新しい感染症の流行が懸念される中、この冬に向けてインフルエンザワクチンの需要が高まる可能性があります。
そこで今回はインフルエンザワクチンについてのお話です。
季節性インフルエンザと新型インフルエンザの違いを詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
ふつうの風邪とインフルエンザの違いについてはこちらの記事でご紹介します。
監修者情報
名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
季節性インフルエンザワクチンの働き
インフルエンザにかかる時は、インフルエンザウイルスが口や鼻あるいは眼の粘膜から体の中に入ってくることから始まります。
体の中に入ったウイルスは次に細胞に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいますが、ワクチンはこれを完全に抑える働きはありません。
ウイルスが増えると、数日の潜伏期間を経て、発熱やのどの痛み等のインフルエンザの症状が出現します。この状態を「発病」といいます。
インフルエンザワクチンには、この「発病」を抑える効果が一定程度認められていますが、麻しんや風しんワクチンで認められているような高い発病予防効果を期待することはできません。
発病後、多くの方は1週間程度で回復しますが、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、入院治療を必要とする方や死亡される方もいます。
これをインフルエンザの「重症化」といいます。
特に基礎疾患のある方や高齢の方では重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、「重症化」を予防することです。
2020/2021季節性インフルエンザワクチンはこれだ
厚生労働省の発表では、2020年は過去5年で最大量(最大約6300万人分)のワクチンを供給予定となっています。
今年のインフルエンザHAワクチン製造株は4月にすでに決まっていて
A 型株
A/広東-茂南/SWL 1536 /2019(CNIC-1909)(H1N1)
A/香港/2671/2019(NIB-121)(H3N2)
B 型株
B/プーケット/3073/2013(山形系統)
B/ビクトリア/705/2018(BVR-11)(ビクトリア系統)
こちらは、厚生労働省が主催するワクチン株検討会議で決定されます。
現在国内で広く用いられているインフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスA型株(H1N1株とH3N2株の2種類)及びB型株(山形系統株とビクトリア系統株の2種類)のそれぞれを培養して製造されているため、「4価ワクチン」と呼ばれています。
ワクチンが決まるまで
ワクチンの最終決定は、厚生労働省が専門家、国立感染症研究所と開催するワクチン株検討会議で決定されますが、基本的な考え方は次のようになっています。
「製造株の選定にあたっては、原則として世界保健機関(WHO)が推奨する株の中から、
- 期待される有効性
- ワクチンの供給可能量
を踏まえた上で、双方を考慮した有益性(4種類の製造株に係る有益性の総和)が最大となるよう検討を行う。」
となっています。
WHOが推奨するものであって、「効果がありそう」であり、「たくさん製造できる」ものに決定されるようです。
2020年は、WHOの推奨については、例年並みの2020年2月28日に公表されましたが、4株のうち3株が2018/19シーズンから変更となり、さらにそのうちA型の H1N1とA型のH3N2は新規のワクチン株でした。
今まで製造していなかったワクチン株であり、国内で大量生産できるかどうかを確認する必要がありました。
そのため、国内での製造可能量や製造効率を確認し最終的に4価ワクチンを4月に決定しました。
昨シーズンの季節性インフルエンザ
国立感染症研究所が季節性インフルエンザワクチンの製造候補株を決めた理由は、昨シーズンのインフルエンザの流行分析結果に基づいています。
つまり実績をもとに分析し、推奨しているものです。
昨シーズンの季節性インフルエンザは、沖縄県を始め、例年の同時期と比較すると A(H1N1)pdm09 の大きな流行が確認されています。
どれくらい大きいかというと、
- 流行したウイルスの A型の亜型・B 型の系統の比率は、シーズン当初から A(H1N1)pdm09 が主流であり、2020 年 7 週までに A(H1N1)pdm09 が約 93%。
(国立感染症研究所:2020/21 シーズン向け季節性インフルエンザワクチン製造候補株の検討について)
とあるようにほとんどがA型の(H1N1)型であったことがわかります。
このことから、国立感染症研究所は
今年の季節性インフルエンザもA型の(H1N1)型が主流ではないかとみているわけです。
季節性インフルエンザワクチンの製造
インフルエンザワクチンを製造するには、ニワトリの有精卵が必要です。有精卵の確保に6か月以上が必要とされています。それは、
- 生後6~12か月のニワトリの親鳥が生んだ
- 産卵後10日~12日孵卵させた有精卵が必要になるためです。
この時点でワクチン製造は前年度からスタートしているといえます。
そして、私たちが予防接種として季節性インフルエンザワクチンを接種できるようになるまでにはさらに6か月ほどかかります。
まず、孵卵させた有精卵に製造用ウイルス株を接種し、ワクチン原液を製造します。
これを鶏卵培養といいます。
必要な量のウイルスができるまでに約4か月かかります。
できたウイルスを卵から採取し、精製という工程を経てワクチン原液が出来上がります。
さらに、ワクチン原液を薄めて、添加剤を投入しバイアルやシリンジに詰め替えます。
これで、私たちが目にする季節性インフルエンザワクチンの形が出来上がりました。
さらに、国家検定に合格すると季節性インフルエンザワクチンのラベルが貼付され、箱詰め包装され医療機関などに運搬されます。
原液を製品化して供給開始まで1ヶ月以上かかります。
今年の予定では、9月下旬から販売開始となっています。
(厚生労働省 2020/21シーズン向けインフルエンザワクチンの製造株について資料1より)
こうしてできたワクチンが私たちに接種されるのです。
今年は、WHOの推奨が変更になったこと、その後の製造確認にも時間を要したことがあり、インフルエンザシーズンまでにワクチン製造が間に合うかどうか少し心配な点はありましたが、厚生労働省からは、昨年同様のスケジュールでインフルエンザのお知らせが通達されちょっと安心しています。
2020年度は、予防接種法に基づく定期接種対象者(65 歳以上の方等)の方々であり、インフルエンザワクチンの接種を希望される方は2020年10 月1日(木)から接種が可能です。
それ以外の方については、2020年10月26日(月)からは特に医療従事者、65 歳未満の基礎疾患を有する方、妊婦、乳幼児(生後6 ヶ月以上)~小学校低学年(2年生)の方々は早めにインフルエンザワクチンを接種してほしいとしています。
それ以外の方も2020年10月26日以降はワクチン接種が可能になります。
受診の際には、感染防止の3つの基本である ①身体的距離の確保、②マスクの着用、③手洗いの徹底 をして来院するようにしてください。
インフルエンザワクチンは重症化予防などの効果がある一方で、発病を必ず防ぐわけではなく、接種時の体調などによって副反応が生じる場合があります。
医師と相談の上、接種いただくとともに、接種後に体調に異変が生じた場合は医療機関にご相談してください。
それでは、今年のインフルエンザ、昨年とはちょっと違う型が流行するとの予想です。
ただ、インフルエンザの予防は型が違っても同じです。
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今年もインフルエンザ対策をしっかりとして冬を迎えましょう。
出典
厚生労働省 第5回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会
季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会 2020/4/23
【資料2】2020/21シーズン向け季節性インフルエンザワクチン製造候補株の検討について(国立感染症研究所)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000624420.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000624421.pdf