脂質異常症

定義

中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常をきたした状態。「高脂血症」から2007年に名称が改められた。
中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常をきたし、血液中の値が正常域をはずれた状態をいいます。動脈硬化の主要な危険因子であり、放置すれば脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を招く原因となります。
従来は高脂血症と呼ばれ、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪のいずれかが高いか、HDLコレステロールが低いことがその診断基準とされていましたが、総コレステロールが高い人のなかには、悪玉LDLコレステロールが正常で、善玉のHDLコレステロールのみが高い場合も少なからず含まれていること、また、HDLコレステロールが低い場合を「高脂血症」と呼ぶのは適当でないことなどから、2007年4月に日本動脈硬化学会がガイドラインの改訂を行い、診断名を「高脂血症」から「脂質異常症」に変更しました。
脂質異常症は、LDLコレステロールが140mg/dl以上の「高LDLコレステロール血症」、HDLコレステロールが40mg/dl未満の「低HDLコレステロール血症」、中性脂肪が150mg/dl以上の「高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)」のいずれかで、総コレステロールはあくまでも参考値としての記載にとどめ、診断基準から外されました。

脂質異常症リスク

関連する健診項目

食事改善提案

血液中の脂質の濃度が基準の範囲にない状態を脂質異常症といいます。動脈硬化性疾患にならないようにするためには、早期に脂質異常症を改善する必要があります。いずれの脂質も食事から摂取するだけでなく、肝臓で作られて血液で全身に運ばれますから、摂取する栄養素の量と組み合わせを調整して対応しましょう。
適正体重を維持しましょう。いずれの脂質異常症でも、まず体に蓄積している余分な脂肪を減らしましょう。大人の場合、「BMI=身長(m)×身長(m)×22」を適正な体重(kg)の目安にします。標準体重に近づくように、エネルギーの摂取量を調整しましょう。
コレステロールを多く含む食品をなるべく避けるようにしましょう。特に卵類(鶏卵、魚卵)、内臓類(レバー、モツ)を1~2ヶ月食べないようにしてみて、血中コレステロール濃度が下がるようならば、コレステロール摂取量の制限が効果的なタイプです。ある程度コレステロール濃度が下がったら、数日に1回程度は食べても大丈夫です。
肉類の脂身や鶏肉の皮、ラード、バター、乳脂肪、ココナッツミルクなどには、血中コレステロールを上げる作用のある飽和脂肪酸が多く含まれます。肉は赤身のものや脂身をとり除いて食べましょう。牛乳も低脂肪乳にするとよいでしょう。
食物繊維を多く食べるには、主食を精白度の低い胚芽米や麦飯、全粒粉のパンなどにし、3度の食事ごとにたっぷり2皿の野菜類、海藻、きのこ、こんにゃくなどを食べましょう。納豆や豆類にも多く含まれています。
主食の大盛りやおかわりをやめ、菓子類を減らしましょう。甘い果物類も糖質を多く含むので、1日に1個程度にしておきましょう。甘い飲み物やジュースは危険です。人工甘味料を使うか無糖のお茶類に変えましょう。アルコール摂取量は、1日25g以下とします(日本酒1合、ビール500ml、ワイングラス2杯)。
血液中の脂質を分解する酵素の働きが著しく悪く、トリグリセリドが1000mg/dL以上にもなる高カイロミクロン血症の場合は禁酒です。酒類の種類に係わらずやめておきましょう。節酒を指示された場合は、1日に日本酒なら1合、ビールなら500mL程度、ワインなら200mL程度を楽しむようにしましょう。
EPAやDHAといったn-3系多価不飽和脂肪酸(肝臓でトリグリセリドを合成しにくくする脂肪酸)には血清脂質改善作用や認知症防止効果もあるとされており、青魚類の脂肪に多く含まれます。1日に魚を1切れ程度は食べるようにしましょう。
ピーマン、かぼちゃのような色のある野菜類には、がんや老化の防止に役立つ抗酸化物質が含まれています。食事ごとに色の濃い野菜を必ず一皿は確保するようにしましょう。
LDLコレステロール高値の原因として、食事中の飽和脂肪酸のとり過ぎがあげられます。飽和脂肪酸は、肉の脂身(赤身ではなく白い部分)、バター、ラード、生クリームなどに多く含まれます。また食事中のコレステロールもLDLコレステロールを高くします。食事中のコレステロールは、主に卵の黄身や魚卵から摂取されます。LDLコレステロールが高い人の多くは、これらを食べるのを控えることと大豆、納豆、野菜、海藻、こんにゃくなど食物繊維を摂取することで、比較的容易にLDLコレステロールを下げることができます。
中性脂肪の高値の原因としては、カロリーのとりすぎ、特に甘いものや酒、油もの、炭水化物のとり過ぎがあげられます。砂糖の入ったソフトドリンクを飲む習慣のある人にも多い傾向があります。これらを改めて運動や減量を行うことで、中性脂肪を下げることができます。また背の青い魚には、EPAが含まれており、中性脂肪を下げる働きがあります。
HDLコレステロール低値の原因は、肥満や喫煙・運動不足です。運動や減量、禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。また日本酒換算で1日に1合程度(ビールなら500ml)の飲酒は、HDLコレステロールを高くする働きがありますが、飲めない人は無理に飲むべきではありません。飲酒は1合からでも肝障害を悪化させますので、これらの病気を指摘されている人にHDLコレステロールを上昇させるための飲酒を勧めることはできません。

運動改善提案

脂質異常症治療の基本は生活習慣の改善と薬物治療ですが、冠動脈疾患を合併しない場合には食事療法と運動療法に重点を置いた生活習慣改善を最初に行い、次のステップとして薬物療法との併用療法を行うとされています。
運動療法は、脂質異常症患者だけでなく健常者においても、血中トリグリセライドレベルを低下、HDLコレステロールレベルを上昇させ、血中脂質値に好影響を及ぼします。動脈硬化性疾患予防のための脂質異常賞治療ガイド2013年版では、以下のような運動種目、時間、強度、頻度の運動療法を推奨しています。
運動種目:ウォーキング(速歩)、スロージョギング、水泳、自転車、社交ダンス、ベンチステップ運動などの有酸素運動。
運動時間・頻度:運動はできれば毎日、1日30~60分間、あるいは1週間で合計180分以上の有酸素運動実施をお勧めします。
運動強度:最大酸素摂取量(体力・全身持久力の指標)の50%程度、中等度「ややきつい」と感じる程度であり、心拍数が安静時の1.5倍程度(100~120拍/分)の運動強度。
血中脂質レベルは一回の運動では影響を受けません。そのため血中脂質レベルに好影響を与えるには数ヶ月以上の長期的な運動療法継続が必要となります。
有酸素運動が血中脂質レベルを改善させる機序として、LDLなどの分解を促進させることにより、HDLを増やすことが関与していると考えられています。HDLは「善玉コレステロール」として知られていますが、末梢組織や細胞から余剰なコレステロールを回収し、肝臓に運搬する役割を有しています。つまりHDLコレステロールは脂質異常症の進展を抑制する働きがあります。
2005年までの国内外の運動に対するHDLコレステロールの効果を検討した研究結果から、HDLコレステロールを増加させることができる運動・身体活動の最低条件として、1週間に合計120分間の運動を行うか1週間に合計900kcalのエネルギーを消費する身体活動を行なわなければならないことも明らかとなりました。
運動を実施する上での注意点としては、メディカルチェックを受けて狭心症や心筋梗塞などの心血管合併症の有無を確認し、運動療法の可否を決定します。また、確認した後に、個人の基礎体力、年齢、体重、健康状態などを踏まえて運動量を設定する必要があります。さらに、運動の実施前後には準備・整理運動を十分に行います。なお、脂質異常症の改善には運動療法だけでなく、食塩摂取量やアルコール摂取量の制限、禁煙などとの併用療法がより効果的といえます。

生活改善提案

脂質異常症のための生活習慣の改善項目は、「1.減量:適正体重の維持(BMI18.5~24.9kg/m2の範囲)」「2.減塩:食塩摂取の制限(6g/日以下)」「3.アルコール摂取の制限」「4.コレステロールや飽和脂肪酸の摂取制限」「5.運動療法(運動・身体活動量の増加)」「6.禁煙」とされています。
内臓脂肪が増えると、血液中の中性脂肪の増加とHDLコレステロールの減少を招き、動脈硬化を起こします。LDLコレステロールは内臓脂肪の蓄積との関係は弱いのですが、LDLコレステロールが高値になるとさらに動脈硬化が促進されます。
メタボリックシンドロームの診断基準による脂質の項目では、HDLコレステロール値が40mg/dl未満、中性脂肪値が150mg/dl以上となっており、LDLコレステロール値は入っていません。内臓脂肪に蓄積される脂質は中性脂肪であり、その影響を受けて中性脂肪は高値に、HDLコレステロールは低値になりやすくなります。LDLコレステロールは内臓脂肪の蓄積とはあまり関係していないためです。
しかしLDLコレステロールはメタボリックシンドロームに関係なく、単独で強力に動脈硬化を進行させます。つまりメタボリックシンドロームとは別に、LDLコレステロールの値にも注意する必要があります。