ヤフー株式会社(以下「ヤフー」)は、情報技術で人々の課題を解決する
「UPDATE JAPAN」をビジョンとして掲げています。
100を超えるサービスを通じて、日本を世界で一番便利な国にUPDATEするという
ミッションのもと、社員一人ひとりが、日々の活動を積み重ねています。
※ ヤフーのビジョンについては「こちら」をご参照ください。
そして、社員の健康については、働く人の身体の健康(安全)と心の健康(安心)を
UPDATEする「UPDATE コンディション」が掲げられています。
(資料出所:Zホールディングスグループ健康宣言)
※ 取組詳細については同ページをご参照ください。
ヤフーは2019年2月21日、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業として、
経済産業省および東京証券取引所より、「健康経営銘柄2019」に選定されています。
ヤフー株式会社グッドコンディション推進室 市川室長と川村様に「UPDATE コンディション」に
向けた取り組みについて、インタビューさせていただきました。
「UPDATEコンディション」について
【勤次郎】
「UPDATEコンディション」を掲げられるようになった背景を教えていただけますか?
【市川室長】
前社長の宮坂の体制の時から、ビジネスパーソンもアスリート同様、コンディションを
整えることが大事であると言われていました。
健康で病気にならないだけでなく、良い仕事をして、良いサービスをお客様に提供するためには、
私たちビジネスパーソンもコンディションを整える必要があるという思いが背景にあります。
(資料出所:ヤフー提供資料)
【川村様】
2016年に、20周年を記念して「UPDATE JAPAN」という会社のビジョンが策定されました。
コンディションについても、その流れで、よりよい状態を目指そうということで「UPDATEコンディション」として、
当時の社長の宮坂が宣言を行い、初代Chief Conditioning Officer(チーフ・コンディショニング・オフィサー/以下「CCO」)
に就任しました。
現社長の川邊に代わった後もその体制は引き継がれましたが、2019年にZホールディングスの持株会社体制に大きく変わり、
川邊はZホールディングスCEOの立場で宣言を発信、CCOの役割は人事担当執行役員である湯川が引き継ぎました。
【市川室長】
社員一人ひとりがコンディションを整えることを、会社として応援するということが
「UPDATEコンディション」の基本的な考え方です。
しかし、社員がコンディションを整えるのは会社にいる時間だけではありません。
会社にいない時間も、どうやって社員がコンディションを整えるか、についても重要です。
コンディションを整えるよう、社員が自ら考えることが「UPDATEコンディション」の目指す姿と言えます。
(ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室長 市川 久浩 様)
【勤次郎】
「UPDATEコンディション」の考え方を社員全員に理解してもらうことは難しいと思います。
そのために取り組んでいることはありますか?
【市川室長】
社長や執行役員が宣言したから、すぐに全社員が理解するかというと、必ずしもそうではありません。
それはコンディションに関わらずどんな施策も同じで、伝わるまで伝え続けることが重要であると思っています。
まずは、「コンディション」という言葉をよく知ってもらう必要があります。
部署名としてのグッドコンティション推進室を露出することは意識しています。
【川村様】
昨年、就業規則に健康経営の章を追加し、「コンディション」という言葉も入れて、社員に広く周知しました。
就業規則という自分たちのルールの中に言葉が入ったので、より意識してもらえたのではないかと思います。
(ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室 川村 由起子 様)
【市川室長】
2019年10月には、「UPDATEコンディション月間」を実施しました。
社内のイントラで湯川CCOからのメッセージを発信し、この期間、社員にコンディションを
意識してもらうような取り組みを行いました。
(資料出所:ヤフー提供資料)
【川村様】
UPDATEコンディション月間では幾つかのイベントを実施しました。
一つは歩くことで、1日8000歩を達成した人にインセンティブを付与する取り組みを行いました。
そのことに付随して、オフィス環境のチームともコラボをして、歩幅をチェックできるような環境も用意しました。
歩くことに関連した情報の発信をしたり、階段を使おうと呼びかけたりもしました。
また、紀尾井町のオフィスでは社内レストランのメニューを点数で可視化して、
栄養バランスの良い10点のメニューを選ぼうとイベントで呼びかけました。
【勤次郎】
社員の方に「UPDATEコンディション」について認識してもらうことと、そのために具体的に行動してもらうこと
の両方が狙いとしてあるのですね。
【川村様】
社内レストランのチームが取り組んだ『揚げ物税・お魚還元』については、
メディアで取り上げられて社外でも話題になりました。
こういった外部からの評判で、社員が知ることも多いため、内部の仕組みだけでなく、外部からの声も重視しています。
【市川室長】
「UPDATE コンディション」の社員への周知も社内レストランチームと一緒に取り組んでいます。
社内レストランは毎日約3000人の社員がランチを食べています。
見方を変えれば、社員3000人が使うメディアであり、直接社員との接点となる機会です。
例えば、サイネージを使って「魚を週1回は食べましょう」や「脂質の摂り過ぎの傾向があるので気を付けましょう」
などのメッセージを表示して、社員への意識付けを行っています。
(資料出所:ヤフー提供資料)
【勤次郎】
社員に「UPDATE コンディション」を意識してもらうために、様々な工夫されながら取り組みをされているのですね。
健康経営のステレオタイプ的な取り組みといったところからスタートしていない、貴社のユニークさを感じます。
【市川室長】
組織の名前がグッドコンディション推進室になったのは2017年で、紀尾井町にオフィスが移るタイミングです。
その時に、いわゆる病気ではない状況を意味する「健康」よりも、
仕事をするための準備を整えるという意味での「コンディション」を意識してもらうということでやり始めました。
その前からこの組織はありますので、健康経営についてはこれまでも取り組んできたと言えます。
今の健康経営の大きな流れからも学び続け、ヤフーならではの考えで「UPDATEコンディション」
に取り入れていくことが重要だと思っています。
(資料出所:ヤフー提供資料)
【勤次郎】
健康、健康と言われると、「健康になれよ」と押し付けられるようなイメージがあります。
貴社の「UPDATEコンディション」からは、全社員がプロフェッショナルとして活躍するために、
自分自身でコンディションを整えよう、という期待を感じます。
【市川室長】
コンディションを自分で整えるというのが最終的な目標です。
ただし、社員の価値観も様々です。
「アスリートになれ」と言われても、一人一人が一騎当千で、将軍みたいな人達ばかりが集まる会社ならば
それでよいかも知れませんが、実際には「そこまでは・・・」と感じる社員もいます。
トップの思いと、それを受け取る社員とのコミュニケーションを取り持つ通訳としての役割は
果たしていかなければならないと思っています。
【勤次郎】
健康保険組合との連携について教えていただけますか?
【市川室長】
2018年にYG健康保険組合を設立しました。
組織としてはグッドコンディション推進室のメンバーが兼務して健保の実務も行っています。
CCOの湯川はYG健保の理事長も務めており、私も常務理事となっています。
YG健保も「UPDATEコンディション」を目指すグループの一員として、ヤフーが持っている資源として考えています。
コラボヘルスというよりも、同じ目的を掲げて取り組む施策の内容に合わせて、
「この場合は健保、この場合はヤフー」といった形で取り組む混成チームのような形です。
もちろん、YG健保にはヤフー以外の事業所もあるので他の事業所のことも考えなければならないため、
理想と現実は違う部分もありますが・・・。
【勤次郎】
両方の役割を担われているのですね。
【市川室長】
健保と事業会社の両方を担当していて気が付いたこととして、健保が得意な分野と事業会社が得意な分野があります。
健保が得意な分野は、健診を中心とした未来のリスクへの対応です。
一方でプレゼンティーズムの改善やメンタルのケアなどは、健保にとっては難しく、普段社員と接している
事業会社の看護職や医師が取り組んだ方がよいと思います。
もちろん重なる部分もありますが、得意分野に応じた役割分担をすることで、お互いの限られたリソースを
無駄使いすることなく「UPDATEコンディション」に向けて、取り組めるのではないかと思います。
(資料出所:ヤフー提供資料)
オフィス空間投資について
【勤次郎】
イノベーションとコンディションの両方を考えてオフィス空間をプロデュースされているように思います。
このようなオフィス空間投資を実現されるに至った経緯を教えていただけますか?
(資料出所:ヤフー提供資料)
【市川室長】
2016年にこの紀尾井町のオフィスに引っ越すときに、現CEOの川邊がリードし、他の経営陣も入って、社員からも
何名か有志を募ってコンセプトを考え、最終的にグッドコンディション、オープン・コラボレーション、
ハッカブルの3つに決まったと聞いています。
(資料出所:ヤフー提供資料)
ここからは自分の解釈も混じりますが、当時のヤフーの課題を解決するために、オフィス移転
という機会を上手に使うという意思があったのではないかと思います。
前のミッドタウンのオフィスについても、社員の不満はありませんでしたが、PC時代の
スクエア型のデスクを前提としたオフィス設計でした。
社員の働き方のリズムを変えるために、オープンイノベーションを起こせるような、あえて導線が
整備されていないオフィスレイアウトにしたり、外部の方に来てもらいやすいようなコラボレーションのスペースを
設けたりといった工夫が今のオフィスではなされています。
【川村様】
オフィス環境のチームも、共通のビジョンとして「UPDATEコンディション」を掲げています。
オフィス環境、グッドコンディション、食、それぞれのチームが同じゴールを目指しています。
【市川室長】
コンディションを整えるためのオフィスを日頃から考え、引越しなどのタイミングでそれを実現しています。
例えば、名古屋オフィスのうんていは、オフィス移転のタイミングでいろいろと議論をして実現しています。
紀尾井タワーのRestルームは、もともと喫煙室だったところを、クローズして設置しました。
喫煙室をクローズするということに対してネガティブな反応があったかもしれませんが、全ての社員に
とってよいものをということを考えて、設置していただきました。
(資料出所:ヤフー提供資料)
【川村様】
オフィス環境の担当者とも月1回、グッドコンディションをテーマにコミュニケーションをとっており、
一緒に健康問題を解決するような施策をやっていこうという体制になっています。
2019年10月の「UPDATEコンディション月間」でもオフィス環境のチームに協力をいただいて、
主要拠点に歩幅をチェックするためのマットや、ポスターなどを配置いただきました。
そのおかげで、各拠点に周知することができました。
【勤次郎】
ハード面、ソフト面含めて、「コンディション」の考え方で議論しながら整備されているのですね。
【市川室長】
他部門とコラボレーションしながら、幹部・メンバー含めて取り組んでいると思います。
情報技術の活用
【勤次郎】
「UPDATEコンディション」に向けて、「貴社ならでは」の情報技術の活用事例があれば教えてください。
【市川室長】
この領域にヤフーのエンジニアを潤沢に割いて取り組んでいるということはありません。
健康診断については、それこそ投資をしているので、まずは健診結果のデータを有効活用しようというのが最初の一歩です。
【川村様】
健康診断結果は保健師とデータアナリストと協力して、統計データから健康施策を進める上で
何が一番のフォーカスポイントか、などを分析しています。
その分析結果を社内レストランやオフィス環境のチームに共有し、協力して行える健康施策を検討しています。
【勤次郎】
分析結果に基づいて、食堂のメニューが変わったりするのですか?
【川村様】
以前、BMIやLDLコレステロールが課題だという分析結果がありました。
そこで、社内レストランのチームが社内で摂取する脂質の量を少し減らそうといった形で、施策につなげているものもあります。
【市川室長】
『揚げ物税・お魚還元』も社内の数値を改善するために、社員に行動を変えてもらうためのアイデアです。
揚げ物を減らして、魚に変えましょうということで取り組み、実際に魚の摂取量が増えています。
それが健診の結果につながるのは数年かかると思いますが、社員の行動は変わっています。
【川村様】
食の施策は社内レストストランのチームがリードをし、課題や改善点を可視化しています。
それをもとに委託先と連携してメニューをつくったりしており、非常に良いチームプレーが出来ていると思います。
【勤次郎】
今あるデータを活用して健康状態を改善していこうということなのですね。
【市川室長】
まずはそれが重要だと思っています。
今の課題を把握して、解決していくということをしっかりとやっていくことが大切です。
もちろんトライアルで生産性の取得であったり、睡眠の質をアプリで計測したりといったことも
やっていますが、全社員に対して実施するのは大変です。
現在運用している社内システムとしては自社で開発した食事管理の仕組みがあり、自分が
食べた食事のデータを見ることが出来るようになっています。
そこで蓄積された統計データも分析しようということも取り組んでいます。
その他、私たちが投資として使えるのは貸与iPhoneです。
健保の推奨している健康管理アプリを活用して、イベントに合わせたウォーキングなどは実施しています。
社員の約50%がこのアプリに登録しています。
【勤次郎】
50%ですか?
社員の約半分の方が、自発的に健康づくりをしているのですか?
【川村様】
健康管理アプリを自発的に登録していただいたのには、実は仕組みがあって、
インセンティブを与えるキャンペーンを行いました。
数か月間、前日の歩数が8000歩以上の方に社内カフェのドリンク100円引きというイベントを行い、
さらに1カ月間についてはドリンク無料というキャンペーンを実施しました。
社員からは「歩いてインセンティブをもらうのが楽しみになった」、とか、「休みの日も次の日は会社があるから8000歩あるいた」
といった声を頂きました。
【市川室長】
社員の方々の仕事の邪魔をするのではなく、気が付いたら健康になっていたという取り組みを
いかに実施していくかということを重視しています。
普通のビジネスパーソンには健康に関する勉強をしたり実践する時間がなかなかありません。
自分の時間の割合に、健康というテーマを割いてもらうためには、日常的な導線にごく自然と
触れるような情報提供が重要と思っています。
社内レストランやエレベーターホールのサイネージなど、オフィスでごく自然に学べるように、工夫をしています。
【川村様】
エレベーターを待っている間に、ストレッチの仕方を学べたり、インフルエンザの
季節にマスクや予防の啓発などを行ったりしています。
【勤次郎】
健康づくりを押し付けることはなく、社員の方が自発的に取り組む環境を整えていこう
という姿勢が、貴社の施策から一貫して感じます。
【市川室長】
上意下達で指示するのは、指示する側にとっては楽ですが、受け取る側にとっては抵抗があります。
本人が変わろうと思わない限り、コンディションは変わりません。
言われたからやるものではなく、いかに自発的に行動してもらうか、ということを、
トライ&エラー&エラー&エラーですが、繰り返し取り組んでいます。
【勤次郎】
部門や拠点での温度差はありますか?
【市川室長】
例えばエンジニアと営業ではカルチャーも環境も違いますし、地方拠点だと車通勤だったりするので、当然差は出ます。
各拠点とも連携しながら、みんなで知恵を絞って取り組んでいます。
例えば、寒い地方拠点ではカップヌードルなど温かい食べ物が増えることがあります。
カップヌードルは悪い食べ物ではありませんが、弁当と一緒に食べるなど、摂り過ぎは栄養のバランスが崩れます。
そういう点に目をつけて、東京では提供していない、温かい、具だくさんのスープを
地元の会社に依頼をして提供したりしています。
健診結果がすぐに変わることを狙っているだけではなく、純粋に、社員の方に健康を意識してもらうために行っています。
【川村様】
八戸のオフィスでは、オフィスのチームがいろいろと知恵を絞っていて、会議をするフロアに
移動するためには階段を使わなければならないなど、身体を動かすような設計になっています。
【勤次郎】
ヤフー様なので、健康づくりもデジタル技術が満載といった先入観を勝手に持っていましたが、
どちらかというとアナログなお取り組みが多いですね。
【市川室長】
社員のコミュニケーションを考えると、アナログのものが多くなります。
あと、アナログのものは手に残ります。
例えばチラシなど。
【川村様】
「UPDATEコンディション月間」に社内レストランでチラシを配ったのですが、昼の利用が3000食なので
その10%くらいのチラシがあれば十分だろうと思って300枚用意したのですが、15分くらいでなくなりました。
サイネージなどデジタルの情報も使いますが、アナログも使っていきます。
【勤次郎】
それぞれのチームが創意工夫しながら、そして連携して、「UPDATEコンディション」を
目指されていることが大変よく理解できました。
本日はありがとうございました。