皆さんはどんな病気のときに、抗生物質・抗菌薬を使えばいいのか、不適切な使用がどんな問題を引き起こすのかなどをご存知ですか?
抗生剤ってどんなお薬?
風邪で医療機関を受診した際に「抗生物質・抗菌薬がほしい」と医師に頼んだり、処方してもらった抗生物質や抗菌薬を飲むのを途中でやめる・・・
こうした行動をとったことはありませんか?
実は今、抗生物質・抗菌薬の不適切な使用が原因で、自らの性質を変化させ、薬が効かなくなっている病原体が増えているのです。
このままでは全世界で多くの人が、薬剤耐性(AMR)を得た病原体により命を落としてしまう可能性すらあります。
そうした事態を防ぐために、私たち一人ひとりができることを考えてみましょう。
風邪って何? 抗生物質・抗菌薬って?
一般の人はどんな病気のときに、抗生物質・抗菌薬を使えばいいのか、不適切な使用がどんな問題を引き起こすのかについての知識を持っていません。
たとえば、「風邪に抗菌薬が効かないことを知っていましたか?」とアンケートをとったところ、「聞いたことはあったけど、あまりわからない」「まったく知らない」の回答を合わせると6割に上りました。
また、「風邪をひいたときに、抗菌薬を飲みたいと思いましたか」と尋ねたところ、9割以上の方が「飲みたい」と答えました。
しかし、抗生物質・抗菌薬は細菌に効くお薬で、ウイルスに効くお薬ではありません。そのため、風邪やインフルエンザにかかったときに飲んでも、効果はないのです。
風邪とは、上気道が感染したケースのことを総称する呼び方です。
人は呼吸をしています。吸った息が体の中を通っていく場所が気道で、気道のうち、上のほう(鼻や喉)を上気道といいます。
上気道感染の原因は90%がウイルス性といわれています。
ですから、細菌による感染の疑いがあるか見極めが重要です。単に風邪というだけで、抗菌薬を医師に対して希望しないでください。
抗生物質・抗菌薬が細菌をやっつける仕組み
人間の細胞と細菌は違いがいくつかあります。
その違いを利用して、抗生物質・抗菌薬は、人間の細胞ではなく、細菌に効く性質を持ちます。
人間の細胞と細菌の違いの一つは、細菌はその形を保つために、細胞壁で覆われている点です。
人間の細胞も細胞膜で覆われているのですが、細菌はその上をさらに補強するために細胞壁があるのです。
抗菌薬の代表で、最初に見つかったペニシリンには細胞壁をつくれなくする働きがあります。
これによって細菌を殺すことができるのです。
抗生物質・抗菌薬を使い過ぎると…
抗生物質・抗菌薬は細菌を退治してくれるのですが、使う必要がない時に使ったり、使い過ぎると悪い作用が起きてしまいます。
たとえば、人の体の中にはさまざまな細菌がいます。
代表的なものでは、腸内細菌と呼ばれる細菌が、おなかの中にいます。大腸菌も、腸内細菌の一つです。
これらの細菌がいるおかげで、私たちはうまく栄養を吸収ができます。
しかし、必要がないのに抗生物質や抗菌薬を飲むと、良い細菌を殺してしまうことがあります。
そうすると、悪い細菌が増殖してしまい、結果として下痢などの副作用が出てしまうのです。
また、細菌のなかには、抗生物質・抗菌薬に負けないように作戦を立てているものもあります。
作戦が成功してしまうと、その細菌には抗生物質・抗菌薬が効かなくなってしまいます。
このように抗生物質・抗菌薬に対して耐性を持つ細菌を薬剤耐性(AMR)菌といいます。
抗生物質・抗菌薬を飲むことで、それが効かない薬剤耐性菌が増えやすい環境になってしまう可能性があります。
このように抗生物質・抗菌薬を飲むことは、薬剤耐性菌を増やしてしまうリスクがあるのです。
薬剤耐性菌を増やさないために
薬剤耐性菌を増やさないためには、「もらわない」「飲みきる」「あげない」ことが鉄則です。
必要ではないときは抗生物質・抗菌薬を「もらわない」、
もらった抗生物質・抗菌薬はきちんと「飲みきる」、
そして、もらった抗生物質・抗菌薬は人に「あげない」ことです。
もし医療機関にかかったときに、抗生物質・抗菌薬に対して疑問に思うことがあったら、ぜひ医師や薬剤師に質問してください。
そして、抗生物質・抗菌薬を適切に使うように意識しましょう。
出典
広報誌「厚生労働」 2018年9月号 特集1一人ひとりの心がけが大切 抗生物質・抗菌薬の正しい使い方(改変)
監修者情報
名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
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