現代はストレス社会と言われており、仕事や家庭など、
何らかの精神的ストレスを抱える人が非常に増えています。
精神的なストレスはいろいろな病気と関係があると言われており、糖尿病もその一つです。
今回は、最近血糖値が高いと心配されている方に向けて、ストレスと血糖値、
そしてストレスと糖尿病が関係あるかどうか、ストレスが解消したら糖尿病も改善するのかなど、
ストレスと糖尿病の関係についてわかりやすくまとめました。
監修者情報 名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
ストレスと血糖値の関係
精神的なストレスがかかると、血糖値は上がりやすくなります。
この理由は、大きく2つに分けられます。
1つはストレスがかかるとそれを解消するために飲酒や喫煙、
暴飲暴食などの悪い生活習慣が身に付いてしまうことです。
もう1つはストレスによって血糖値を上げるホルモンが分泌されることです。
ストレスによる悪い生活習慣で血糖値が上昇
精神的なストレスがかかると、人はストレスを解消するための行動を取ります。
ストレス解消の方法として過食や過度の飲酒に走る人は意外と多く、
これらの行動を続けているうちに血糖値が上昇してしまいます。
また、イライラするとついタバコに手が伸びるという方もいらっしゃるかもしれません。
タバコを吸う人は糖尿病にかかりやすいこと、その中でもタバコの本数が多ければ多いほど
糖尿病にかかる確率が上がることがわかっています。
タバコを吸うと、交感神経が刺激されて血糖値が上がりやすくなるほか、
血糖を下げる働きのあるホルモン(インスリン)の効きが悪くなる(=インスリン抵抗性が上がる)のです。
ストレスで血糖値を上げるホルモンが分泌
精神的なストレスによって、身体の中のホルモンバランスが崩れます。
ストレスを感じると、血糖値を上げる働きを持つホルモン(コルチゾールやアドレナリン)の分泌量が増えます。
また、それとともにインスリン抵抗性が上がりインスリンの効きがさらに悪くなるのです。
ストレスだけで糖尿病になることはあるのか
ストレスだけで糖尿病になるかどうかについては、
身体や環境の条件をピッタリ揃えて比較をすることが困難なため、はっきりとした見解はありません。
ただし2014年に発表された論文では、欧州で12万人を対象に行われた観察研究の結果、
仕事上のストレスが高い人の方が2型糖尿病になりやすいこと、
また仕事のストレスによる2型糖尿病のなりやすさは、肥満や運動不足など、
生活習慣とは独立した要素であることが示されました3)。
糖尿病患者とストレス
精神的なストレスは、すでに糖尿病と診断されて治療を始めている人にとっても大きな問題となります。
ストレスによって血糖値が下がりにくい状況が続くと、どんどん病状が悪化します。
またストレスにさらされることが多い糖尿病患者さんは、
糖尿病のない方と比べてうつ病になりやすいという研究結果が複数報告されています。
糖尿病になってしまった後でも、ストレスに対して対策することはとても大切なことなのです。
糖尿病患者にとってストレスとなること
糖尿病患者さんには、ストレスとなることがたくさんあります。
代表的なものとしては食事制限など生活の制限によるストレス、
インスリン注射をはじめとした治療そのものによるストレス、
血糖がなかなか下がらないことによるストレス、そして合併症や死の恐怖によるストレスなどがあります。
食事制限など生活の制限によるストレス
糖尿病と診断されると、ほぼ全員が何らかの食事制限や運動指導、禁煙指導といった生活指導を受けます。
これまで食べたいもの・飲みたいものを好きなときに好きなだけ飲み食いしていた人にとって、
食事制限は非常に大きなストレスとなることが多いです。
また、全く運動習慣がない方にとって、
運動をしなければならないというのもストレスのもととなることがあります。
禁煙は糖尿病の治療にとって非常に重要なことですが、禁煙自体が大きなストレスを伴います。
インスリン注射をはじめとした治療そのものによるストレス
また、治療自体もストレスのもととなることがあります。
特に内服薬が増えてしまった時、インスリン療法を開始する時などは、
非常に大きなストレスがかかります。
血糖値がなかなか下がらないことによるストレス
さらに、いろいろなストレスに耐えて食事制限や治療を頑張っても、
血糖値が必ず下がるとは限りません。
血糖のコントロールが良くならないと、それ自体もストレスの原因となります。
「こんなに色々我慢して治療を受けているのに良くならない」というのは、
耐え難いレベルのストレスとなることもままあります。
合併症や死の恐怖によるストレス
糖尿病の恐ろしいところは、合併症が多いことです。
最も代表的なのは、糖尿病の3大合併症とも呼ばれる糖尿病性腎症・糖尿病網膜症・糖尿病性神経障害です。
糖尿病性腎症がひどくなると尿が出なくなり、血液透析をしなければなりません。
糖尿病網膜症を放置すると、失明の恐れがあります。
糖尿病性神経障害は、最もよく起こる合併症の一つです。
足の痺れや痛み、感覚異常などの他、痛みを感じにくくなることも多いです。
このほか心血管系の異常を起こすことも多く、心筋梗塞や下肢の動脈閉塞による足切断など、
命に関わる合併症も少なくありません。
糖尿病患者さんは、一生これらの合併症の危険性を感じながら生活することとなり、
このことも大きなストレスの一因となります。
ストレスによって合併症のリスクが上昇する
糖尿病患者さんにストレスがかかると、糖尿病ではない人と同じように血糖値が下がりにくくなります。
血糖値が下がらない、つまり糖尿病のコントロールが悪くなることで、
合併症のリスクが上昇すると言われています。
ストレスが改善すると糖尿病も改善するのか?
ストレスが改善すると、糖尿病が改善する可能性はあります。
上で述べたように、ストレスがかかることで血糖値が上がりやすい状況となるからです。
また、ストレスによる暴飲暴食などを防ぐためにも、ストレスを改善させることは非常に大切なことです。
ただし糖尿病はストレスだけが原因ではありませんので、
ストレス改善だけで糖尿病を完治させることは極めて困難です。
患者側にできることとしては、
自分のストレス状態を把握することです。
ヘルス×ライフは無料でストレスチェックを受診できますので、
お試しになりませんか。
また、ストレスのセルフケアをもっと知りたい方は、こちらの記事をお薦めします。
糖尿病の治療
糖尿病の基本的な治療は、
①食事療法 ②運動療法 ③薬物療法の3つです。
食事療法
食事療法の基本は、目標体重と年齢、活動量に合わせたカロリー制限と規則正しい食事です。
初めは自分で考えるのが難しいと思いますので、栄養士の指導を受けるのがおすすめです。
目安の総エネルギー摂取量(kcal)は、「目標体重×エネルギー係数」です。
引用元 6)糖尿病標準診療マニュアル2022
運動療法
膵臓のランゲルハンス島からインスリンが分泌されない1型糖尿病の方を除き、
運動も血糖値の安定にはとても有効な方法です。
具体的には、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)の組み合わせをおすすめします。
有酸素運動としては、手軽にできるウォーキングから始めると良いでしょう。
1回15〜30分間、1日2回、週3日以上(週150分)が目安となります。
これに加えて腹筋、スクワット、腕立て伏せなど、
主要な筋肉群を加えた8〜10種類のレジスタンス運動を1セット10〜15回から行うと良いでしょう。
ただし血糖値が高すぎる(空腹時血糖値が250mg/dl以上)、
眼底出血があるなど、運動をしない方が良い場合もありますので、
実際にどのくらいの運動なら安全にできそうかを主治医の先生と話し合いましょう。
薬物療法
糖尿病の薬物療法には、内服薬療法(飲み薬)と注射療法があります。
ストレスや生活習慣などから生じる2型糖尿病の場合は、まず飲み薬から始めるのが一般的です。
ここ10年ほどで、糖尿病の薬は大きく進歩しており、低血糖を起こしにくい薬も出てきました。
1日1回飲むだけで良い薬もたくさんあるため、自分のライフスタイルに合った薬を処方してもらいましょう。
まとめ
以上、糖尿病とストレスの深い関係について、また糖尿病の治療についてわかりやすくまとめました。
精神的なストレスは、血糖値の上昇や糖尿病の発症に大きく関わることがよくあります。
食べ物やお酒、タバコ以外にストレスを解消できる方法を見つけ、
ストレスを溜め込みすぎないように気をつけましょう。
【出典】
3)糖尿病トライアルデータベース Nyberg ST, et al. ★★☆
Job strain as a risk factor for type 2 diabetes: a pooled analysis of 124,808 men and women
4)糖尿病ネットワーク 仕事のストレスが糖尿病リスクを45%上昇させる ストレス対処が必要
5)糖尿病ネットワーク 34. 糖尿病とストレス うつとの関連、QOLの障害
8)OMRON Q 糖尿病とこころの病気には関連があると聞きました。なぜでしょうか。