「慢性腎臓病」は回復できない恐い病気… 治療法となる人工透析が必要となる恐れも

トイレ 救急車

 

「最近、健診で尿検査に引っかかったが、
無症状だから大丈夫では…?」

「抱えている生活習慣病の検査に問題はあったが、
腎臓病とは関係ないから大丈夫!」

 

尿検査で引っかかっても、

何もせずそのまま放置していたり、

慢性腎臓病を他人事に思っていたりしませんか。

 

このような意識のまま、

気づかずに病気の進行が進んでしまうと、

将来、慢性腎臓病にかかってしまう可能性があります。

放置すると人工透析と呼ばれる療法を

受けなければならなくなってしまい、

日常生活の中での多くの時間を、その人工透析の治療に

割くことになってしまいます。

また、糖尿病等の生活習慣病を患っている場合、

さらにそれが要因となって

腎臓に関わる病気を発症してしまうかもしれません。

 

この記事では、新たな国民病の慢性腎臓病の考え方、

腎臓の機能、慢性腎臓病の原因となる病気について等、

詳しく紹介しています。

 

この記事を読むことで、

慢性腎臓病の恐ろしさを知り、

慢性腎臓病についての考え方を

改める機会になると思います。

 

はじめに、慢性腎臓病とはなにか、ご紹介します。

 

20歳以上の国民の8人に1人が慢性腎臓病

 

近年、慢性腎臓病(CKD)が

大きな注目を集めています。

腎臓が慢性的な経過をたどって

徐々に障害されていくさまざまな病気の総称で、

いまや慢性腎臓病を疑われる人は約1330万人、

20歳以上の国民の8人に1人が該当する

新たな国民病といわれています。

 

腎臓はきわめて我慢強い臓器です。

機能が少しばかり障害を受けても、

無症状のまま腎臓としての働きを

十分にまっとうすることができます。

事実、腎臓の機能が

本来の2分の1、3分の1に低下しても、

身体に支障をきたすことはありません。

 

しかし、なにごとにも限度というものがあります。

腎機能が本来の3分の1以下に低下すると、

いずれ尿の濁りや浮腫むくみ、高血圧などの

さまざまな症状が現れます。

気づいたときは回復できないほど進行していた、

ということが少なくありません。

 

尿をつくることのほかにさまざまな働きをしている腎臓

 

腎臓は尿をつくる臓器として知られていますが、

腎臓の働き=機能はそれだけではありません。

 

腎臓はナトリウムやカリウム、リンなどの

体液の成分=電解質を

一定の割合に維持する機能も持っています。

血圧を調整するレニンやカリクレインなどの

ホルモンの分泌を調整したりもしています。

あるいはエリスロポエチンというホルモンを分泌して

赤血球を造り出すのを助けたりするなど、

さまざまな働きをしているのです。

腎機能の低下を放置していると、

本来、腎臓がなすべきこうした働きは

不十分となり出来なくなってしまいます。

この状態を腎不全といいます。

 

人工透析の回避や心筋梗塞・脳卒中の発症の予防が目的

 

腎不全には

急性腎不全と慢性腎不全の2つがあります。

 

前者の急性腎不全は

腎臓の働きが急激に低下した状態で、

適切な治療によって回復することが少なくありません。

 

一方、後者の慢性腎不全は

徐々に腎臓の働きが低下し、

ある段階まで腎機能が低下すると

もはや回復する望みは絶たれてしまいます。

もともとの病気と関係なく、

一方的に悪化の一途をたどり、

最終的に腎臓の働きが廃絶して

人工透析を受ける羽目に陥ります。

 

慢性腎臓病という新たな考え方は、

気づかないまま慢性腎不全を進行させ、

その果てに人工透析を受けるという事態を

なんとか阻止したい、

という目的から新たに提唱されたのです。

 

現在、人工透析を受ける患者は

年を追って増加し続け、

いまや全国で34万4640人を数えます。

 

人工透析 患者数 グラフ

 

加えて、近年は腎機能の低下が高血圧をもたらし、

高血圧によって腎機能の低下がさらに促進される

という悪循環の中で、

動脈硬化から心筋梗塞や脳卒中を

発症する人が増えてきました。

しかも腎機能低下の

ごく初期の段階から発症する危険性が大きいことから、

慢性腎臓病に対する警戒感が強くなったのです。

 

約200万個の糸球体で血液中の有害物質を除外

 

腎臓は腹部の背中側、

ウエストのやや上にある

ソラマメの形をした左右一対の臓器です。

縦約12㎝×横約6㎝×厚み約3㎝のサイズで、

大人の握りこぶしくらいの大きさです。

 

腎臓を縦切りにすると、

外側に皮質、皮質の内側に髄質、

さらにその内側に腎盂じんうが存在します。

 

腎臓

 

皮質は毛細血管が糸くずのように絡み合った

直径約0.2㎜の糸球体しきゅうたいという組織の集合体で、

左右両方の腎臓に

約200万個の糸球体が詰まっています。

糸球体の中の毛細血管の壁が

フィルターの役割を果たし、

血液中の有害物質は

水分と共に毛細血管の外へ通過します。

これが尿の元になる液体で原尿と呼ばれています。

 

髄質には尿細管があります。

糸球体でつくられた原尿の中には

身体に必要なものもあり、

これを再吸収しているのが髄質の尿細管です。

原尿のほとんどは

尿細管で再吸収され、残りが尿として排泄されます。

 

腎盂は糸球体と尿細管でつくられた尿が

集められるところです。

尿は腎盂から尿管を通って膀胱へ送られ、

さらに尿道を経て体外へ排泄されるのです。

 

慢性腎臓病の双璧は糖尿病性腎症と慢性糸球体腎炎

 

腎臓の病気のほとんどは、

糸球体や糸球体の中の毛細血管、

毛細血管を支えるためのメサンギウム細胞、

尿細管や尿細管を支える間質かんしつなどの障害から生じます。

 

中でも腎臓の働き=腎機能の低下に

もっとも関連しているのが糸球体の障害です。

糸球体の硬化で有害物質を濾過ろかできず

それが増える一方、

正常な糸球体もオーバーワークとなって硬化が促され、

慢性腎臓病を発症させてしまうのです。

 

慢性腎臓病の原因となる病気はいろいろありますが、

なによりもっとも多いのが糖尿病性腎症です。

 

糖尿病性腎症は

血糖値が慢性的に高くなる糖尿病の進行により、

糸球体の毛細血管の動脈硬化を招き、

慢性腎臓病を発症させてしまいます。

人工透析を受ける患者のうち、

糖尿病性腎症の患者が41.6%も占めるのです。

 

次いで多いのは細動脈が硬化・狭小化する腎硬化症

 

糖尿病性腎症に次いで、

慢性腎臓病から人工透析を受けることになる病気として

多いのは腎硬化症(16.4%)です。

 

腎硬化症は高血圧が持続した結果、

腎臓内に細かく枝分かれした

細動脈の硬化と狭小化が進み、

腎臓内の血流を損なって腎機能の低下を招く病気です。

硬くなるのは細動脈ですが、

結果的に腎臓自体も萎縮し硬くなることから

腎硬化症という病名がついています。

 

ほかに慢性腎臓病から人工透析を受けることになる

主要な病気としては、

慢性糸球体腎炎(14.9%)があります。

そして大小さまざまな数多くの

嚢胞のうほう(液体の詰まった袋)が

腎臓の中に形成されて大きくなり、

腎機能の低下を招く多発性腎嚢胞(2.4%)。

さらに細菌感染により腎盂や腎杯じんぱい

糸球体や尿細管を取り巻く間質などに

尿が染み出して炎症をもたらし、

その炎症が慢性化する

慢性腎盂腎炎や間質性腎炎(両者を合わせて0.6%)

などがあげられます。

 

画期的治療法の確立・普及によって激減したIgA腎症

 

ちなみに慢性糸球体腎炎は、

①血尿やタンパク尿、高血圧などの症状が
1年以上続いたり、

②風邪などから生じる急性糸球体腎炎の発症後、
1年以上にわたって
血尿やタンパク尿、高血圧が続いたりして、
次第に腎臓機能の低下を招く病気です。

ほとんどは①のケースで、

いつ発症したのかもわからず、

会社や学校などの健診で

偶然に発見されることが少なくありません。

かつて1997年まで、

人工透析導入の原因疾患として

糖尿病性腎症より非常に多かったのが

慢性糸球体腎炎なのです。

 

慢性糸球体腎炎はいくつかのタイプに分けられます。

もっとも多いのがIgAアイジーエー腎症で、

慢性糸球体腎炎の約4割を占めます。

ほかに膜性腎症や急速進行性糸球体腎炎、

膜性増殖性糸球体腎炎、そう状糸球体硬化症、

微小変化型ネフローゼ症候群などがあります。

 

しかし、幸いなことに

IgA腎症に対する画期的な治療法が確立、

ここ10数年の間に普及してきたことから、

IgA腎症=慢性糸球体腎炎から

人工透析を導入する患者さんが

劇的に減少してきたのです。

 

その画期的な治療法とは何か。

扁桃へんとう摘出術+ステロイドパルス療法、

いわゆる扁摘パルス療法にほかなりません。

 

早期発見・早期治療による扁摘パルス療法で9割の患者が治癒・寛解

 

IgA腎症は糸球体のメサンギウム細胞に

IgAという免疫グロブリンが沈着し、

毛細血管の断裂などから

腎臓の濾過機能の低下を招く病気です。

風邪などをきっかけに

口の中の口蓋こうがい扁桃などに細菌が巣食い、

長期にわたって免疫システムを刺激し続け、

白血球による糸球体の毛細血管の

破壊を促すことから生じます。

 

扁摘パルス療法は

細菌が巣食う口蓋扁桃を手術で切除し、

かつステロイドの点滴大量療法で

異常な免疫反応などを抑えることで

IgA腎症をすみやかに治癒・寛解へ導く治療法です。

事実、最初に血尿が出てから

3年以内に扁摘パルス療法を受ければ、

9割の患者が治癒・寛解するといわれます。

 

軽視してはならない血尿!尿沈渣で判明

 

重要なのは

会社や学校の健診などで血尿が指摘されたら、

IgA腎症かもしれないと考え、

すみやかに適切な検査と治療を受けることです。

 

IgA腎症などの慢性糸球体腎炎による血尿か否かは、

尿沈渣ちんさという検査で突き止められます。

 

尿沈渣は尿を遠心分離器にかけて沈殿させ、

赤血球などの有形成分を顕微鏡で調べる検査です。

 

それまで尿潜血検査の結果が陰性で、

かつ尿沈渣で変形した赤血球か、

赤血球円柱のどちらかが見つかり、

それが1年以上持続していたら

IgA腎症の可能性が非常に高いといえるのです。

 

尿沈渣はほとんどの検査会社が請け負っています。

診療所や小さな病院でも、

検査会社へ尿沈渣を外注してもらうだけでよいのです。

 

IgA腎症は予後不良の病気 放置すると人工透析が不可避

 

問題は血尿を軽視するなど、

IgA腎症の診療に熱のこもらない医師もいることです。

 

実は、かつてIgA腎症は治らない病気ではあるけれど、

慢性腎不全に陥るケースは少ない

予後良好の病と考えられていました。

そのため腎機能が低下し始めたら

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)などの

降圧薬で治療し、その進行を遅らすだけでよい、と

誤解している医師もいるのです。

 

しかし、近年はIgA腎症に対する考え方が

劇的に大きく変わってきました。

すなわち、IgA腎症を発症すると、

その後20年で40%、30年で50%の患者さんが

腎不全に陥り、人工透析を導入していることが

判明しています。

長い目で見ると予後不良の病気である

という事実がわかってきたのです。

 

注意しなければならない血尿やタンパク尿の異常

 

一方、先に述べたようにIgA腎症を早期発見し、

早期に扁摘パルス療法を試みれば、

治癒・寛解することも確かめられてきました。

それならば早期発見のカギを握る血尿は

重要な徴候であり、

患者自身も気をつけねばならない、との意識転換が

切実に求められているのです。

 

とくに中学や高校などの学校検尿で

血尿が見つかったお子さんは、要注意です。

軽視すると

将来に大きな禍根を残してしまいかねません。

 

また、症状がほとんどないことから

治療をドロップアウトする

中高年世代のIgA腎症の患者が目立ちます。

仕事や家事などに追われていることもあるでしょうが、

症状がないからといって放置していると

慢性腎不全から人工透析を受ける羽目に

陥りかねません。

肝に銘じておきたいことです。

 

いずれにしても健診で

血尿やタンパク尿の異常が指摘されたならば

腎臓内科専門医を受診し、

きちんとした検査と診断を受けることが

慢性腎臓病を見逃さない確かな手立て

といえるでしょう。

 

 

 

取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部

医療ジャーナリスト 松沢 実

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※記事/図版等の無断使用(転載)、引用は禁止といたします。

 


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