「尿路結石ができてしまい、どんな治療法を受ければよいのか悩んでいる…」
「治療を受けたが、尿路結石が取り切れておらず困っている…」
このような悩みを抱えている周りの方はいらっしゃいませんか。
実は、男性ならば7人に1人、女性ならば15人に1人に発症すると言われており、
非常に発症率の高い病気になっています。
決して簡単に治療できる病気ではないので、
尿路結石の治療方法に悩んでいる方がいらっしゃる場合や
尿路結石に対する理解を深めたい方は、ぜひ本記事をお読みください。
まずは、治療法となる「経尿道的結石破砕術(f-TUL)」についての説明です。
治療に悩む尿路結石症の患者さんが増加しているが‥‥
「衝撃波で尿管にできた石(尿管結石)を細かく砕き、
簡単に尿と一緒に出してしまえると思ったのに、
細かく砕いた石が尿管にくっつき残ってしまった」
「腎臓に生じた石(腎結石)を取り除くのに
経皮的腎・尿管結石破砕術(PNL)という手術を
勧められたものの、とても10日以上
長く入院していられない。もっと短期間の入院で
石を取り出す方法はないのか……」
かつてと比べ尿管や腎臓などに結石ができる
尿路結石症の外科的治療は著しく進歩しましたが、
こんな悩みを抱える尿路結石症の患者さんは
いまも少なくありません。
外来におけるたった1回の
体外衝撃波結石破砕術(ESWL)で尿路結石を砕き、
尿とともに身体の外へ出してしまえればよいのですが、
なかなかそうもいかないケースが見受けられるからです。
ただし、軟らかい軟性腎盂尿管鏡(軟性鏡)による
経尿道的結石破砕術(f-TUL)を縦横に駆使し、
ときにはESWLなど他の治療法とも
組み合わせながら治療すると、
いまやかなり大きくて硬い
尿管結石や腎結石などの尿路結石でも
すみやかに取り除き、痛みの解消はもちろん、
腎臓機能の保護も可能となると高い評価を受けています。
背中から脇腹にかけての激痛=疝痛発作に襲われ、生命にかかわることも‥‥
ご存じのように尿路結石といえば、患者さんが突然、
背中からわき腹にかけての激痛に襲われ、
七転八倒する疝痛発作という症状で知られています。
尿の通り道である腎臓の
腎杯・腎盂→尿管→膀胱→尿道の尿路において、
尿の成分の一部が結晶化し、この結晶が
成長・凝集してつくられるのが尿路結石です。
尿路結石によって尿の流れが妨げられ、その圧力の
急激な上昇から激痛を起こすと考えられています。
ときには血尿や吐き気、嘔吐などの症状もあらわれます。
さらに腎機能の低下や結石性腎盂腎炎、
全身への細菌感染から生じる敗血症も発症し、
生命にかかわることもある病気です。
尿路結石の大半は尿管結石と腎結石!
尿路結石は石が生じた部位によって
腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれます。
最近は尿路結石の90%以上が
腎臓や尿管に生じる上部尿路結石です。
ただし尿路結石ができても、その約8割は
自然に尿と一緒に排出されてしまいます。
残りの約2割の石が尿路を詰まらせ、
疝痛発作などを引き起こしてしまうのです。
男性ならば7人に1人、女性ならば15人に1人が、
一生のうちに一度は
尿路結石による激痛などを経験します。
男性は40歳代、女性は50歳代の発症が
一番多いといわれ、決して他人事ではありません。
上部尿路結石の大半で、まず選択されるのが体外衝撃波破砕術=ESWL
現在、尿路結石の外科的治療の、その多くは
体外衝撃波破砕術(ESWL)で行われます。
体外で発生させた衝撃波を腎臓や尿管などの
結石に当てて細かく砕き、尿と一緒に
自然に排出させてしまう治療法です。
ほとんどのケースで麻酔の必要もなく、
外来で治療が受けられます。
患者さんにとって身体的負担が
きわめて少ないことが大きな特長です。
尿管は上から上部、中部、下部の3つに区分されますが、
腎臓や尿管に生じた結石を上部尿路結石と呼びます。
無治療で自然排石を期待できない上部尿路結石の大半で、
まず最初に選択される治療法がESWLなのです。
ただし、ESWLは結石に衝撃波を与えるのみで、
物理的に直接、結石を砕くわけではないので
確実性に欠けます。
硬い結石や大きな結石の場合、
細かく砕けないこともあります。
ESWLで治療が難しいのは
10〜20㎜以上の大きな結石や硬い結石、
そして嵌頓結石
一般的にESWLが治療の対象とするのは、
尿管結石が10㎜まで、
腎結石は20㎜までのサイズの結石です。
それを超える石はESWLで砕くのは
困難とされています。
また、結石の硬さはCT検査で判明します。
CT値(人体におけるX線吸収の程度を数値化したもの)が
1000を超える硬い結石の場合、
ESWLで砕くのは難しいと考えられます。
加えて、腎盂や尿管の粘膜に癒着し、
それに覆われた「嵌頓結石」なども
ESWLで治療するのは難しいとされています。
硬性尿管鏡(硬性鏡)を用いる経尿道的結石破砕術=r- TUL
ESWLで砕けなかった尿管結石のうち
中部や下部の結石、そして砕いて細かくなった結石片が
中部や下部の尿管を詰まらせたときは、
金属製の硬性尿管鏡(内視鏡の一種。硬性鏡)を用いる
経尿道的結石破砕術(TUL)で
治療することが少なくありません。
TULは全身麻酔か硬膜外麻酔を行ったうえで、
直径約3㎜弱の硬性尿管鏡を尿道口から挿し入れます。
そして、尿道→膀胱を経て
尿管に生じた結石のところまで
その先端を到達させ、結石を見ながら
ホルミウムレーザーや砕石器などで
石を細かく砕きます。
結石を砕くときに尿管の粘膜を
わずかながら傷つけるため、
出血して血尿をもたらします。
通常、血尿は2〜3日で止まります。
TULで用いる硬性尿管鏡は、いわば硬い鉄の棒です。
自在に曲げることができません。
湾曲した上部尿管や腎臓まで、
その先端を到達させられないところが大きな難点です。
尿管の中部や下部などに生じた結石に
有効な治療法がTULです。
ちなみに一般的に後述する
f-TUL(軟性腎盂尿管鏡による
経尿道的結石破砕術)を含め
TULと略称されることもあります。
ただしその場合、硬性尿管鏡による
経尿道的結石破砕術は
r-TULと略称されます。
硬い腎結石などには経皮的腎・尿管結石破砕術=PNL
一方、あまりにも硬い上部尿管結石や腎結石なども
ESWLで治療するのは困難とされます。
加えて、ESWLで石が細かく砕けても、
尿と一緒に体外へ排出させるのが難しい
下腎杯結石
(腎臓の下のほうのところにできた腎杯結石)
なども、ESWLによる治療は向いていません。
ESWLで治療が難しい、そうした結石には、
かつて経皮的腎・尿管結石破砕術(PNL)で
治療するケースが多かったといえます。
PNLは全身麻酔や硬膜外麻酔を行い、
背中に約2㎝の切開創をつくり、
ここから腎臓の中へ筒を挿し入れます。
筒を介して内視鏡を挿入し、結石を確認しながら
ホルミウムレーザーや砕石器などを用いて
細かく砕き、砕いた石を取り除く治療法です。
ただし、出血などのリスクが大きく、
輸血が必要となることもあります。
患者さんの身体的負担も大きく、
手術後10日から2週間くらいの
入院が不可欠とされます。
軟性腎盂尿管鏡(軟性鏡)を用いる経尿道的結石破砕術=f-TUL
実は、あまりにも硬い腎結石や
上部尿管結石、下腎杯結石などには、
長いことESWLかPNLか、この2つの
治療法しかありませんでした。
一方は身体的負担がきわめて軽く、
外来で治療が可能なESWL。
もう一方は身体的負担が大きいうえに、
長期の入院が必要とされるPNL。
そんな両極端な治療の現状を克服し、
すみやかにかつ安全・確実に、楽に排石する
新たな治療法として登場してきたのが
軟らかく柔軟性の高い軟性腎盂尿管鏡(軟性鏡)を
用いる経尿道的結石破砕術(f-TUL)なのです。
自在に曲げられる軟性腎盂尿管鏡(軟性鏡)
f-TULは全身麻酔か硬膜外麻酔を行い、
直径5㎜前後の細長い外筒=アクセスシースを
尿道口から尿道→膀胱、そして尿管の途中まで
挿し入れます。
次にアクセスシースの中に
直径3㎜前後の軟性腎盂尿管鏡(軟性鏡)を挿入し、
上部尿管や腎臓の中にまでその先端を到達させます。
軟性腎盂尿管鏡の特長は、
自在に曲げられることです。
加えて、その先端にCCDカメラを装着していることから
優れた視野が確保され、上部尿管や腎臓の中の
結石の状態・性状なども正確に見分けられることです。
その結果、ESWLで壊せない結石を
しっかりと確認しながら、ホルミウムレーザーなどで
安全・確実に石を細かく砕けるのです。
また、腎臓や尿管の粘膜に癒着した結石や嵌頓結石でも、
f-TULならば粘膜から安全に石を剥離し、
細かく砕くことができます。
特筆すべきなのは細かく砕いた結石の破片を
バスケットカテーテル(結石を捕獲する手術器具)に
収納し、確実に結石片を体外へ取り出せることです。
体外への石の排出を排尿任せにしないことから、
下腎杯結石に対する決め手の治療法としても
大きな注目を浴びました。
高度な手術手技と豊富な経験が求められる f-TUL
f-TULに熟練した泌尿器科専門医ならば、
どのような尿路結石でも、1時間以内で
f-TULによる治療を切りあげられるといいます。
なぜf-TULは短時間の治療に
強い関心が向けられるのか……。
それは直径約5㎜のアクセスシースを
尿管に挿し入れたままf-TULを行うからです。
治療が長時間に及ぶとアクセスシースが尿管を圧迫し、
尿管の狭窄などを招きかねないからです。
そのためf-TULは短時間に
治療を完了させることが不可欠なのです。
無論、大きな結石の場合、治療を
何回かに分けて繰り返し行うことになります。
ちなみにf-TULを受ける際の入院期間は
4〜5日くらいが基本です。
f-TULは高度な手術手技と豊富な経験に
裏づけられていなければなりません。
サンゴ状結石に対しても優れた治療成績を誇る f-TUL
一方、サンゴ状結石とは腎臓(腎杯・腎盂)の内部を
鋳型にしたような形で大きく成長する結石です。
腎機能の悪化を招くことが多いので、
積極的に治療することが望まれます。
しかし、全身状態の悪い高齢者や
出血傾向の強い患者さんなどの場合、
PNLなど身体的負担の大きな治療を
受けられないというケースも少なくありません。
そんなときにも活用できるのがf-TULなのです。
腎臓は人間のこぶし大くらいのサイズです。
その半分以上を石が占めるサンゴ状結石でも、
f-TULで粘膜から石を丁寧に剥離し、
細かく砕き、きれいに結石片をとりだすこともできます。
いまのところPNLやf-TUL、 f-TUL+ESWLなどを
組み合わせた治療で、すべてのサンゴ状結石を砕いて
取り出せるわけではありません。
ただし、その限界に迫り、それを乗り越える努力が
積み重ねられていることは頼もしい限りです。
重要なのは100人の尿路結石の患者さんがいれば、
100通りの治療のやり方があるということです。
1人ひとりの患者さんごとに
最適な治療法を選択するのはもちろん、
最適な治療法を組み合わせた
尿路結石の外科的治療が強く推奨されています。
取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部
医療ジャーナリスト 松沢 実
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