テルモ株式会社(以下「テルモ」)の歴史は、1921年(大正10年)に「日本の細菌学の父」として知られる
北里柴三郎博士をはじめとした医学者が発起人となって「赤線検温器株式会社」を設立したところから始まります。
1955年(昭和30年)には、テルモ製の体温計が国内生産量の30%を占めてシェアNo.1
となり、その後1963年(昭和38年)に国産初の使い切り注射筒を発売しました。
1969年(昭和44年)に日本で初めて血液バックを発売するなど、創業以来医療分野における
リーディングカンパニーとして、高品質な医療機器やサービスを安定的に供給してきました。
1971年(昭和46年)4月には、今の「テルモメディカル社」の前身であるテルモアメリカ社を設立しました。
同年5月にはテルモヨーロッパ社をベルギーに設立し、海外事業展開を進めました。
現在、テルモ製品は全世界160ヶ国を超える地域で使用されており、売上高における
海外構成比は60%を占めるに至っています。
事業領域としては、心臓血管カンパニー、ホスピタルカンパニー、血液システムカンパニーの
3つのカンパニーにおける合計9つの事業を軸として、医療現場に対して医療の質を
向上させるための機器の提供を行っています。
(資料出所:テルモホームページ)
テルモは、社員の健康管理を経営的な視点で考え、取り組んでいる企業として2015年3月25日に
経済産業省と東京証券取引所より『健康経営銘柄』に選定されました。
テルモに、健康経営の取り組みをインタビューしました。
健康経営とコラボヘルス
【勤次郎】
健康経営の取り組みのきっかけを教えていただけますか?
【テルモ】
アソシエイト(社員) 及びアソシエイトの家族に対しては、もともと
テルモ健康保険組合(以下「テルモ健保」)が制度面での充実を図ってきました。
しかし、健康産業に携わっているという使命感から、
「経営においても積極的にアソシエイトの健康に取り組んでいくべき」であると考えました。
そして2014年度に経営トップが健康経営推進を社内外に発信、本格的な健康経営がスタートしました。
テルモの健康経営では、テルモ健保と一緒になって取り組むコラボヘルスが重要な位置づけを占めています。
テルモ健保の取り組みを経営として後押しする、或いは経営方針に基づき、
健保が具現化するといった取り組みがベースとなっています。
例えば、がん検診等の成人病検診の受診に関して、テルモ健保による補助制度を
活用し、受診するよう会社からも積極的な呼びかけを行っています。
各事業所の衛生管理室所属の看護師による粘り強い受診呼び掛けの結果、受診率は向上しました。
法定の定期健診の受診率100%はもちろん、任意のがん検診の受診率も70~80%近くに上っています。
また、禁煙についても積極的に推進、2014年度にはテルモ健保で
最大20,000円の禁煙外来補助制度を導入しました。
加えて、会社の方でも産業医による社内禁煙外来を各事業所で実施する等の
アプローチを行ったところ、複数の事業所で禁煙成功者が現れはじめました。
2014年度1年間で禁煙外来補助、社内禁煙外来を活用し、20名以上が禁煙に成功したとみられます。
テルモでは、人事部長がテルモ健保の理事長も兼務しています。
そのことにより、人事部長は、一方では健保の立場で健保の運営面を
管理しながら、人事部の立場ではアソシエイトの心と体のケアに対する啓蒙を行っています。
そもそも、健保の運営費のほとんどが医療費です。
アソシエイトの健康をサポートする制度にテルモ健保として多少の
支出(投資)をしたとしても、全体の医療費と比べると非常にわずかな金額です。
アソシエイトが健康になることで、投資効果は十分に見込めます。
そういった状況を把握した上で、人事部が中心となり、会社としても、
テルモ健保の様々な取り組みへのアソシエイトの参加を呼び掛けています。
コラボヘルスが、うまく機能している事例といえます。
メッセージによる啓蒙
【勤次郎】
具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?
【テルモ】
経営層から直接、アソシエイトの健康に関してのメッセージを発信しています。
例えば、社内イントラネット中に健康経営サイトを設けました。
このサイトでは、経営トップメッセージ、医療の有識者からの
コメント等、健康の大切さや健康経営への取り組みに関するメッセージを掲載しています。
さらに、新宅社長から、全アソシエイトに対してメールでメッセージを配信するということも行っています。
こういったメッセージを通じて、会社として本気で取り組んでいるという姿勢をアソシエイトに伝えています。
そうすることで、健康意識を高め、人事部や衛生管理室、テルモ健保が
具体的な施策を行うにあたって、取り組みやすい環境をつくっています。
また、海外グループ会社にも発信するために、経営者によるメッセージは
英訳して英語版のイントラネットにも掲載しています。
会社と健保によるコラボヘルスは、あくまで日本の医療政策における国内のみの
取り組みですが、健康を意識するというマインドにおいては、海外の拠点も同じです。
健康で活き活きと働いてもらおうと考えているためです。
自らの健康を意識することは、自社のビジネスである医療への理解を深めることに繋がります。
アソシエイトが健康であることは、健康産業においては重要なパフォーマンスであり、世界共通のブランドです。
健康への啓蒙方法は、他の形でも効果を上げています。
例えば、各事業所で夏休みにアソシエイトの家族向けの社内見学会を行っています。
そのプログラムの一部として健康関連のセミナーなどを実施、健康意識
を高めてもらうような取り組みを行っています。
その際、子供から両親に「タバコやめてね」といった手紙を書いてもらうような
企画をしたところ、実際にこの手紙でタバコをやめたアソシエイトもいるそうです。
また、テルモ健保ではアソシエイトの扶養家族にも検診の補助を行っていて、
その案内に補助制度の概要、禁煙の啓発等の情報提供などを同封しています。
特に禁煙については、家庭における家族のサポートも呼びかけています。
その他の様々な取り組み
【勤次郎】
他には、どのような取り組みをされているのでしょうか?
【テルモ】
その他の様々な健康経営の施策については、各事業所の衛生管理室や産業医などが
会社全体の方針に対応する形で独自のアプローチを考えて実施しています。
例えば、大股で歩くようにフロアの廊下に模様をつけたり、地元野菜を使ったヘルシーな
メニューを社員食堂で提供したり、減量作戦などのイベントを事業所単位で行ったりしています。
全社で取り組むウォーキングキャンペーンも、年に2回開催しています。
キャンペーン期間中は、毎日スマホや自宅のパソコンで歩いた歩数をイントラネット上の
ページに入力すると、入力した歩数に応じて苗が出て、最後に西瓜や柚子などが実ります。
そして、パソコン上で西瓜や柚子などが実ると、健保から本物の西瓜や柚子などが
自宅に送られてくるというシステムです。
(写真出所:テルモ社内にて撮影)
また、健康診断前の数ヵ月、「健康診断に備えてダイエットをしよう」という、
アソシエイトの心理をくすぐるキャンペーンも行っています。
パソコン上で目標を設定し、毎週体重を入力、定期的に配信される健康クイズに
答えるというもので、それぞれ実行するとポイントがたまります。
終了時にたまったポイントに応じて、お米やお菓子などの賞品がもらえるという企画です。
健康経営の効果と今後の展望
【勤次郎】
様々な取り組みをされているのですね。
どのような効果があらわれたのでしょうか?
【テルモ】
健康経営の効果として、定期健診受診率100%の達成や禁煙者数の増加など目に見える指標もあります。
また、離職率が低いこともアソシエイトの健康のために取り組みを続けたことによる効果の一つかもしれません。
しかし重要なのは、そういった指標だけでなく、実際にアソシエイトが家族も含めて健康に
なってもらうこと、健康を意識して生活してもらうことだと考えています。
各アソシエイトが健康になれば、活力ある組織が生まれます。
人材育成と一緒で、不健康な人が集まっても、新しい事業構想はできませんが、
逆に健康な人は会社の成長をドライブする存在になります。
また、アソシエイトが活き活きと働いている姿を見せることが、
テルモという企業のブランドとしても重要であると考えています。
特に、テルモの事業を支えているのはモノづくりです。
機械ではなく、人がモノづくりをしており、多くの商品が今も職人の技能によって生み出されています。
テルモの事業にとって、アソシエイトが健康で活き活きと働いてくれることが最も大切なことです。
我が国はこれから超高齢化社会を迎えますが、現役世代のうちに生活習慣を改める
ことが健康寿命の延伸のためには重要です。
将来、テルモを卒業したアソシエイトがずっと健康でいてくれることによって、
テルモの健康経営が最終的に一つの社会貢献になると考えています。
【勤次郎】
本日はありがとうございました。