手の小指と薬指の小指側半分がしびれる…それ、肘部管症候群かも?

肘部の診断中画像

肘部管症候群という病気を聞いたことがありますか?

 

「右手の小指と薬指の小指側半分がしびれる。ときどき痛みも生じる」

「肘を曲げると小指と薬指に生じるしびれや痛みがひどくなる」

「手枕で寝たり、頬杖をついたりすると、しびれや痛みが強くなる」

「心配なのは手の筋肉が痩せてきたこと」

「小指と薬指の間を開けたり閉じたりする力が弱くなってきた」

「親指と人差し指でものをつまめない。食事時に箸が使いづらい」

 

中高年で、こんな症状に悩む方が増えてきています。

肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)という肘の病気かもしれません。

すみやかに整形外科を受診し、きちんと調べてもらいましょう。

 

手や手の指(手指)などに異常があらわれる病気はいくつもあります。

中でも肘部管症候群は、

親指側の3本の指がしびれたり痛んだりする手根管症候群に次いで多い病気です。

 

本記事では誰もが無関係ではないこの「肘部管症候群」という病気について

詳しく解説していきます。

 

監修者情報

佐藤祐造

名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

 

小指などの感覚を伝える尺骨神経の弱点は肘部管

 

不調なのは手の指や手なのに、なぜ肘の障害や病気が原因なのか‥‥、

手の指と肘はどのような関連があるのか‥‥、

ちょっと疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。

まずこのことについて説明したいと思います。

 

腕は、①肩から吊り下がる上腕と、②肘から手首までの前腕

から成り立っています。

そして上腕は上腕骨、前腕は橈骨と尺骨という骨によって

支えられているのはご存じの通りです。

 

小指や手指、手首などを動かしたり、それらの感覚を伝えたりする神経を

尺骨神経といいます。

この尺骨神経は肩から上腕骨の内側を経て肘の肘部管へ、

そして尺骨の内側を走行し、手首や手指、指先などへ至るまで広く分布しています。

 

肘部と肘部管の構造

 

問題は尺骨神経に大きな弱点があることです。

それは肘の肘部管というところにあります。

肘部管は薄い皮膚の表面近くに存在し、その中を尺骨神経が走行しています。

そのため外からの圧迫を受けやすい、あるいは引っ張られやすい

などという弱点があるのです。

 

そして肘部管の中を通る尺骨神経が、圧迫や牽引などで障害を受けると

肘部管症候群を発症し、先述したさまざまな症状に悩むことになるのです。

 

 

肘部管は、骨と靭帯、オズボーンバンドなどに囲まれたきわめて狭い隙間

 

もう少し詳しく説明していきます。

 

肘部管というのは○○管という名前がついてはいるものの、

実際は尺骨神経がかろうじて通るごく狭い筒状の隙間です。

 

具体的には骨(上腕骨下端の出っ張り=上腕骨内側上顆)靱帯(滑車上肘靱帯)

オズボーンバンド(腱弓、尺側手根屈筋筋膜)などに囲まれた

きわめて狭い筒状の隙間なのです。

 

すなわち肩から上腕骨の内側を走行してきた尺骨神経は、

上腕骨内側上顆の溝(尺骨神経溝)から

滑車上肘靱帯とオズボーンバンドに囲まれた隙間=肘部管を通り抜け、

その後、尺骨の内側を経て手や手指などに至るのです。

 

肘部管の位置は、腕を曲げて肘関節を内側から叩き、

小指に痛みが走る箇所が肘部管の位置です。

この肘部管の中を通る尺骨神経は、腕を曲げたり頬杖をついたりすると

強く引き延ばされるうえに、かつ強く圧迫されます。

非常に障害を受けやすい箇所で、

これらの障害によって発症するのが肘部管症候群なのです。

 

 

細かい作業ができなくなり、手が平べったく変化?

 

一方、手には細かい動作を可能にする内在筋という小さな筋肉が20前後存在します。

そのうちの15の内在筋が尺骨神経から命令を受けて動きます。

 

また、内在筋の一つひとつの力は微弱であるものの、

すべて合わせた力は握力全体の4割前後にのぼります。

 

しかし、肘部管症候群を発症し、

それが進行すると内在筋をうまく動かせなくなります。

その結果、手の細かな作業ができなくなり、不器用とならざるを得ません。

 

また、内在筋の多くが痩せてきて、筋力低下をきたします。

加えて、手の自然な丸みが損なわれ、平べったい手となったりします。

あるいは、小指と薬指がぴんと伸ばせなくなり、

そのうちに変形が固定化してかぎ爪指変形をきたしたりすることもあります。

 

 

主な原因は老化による変形性肘関節症の発症や進行

 

肘部管症候群が発症する原因をいくつかあげてみたいと思います。

 

第一に仕事やスポーツで肘を酷使することが原因と考えられています。

大工さんなどは仕事の最中、頻繁に肘を曲げたり伸ばしたりして酷使するので

肘部管症候群を発症しやすいようです。

 

また、野球の投手は球種により、肘を捻るようにボールを投げるので

肘部管症候群を発症しやすい、といわれます。

 

第二に歳を重ねて肘関節の軟骨がすり減る変形性肘関節症の発症や進行が

主な原因として考えられています。

変形性肘関節症は肘関節の軟骨がすり減るのはもちろん、

進行すると上腕骨や尺骨などに小さな骨の出っ張り(骨棘)などが生じます。

 

こうした骨の変形により肘部管の中を通る尺骨神経が刺激を受け、

さまざまな症状があらわれるのです。

 

 

ガングリオンが生じ、それが大きくなって発症することも…

 

第三に肘部管の中にある靱帯が尺骨神経を圧迫したり、

肘関節の中にガングリオンが生じたりして、

それが尺骨神経を圧迫して肘部管症候群を発症させることもあります。

 

ガングリオンとは中にゼリー状の物質が詰まったコブで、

徐々に大きくなっていく腫瘤(しゅりゅう)です。

 

第四に子どもの頃に肘を骨折したり脱臼したりすると、

後遺症として外反肘や内反肘を招きます。

この外反肘や内反肘により尺骨神経に刺激が加わり、

肘部管症候群を発症させることもあります。

 

ちなみに外反肘とは腕をまっすぐに伸ばしたとき、

肘のところから親指側(外側)に湾曲する変形です。

内反肘はそれとは反対に肘のところから小指側(内側)に湾曲する変形です。

もちろん、これ以外にも肘部管症候群を発症させる原因はいろいろあります。

原因がわからないことも少なくありません。

 

 

尺骨神経に電気刺激を与える神経伝導検査も役に立つ

 

肘部管症候群の診断は、まず医師が患者さん自身の症状の訴えに

耳をよく傾けることから始まります。

 

また、肘の内側を叩いたとき、小指と薬指の一部がしびれるか否かを確認します。

さらに、超音波検査やエックス線検査、MRI検査などの画像検査を行い、

肘関節の変形やガングリオンの有無などを確かめ、原因を特定します。

 

加えて、尺骨神経に電気刺激を与え、

刺激の伝わる速度などの反応を調べる神経伝導検査も、正確な診断に役立ちます。

 

 

頬杖をついたり、手枕で寝たりするのは厳禁!

 

肘部管症候群の治療は肘を一時的に安静にする治療から、

全身麻酔による手術までさまざまな方法があります。

 

まず小指や薬指のしびれや痛みが軽い場合には、

可能な限り肘の酷使を避け、一時的に安静にするなどしてください。

 

日常生活では頬杖をついたり、手枕で寝たりするようなことは

決してしないでください。

 

仰向けに寝るときは、手のひらを上に向け、肘を伸ばしてください。

尺骨神経への負担が少ないといわれます。

 

しびれや痛みなどを抑える非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の

「ボルタレン」「ロキソニン」

神経因性疼痛緩和薬の「プレガバリン」などの服用も効果的です。

 

傷ついた尺骨神経の修復に役立つビタミンB12を補う「メチコバール」

服用するとよいでしょう。

 

安静や薬などによる保存療法の基本は、極力、腕を曲げないようにして

尺骨神経への負担を軽くすることです。

 

 

ひどい症状のときや、保存療法で改善しない時は、早めに手術を!

 

症状がひどい重症の場合や、薬などの保存療法で症状が改善しないときは、

早めの手術が求められます。

手や手指の筋肉が一旦やせたり、尺骨神経の痛みがそのまま進行したりすると、

その回復には長期の期間が必要とされるからです。

 

手術には、①オズボーンバンド切離術、②神経移行術、③上腕骨内側上顆切除術

などがあります。

 

オズボーンバンド切離術は肘部管で尺骨神経を締めつけている

オズボーンバンド(腱弓)をメスで切離し、症状を改善させる手術です。

症状が軽い肘部管症候群に行う手術で、日帰り手術で行うのが一般的です。

 

神経移行術は皮下前方移行術と筋層下前方移行術の二つがあります。

いずれもオズボーンバンドをメスで切離したうえで、

前者の皮下前方移行術は肘部管の中を通る尺骨神経を

前側の皮膚の下に移す手術です。

後者の筋層下前方移行術は腕の筋肉の下に尺骨神経を移す手術です。

 

2種類の神経移行術

 

両者とも日帰り手術が可能ですが、皮下前方移行術は約3週間、

筋層下前方移行術は約4週間、それぞれ肘を固定しなければなりません。

 

上腕骨内側上顆切除術は別名King法とも呼ばれ、

尺骨神経の周りの上腕骨を部分的に切除し、尺骨神経への圧迫を取り除く手術です。

全身麻酔で行い、手術の所要時間は1~2時間、一週間くらいで退院となります。

 

King変法という手術もあります。

こちらはオズボーンバンド切離術と上腕骨内側上顆切除術を同時に行う手術です。

 

いずれにせよ肘部管症候群と診断されたら、

主治医から治療法をきちんとうかがい、納得できる治療法を選んでください。

 

取材・文/NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部

医療ジャーナリスト  松沢 実

 

mis医療機関支援機構カルナの豆知識

 

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