ここ最近、急激に痩せて不安に感じることはありませんか。
ダイエットをしていなくとも体重が減るというのは、どこか体の調子が悪いことが考えられます。
そのような急激な痩せが起こる理由の一つに、糖尿病が挙げられます。
太るイメージのある糖尿病ですが、実は急な体重減少は糖尿病の代表的な症状。
また、最近はもともと痩せている人でも糖尿病を発症する例が増えてきました。
では、どうして糖尿病だと痩せるのでしょうか。
そして糖尿病を指摘されたら、どんなことに気をつければ良いのでしょうか。
糖尿病内科クリニックに勤める看護師である筆者が、
糖尿病で痩せる理由、そして糖尿病を指摘された後の生活についてご説明いたします。
監修者情報 名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
突然痩せるのは体の危険信号かも
特に理由もなく突然痩せるのは、体が不調を訴えている証。
急激な体重減少が生じる疾患はいくつもありますが、代表的なものを以下にご紹介します。
バセドウ病
バセドウ病は甲状腺機能亢進症の代表例です。
代謝に関わる甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで体重が減少します。
体重減少の他、動悸や発汗、イライラ、喉の腫れや目が飛び出る(眼球突出)などの症状が出現することもあります。
がん
がんを患うと、食欲不振で食事が摂れなかったり、
がん細胞に栄養を奪われてしまうことで体重減少が起きやすくなります。
がんによる体重減少の場合は、その他に発生部位に伴う痛みや出血などの症状も出現します。
精神疾患
うつ病や摂食障害など、精神的な疾患でも体重減少は起こります。
この場合、眠れない、気分が落ち込むなどの症状もあわせて出現することが多いでしょう。
糖尿病
体重減少が起きる理由の一つに、糖尿病も挙げられます。
糖尿病の場合、喉の渇きや尿回数の増加などの自覚症状を感じることも。
糖尿病と体重減少の関係についての詳細は後述します。
そもそも糖尿病とはどんな病気か
私たちの体は、食事などで血液中のブドウ糖(血糖)が増えると、
それを下げるための反応が起こります。
その際に働くのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモン。
これは血液中にあるブドウ糖を各細胞へ届ける役割を担っています。
このインスリンの働きで私たちの血糖値は常に正常範囲内に保たれているのですが、
インスリンの作用不足があると血糖値を下げることができずブドウ糖が多い状態(高血糖)に陥ります。
つまり、糖尿病とはインスリンの作用不足により高血糖が続く病気なのです。
糖尿病には喉の渇きなどの自覚症状がある一方で無症状の場合も多く、
健康診断で初めて指摘されるという例も少なくありません。
このように糖尿病は一見軽度に思えても、長く続く高血糖によって血管が傷つき重症な合併症が生じるリスクが高まっている状態。
そのため、糖尿病は発見されたらすぐに対処しなければなりません。
糖尿病による痩せと自然な痩せの違い
では、インスリンの不調によって起こる糖尿病で、どうして体重が減少するのでしょうか。
自然に痩せる場合と糖尿病で痩せる場合とでは、それぞれ痩せる機序が異なります。
自然に痩せる場合はカロリーが関係
ダイエットなどで痩せる場合、それは摂取カロリーよりも消費カロリーが上回っていることが理由です。
運動やストレッチをする、または食事制限をするなどして相対的に消費カロリーを増やすと、
体に蓄積されている脂肪が代謝されやすい状態になります。
その結果、体脂肪が減って体重も減少します。
糖尿病による痩せにはインスリンが関係
一方、糖尿病に起因する痩せはインスリンが大きく関係しています。
私たちの体には、細胞が糖を受け取れない状態に陥ると
糖の代わりに筋肉や脂肪を分解してエネルギーを補うという仕組みがあります。
これは飢餓時の反応として有名ですが、インスリンの作用不足でブドウ糖を取り込めない糖尿病でもメカニズムは同じ。
高血糖が続けば続くほど筋肉や脂肪がエネルギーに変換、ブドウ糖が尿糖として排泄され、糖尿病で体重が減ることとなります。
肥満体型でなくても糖尿病になることはある
糖尿病ときくと、太っている人に起こる病気というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
糖尿病の9割を占めるといわれる2型糖尿病は生活習慣に起因するため、確かに糖尿病の方には肥満体型が多いでしょう。
しかし2型糖尿病と肥満の関係は絶対ではなく、むしろ最近は痩せている人が発症する2型糖尿病も増えています。
その理由に、筋肉や心臓といった見えない部位への脂肪の蓄積が考えられています。
脂肪はインスリンが効きにくくなる要因の一つなので、体内に必要以上の脂肪があれば高血糖になる可能性があります。
運動不足や脂肪の多い食事をしている方は、痩せていても糖尿病を発症するリスクは高くなるでしょう。
痩せが原因で糖尿病がわかった場合にすること
急激に痩せた結果、自分が糖尿病だとわかった場合にとるべき行動を以下でご紹介します。
糖尿病専門医のいる医療機関を受診する
糖尿病は一人ひとり病態や治療方法が異なるため、必ず糖尿病専門医に自分の体を診てもらいましょう。
自分のかかりつけ医がある場合は、糖尿病専門医のいる医療機関宛てに紹介状を書いてもらうと良いでしょう。
かかりつけ医がない場合は、日本糖尿病学会のホームページから糖尿病専門医のいる医療機関を検索することも可能。
糖尿病は長く治療することになるため、住まいや職場近くの医療機関を選ぶと治療を続けやすいです。
薬剤による治療を開始する
インスリンの作用不足が原因の糖尿病は、多くの場合薬剤による治療が必要です。
治療方法は内服と注射の2種類。
どちらになるか、1日何回薬を飲むか、何種類の薬を使うかなどは糖尿病の状態によって異なります。
大抵は長期にわたり薬剤治療を受けることになりますが、糖尿病が改善していけば薬の減量が可能な場合もあります。
まずは医師に相談しましょう。
過度な食事制限はしない
糖尿病になったからといって、食事を抜くなどの過度な食事制限は不要です。
むしろ、食事を摂らないことで血糖値の変動が大きくなり逆に糖尿病が悪化する可能性もあります。
ただし、一度食事内容を見直してみましょう。
機会があれば管理栄養士さんから食事指導を受けることをおすすめします。
糖尿病でも以前とほぼ変わらない生活が可能
糖尿病と言われ治療が始まると、様々な生活の変化に不安を抱かれるかもしれません。
しかし、糖尿病は今までとほぼ変わらない生活を送ることも可能です。
数ヵ月毎の通院でスケジュールが立てやすい
糖尿病は、治療を始めた初期は検査や検査結果の説明で月に数回受診する必要があります。
しかし、治療方法が見つかると(個人の状態によりますが)大体1~3ヵ月毎の通院になることが多いでしょう。
このように予め受診日が決まっているため、仕事などのスケジュールも立てやすいと思います。
旅行や外食、運動などの趣味も可能
糖尿病であっても旅行や外食、運動、飲酒などを楽しむことは可能です。
自分の病状に合わせた適正範囲内で、無理をしない程度にという制約はありますが、
糖尿病になったからと言ってこれらの楽しみが完全に制限されることは全くありません。
(ただし、喫煙は控えた方が良いでしょう。喫煙は血管に悪影響を及ぼすので、糖尿病の合併症が起こりやすくなります。)
まとめ:痩せで判明した糖尿病は適切な治療を受けよう
急な痩せで糖尿病と言われると、初めは驚きと不安な気持ちでいっぱいになるかもしれません。
しかし、慌てなくても大丈夫。
糖尿病は適切な治療を受ければ、今までと同じような生活を送ることができます。
仕事や家庭で大きなイベントを控えていても、糖尿病を理由に諦める必要はありませんのでご安心ください。
糖尿病で大事なのは自分の症状に合った治療法を見つけること。
そのためには糖尿病に詳しい糖尿病専門医に診てもらうことが大切です。
自分の体のこと、そして不安に思うことを、医師や看護師に話してみましょう。
あなたの生活スタイルに合う治療方法がきっと見つかるはずです。
良かったら、健康管理アプリ「ヘルス×ライフ」を活用しましょう。
【出典】
土方ふじ子『まるごと図解 糖尿病看護&血糖コントロール』照林社,2019
保健指導リソースガイド『「やせメタボ」は生活習慣病になりやすい「筋肉のインスリン抵抗性」が影響』