「下着に膿が付いている…」
「なんだか座るとお尻が痛い…」
こんな症状に心当たりはありませんか?
もしかすると、それは「痔ろう」かもしれません。
肛門を通過する便に付着したバイ菌(細菌)により、痔ろうは発症します。
どんな世代も発症する可能性のある病気のため、
本記事を読んで、「痔ろう」の種類や治療方法を詳しく知り、
症状に心当たりのある方は医療機関へ受診してみましょう。
下着に膿が…。肛門が痛い!それって痔ろうかも…
肛門や肛門周囲などに生じる
お尻の代表的な病気といえば、
国民の3人に1人が悩む痔。
いぼ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)、穴痔(痔ろう)の
3つに大きく分けられますが、
そのうちもっとも厄介なのが痔ろうです。
なぜかというと、痔ろうのほとんどが
唯一、手術でしか治せないからです。
「肛門のちょっと脇をさわると痛みを覚える凝りができた」
「痛みだけでなく、肛門の周辺が腫れて赤い」
「お尻が痛くて椅子に座れない」
「下着に膿がつくようになった」
こんな症状で悩むようになったら、
痔ろうかもしれません。
すみやかに医療機関を受診し、
診断と治療を受けたほうがよいでしょう。
ときには激痛から
筋骨たくましい若い男性が
病院へ駆けこんでくることもある、というから大変です。
肛門周囲膿瘍と痔ろうは一連の病気!瘻管が残って再発に!
痔ろうの原因は、
肛門を通過する便に付着したバイ菌(細菌)です。
主に大腸菌による感染から生じます。
肛門の入口から3〜4㎝ほどのところに
肛門と直腸の境目=歯状線が見られます。
歯状線には十数個の窪み=ポケット(肛門小窩)が
存在し、個々の肛門小窩の奥に、
粘液を出す肛門腺という小さな空洞があります。
実は、下痢便などを繰り返すと、
なんらかの拍子に細菌が肛門小窩から肛門腺に侵入し、
感染して炎症を招くことがあります。
その結果、膿が溜まり始め、
化膿したところがどんどん広がって
肛門周囲膿瘍となり、肛門の周辺に
腫れや激しい痛みを引き起こすのです。
肛門の周囲に溜まった膿は、
皮膚表面が自然に破れ、外へ出てくることもあります。
あるいは、医師が皮膚をメスで切開し、
外へ排出させることもあります(切開排膿術)。
ただし、膿の排出後、細菌の侵入した
肛門小窩(原発口、一次口)から、
炎症を招いた肛門腺(感染巣)、
そして膿の排出口(二次口)をつなぐトンネル(瘻管)が
残ってしまうこともあります。
痔ろうとはこの原発口→感染巣→排出口をつなぐ
瘻管が残った状態にほかなりません。
すなわち、一旦、肛門周囲膿瘍から痔ろうに進展すると、
肛門小窩→感染巣→排出口を
つなぐトンネル=瘻管が残ってしまうことから、
繰り返し細菌の感染によって炎症が引き起こされ、
膿が溜まって痛みや腫れなどの症状に
悩むことになってしまうのです。
もっとも軽症なのはⅠ型の皮下痔ろうと粘膜下痔ろう
肛門周囲膿瘍は痔ろうの前段階で、
肛門周囲膿瘍と痔ろうは一連の病気です。
肛門周囲膿瘍から痔ろうに進展すると、
炎症から新たな膿瘍がつくられるたびに
トンネル=瘻管がより延長したり、
アリの巣のように枝分かれしたりして、
より複雑なものになっていきます。
痔ろうは膿瘍のできる場所や瘻管の走行によって、
Ⅰ型からⅣ型までの4つのタイプに大きく分けられます。
Ⅰ型は
①膿瘍が肛門周囲の浅い皮下に存在する皮下痔ろうと、
②膿瘍が直腸粘膜の粘膜下に存在する粘膜下痔ろう
の2つです。
いずれも瘻管が肛門を取り囲む2種類の肛門括約筋
(内括約筋=無意識のうちに肛門を締めている筋肉。
外括約筋=内括約筋の外側を取り囲み、
意識的に肛門を締めたときに働く筋肉)
を貫いていない痔ろうです。
もっとも多いのはⅡ型の内外括約筋間痔ろう
Ⅱ型は膿瘍が内括約筋と外括約筋の間=筋間に存在し、
瘻管が内括約筋を貫いて筋間を走っている
内外括約筋間痔ろうです。
痔ろうの6〜7割を占めるもっとも多いタイプです。
なおⅡ型は
①瘻管が下のほうへ延びている低位筋間痔ろうと、
②瘻管が上のほうへ延びている高位筋間痔ろう
の2つに分けられます。
Ⅲ型は
膿瘍が骨盤の肛門挙筋(肛門括約筋の奥に位置し、
肛門を引き上げ支えている筋肉)より
下の坐骨直腸窩というスペースに存在することから
坐骨直腸窩痔ろうとも呼ばれます。
瘻管は内括約筋と外括約筋の2つを貫いて走っています。
Ⅱ型に次いで多い痔ろうで、痔ろう全体の約2割を占めます。
Ⅳ型は
膿瘍が肛門挙筋より上の
骨盤直腸窩というスペースに存在することから
骨盤直腸窩痔ろうともいいます。
瘻管は内括約筋や外括約筋はもちろん、
肛門挙筋も貫いて走行しています。
膿瘍の位置や瘻管の走行を立体的に映し出す3D肛門管超音波検査装置
痔ろうは医師が患者さんの肛門に
指を挿し入れて診る直腸診や超音波検査、
CT、MRIなどで診断します。
直腸診では肛門や直腸の中を指でさぐり、
異常なふくらみ(膿瘍)などの有無を確かめたりします。
痔ろうの診療経験が豊富な医師ならば、
直腸診だけで正しい診断をくだせることもあります。
一方、膿瘍の正確な位置や
瘻管の走行などを確認するため、
超音波や CT、MRIなどによる検査も行います。
重要なのは皮下痔ろうや低位筋間痔ろうと異なり、
高位筋間痔ろうや坐骨直腸窩痔ろう、
骨盤直腸窩痔ろうなど身体の奥深いところに
膿瘍や瘻管の走行が存在する深部痔ろうの場合、
一部に膿の排出口がない瘻管が存在したり、
瘻管が二股に分かれていたり、
膿瘍=感染巣が数箇所にわたって存在していたりするなど
複雑な痔ろうが少なくないことです。
膿瘍の位置や瘻管の走行などを正しく把握するため、
積極的に活用されているのが
3D肛門管超音波検査装置
(デンマーク・BKメディカル社製
「フレックスフォーカス」)です。
肛門から端子(トランスデューサ)を挿入すると、
肛門と肛門周囲の360度超音波立体画像が
ディスプレイ上に映し出され、
膿瘍の位置や瘻管の走行などを
しっかりと確認できるのです。
患者さんに自らの痔ろうの
3D超音波立体画像を見てもらい、
病状や手術などの理解を得るのにも役立てられています。
皮下痔ろうや低位筋間痔ろうに限られる切開開放術
痔ろうを根治させるには、手術で
膿瘍のすべてを外へ排出させると同時に、
細菌の侵入路=原発口(肛門小窩)を除去し、
トンネル=瘻管も出来るだけ
とるようにしなければなりません。
痔ろうの手術は、主に①切開開放術と②括約筋温存術、
③シートン法の3つがあります。
痔ろうのタイプや病状の程度などによって、
もっとも適切な方法を選択して手術を行います。
もっとも容易な手術は切開開放術です。
細菌が侵入する肛門小窩(原発口)から
膿瘍の排出口までの瘻管のすべてを切り開き、
切開面を糸でかがり縫いする手術です。
ただし、切開開放術の適応は
膿瘍が体表に近いところで、
かつ瘻管が内括約筋を貫いていない皮下痔ろうなどや、
瘻管が内括約筋を貫いていても
排出口が肛門の後方(背中側)に存在する
低位筋間痔ろうに限られます。
排出口が肛門の前方(腹側)や側方に存在する痔ろうや、
膿瘍や瘻管の走行が奥深いところに存在する深部痔ろうに
切開開放術を行うと、肛門を広げたり締めたりする
肛門括約筋にダメージを与えてしまうからです。
そのため肛門の変形を招き、便が漏れるなどの
肛門機能の障害をもたらしてしまいます。
複雑な痔ろうを短期間に
治したいのであれば括約筋温存術
括約筋温存術は高位筋間痔ろうや坐骨直腸窩痔ろう、
骨盤直腸窩痔ろうなどの深部痔ろうに適した手術です。
細菌が侵入する原発口を糸で縫って閉じると同時に、
内括約筋や外括約筋を出来るだけ傷つけずに
瘻管を内側から刳り抜いて切除します。
排出口は自然治癒してふさがるのを待ちます。
括約筋を可能な限り温存しながら瘻管を刳り抜くため、
肛門機能を損なわないのが最大の利点です。
ただし、豊富な経験と高度な手術手技を必要とします。
患者さんの生活の質(QOL)を第一に考え、
積極的に取り組まれているのが括約筋温存術なのです。
近年は瘻管が括約筋を貫いていても、
括約筋の前後で瘻管を糸でしっかりと縛って結紮し、
瘻管を完全に遮断する内外括約筋間瘻管結紮術も
試みられ優れた実績をあげています。
括約筋にまったく手をつけずに瘻管を切断できるので、
肛門の機能をより確実に残せるのが大きな特長です。
治療期間は長期になるものの、括約筋へのダメージが少ないシートン法
シートン法は瘻管にゴム紐を通し、
ゆっくりと時間をかけて瘻管を切開していく方法です。
奥の切られたところから
自然治癒してふさがってくるため、
瘻管が次第に身体の深部から表面へと移動してきます。
最後にゴム紐がとれ、傷がふさがったら
治療完了というイメージです。
シートン法は括約筋へのダメージも少なく、
肛門機能を損なうおそれの少ない治療法です。
ただし、2〜4週間に1回の頻度で通院し、
治療期間は数ヵ月と長期にわたることもあります。
痔ろうのほとんどは薬のみによる治療が難しく、
手術を受けることなしに根治できません。
加えて、手術を受けたとしても、
膿瘍などを取り残すと再発は不可避。
痔ろうがさらに複雑化し、より根治が難しくなります。
なによりも初回の正確な診断と
確実な手術が決定的な要件となります。
手術経験が豊富な
大腸肛門外科専門医などに受診すること!
痔ろうを発症しやすいのは圧倒的に男性です。
年齢的には30〜40代がもっとも多いといわれますが、
10代の若年層や60代、70代の高齢の患者さんもおられます。
ちなみに女性の患者さんは受診を恥ずかしがり、
症状を悪化させる方が少なくありません。
「肛門がちょっとおかしい」
「痔かな‥‥」
「痔ろうかもしれないなぁ‥‥」
と心配になったら、
消化器外科や肛門科、大腸肛門外科などの
診療科の門を叩いてください。
とりわけ複雑なタイプの痔ろうほど、
痔ろうの手術経験が豊富な
大腸肛門外科専門医の診断と手術を受けたほうが無難です。
肝に銘じておきましょう。
取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部
医療ジャーナリスト 松沢 実
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