「歯を磨くと歯茎が出血する…」
「歯を磨いたのに口の中がネバネバする…」
このような症状がある方は、
「歯周病」に感染している可能性があります。
歯周病は知らぬ間にかかっている感染症です。
しかも、お口の中だけではなく、
全身の健康を脅かすことがわかっています。
歯周病菌が、動脈硬化や生活習慣病を悪化させたり、
妊娠中の人の場合はおなかの赤ちゃんにも
悪影響を与えることがあるのです。
そのため、世代を問わない健康管理として、
口腔環境を整える「口腔ケア」が注目されています。
影響は生活習慣病から認知症、がん、早産まで
歯周病は、細菌感染が原因で起こる感染症の1つです。
代表的な歯周病菌のジンジバリスは、
心臓や太い血管などに巣食い、
動脈硬化を進行させたり、
血栓をできやすくすると考えられています。
血栓とは血のかたまりのことです。
脳に詰まると脳梗塞、
心臓の血管(冠動脈)に詰まると心筋梗塞が起こります。
歯周病は、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを、
2倍から3倍に高めるともいわれています。
また、歯周病は、高血糖を招く
要因でもあることがわかっています。
歯周病菌が、血糖値を下げる
インスリンの働きを悪くしてしまうのです。
食事療法や運動療法、薬物療法を行っているのに、
血糖コントロールがよくならない場合は、
歯周病菌が悪さをしている可能性があります。
高齢者の場合は、
食べたものや唾液と一緒に飲み込んだ
歯周病菌が、誤って気管に入り、
誤嚥性肺炎になってしまうこともあります。
誤嚥性肺炎は、日本人の死亡原因の第6位になっており、
とくに要介護の人はリスクが高いため、
お口のなかを清潔に保つことがとても重要です。
ほかにも、栄養障害や肥満、腎臓病、
神経痛や関節リウマチ、骨粗鬆症、
皮膚炎、さらには認知症や肺がん、
そして低体重児や早産にも、
歯周病が関係しているのではないかといわれています。
口のなかも善玉菌の働きが大切
日本人の7割が感染しているといわれる歯周病ですが、
生まれたばかりの赤ちゃんの口のなかに
歯周病菌はいません。
10歳くらいまでに、多くは家族を通じて感染します。
実は、私たちの口のなかには
約300〜700種類の細菌が棲息していますが、
そのうちの約7割は善玉菌、
残りの約3割が歯周病菌をはじめとする悪玉菌です。
悪玉菌がいても、善玉菌がしっかり働き、
悪玉菌の活動を抑えていれば、
口のなかは健康な状態が保たれます。
しかし、なにかのきっかけで善玉菌のパワーが弱まると、
口のなかの免疫力が低下し、
悪玉菌が増えて悪さを始めるのです。
悪玉菌が増殖すると、口のなかがネバネバしたり、
歯茎から出血しやすくなったり、
不快な口臭がするようになります。
このような症状が、体力が低下したときに
一時的にあらわれることもありますが、
慢性的になっている場合は、歯周病が強く疑われます。
口腔ケアとともに日ごろの健康管理も
お口の健康のカギを握る善玉菌を弱らせる原因は、
風邪やインフルエンザなど病気による体力の低下や
ストレスのほか、メタボリックシンドロームや肥満、
糖尿病などさまざまです。
規則正しい生活や栄養バランスのとれた食事、
適度な運動、糖尿病の治療などを行い、またできるだけ
ストレスを軽減するような生活を心がけることで、
歯磨きなどの口腔ケアの効果はぐんと上がります。
正しい歯磨きのポイントは、
まず、歯を立体的にイメージし、
各面を1カ所ずつていねいにブラッシングすること。
次に、歯ブラシの毛先を、歯に対して直角にあてること。
そして、力を抜いて軽く細かく
歯ブラシを動かすことです。
夜寝る前は、とくに念入りに磨きましょう。
歯ブラシは、硬すぎると歯茎を痛めやすいので、
「やわらかめ」がおすすめです。
虫歯をきちんと治療する、治療後も
年に1回は歯医者さんでチェックしてもらう、
歯石がたまっていたら取り除いてもらう、
入れ歯を口に合うように調整するといったことも、
大切な口腔ケアです。
また、たばこは口内環境に悪影響を与えます。
お口は外界からの入口です。
口内の環境を整えることによって、
口の粘膜も健康になり、細菌やウイルスが
体内に進入しにくくなります。
風邪やインフルエンザはもちろんのこと、
新型コロナ対策としても、口腔ケアは重要です。
取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部
医療ライター/看護師 天野 敦子
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