健康経営に取り組んできた企業ではないかと思います。
ですので、認定をとってそれで終わりという企業よりも、
今後も継続的にいろいろと工夫しながら社員の健康増進に取り組みを勧められるのだろうと思っています。
当社の未病検査は、一人一人の個別の健康状態にアプローチすることが
できるものなので、健康経営の有効なツールにすることができます。
今回認定を受けた企業のお話を伺って、私たちの検査キットがどのように
貢献できるのかを真剣に考えてみたいと思っています。
当社も認定をとって終わりではなく、日々新しい取り組みを考えています。
新たに、希望する全従業員に定期的な未病検査を行うことにしました。
これまでは、入社時や新製品のリリース時など不定期に検査を受けてもらうことは
ありましたが、継続的なものではありませんでした。
しかし本検査は、結果を通じて食生活など生活習慣を変えていただくことに主眼が
置かれており、定期的な検査で生活改善を知ってもらうことが重要だと考えています。
そこで、「年4回、自社製品の未病検査を受けることができる」という制度をつくり、
社内の生活習慣改善と健康増進をサポートしていくことにしました。
まだ始まったばかりで結果はこれからですが、ぜひ健康経営に取り組む企業の方々にもご紹介していきたいと思っています。
【梯室長】
健康経営優良法人への申請書類を作成していて、
「健康経営を志向するような取り組みを、今まで普通にやっていたなあ」と改めて感じました。
社長の瀧本がもともと、残業よりも限られた時間の中で精一杯成果を出していこう
という考え方を持っているので、もともと当社は残業があまりありません。
システムの対応などでどうしても仕事が集中することがあります。
そういった時は、集中した負荷を他の人に割り振ろうとか、そういったことを普通にやってきました。
当社は20名ほどの規模ということもあり、社長のメッセージがダイレクトに伝わっていると言えます。
禁煙などがよい例です。
もともと男性社員を中心に喫煙者は多かったのですが、瀧本のメッセージで禁煙に取り組み、成功する社員が続々と出ています。
(ヘルスケアシステムズ 瀧本社長(中央)、梯室長(左)、勤次郎担当者(右))
いつまでも働いてもらえる工夫
【瀧本社長】
私自身も20代から喫煙していて、禁煙治療も受けたことがあります。
創業直後に肺の病気で入院することになり、そこでようやく禁煙できたという経験があります。
禁煙の難しさを身に染みて知っているので、どうやったら社員にやめてもらえるかを考えました。
たまたま社内飲み会の時に、この話題で盛り上がり、今がチャンスだと思って
「禁煙する人を応援するぞー」と宣言しました。
禁煙治療はだいたい2万円程度かかります。
たばこ代とほとんど変わらないのですが、それだけでは動いてくれない。
そこで、「禁煙します!」といった社員に、対策資金としてその場で2万円を配りました。
【梯室長】
その2万円は、会社のお金ではなく、瀧本のポケットマネーですよ。
【瀧本社長】
タバコをやめるのは大変ですが、社長がここまでやったら実行してくれるんじゃないかと。
実際にそれで本当に何人も取り組んでくれたのはうれしかったですし、多くが
成功したことが本当に良かったです。
本人もそうですが、家族に喜んでもらえたという話もうれしかったですね。
大企業では難しいですが、中小企業ならではの取り組みかなと思います。
残業についても、ベンチャーにありがちな恒常的に夜中まで働くことが当たり前に
ならないように気を付けています。
私自身、日中とことん集中していると、気分がのって帰るのがもったいなくなり
「今日は残ってでも仕事したい」と思う日があるのですが、それは週の1日2日程度です。
とことん集中をした日が週の1日か2日しかないのであれば、そちらを改善していった方が
能力も効率も上がって良いわけです。
残業そのものが悪ではないのですが、毎日のように長時間働くのは、そういった集中している
時間を薄めているだけではないかと思います。
普段は早く帰って家族との時間や恋人とのデートを充実してもらい、いつまでも
当社で働いてほしいなと思っています。
【梯室長】
実際、社員は誰も辞めないですね。
社員同士のコミュニケーションを図る工夫
【勤次郎】
名古屋と東京の2か所に分かれていますが、社員同士の交流はあるのですか?
【梯室長】
当社の社員は、名古屋と東京でほぼ半々となっており、名古屋の本社に研究員や
検査技師が、東京支社に営業や事務系社員が勤務しています。
名古屋は女性が8割、東京は男性が8割です。
業務内容も社員構成も違うので、
コミュニケーションをきちんと取らないとお互いの真意が伝わりにくい環境にあると思います。
その点も瀧本がかなり工夫をしていますね。
【勤次郎】
どんな工夫をされているのですか?
【梯室長】
例えば、全社員が集まる会議を年2回やっています。
私たちのような中小ベンチャーにとって負担は大きいのですが、半年に一度しか
会わない社員もいたり、新しい社員も増えています。
ですので、丸一日取って事業報告だけでなく社員同士のコミュニケーションが増えるように努力しています。
あと、「ええじゃないか制度」という制度があります。
一人あたり10万円を好きに使ってねという制度です。
事前の確認も不要で用途の成約は一切なし、ただし何に使ったかを事後報告だけして下さい、
という制度になっています。
もともとは、「稼ぐことも難しいが、効果的にお金を使うことはもっと難しい」ということを
みんなに知ってほしくて始めた制度です。
実際、社員同士で飲みに行ったり、皆が働きやすいように会議室の備品を買ってくれたり、
オフィスに置く観葉植物を買ってくれるなど、コミュニケーションと社内環境の整備に
一役買ってくれています。
社内の情報共有を担う「まど」
【瀧本社長】
他にも「まど」という仕組みがあります。
名古屋と東京それぞれに大きなテレビがあり、電話をかけなくても、画面越しに
「〇〇さーん」と呼ぶとその場で簡単な打ち合わせができます。
会社に誰かいる間は常時回線につながっているので、ちょっとしたことでも
気軽に呼び合うことができます。
(実際に東京のテレビから名古屋の方を呼んでいただくと・・・)
(呼ばれた方は画面に向かい、画面越しに会話をします)
【梯室長】
当初、導入した時は、音声が仕事の邪魔になるのではないか、業務を
監視されるんじゃないかという不安の声も上がりました。
【瀧本社長】
そこで、これを「まど」に呼ぶことにしました。
監視とかではない、同じオフィスで一緒に働いていたら窓があるのが当たり前でしょうと。
東京の営業担当と名古屋の検査担当は、日々の業務で連携した動きをすることが多いのですが、
お客様への対応など細かな対応をお願いする時など、電話だけですとコミュニケーションが
うまく図れず、時にぎくしゃくすることがありました。
他にも、早く伝えなければならないことが同じオフィスだったらすぐ言えるけれど、距離の問題で
後回しにしてしまったりとか、社内同士の通話で外部からの電話に対応できなかったりということがあり、
これは早めに改善しなければと思い、「まど」を導入しました。
もともと社員同士の人間関係は良いのですが、壊れてからでは遅いので、
危ないと感じたらすぐに対応することが大切だと思っています。
【梯室長】
社内で写真の共有とかチャット用に、SNSアプリも活用しています。
例えば、東京の営業の社員が、「大事な営業に行ってきます」と、タイムラインに入れます。
終わったときに「決まりました!」とまたタイムラインに入れると、みんなから「いいね」が入ります。
また、名古屋で検査の仕事が多くて忙しいときに「こんなに検体が届いているよ」と画像を投稿します。
すると、仕事を分担したり、営業が優先順位を考えたりと、いろいろと
コミュニケーションをとって解決するきっかけになっています。
このように、「みんなで励ましあい、喜びを分かち合う」ようにしています。
どんな仕事をしているのかも知ることができますし、このタイムラインは大変有効です。
今後の展望
【勤次郎】
今後、考えられていることは他にもありますか?
【瀧本社長】
社員が存分に仕事に打ち込んでもらうためには、家族も支えも重要だと考えて、
アニバーサリー制度というのを計画しています。
社員それぞれから、結婚記念日とか恋人や親の誕生日など、それぞれ好きな記念日を
教えてもらい、その記念日に会社が本人に代わってプレゼントを届ける、という制度です。
また、お子さんがいる社員には、夏休みなどにお父さん・お母さんの仕事を見に
来てもらおうと思っています。
父母参観の逆ですね。
大きな仕組みや予算のかかる福利厚生サービスはできませんが、工夫次第で働きがいのある会社は作れる
と思っています。
【梯室長】
こういったことを、全部1からやろうと思うと、これは無理ですね。
普段から瀧本がこういったことを考えているので、健康経営優良法人の申請の際もいろいろと書くことができました。
【瀧本社長】
うちの社員は、みんな優秀だと思います。
リスクの大きなベンチャー企業なのに、誰も辞めずに頑張ってくれているのは本当にありがたいです。
【梯室長】
とにかく刺激があります。
信用されないと仕事は任せられないと思いますが、瀧本からは洪水のように仕事を任せられます。
それを必死になってやっていたら、いつの間にか、こんなに時間がたっていたという感じです。
働いていて、本当に面白いというのが正直な気持ちです。
【勤次郎】
健康にしても、コミュニケーションにしても、会社から一切押し付けるのではなく、
瀧本社長の気持ちがダイレクトに社員に伝わっているように感じます。
すごく自然体の健康経営ですね。
【瀧本社長】
健康、健康と言われると、多くの人は疲れてしまいます。
当社の事業としても、健康を押し付けるのではなく、自然と気持ちよく
取り組める方法がないかと一生懸命探しています。
健康のことは面倒だけど、ゲームならば毎日でもやりたい、そういうものかなと。
サッカーが好きとか、鉄道が好きとか。
好きと健康が結びつくような事業が出来たらいいなと思っています。
【勤次郎】
本日はありがとうございました。