肩や腰の「痛みの悪循環」を抑えてくれるペインクリニックとは?

肩こり

「整形外科や整体などに行っても、
なかなか首や肩の痛みが取れない…」

「この痛みって本当に治るの…?」

 

こんな心配を抱えている方、

もしかしたら

「痛みの悪循環」が生じている可能性があります。

 

この記事では、「痛みの悪循環」を取り除く

ペインクリニックで治療できることや

慢性痛の痛みを抑える神経ブロックの治療について、

ご紹介しています。

 

慢性的な痛みを抑えられる

ペインクリニックを受診してみる

きっかけとなるかもしれません。

すでに受診されている方も再度、

痛みについて考える機会になると思います。

 

まずは、ペインクリニックとはなにかについて、

ご説明していきます。

 

ペインクリニックで駆使される痛みを和らげる神経ブロック

 

整形外科や一般内科などで治療を受けてきたものの、

「腰や足、手、肩などの
慢性的な痛みが十分に抑えられない」

と嘆く方に、とっておきの情報があります。

 

「どうせ、なにをやっても痛みはとれない」

と諦めてしまう前に、

痛み(ペイン)を専門に扱う診療科=

ペインクリニックを受診してみてください。

 

ペインクリニックでは

主に神経ブロックという方法を用いて

痛みの診断と治療を行い、

さまざまな痛みをすみやかに和らげ、

患者さんの生活の質(QOL)の改善がはかられます。

 

痛みとは

好き嫌いなど個人的な感情を介した不快な感覚で、

神経を介して脳や脊髄せきずいなどへ伝えられます。

 

痛みは急性痛と慢性痛の2つに大きく分けられます。

急性痛は

痛みが突然生じてその持続期間が短い痛み。

慢性痛は

痛みが3ヵ月以上わたって継続する痛みです。

ペインクリニックにおける神経ブロックは、

後者の慢性痛に効果をもたらす治療法です。

 

交感神経などへの刺激から発痛物質が蓄積し、さらに痛みの原因に…

 

慢性痛が厄介なのは、

そのほとんどが、痛みが痛みを呼ぶ

「痛みの悪循環」から生じていることです。

 

たとえば重い荷物を持ちあげて

ギックリ腰になったとします。

腰に激痛が走りますが、

激痛による刺激は脊髄から脳へ達すると同時に、

腰のあたりの交感神経なども刺激します。

 

交感神経などが刺激されると

筋肉や血管は緊張・収縮し、

酸素不足やさまざまな代謝産物=

発痛物質の蓄積を招きます。

 

それがまた痛みの原因となり、

痛みをいっそう増幅させる

悪循環サイクルをつくりだしてしまうのです。

そうなると慢性の腰痛に悩まされることになります。

 

腰椎

 

身体の警告信号の意味が失われる慢性痛

 

本来、痛みは

怪我や病気などが生じたときに発せられる

身体からの警告信号です。

私たちは痛みを感じることで

身体の不具合を知ることができるのです。

 

しかし、慢性痛に移行すると

警告信号の意味は失われます。

ただただ痛みが痛みを呼ぶ「痛みの悪循環」が

長期にわたって繰り返され、

日常生活を困難に陥れてしまうのです。

 

この悪循環に陥った神経の興奮伝達経路を

一時的にブロック=遮断し、

そのサイクルを断ち切ることで

痛みを解消する治療法が、

ペインクリニックで駆使される

神経ブロックにほかなりません。

 

進化を遂げ、新たな神経ブロックも普及

 

近年、神経ブロックは大きな進化を遂げ、

新たな方法も駆使されるようになりました。

 

かつては局所麻酔薬などの薬液を、

神経や神経の近くへ注射針で注入する

化学的方法のみでした。

しかし、最近は

出来るだけ神経にダメージを与えないように、

熱や電気などの物理的手段を加えて

神経の興奮伝達をブロックする新たな方法も

積極的に活用されています。

 

新たな方法の1つが

高周波熱凝固法と呼ばれる

神経ブロックのやり方です。

 

痛みを発する神経に電極針を直接当て、

電極針に高周波電流を流して

その針先に70~90℃の高熱を発生させ、

その高熱で神経を焼灼しブロックする

というのが高周波熱凝固法です。

 

もう1つの新たな方法は

パルス高周波法といわれる神経ブロックです。

痛みを発する神経の近くに

電極針の針先を挿し入れ、

42℃前後の高周波(パルス状)を流すことで

神経をブロックする方法です。

針先の温度は42℃以下に維持できるので、

神経を変性=損傷させないまま

ブロックできるのが大きな利点です。

 

パルス高周波法による神経ブロックは

他の方法と比べ、

知覚の低下や筋力低下がきたしにくいです。

加えて、疼痛とうつう改善効果も優れていることから

国際的にも高い評価を受けています。

 

痛みが生じている箇所ごとの神経ブロックが約20種類

 

一方、神経ブロックには

痛みが生じているところにより、

さまざまな名称のそれがあります。

 

指先で圧迫すると痛みが広がる箇所を

トリガーポイントと呼びます。

首や肩、腰の痛みには、

このトリガーポイントに

局所麻酔薬を注射する

トリガーポイントブロックが行われたりします。

 

また、腰痛には

脊髄を包む空間=硬膜外腔に

局所麻酔薬などを注射する

硬膜外ブロックが行われます。

 

硬膜外ブロックと仙骨ブロック

 

硬膜外ブロックが効かない腰痛や、

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄きょうさく症などで生じた

坐骨神経痛などには、

神経根(脊髄から枝分かれした

脊髄神経の根本の部分の神経)に

局所麻酔薬を注射する神経根ブロックや、

神経根などを標的とする先の高周波熱凝固法や

パルス高周波法による新たな神経ブロックも

行われます。

 

神経根ブロック

 

ほかに首の痛みや肩こりには

星状神経節ブロック、

肩や腕の痛みには

腕神経そうブロック、

帯状疱疹後神経痛などによる顔面の痛みには

三叉さんさ神経ブロックなど、

現在、約20種類程度の神経ブロックが行われています。

 

中でも腕神経叢ブロックや神経根ブロック、

高周波熱凝固法やパルス高周波法による

神経ブロックなどは、

X線や超音波による透視画像を活用し、

針先を正確に確認しながら安全に行われています。

 

神経ブロックから発展した新たな低侵襲治療法

 

最近、整形外科の分野などから

大きな注目を浴びているのが、

神経ブロックから発展した新たな2つの治療法です。

 

1つは椎間板ヘルニアによる

神経根や脊髄神経への圧迫から生じる腰の痛みに、

椎間板ヘルニアやその出っ張り部分などのボリュームを

縮小させて痛みを除く治療法です。

 

X線の透視画像を見ながら

電極を椎間板ヘルニアのところまで挿入し、

ラジオ波(高周波電流の一種)で電極を加熱させて

そのボリュームを縮小させます。

変性した椎間板の中へ神経が延びて

椎間板性腰痛を起こしている場合も、

電極の加熱により神経をブロックすることから

きわめて有効な治療法とされています。

 

極細特殊カテーテルを挿入 ラッツカテーテル法

 

もう1つは

ラッツカテーテル法とも呼ばれる

硬膜外癒着剥離ゆちゃくはくり神経形成術です。

腰痛による炎症は神経とその周囲組織を癒着させ、

発痛物質の滞留や神経への刺激などを招いて

痛みを増幅させます。

硬膜外癒着剥離神経形成術は

この癒着を剥がして痛みを和らげる治療法です。

 

X線透視画像を見ながら

ラッツカテーテルという

極細の非常に軟らかい特殊カテーテルを

癒着箇所へ挿し入れ、

濃度の高い食塩水を注入し、

神経の腫れをとって癒着を剥離します。

 

ラッツカテーテル

 

2018年4月から健康保険も適用されるようになり、

より多くの患者さんに福音をもたらしています。

 

2つの治療法はいずれも

椎間板ヘルニアによる腰下肢ようかし痛や、

脊柱管狭窄症による坐骨神経痛などが対象となります。

 

構造上の大きな変更をもたらす本格的手術の前のワンクッション手術

 

なぜこの2つの新たな治療法が

注目されているのでしょうか。

 

整形外科における大きな本格的手術を受ける前の

ワンクッション手術として活用できるからです。

 

たとえば

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の本格的手術は、

腰骨やその周囲の筋肉、神経など腰の構造に

大きな変更が加えられます。

一旦それで腰痛が解消されたとしても、

手術による構造上の変更などで脆弱性がもたらされ、

加齢変化などが加わって

再発するケースも稀ではありません。

 

本格的手術による構造上の大きな変更は、

避けられるものならば避けたほうが無難といえます。

本来の身体の構造などを可能な限り残し、

出来るだけ大きな手術は

後回しにしたほうがよいのです。

 

実際、先の新たな治療法を

ワンクッション手術として受けて

慢性腰痛が解消し、

整形外科における本格的手術が避けられた

患者さんも出てきているのです。

 

機能の改善より、まず痛みをとるのが主眼

 

ところで、整形外科とペインクリニックは

どちらも痛みを扱う診療科ですが、

どこがどのように違うのでしょうか。

 

簡単にいうと整形外科の治療は

手術やリハビリテーション、

薬などを用いて機能の改善をはかることに

主眼が置かれています。

 

たとえば膝が曲がらなくなったら、

人工関節の膝にしてよく曲がるようにします。

腕が上がらなくなったら、手術をして腕が上がるように

機能を改善するという具合です。

 

一方、ペインクリニックでは

まず異常な興奮伝導など神経の機能を改善し、

痛みなどの症状の改善をはかっていくことに

主眼が置かれます。

 

すなわち痛みをまず取り去り、

患者さんが治療に取り組めるようにします。

そのうえで姿勢や身体の動かし方、

生活スタイルなどの修正や

運動などで痛みが再発しないように努める、

というのがペインクリニックにおける治療なのです。

 

3種類の性質に大きく分けられる慢性痛の痛み

 

痛みはそのメカニズムから

①侵害受容性疼痛と②神経障害性疼痛、③心因性疼痛

の3つに大きく分けられます。

 

侵害受容性疼痛は

神経系の先端部分=受容器の近くで炎症が起こり、

熱や腫れなどから生じる痛みです。

神経系が壊れていない痛みである

という点に特徴があります。

 

一方、坐骨神経痛や帯状疱疹など

神経がさまざまな理由から傷つき、

それが壊れて生じる痛みを

神経障害性疼痛といいます。

 

さらにそのどちらにもあてはまらず、

どこも悪くないのに

頭で痛みを覚える場合があります。

このような痛みを心因性疼痛と呼びます。

 

時々の痛みの性質を見極め、適切な治療を実施

 

腰痛や首の痛み、肩こりなどの慢性痛の患者さんは、

この3つの痛みが合わさった状態になっている方が

ほとんどです。

加えて、この3つの痛みの割合は

患者さんによって異なり、経過によって

その割合も変化することがわかってきました。

 

つまり、最初は消炎鎮痛剤が効く

侵害受容性疼痛が主体の痛みだったのに、

痛みが長く続くうちに

さまざまな増幅因子が加わってきます。

しかも神経へのダメージが強まって

神経障害性疼痛が拡大し、

最後は精神的に鬱々として

心因性疼痛も増強していきます。

 

ペインクリニックでは

そうした変化をきちんと見極め、

適切に治療ができるからこそ、

さまざまな痛みを和らげ解消できるのです。

 

ペインクリニックは慢性痛のオーダーメイド医療

 

ペインクリニックにおける診断と治療の主体は

先の神経ブロックです。

 

ただし、個々の患者さんの置かれた

社会的立場なども見据え、

メンタル面も含めて総合的に診断し、

運動療法などをはじめとする

さまざまな治療を組み合わせた

オーダーメイドの医療が、

ペインクリニックで行われているのです。

 

なによりもペインクリニックは

神経ブロックで痛みをすみやかにとれるのが

もっとも大きな特長です。

もちろん、慢性の痛みは一直線に完治といきません。

 

しかし、神経ブロックで

痛みのベースが引き下げられれば、

よりたやすく身体を動かせるようになります。

身体を動かせるようになれば

筋力やバランス力などが改善し、

痛みを招かないような姿勢や

身体の動かし方などができるようになります。

 

「痛みを人生の一部として受け容れ、これに適応する」

これは世界的に有名な

米国メイヨー・クリニックが掲げる標語です。

 

自らが受け容れられるくらいまで痛みを減らし、

そのうえで痛みを人生の伴侶とする。

痛みがあるにもかかわらず

充実した楽しい人生をめざすということです。

 

ペインクリニックは

そのための最強の支援者にほかなりません。

 

 

取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部

医療ジャーナリスト 松沢 実

カルナの豆知識①-ロゴカルナの豆知識②-ロゴ

※記事/図版等の無断使用(転載)、引用は禁止といたします。

 


ヘルス × ライフ
健診結果、歩数、体重などあらゆる生活データを
管理できるアプリ。

健康に関するコラムを読めたり、
健診結果のAI予測もできます。

日々の健康管理を始めてみませんか?