年間7万人を超える虚血性心疾患による死亡者。あなたや周りの人は大丈夫?

医者さんの指導

我が国の心疾患=心臓病による死亡者数は年間21万人にのぼり、

これはがん(年間約38万人)に続き、死亡原因の第2位となっています。

 

心臓病は、狭心症や心筋梗塞、不整脈など様々なタイプに分けられ、

中でも恐ろしいのが心筋梗塞で、命を落とす可能性もあります。

 

そんな以外と身近にあるかもしれない心筋梗塞の仕組みや治療法、

薬の種類などを医師監修の本記事で詳しく理解し、

役立ててみてはいかがでしょうか。

 

監修者情報

佐藤祐造

名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

心臓病による年間死亡者数は年間約21万人 がんに次ぐ第2の死亡原因

 

わが国の心疾患=心臓病による死亡者数は年間約21万人にのぼります。

脳卒中による死亡者数(年間約12万人)を上回り、

がん(同約38万人)に次ぐ第2位の死亡原因となっています。

 

心臓病は大きく5つのタイプに分けられます。

①動脈硬化が原因となる狭心症心筋梗塞などの虚血性心疾患

②心臓の拍動が乱れる不整脈

③生まれつき心臓に問題がある心房中隔欠損症などの先天性心臓病

心筋や心臓の弁、心膜などの病気

心肥大心臓神経症などその他の病気

 

そのうち、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患によって亡くなっている方は、

心臓病による全死亡者の約3分の1、約7万人(年間)に達しています。

 

ご存じのように、心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしています。

心臓から送り出された血液は全身の各器官や組織などに

酸素と栄養を補給し続けていますが、

心臓自体も、心臓の表面を走る動脈=冠動脈に血液が送り込まれ

酸素と栄養の補給を受けています。

 

虚血性心疾患とは、この心臓の冠動脈の血液の流れが悪くなり、

酸素と栄養の不足から生じる病気です。

そのうち血管の内腔が狭くなり血流不足に陥るのが狭心症で、

血管の内腔が完全に閉塞して詰まり血流自体が止まってしまうのが心筋梗塞です。

 

心筋梗塞と狭心症

 

特に怖いのは、命を落としかねない心筋梗塞

 

虚血性心疾患の中でもとくに怖いのが心筋梗塞です。

 

冠動脈が詰まると血流が途絶え、その先に酸素と栄養が送り込めなくなります。

その結果、心筋が壊死し、心臓のポンプ機能が失われて心不全に陥ったり、

あるいは心室細動などの不整脈が起こったりして、死を招きかねないからです。

 

かつて「東京マラソン」に出場したお笑いタレントの松村邦洋さんが突然、

走っている最中に意識を失って倒れたのも、

急性心筋梗塞による心室細動が原因でした。

 

自動体外式除細動器(AED)による救命措置で一命をとりとめたものの、

危うく命を落としかねないところだったのです。

 

重要なのは、心筋梗塞が必ずしも狭心症から

進展するというわけではないことです。

 

どちらも冠動脈の動脈硬化を背景にして起こるため、

血管の狭窄=狭心症を繰り返しているうちに、

血管の閉塞=心筋梗塞に至ると考えられやすいのですが、

実際はそうではありません。

 

心筋梗塞を発症させた患者のうち、それ以前に狭心症と診断された人は、

わずか約20でしかなかったというデータ(帝京大学医学部)も

明らかにされているのです。

 

重要なのは発症後6時間以内の冠動脈の再開通

 

心筋梗塞の治療は一刻を争います。

冠動脈が完全に詰まり、その先に血液が通わなくなると、

心臓の心筋が壊死してしまうからです。

 

心筋梗塞の治療で重要なのは、一刻も早く詰まった冠動脈を再開させ、

心筋の壊死の進行を止め、それを最小限にとどめることです。

 

発症後6時間以内に冠動脈を再開通させれば、

90%以上の患者が一命をとりとめられます。

 

しかし、適切な治療が受けられず、冠動脈が閉塞したままであれば、

時間の経過とともに心筋の壊死は進行し、

1224時間のうちに完全に壊死してしまいます。

 

心筋の壊死が完成してしまうと、

もはやどのような治療を尽くしても元の心筋に戻りません。

冠動脈の再開通によって命が助かったとしても、

心筋の壊死の程度によっては心臓の機能が大きく損なわれてしまうのです。

 

血液を固まりにくくする抗血小板薬のすみやかな投与

 

心筋梗塞の治療では、薬が重要な役割を果たします。

 

まず病院へ救急搬送され心筋梗塞と診断されると、

すみやかに血液中の血小板の働きを抑えて血液を固まりにくくする

抗血小板薬のアスピリン(商品名‥バイアスピリン、バファリン等)

が処方されます。

 

冠動脈に血の塊=血栓ができるのを抑え、

再梗塞の発生率や死亡率を下げられるからです。

すみやかに効かせるために、錠剤を噛み砕いて服用するように指導されます。

 

痛みがひどいときは、

モルヒネ(同塩酸モルヒネ)が静脈から投与されます。

さらに血液を固まりにくくする抗凝固薬のヘパリンナトリウム(同ヘパリン等)

静脈から投与されます。

 

冠動脈の詰まりを解消するカテーテル治療=PCIによる再灌流療法

 

次に、冠動脈の詰まりを解消し、

血流を再開させる再灌流療法がただちに行われます。

 

心筋梗塞に対する緊急時の再灌流療法は、

カテーテル治療薬物療法の2つがあります。

 

カテーテル治療は経皮的冠動脈インターベンション(PCIといいます。

手首や肘の細い動脈から直径1〜2㎜の細い管(カテーテル)を挿入し、

その先端を心臓の冠動脈の閉塞箇所まで送りこみます。

 

そして、カテーテルの先端に取り付けた風船(バルーン)を膨らませたり、

網状の金属製の筒(ステント)で血管の内壁を押し広げたりするなどして、

血流の再開をはかります。

 

カテーテル治療によって血流が再開する確率は、95%前後にのぼります。

 

カテーテル治療

 

一方、カテーテル治療ができないときは薬物療法

血栓溶解薬のt-PAによる血栓溶解療法が行われます。

t-PA(同アクチバシン、クリアクター、ソリナーゼ等)を静脈から投与し、

冠動脈を詰まらせた血栓を溶かして血流を再開させるのです。

 

脳梗塞に対しても

4.5時間以内に投与しないと治療効果は小さいとされています。

しかし、心筋梗塞に対しては発症後12時間以内であれば、

t-PAを投与したほうがよいとされています。

 

血栓溶解療法はほとんどの病院で受けられます。

ただし、血流の再開率は約70%でカテーテル治療と比べると劣ります

 

血栓溶解療法を受けた後、

すみやかにカテーテル治療が可能な病院へ移送し、

カテーテル治療を受けるようにします。

 

血液を固まりにくくする、さらに強力な抗血小板薬を投与

 

冠動脈の詰まりが解消し、血流が回復したら、

再発予防の薬物療法を行います。

 

第1に、緊急時に服用を開始したアスピリンなどの抗血小板薬を

引き続き飲み続けることに加え、

さらに強い抗血小板作用を持つチクロピジン塩酸塩(同パナルジン等)の

服用を始めます。

カテーテル治療を受けた後は、血栓が生じやすくなるからです。

 

第2に、心筋梗塞の再発予防に役立つ

β遮断薬(同テノーミン、メインテート等)も服用します。

 

β遮断薬は高血圧に用いられる薬ですが、

心拍を遅くするなど心臓の負担を軽減する働きもあるからです。

 

ほかに、心筋への血流回復が十分でないと判断されたときは、

カルシウム拮抗薬(同アムロジン、ヘルベッサー等)

持続性硝酸薬(ニトロール等)も飲み始めます。

血管を拡張させることで血流の回復がはかれるからです。

 

さらに個々の患者に即して、

不整脈が出ていれば抗不整脈薬

脂質異常症が認められれば抗コレステロール薬などを

適宜服用することが求められます。

 

ニトログリセリンなどの即効性硝酸薬で再発を予防

 

通常、冠動脈の血流が回復した翌日から、

患者の体調を見ながら心臓機能や身体機能などを回復させる

急性期心臓リハビリテーションが開始されます。

 

入院中は少しずつ無理のないメニューを実行します。

退院後は、回復期心臓リハビリテーションに取り組んで社会復帰をはかり、

その後は維持期の心臓リハビリテーションを続けます。

 

退院後は医療機関に定期的に通院し、

再発の予防に努めることが必要です。

 

再発を予防するには、なによりも生活習慣の改善と、

抗血小板薬などの薬の服用がクルマの両輪となります。

 

抗血小板薬のアスピリンや、心筋梗塞を予防するβ遮断薬などの薬は、

忘れずにきちんと服用しなければなりません。

 

カテーテル治療を受けた後に飲む、抗血小板薬のチクロピジン塩酸塩は、

その後の経過によって服用をやめることも可能です。

 

いうまでもありませんが、

医師から処方された薬はかならずきちんと飲まなければなりません。

 

飲んだり飲まなかったりすると、

自分で勝手に判断して服用を中止すると再発を招くことになります。

 

再発に備えては、医師から即効性硝酸薬の

ニトログリセリン(同ニトログリセリン、ニトロペン等)

硝酸イソソルビド(同ニトロール等)が処方されます。

いずれも口の粘膜から直接吸収されるので、即効性に優れています。

 

再発作が起きたときに即効性硝酸薬を服用すれば、

ただちに冠動脈が広がり発作が治まります。

かならずいつも持ち歩き、常に身近に置いておくことが大切です。

 

心筋梗塞に準じた治療が不可欠な不安定狭心症

 

一方、狭心症は冠動脈の血流不足から生じる病気だから、

心筋梗塞ほど心配する必要はないと考えがちです。

 

しかし、狭心症のなかには心筋梗塞一歩手前という

非常に危険なタイプがあることも確かなのです。

 

それが不安定狭心症です。

 

狭心症を症状の様子、その違いによって分類すると、

安定狭心症不安定狭心症の2つに分けられます。

 

安定狭心症は、胸痛などの症状の出方がだいたい一定しているタイプで、

不安定狭心症症状の出方が次第に悪くなっていくタイプです。

 

なぜ不安定狭心症は、その症状の出方が悪くなっていくのか。

 

それは冠動脈の血流を低下させる血管内壁の膨らみ(粥腫)が

破れて血栓をつくり、その血栓がさらに血流を低下させる状態となっているからです。

 

そして、最終的に血管が完全に詰まると、

心筋梗塞を発症させてしまうというわけです。

 

いつ心筋梗塞に移行してもおかしくない不安定狭心症と診断されたときは、

すみやかに心筋梗塞に準じた治療を行います。

 

狭心症・心筋梗塞のチェックリスト

 

いずれにしても、

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患に対する治療は、

薬が重要な役割を果たしています。

 

医師の指示通りにきちんと薬を服用すると同時に、

発作に備えてニトログリセリンなどの即効性硝酸薬を、

身近に置いておくことが不可欠といえます。

 

 

取材・文/NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部

医療ジャーナリスト  松沢 実

mis医療機関支援機構カルナの豆知識

 

※記事/図版等の無断使用(転載)、引用は禁止といたします。


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