【医師が解説】膝の痛みや予防にサプリメントは本当に効くのか?

膝レントゲン画像

 

近年テレビのCMや通販などで「膝の軟骨がすり減って痛い場合はサプリメントで良くなる」といったセリフをよく見ます。

色々な成分のもんがありますが、特によく目にするものはコンドロイチンとグルコサミンではないでしょうか。

広告を見るとすごく効きそうな雰囲気が出ているため、飲んだ方がいいかなと思う方も多いと思います。

 

実際に医師として仕事をしていると外来に来られる患者から「飲んだ方がいいですか?」という質問を受けることも少なくありません。

今回は医師の立場からコンドロイチンとグルコサミンのサプリメントについて解説しましょう。

 

監修者情報

佐藤祐造

名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

 

コンドロイチン、グルコサミンとは

 

サプリメントの効果を解説する前にまずはコンドロイチンやグルコサミンがどういったものであるかを説明しましょう。

 

コンドロイチンってなに?

 

コンドロイチンの正式な名前はコンドロイチン硫酸と言われる組織と組織をつなげる組織の主成分です。

血管や軟骨、靭帯など体内のさまざまな場所に存在します。[1]

 

コンドロイチンの働きは?

 

コンドロイチンの働きは組織をつなげることであり、また組織の水分量なども調整します。

関節の中ではとくに軟骨の粘弾性特性の維持に働いており、軟骨の高いクッション性を守るのにとても重要な役割を果たしています。

 

グルコサミンってなに?

 

グルコサミンとはブドウ糖にアミノ基がついたアミノ糖の1つで、

【グルコース(ブドウ糖)+アミノ基】でグルコサミンという名前がついています。

グルコサミンはヒアルロン酸などに代表されるグリコサミノグリカンと呼ばれる成分の材料になります。[2]

 

グルコサミンは何をしているもの?

 

グルコサミンは軟骨の成分であるヒアルロン酸などの材料です。

その他にもさまざまな作用を持ち、グルコサミン自身がヒアルロン酸を増やす作用や軟骨の損傷を抑制する作用、

関節の炎症を抑える作用があると報告されています。

 

 

グルコサミンとコンドロイチンのサプリメントは効くのか?

 

さて本題です。

誰しもが気になるポイントではないでしょうか。

 

サプリメントのCMを見るとすごく効きそうに見えますよね。

ただ、ふと思いませんか?それほど効くのであれば薬として病院で処方されないのはなぜだろうか?と。

ではコンドロイチンやグルコサミンに効果があるのか解説しましょう。

 

効くという報告はある

 

グルコサミンもコンドロイチンも効果があるという報告は多数あります。

ではどういった効果が期待できるのかをご紹介しましょう。

 

コンドロイチンには膝を伸ばす筋力を上げる効果がある

 

コンドロイチンを4週間継続して飲むと膝を伸ばす力が増加すると報告されています。[1]

膝を伸ばす力が強くなると膝関節の安定感が増し、膝関節への負担が少なくなることで痛みが軽くなります。

整形外科で軟骨がすり減った人に対するリハビリも膝関節の周囲の筋肉を鍛えることを目的としており、

同様の効果が期待できるかもしれません。

 

グルコサミンは炎症を抑える効果がある

 

グルコサミンは炎症が起こることや軟骨が傷むことを抑える効果があると報告されています。[3]

炎症が抑えられると痛みの刺激が出にくくなり、また軟骨が痛むことを抑えることは軟骨がすり減りにくくなります。

グルコサミンは痛みを軽くするだけでなく、病気の進行を抑える効果が期待できると報告されています。

 

効かないという報告が優勢

 

効果があるという報告がある一方で、効果がなかったという報告もあります。

そういった報告の多くは口から飲んでも効果がないという結論が多いです。[4]

そして効果がないという報告の中で最も影響を与えたのが下記の論文です。[5]

Daniel O et al. Glucosamine, Chondroitin Sulfate, and the Two in Combination for Painful Knee Osteoarthritis. N Engl J Med. 2006. Feb 23. 354 (8). 795-808

この論文では「グルコサミンやコンドロイチンには有意な効果がない」という報告があります。

このNew England Journal of Medicine (以下、N E J M)は世界4大医学雑誌とも言われる権威性の高い雑誌です。

 

医師の立場からすると、効果があるという論文が多くあってもN E J Mに匹敵する権威性の高い雑誌に乗っていなければ「効果は期待できない」と判断します。

にもかかわらず「サプリメントが効いた」という人がいるのは何故か?

 

これは「プラセボ効果」によるものが大きいとされています。

プラセボとは一切効果がない偽物の薬のことです。

この偽物の薬を飲むと「すごく効く薬を飲んでいる」という心理作用により痛みが軽くなったりする場合があります。

 

サプリメントを飲むときの注意点

 

ここまでの解説で効果はない可能性が高いけど、

もしかしたらプラセボ効果で痛みが軽くなるのだからダメ元で飲んでみた方がいいのでは?

と思いますよね。

 

少しお待ちください。

 

実はサプリメントを飲むときには注意点があります。

 

糖尿病の人は飲む前に先生に相談しましょう

 

グルコサミンは「グルコース」つまり「糖質」が入っています。

飲むことで血糖値が上がる可能性があります。

糖尿病の人は飲む前に必ずかかりつけの医師に飲んでいいか確認しましょう。

 

ワーファリンを飲んでいる人はグルコサミンを飲んだらダメ!

 

ワーファリンとは「血液をサラサラにする」薬です。

 

正確には血液をサラサラにするのではなく、固まりにくくする薬で、

不整脈がある人や心臓の血管が詰まりかけ、または一度詰まって治療した人がよく飲む薬です。

 

グルコサミンはこの血液を固まりにくくする効果を下げてしまいます。

ワーファリンを飲んでいる人はグルコサミンを飲まないようにしてください。

 

 

膝が痛いならどうするべきか

 

まずは整形外科を受診しましょう

 

そもそも、その膝の痛みは本当に軟骨がすり減ったことによる痛みなのでしょうか?

軟骨が擦り減ること以外にも半月板という膝の中の軟骨が切れることや骨の中心部が傷害されても膝の痛みが出ます。

また痛風やリウマチといった内科の病気でも膝の痛みが出ることはあります。

 

膝が痛い場合はまず整形外科を受診し、なぜ痛みが出ているのかを調べてもらいましょう。

 

軟骨が減っている場合、整形外科でできることは?

 

足底板を作る

 

足底板とは靴の中に入れる「インソール」や「中敷」と言われるものです。

足底板は足裏の傾きを変えることで膝関節の中で体重がかかる場所を変え、軟骨が残っているところで体を支えることにより痛みを感じにくくさせます。

 

関節へのヒアルロン酸注射とステロイド注射

 

ヒアルロン酸はグルコサミンからできているもので、これが減ると膝の痛みが出ます。

口から摂取しても効果が期待できないのであれば直接入れてヒアルロン酸を増やし、痛みが出にくくするといった治療です。

 

またステロイドを注射することも膝の痛みを軽くします。

ステロイドには炎症を抑える効果があります。

関節の中に直接注射することで膝の炎症を抑え、痛みを軽くします。

 

ただ、ステロイドには副作用があり、血糖値を上げてしまいます。

糖尿病の人は注射をする前にかかりつけの医師に相談しましょう。

 

手術治療

 

手術にはさまざまな方法があります。

 

一番有名な手術は「人工関節」でしょう。

軟骨の部分を金属に変える治療で術後の満足度がとても高い手術です。

 

他には「骨切り術」や「軟骨移植」といった方法があります。

骨切り術とは膝の周りの骨を切り、角度を変えることで軟骨が残っている場所に体重がかかるようにする手術です。

足底板と同じコンセプトの治療です。

 

また最近は再生医療も進んでおり、自分の軟骨を体外で培養し、大きくしてから軟骨がすり減ったところに移植する手術もあります。

軟骨移植は誰でも受けられる手術ではなく、適応が限られています。

気になる人は整形外科へ受診して相談してみましょう。

 

ダイエットはとても重要

 

当然、膝にかかる負担が小さければ小さいほど痛みは軽くなります。

 

ダイエットをして膝にかかる負担を減らすことは軟骨がすり減っている部分の痛みを軽くするだけでなく、

今後の軟骨の摩耗も減らすことが期待できます。

 

ただ、ご飯の量を極端に減らすダイエットでは筋肉の量も減るので膝回りの筋肉も減ってしまいます。

運動も一緒にするダイエットにしましょう。

運動としては膝に負担がかからないようにプールでのウォーキングやアクアビクスがおすすめです。

 

 

まとめ

 

今回は膝の痛みに対してのグルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントの解説をさせていただきました。

医師の立場からすると「サプリメントは効く」とは言えません。

 

ただ、プラセボ効果によって痛みが軽くなる人がいることも事実です。

飲もうかなと考えている人は効果が保証されているわけではないことを十分承知の上で飲むようにしましょう。

 

 

【参考文献】

1K.Yamada et al, Jpn Pharamacol Ther, Vol 48. no 2, 2020, 191-195

2]長岡功, Functional Food Research, Vol 16. 2020, 112-118

3Olivier Bruyère et al. Semin Arthritis Rheum. Vol 45. 2016. S12-7

4Jos Runhaar et al. Ann Rheum Dis. Vol 76. no11. 2017. 1862-1869.

5Daniel O et al. N Engl J Med. 2006. Feb 23. 354 (8). 795-808

 


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