我が国では約1000万人程度が糖尿病に罹患していると推定されており、
糖尿病は生活習慣病の代表例と考えられている注意すべき病気のひとつです。
糖尿病の病状が末期まで進行すると、最悪のケースでは失明、人工透析、足の切断など
日常生活に極めて大きな支障をきたす状態に陥るので糖尿病に対する治療薬を知っておくことは非常に重要です。
糖尿病の薬には様々な種類があり、それぞれの薬剤で異なった特徴を持っています。
血糖値を下げる薬には、基本的には経口薬と呼ばれる飲み薬とインスリン、インスリン分泌に関連する注射薬が存在しています。
糖尿病の状態や原因に応じて一種類の薬で薬物療法を実施することもあれば、
いくつかの経口血糖降下薬を組み合わせて治療することもあります。
今回は、糖尿病に本当に効果的な薬はあるのか、
そして現在多く処方されている薬剤の効能やランキングなどを解説していきます。
監修者情報 名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
糖尿病と血糖値について
糖尿病は現代の疫病ともいわれ、糖尿病予備軍まで含めると全人口の約3割程度が発症していると考えられています。
血糖値の大切さ
糖尿病は体内のインスリンと呼ばれる血糖を一定の範囲におさめる働きを担っているホルモンが
十分に働かずに血中に存在するブドウ糖が増加する(高血糖)状態を指しており、
わが国では糖尿病患者さんの約9割以上が2型糖尿病と言われています。
主に、過食(高脂肪食)・運動不足・ストレス、その結果としての肥満など日々の生活習慣の不規則性が原因となって
インスリンが相対的に効きにくくなることでブドウ糖が細胞に十分に取り込まれず、
さらに糖質成分の取り過ぎや顕著な運動不足が続くとインスリンの抵抗性が増して徐々に血糖値が上昇します。
血糖値が高い状態が続くと、血液中に多量に存在するブドウ糖が血管の壁を傷つけて血管障害が進行することで、
網膜症や腎症、そして末梢神経障害など糖尿病の三大合併症を引き起こすことが広く知られています。
血糖値を下げる仕組み
糖尿病の患者さんでは、インスリンが十分量分泌されない分泌不足の状態、
あるいはインスリンが十分に効かなくなってくるインスリン抵抗性に陥ることで血糖値が高くなることが知られています。
一般的に、1型糖尿病はインスリン分泌不足によって血糖値が上昇しますので、インスリンの分泌を促進する薬は使用できず、
注射製剤によってインスリン補充する治療を実施することで血糖値を下げるようにします。
また、2型糖尿病ではインスリン分泌不足とインスリン抵抗性の2つの要素が原因となって血糖値が高値になるため、
前者の場合にはインスリン分泌促進薬やインスリン補充注射、
後者の場合にはインスリンを効きやすくする薬剤を処方して血糖値を下げるようにします。
糖尿病薬の分類
糖尿病薬は使用方法によって、飲み薬と注射薬に分けられます。
注射薬
糖尿病に対してインスリン注射薬を用いる対象としては、
経口薬の効果が認めにくい2型糖尿病、
インスリン分泌量がもともと低下している1型糖尿病、
または血糖値を下げる経口薬を使用できない妊婦さんなどが挙げられます。
インスリン注射薬は、作用する時間や機序の違いによって大きく5種類に分類されており、
個々の患者様の糖尿病の重症度、合併症の有無、生活習慣などを見極めて最も適切なインスリン製剤を選択します。
1つ目は超速効型インスリン製剤であり、
これは健常人の食後インスリン分泌パターンを再現して製造されたインスリン製剤で食直前に自己注射するタイプです。
2つ目は速効型インスリン製剤であり、
このタイプも生理的なインスリン追加分泌パターンに近づくように製造されており、
食前に自己注射して注射後に作用が発現するまでには30分程度かかると言われています。
3つ目は中間型インスリン製剤であり、
これは健常人の生理的なインスリン基礎分泌を補助する目的で持続的にインスリン作用を発揮するように製造された製剤です。
4つ目は混合型インスリン製剤であり、
これまでの超速効型、あるいは速効型インスリンと中間型インスリンを様々な割合で混合したインスリン製剤です。
5つ目は持続効果(持効)型溶解インスリン製剤であり、
健常人の生理的なインスリン基礎分泌能を補うことを目的に製造され、
およそ24時間に渡って一日中の血糖値を全体的に下げる役割を有しています。
飲み薬
日本人の糖尿病の大多数を占める2型糖尿病は食事療法と運動療法が治療の基本です1)が、
それだけでは思うように高血糖を改善できないときには薬物療法を始めることになり、
多くの患者さんでは初期段階では経口の飲み薬を服用することが多いです。
糖尿病の飲み薬は基本的には作用機序の観点から大きく3つに分類することができます。
一つ目としては、インスリンを分泌しやすくする薬で、
膵臓に直接的に働きかけてインスリンを分泌させてインスリンの分泌低下を補助する薬効を持つタイプです。
具体的には、スルホニル尿素薬(商品名:オイグルコン、アマリール、グリミクロン)、
速効型インスリン分泌促進薬(商品名:ファスティック、グルファスト、シュアポスト)、
DPP-4阻害薬(商品名:ジャヌビア、エクア、ネシーナ、テネリア、スイミー、トラゼンタ、オングリザ)などが挙げられます。
二つ目は、インスリン抵抗性を改善する作用を有するタイプであり、
ビグアナイド薬(商品名:メトグルコ)、
あるいはチアゾリジン薬(商品名:アクトス)などが代表例となります。
三つ目は、糖分の吸収を体内で調節する機序を有しており、
食べ物を摂取後に糖分の吸収を緩徐にして急激な血糖上昇を抑制する効果が期待されるタイプであり、
具体的にはα–グルコシダーゼ阻害薬(商品名:グルコバイ、ベイスン、セイブル)が知られています。
糖尿病薬の効果・働き
では、糖尿病薬の効果と副作用について見ていきましょう。
糖尿病薬の効果
血糖値を下げる作用を有する糖尿病薬には、使用方法で分類すると飲み薬と注射薬の2パターンがありますが、
効果や働きといった観点からは4種類に分けることが可能です。
インスリン分泌不足が背景にあってインスリンを補充する際には、
インスリン製剤と呼ばれる注射薬、あるいはスルホニル尿素薬、
速効型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬などインスリンを分泌しやすくする薬を用います。
一方で、インスリン抵抗性を認める場合には
飲み薬のビグアナイド薬とチアゾリジン薬を始めとするインスリン自体を効きやすくする薬を処方されます。
また、糖尿病薬の効果としてインスリンを補充する、インスリンを分泌しやすくする、インスリン自体を効きやすくする以外に
糖そのものの吸収を調整できる薬も開発されており、代表的な飲み薬としてα—グルコシダーゼ阻害薬が挙げられます。
このように、血糖値を下げる働きを有する治療薬にはいくつかの種類の飲み薬や注射薬が存在し、
個々の患者さんの状態に適した薬剤のタイプや投与量をかかりつけ医とよく相談して決定していくことになります。
また、この他にも、後に述べます新しいお薬が開発されています。
糖尿病薬の副作用
糖尿病薬の副作用に関しては、薬の種類や量によって様々ですが最も多く経験されるのが低血糖であり、
この状態になると冷や汗を自覚する、あるいは重篤な意識障害などを認めるケースもあります。
したがって、血糖値を下げる効果を有する糖尿病薬を使用する場合には副作用として低血糖になる可能性を考慮して、
ブドウ糖を用意するなど(粉末、錠剤)いざという時の緊急時の対応ができるように普段から心がけておく必要があります。
そして、独断で勝手に薬の量を増減することのないように、また飲み忘れもしないように心がけて、
主治医や担当医の指示を適切に遵守することが重要な観点となります。
また、長年に渡り糖尿病薬を服用している場合には、時に二次無効と呼ばれる現象を認めることがあり、
薬の効果が徐々に薄れてくることがありますので、
十分に治療を実践しているにもかかわらず血糖値のコントロールが改善しない際には医療機関に相談しましょう。
市販の糖尿病薬は信頼できるの?
現在、市販に売られている糖尿病薬としてはボグリボース(販売名:ベイスン)、
あるいは「アカルボース(販売名:グルコバイ)」が挙げられます。
この両者の薬剤については、臨床的に安全性が確認され、単独使用によって低血糖のリスクが低い、
また薬の副作用も軽いことなどからセルフメディケーションによって
糖尿病に関連する症状発現や病状進展を予防できると考えられています。
一般的には、定期健診で耐糖能異常を指摘された方、あるいは糖尿病の前段階の状態にある人、
自覚症状の乏しい2型糖尿病の境界型の場合などにおいて、
市販の糖尿病薬は食後高血糖を改善するのに一定の効果が期待されている現状があります。
ただし、適切に販売して市販薬を服用した人に関する服用後の症状把握や副作用の早期発見などを中心とした対策を練る必要性も同時に考慮されており、
実際にそうした対処に関する販売実践ガイドの普及が重要であることも検討されています。
おすすめの糖尿病薬
市販の糖尿病薬を紹介しましたが、処方薬について知りたい方がいらっしゃると思います。
糖尿病の処方薬はGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬をおすすめします。
GLP-1受容体作動薬
近年になって、糖尿病に対する処方薬剤としての人気ランキングが
急上昇して注目されている新薬として「GLP-1受容体作動薬」が挙げられます。
このGLP-1とは元来我々の体内に存在しているホルモンであり、
血糖値を下げる役割を有しており、GLP-1受容体作動薬はこのGLP-1を補う糖尿病薬です。
空腹時には働かずに食事を摂取後に血糖値が高くなったときに作用する機序を有しているために
通常の糖尿病薬に比べて低血糖症状を引き起こしにくいと言われています。
さらに、通常では血糖値を下げる血糖降下薬を使用すると体重増加することが時に認められますが、
このGLP-1受容体作動薬では体重が増加しにくいという観点からも期待されています。
注射製剤(商品名:ピワトーザ、バイエッタ、リキスミア)と経口薬(商品名:リベルサス)があります。
SGLT2阻害薬
目下のところ、糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬が
心不全や腎臓病に対する有効性を示すと同時に心臓と腎臓双方に対する臓器保護作用を有する薬剤として特に注目されており、
糖尿病治療に新たな展開が訪れています。
SGLT2阻害薬は、他の糖尿病薬とは異なって、
腎臓の近位尿細管で糖を再吸収する役割を担うSGLT2(正式名:ナトリウム・グルコース共役輸送体2)の働きを阻害して
余分な糖を尿と一緒に体外に排出させることで血糖値を下げる効果を狙った薬剤です。
本剤は2015年頃から心血管系や腎臓の疾患イベントを抑制できるというエビデンスが
次々に発表されてから血糖降下のみならず多面的な臓器保護作用が注目され、
インスリン分泌に依存しない作用機序を有するために低血糖の恐れも少ないというメリットがあります。
現在我が国では、商品名で、スーグラ、フォシーガ、ルセフィ、
アップルウェイ、デヘルザ、カナグル、ジャディアンスが使用されています。
まとめ
糖尿病に効果的な薬や処方薬剤のランキングを中心に解説してきました。
糖尿病治療においては食事療法と運動療法が基本となりますが、
ほとんどの患者さんではこれらの治療だけでは十分に血糖値のコントロールが制御できずに薬物療法に依存することが多くなります。
糖尿病を抱えた患者様ひとりひとりの状態に応じて色々な薬物療法を実践して治療に当たることが重要ですし、
特に近年糖尿病に対する処方薬剤として人気ランキングが急上昇しているGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬にはそれぞれ有用なメリットが存在します。
したがって、これらの薬剤も適宜組み合わせて糖尿病を治療できるように、
専門医やかかりつけ医に早期にかつ確実に相談するよう心がけましょう。
ドクターがすすめる日々の健康管理法。
健康管理アプリ「ヘルス×ライフ」を上手く活用しましょう。
【出典】