後編では、少し難しいですが、発がん寄与率第二位の「感染」などについて説明します。
日本人のがんの原因の20%を占める感染、どんなものが影響しているのでしょうか?
監修者情報 名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
身体活動
運動は、結腸がんのリスクを確実に下げ、閉経後の乳がんと子宮体がんのリスクを下げる可能性があることが報告されています。
この理由としては、肥満の解消、血糖を下げるホルモンであるインスリンの働きの改善(インスリン抵抗性の改善)、免疫機能の増強、脂質の吸収などを調節する胆汁酸の代謝への影響などがあると考えられています。
体格
体格の影響で、以下のリスクが「確実」に上がると報告されています。
①肥満・・・食道・膵臓・肝臓・大腸・乳房(閉経後)・子宮体部・腎臓のがん
②成人後の体重増加・・・乳房(閉経後)のがん
③高身長・・・大腸・乳房・卵巣のがん
肥満が発がんに及ぼすメカニズムは多様であると考えられますが、脂肪組織中からエストロゲン(女性ホルモンの一種)が産生されることで、子宮体がんや閉経後乳がんのリスクを上げると考えられます。
また、肥満に伴ってインスリンが十分に働かなくなり、インスリンが過剰に分泌されてしまう高インスリン血症が起きたり、細胞の増殖・分化を促進するインスリン様増殖因子が、持続的に増加したりすることで、結腸がんなどのリスクを上げると考えられます。
一方で、日本人などのアジア人を対象とした研究結果からは、やせすぎによってがんのリスクが上がることが報告されています。
これは、栄養不足に伴う免疫機能の低下や、抗酸化物質の不足などによるものと推察されます。
感染
感染は、日本人のがんの原因の約20%を占めると推計されます。
感染の内容として、日本人では、B型やC型の肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)による胃がんなどがその大半を占めます。
他には、エプスタインバーウイルス(EBV)による悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-1)による成人T細胞白血病/リンパ腫などがあります。
感染による発がんのメカニズムは、ヒトパピローマウイルスのように、感染体が作り出すがん原性タンパク質による直接的な作用や、慢性の炎症に伴う細胞の壊死(えし)と再生による間接的な作用などが報告されています。
化学物質
ある種の職業や職業的に多く暴露する化学物質は、ヒトの発がんリスクを上げることが知られています。
国際がん研究機関により、発がん性がある(group 1)と分類されたものだけでも120種類の化学物質や職業がリストされています。
関連する臓器としては、肺が最も多くなっていますが、化学物質が直接接触する皮膚、吸入の経路である鼻腔・喉頭・肺・胸膜、そして排泄される尿路などにも多いのが特徴です。
先進国では、職場環境が改善され、発がんの可能性のある化学物質の使用の禁止や、暴露の制限がされています。
しかし、発展途上国においては、そのような対応が十分ではないため、今後も問題となる可能性があります。
生殖要因とホルモン
エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲンなどの性ステロイドホルモンが、乳房、子宮体部、卵巣、前立腺におけるがんの発症に重要な役割を果たしていると考えられています。
また、ホルモン剤や抗ホルモン剤は、一部のがんのリスクを上げる一方、他の部位のがんのリスクを下げることがわかっています。
以下に、がんのリスクを確実に上げるもしくは、下げるホルモン剤のうち、主なものを記します。
① がんのリスクを上げるもの
エストロゲン療法(閉経後:子宮体がん・卵巣がん・乳がん)
エストロゲン・プロゲストーゲン合剤の経口避妊薬(肝がん、乳がん、子宮頸がん)
エストロゲン・プロゲストーゲン合剤療法(閉経後:乳がん、子宮体がん)
抗エストロゲン薬として乳がんの治療に用いられているタモキシフェン(子宮体がん)
② がんのリスクを下げるもの
タモキシフェンの予防的投与(乳がん)
「感染」以外は日頃の生活習慣に関わるものです。
実際に、「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの生活習慣を実践することで、がんになるリスクがほぼ半減することがわかってきました。
また、感染についてもいずれの場合も、感染したら必ずがんになるわけではありません。
それぞれの感染の状況に応じて対応をすることで、がんを防ぐことにつながります。
まずは、心配なことは、医療機関、がん相談支援センターなどに相談しましょう。
出典
国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方向けサイト がんの発生要因
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