ごくわずかな化学物質に反応し、頭痛や吐き気、疲労感などの症状が出てしまう
「化学物質過敏症」。
柔軟剤や洗剤、建築資材などに含まれる化学物質のほか、
消毒用アルコールも原因になります。
新型コロナウイルス感染症の予防対策として、
手指などの消毒はこまめに行わなければなりませんが、
近くに化学物質過敏症の人がいるかも……と、
少し配慮した行動をとると助かる人たちがいます。
監修者情報 名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
成分を吸い込むだけで重い症状が出て寝込むことも
化学物質過敏症の人は、消毒用アルコールに直接触れなくても、
揮発した成分を吸い込むだけで、症状が出て苦しみます。
症状は多彩で、目・鼻・のどの刺激症状(ヒリヒリするなど)、
皮膚のかゆみ、全身の疲労感、倦怠感、頭痛、吐き気、めまい、
思考力の低下など、人によっていろいろです。
これらの症状のために、具合が悪くなって、
その場から移動することが難しくなったり、帰宅後に寝込んだりすることもあります。
柔軟剤や洗剤の香り成分、建築資材に含まれる防カビ成分など、
あらゆる化学物質に反応してしまうため、
化学物質過敏症の人は日頃からマスクを装着し、
化学物質に近づかないように注意しています。
しかし、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が流行し、
いたるところでアルコール消毒が行われるようになったことで、
体調不良となる危険性が増しているのです。
過剰なアルコール消毒を控え、除菌消臭スプレーの使用にも注意
化学物質過敏症の人に配慮した行動としてまず大切なのは、
過剰なアルコール消毒は控えることです。
たとえば、石けんと流水で手を洗ったあとに、
アルコール手指消毒も行う人もいるようですが、
きちんと手を洗えばアルコール手指消毒は必要ありません。
厚生労働省等が作ったコロナ対策の啓発資料にも、
石けんやハンドソープを使い、
「丁寧な手洗いを行うことで、十分にウイルスを除去できます。
さらにアルコール消毒剤を使用する必要はありません」
と明記されています。
新型コロナウイルスの消毒には、
次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)なども効果的ですが、
やはり化学物質過敏症の症状を引き起こしてしまいます。
不特定多数の人がいる環境のなかで、消毒剤などをスプレーするときには、
人が近くにいないか確認したり、
周囲に撒き散らさないように気をつけましょう。
また、衣類の除菌をしようと、
布用除菌消臭スプレーを使用する人も増えているようですが、
この成分も化学物質過敏症の人には危険なものです。
新型コロナウイルスが布の表面上で生息できる期間は、
2日間程度といわれているので、玄関でコートや上着を脱ぎ、
1〜2日おきに着るようにするといった工夫で、
過剰な布用除菌消臭スプレーの使用を避けることができます。
誰でも、ある日突然発症する可能性がある化学物質過敏症
化学物質過敏症が発症するきっかけになるのは、
何らかの化学物質に大量に曝露(化学物質や物理的刺激などに生体がさらされること)することや、
長期的慢性的に化学物質の曝露を受けること。
少ない量でも、繰り返しその化学物質にさらされ続ければリスクが上がります。
いったん化学物質過敏症になると、
ごく微量な化学物質に接触しただけでも、
頭痛や吐き気などの症状が出るようになります。
化学物質過敏症という病気の概念を、最初に提唱したのは米国の研究者です。
海外では多重化学物質過敏症(MCS)という名称が一般的ですが、
日本では化学物質過敏症(CS)と呼ばれています。
化学物質過敏症と関連する病気に、「シックハウス症候群」があります。
シックハウス症候群は、
建築資材などから発生する化学物質による室内の空気の汚染と、
それによる健康への影響で、1990年代以降社会問題化しました。
症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹などです。
日本では、化学物質過敏症の人の約6割が
シックハウス症候群をきっかけに発症しているとの報告があり、
アトピー性皮膚炎や喘息など、アレルギー疾患を持つ人で
発症リスクが高いといわれていますが、
誰でもある日突然発症する可能性があります。
現在、世界には5万種以上の化学物質が流通しているといわれ、
国内では、工業用として届け出されるものだけでも、
毎年300ほどの新たな化学物質が世の中に出回っています。
プラスチックによる海洋汚染など、
環境問題がクローズアップされていますが、化学物質の問題も実は深刻なのです。
まとめ
ごくわずかな化学物質にも反応し、頭痛や疲労感など
様々症状が現れる「化学物質過敏症」。
昨今の新型コロナウイルスの流行下で
どこに行っても消毒用のアルコールが置かれ、
体調を崩してしまう化学物質過敏症の方が多くいらっしゃいます。
そのような方がすぐ近くにいるかもしれないと少し意識するだけで
救われる方がたくさんいるということを意識しながら生活してみてはいかがでしょうか。
取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部
医療ライター/看護師 天野 敦子
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