「健康経営の効果指標」を定めるうえで重要なポイント

スタートとゴール

 

 

「健康投資」と「収益向上」

 

健康経営は、企業の持続的成長を図る観点から従業員の健康に投資する経営手法のことです。

従業員の健康が企業の成長にとって不可欠な資本であることを認識し、健康情報の提供や健康投資を促す仕組みを構築することで生産性を高め、企業の収益性向上を目指します。

 

つまり、「従業員の健康への投資のリターンは、従業員の健康増進だけでなく、企業の収益性向上である」といえます。

 

この「従業員の健康への投資」と「会社の収益向上」との関連性のエビデンスとしてよく言及されるのが、ジョンソン&ジョンソンの事例です。

グループ企業世界250社、約11万4,000人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを試算すると、健康経営に対する投資1ドルに対して3ドル分の投資リターンがあったとされています。

そのリターンの内訳が、イメージアップ、リクルート効果、モチベーション向上、医療コスト削減、生産性向上となっています。

 

 

効果指標に定めるべきもの

 

それでは、「これから健康経営に取り組もう」という企業は、その投資効果を検証するために、何を効果指標として定めるべきでしょうか?

 

例えば、「従業員の健康に100万円投資して、経常利益を300万円アップする」という効果指標を定めることは望ましいといえるでしょうか?

または、「従業員の健康に100万円投資して、イメージアップにつなげ、採用コストを300万円削減する」といった効果指標は望ましいでしょうか?

 

営業利益、経常利益といった収益の指標は、当然自社の営業努力、製品・サービスの競争力、コスト削減努力など様々な経営上の施策の結果として現れます。

したがって、健康経営による収益性向上の効果を、単年度の収益の増減をもって測定することは難しいと考えられます。

 

同様に、「イメージアップ」や「モチベーションの向上」といったインビジブルな経営資源を、「採用コストの削減」という形で判断することも少し乱暴だと考えます。

 

 

 

 

指標に必要なもの

 

健康経営の効果指標を定めるためには、健康経営と直結するレベルまで、先述の内訳の5項目を細分化する必要があります。

 

例えば、生産性の向上について考えてみましょう。

もし、生産部門の単位時間当たりの生産量が1000だったのが、単位時間当たりの生産量が例えば1100になったならば、それは明らかに生産性が向上しているといえます。

また、年間を通じて単位労働時間あたりの生産量が向上したならば、製造原価における人件費率が高い企業ほど、収益に与える影響は大きいと言えます。

 

単位時間当たりの、労働生産性を高めるための手法を例に挙げてみます。

仕掛品在庫の削減、不良品発生率の低減、製造ラインの安定稼働(機械の洗い替えによるロス削減など)、工程間のスムーズな連携、ボトルネックの解消など、さらに細分化することができます。

部門間のコミュニケーションが良くなったり、作業内でのヒヤリ・ハットが低減したり、作業者のシフト変更の際の引継ぎがスムーズに行われたりすると、上記の手法のいずれにもプラスの影響を与えるはずです。

そして、こういったコミュニケーションを良くしたり、ヒヤリハットを低減したりするための全ての基盤となるのが従業員の「健康」です。

それを実現するための経営戦略が、「健康経営」であるということができます。

 

同様にイメージアップ、リクルート効果、モチベーション向上、医療費削減等も、それぞれ細分化することができます。

イメージアップには、企業ブランド価値を高めるための「社外向けの活動」もあれば、働いている社員が自社を誇りに思うような「社内向けの活動」もあります。

こういったそれぞれの活動もさらに、広告宣伝、社会貢献活動、表彰受賞など、さらに細かく分類できます。

 

経営資源の最大の要素は、「ヒト」です。

基盤になるのが従業員の「健康」である以上、どの項目でも、細分化されたどこかのレベルで必ず健康経営と直結するはずです。

 

 

目標設定を誤らないこと

 

例えば、イメージアップから、対外的な企業価値が向上し、健康経営優良法人の認定を受ける、といった流れを考えます。

まずは健康経営優良法人認定を目標とし、企業としてのイメージアップを目指し、健康経営優良法人の認定を受けるかどうかを健康経営実践の上での効果指標とする場合があります。

 

ただし、こういった「見えるところ」からの目標設定には落とし穴があります。

健康経営優良法人の認定を受けることが手段ではなく、いつの間にか目的となってしまうと、それ以上の効果にはつながりません。

重要なのは、「自社の経営上の目標からスタートすること」です。

 

例えば、生産性の向上を目標とした場合、それを実現するための課題が高い不良率だったとします。

健康経営によってその不良率の低減を行おうという企業にとってのロジックの一例を考えてみます。

生産性を向上し、不良率を低減し、社員によるダブルチェック体制を敷き、コミュニケーションを向上させるといった流れになります。

したがって、まずは「コミュニケーションの向上」を一つの目標として定めることができます。

 

近年では、コミュニケーションの量を測定するためのセンサーも開発されています。

そういったものを使うことで、コミュニケーションの量を数値化するという方法もあります。

ストレスチェックの集団分析から得られる「周囲のサポート」の項目を用いて、コミュニケーションの質を数値化するという方法もあるかもしれません。

 

コミュニケーション向上のために、部門対抗の運動会を実施したり、レクリエーションを行なったりしている企業があります。

こういった企業は、明確な目標を定め、かつ効果指標を定めて健康経営を実践している代表的な事例であるといえます。

 

 

強みや課題を知ること

 

このように、健康経営の効果指標は、各企業の現状、そして目指す姿に応じて千差万別です。

組織が違えば、目指す姿は異なります。

 

健康経営は、全ての基盤となる経営戦略です。

本来は、企業毎に健康経営の効果指標は全て異なるべきであるともいえます。

 

現状を把握している企業ほど、細分化された具体的な効果指標を定めることができているはずです。

まずは、自社の強み・課題を把握しましょう。

そこから、強みをさらに伸ばし、課題を解決するために、自社が必要とする目標を定め、その目標に応じた効果指標を定めることが重要ではないかと考えています。