【医師解説】なぜ、歳をとると腰が痛くなりやすいのか?

 

腰痛は最も多く見られる症状であり、現代社会における健康問題の重要課題の一つです。

さらに若い頃は腰が痛くなっても年に1度程度で痛みが出ても2.3日で治っていたのが、

歳と共に痛みが出やすくなり、痛みが引きにくくなります。

 

「なぜ歳をとると腰が痛くなりやすく、治りにくいのか?」

 

同じ腰痛でも若い頃の腰痛と年齢を重ねてからの腰痛には少し違いがあります。

今回は年齢と共に多くなる腰痛について解説しましょう。

 

監修者情報

佐藤祐造

名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

 

若い頃の腰痛の特徴

 

まずは若い頃の腰痛の特徴からお話ししましょう。

 

腰の部分の背骨のことを「腰椎」といい、腰椎の前側は椎間板という軟骨成分で支えられ、

腰椎の後側は椎間関節という関節で支えられています。

 

若い頃は普通に生活するだけで腰が痛くなることは稀で、腰椎への負荷が長く続き、

椎間板や椎間関節に問題が起きると腰痛が出ます。

 

腰椎椎間板症、腰椎椎間板ヘルニア

 

背骨と背骨の間には椎間板があります。

この椎間板は軟骨からなる髄核とそれを取り巻く、線維輪という膜でできています。

椎間板自体は歳と共に少しずつ痛みますが、若い頃から何度もストレスをかけられると若くても傷んでしまいます。

 

この椎間板にストレスがかかり、椎間板が膨らんだ状態が「椎間板症」といいます。

繊維輪には神経が多く存在し、椎間板が膨らむとこの神経が引っ張られるため腰痛が出ます。

 

この状態からさらに椎間板が膨らもうとすると繊維輪が破れ、中の髄核が外に飛び出します。

この状態を「椎間板ヘルニア」といいます。

 

椎間板ヘルニアになると腰痛だけでなく、足の痛みなどの神経痛も一緒に出ることがあります。

この場合の腰痛は腰を前にかがむ動作で傷みが強くなることが特徴です [2]

 

腰椎椎間関節障害

 

腰椎を支える後側の関節部分が痛むことで出る腰痛です。

腰をひねる動作やそらす動作が多いと関節の軟骨が傷み、腰痛が出ます。

体を後ろにそらすと痛みが強くなることが特徴的です。

また背中の中心ではなく、背骨の中心から2cm外側の左右どちらかに傷みが出ることが多いです。

 

腰椎分離骨折

 

腰椎は上下の背骨との間に椎間関節という関節を持ちます。

この上下の椎間関節の間で骨折することがあります。

特に10代に多く、スポーツによる疲労骨折が多いのが特徴です。

特にサッカーと野球/ソフトボールが多いスポーツとして挙げられています [3]

 

他にもダイビングやウェイトリフティングも多いとされています。

分離骨折は男児の方が多く、骨盤に一番近い腰椎で起こることがほとんどです。

折れている背骨の中央を真後ろから押したときに痛みが強くなることが多いです [4]

 

 

中年以降の腰痛の特徴

 

一方で、歳をとるにつれ様々な部位が傷みます。

もちろん腰椎も例外ではなく、歳をとるにつれ、椎間板が傷んだり、椎間関節が傷んだり、腰椎そのものが傷んだりします。

そのため若い頃とは異なり、ヘルニアや骨折がなくても腰が痛くなることがあります。

 

腰のCT画像

 

歳をとること自体が腰痛の原因

 

椎間板は30歳より若い段階から椎間板への血液の流れが悪くなり、傷んでいきます [5]

実は椎間板が傷んでしまうこと自体が腰痛の原因と報告されています [6]

つまり歳をとるとどうしても腰痛は出やすくなってしまいます。

 

腰椎の後側が傷む事での腰痛

 

椎間板が傷むと腰椎の前側の支えが弱くなるため、徐々に腰椎の後側も傷んでいきます。

腰椎の後側が傷んでいくことで出る腰痛を解説しましょう。

 

椎間関節の変化による腰痛

 

椎間関節はその文字の通り「関節」です。

関節には軟骨があり、関節軟骨がクッションの役割をしています。

 

しかし、歳をとると関節軟骨が傷み、骨と骨がぶつかってしまう事で痛みが出てしまいます。

 

「膝の軟骨が減ると膝が痛くなる」という話を聞いたことがありませんか?

同じことが腰にも起こるのです。

 

腰のCT画像(側面)

 

腰部脊柱管狭窄症による腰痛

 

腰椎の後側には椎間関節の他に「靭帯」があります。

腰椎がグラグラになると靭帯は切れたり、くっついたりを繰り返し、徐々に分厚くなります。

 

また椎間板の高さが低くなると靭帯は緩んでしまい、結果厚くなります。

靭帯は腰椎の神経が通るところのすぐ後ろにあり、靭帯が分厚くなると神経の通り道を狭くします。

この状態を「脊柱管狭窄症」といいます。

 

脊柱管狭窄症の代表的な症状は坐骨神経痛などの足の痛み・痺れですが、

実は腰椎の後側にも枝を出しているので腰痛が出ることもあります。

 

背骨が曲がって起きる腰痛

 

歳をとると椎間板が傷むお話をしました。

 

ただ、椎間板は左右前後対称に傷んでいきません。

左側だけが傷むと左側の高さが減っていき、腰椎は左に傾きます。

 

そして椎間板が全部傷んでしまうと椎間板がなくなり、その高さ分前側の高さが減るので腰椎は前に傾きます。

腰椎が変形することは腰痛の原因と昔から言われています。

 

腰椎の変形でなぜ腰痛が出るのかを解説しましょう。

 

CT画像

 

腰椎の変形は意外と多い

 

腰の骨が曲がっているならすぐ分かると思いますよね。

確かに片側に曲がっているのであればすぐに分かるかもしれません。

 

しかし、多くの場合は身体がそれを補うように他の場所でバランスを取るので病院で検査をするまで知らなかったという人も少なくありません。

 

実際に40歳以上の健常な女性の29.2%に変形が見られ、60歳以上であれば2人に1人は変形しているという報告もあります [7][8]

症状がなく、背骨がまっすぐに見えても意外と曲がっていることがあります。

 

腰椎の変形はなぜ痛いのか

 

腰椎が変形するとなぜ痛みが出るのか。

それにはいくつかの要因が挙げられます。

 

背骨が変形するということは椎間板が傷んで減っている状態です。

椎間板というクッションが少なくなると背骨と背骨が直接ぶつかります。

 

この時、背骨の縁が壊れることで出る腰痛と背骨の中で炎症が起こることで出る腰痛の2つがあります。

この2つの状態はどちらが先に起こるのかははっきり分かっていませんが、同時に見られることが多いです [9]

 

また、腰が後ろに曲がってしまうことも腰痛の原因としてわかっています。

 

背骨が前に曲がった状態は椎間板や背骨そのものへの負担を大きくし、

腰が前に曲がった状態の人は背骨まわりの筋肉が少なくなっていることが多く、

そのことも影響して腰痛が出やすくなります [10]

 

 

自分でできる腰痛対策

 

歳をとっても腰が痛くならないようにするために何かできることはないのか。

皆さんが一番気になるポイントではないでしょうか。

 

ただ、残念ながら椎間板は歳をとると絶対に傷んでしまうのでこれによる腰痛を防ぐことは至難の技です。

 

そして変形してしまった事で起きる痛みも防ぐことも難しいでしょう。

ではどうするか。

 

それは背骨の周りの筋力が落ちないようにすることです。

椎間板が傷むことは防げませんが、背骨まわりの筋肉を可能な限り維持することで背骨が変形するのを遅らせることはできます。

背骨周りの筋肉を鍛えると腰痛が軽くなるとの報告もあります [11]

 

ではどのように背骨周りの筋肉を鍛えるのか。

腰椎の周りには前側の腸腰筋と言われる足を持ち上げる筋肉と最長筋や多裂筋に代表される脊柱起立筋という後側の筋肉があります。

背筋を伸ばして歩くとこのどちらも鍛えることができるのでウォーキングはオススメです。

 

またプランクという体幹筋を鍛える運動もあります。

プランクの詳細はYouTubeやネットで「プランク」と調べるといっぱい出てくるのでそれを見ながらやってみてください。

 

背骨まわりの筋肉をつける、または維持することで腰痛が出る回数を少しでも減らしましょう。

 

 

まとめ

 

今回は歳をとると腰痛が出やすくなる理由を解説しました。

若い時の腰痛と異なり、歳をとったことによる変化での腰痛が主なため100% 腰痛を防ぐということは難しいです。

 

ただ、腰が痛くなる回数を少しでも減らすことはできます。

腰が痛くなると日常生活に色々と支障が出ます。

 

可能な限り、腰が痛くならないよう日頃から運動をすることで予防をしましょう。

 

参考文献

[1] 戸山芳昭, 大谷俊郎 監修, 整形外科専門医になるための診療スタンダード, 脊椎・脊髄

[2] Jeffrey H. et al, The Spine Journal, 2022, in press

[3] 清水克時, 腰痛 知る 診る 治す. 2008

[4] 岡田英次朗 ほか, MB Med Reha, 2020, No 249, 1-6

[5] Hoy D. et al, Arthritis Rheum, 2012, Vol. 64, No. 6, 2028-2037

[6] 細金直文, 関節外科, 2019, Vol.38, No.12, 1255-1259

[7] 森口悠, Pharma Medica,2019, Vol. 37, No.1, 31-35

[8] Yamada K. et al, Spine, 2016, Vol. 41, No.10, 872-879

[9] 司馬洋, 種市洋, 関節外科, 2019, Vol.38, No.12,1250-1254

[10] Kato S. et al, PLoS One, 2021, Vol.16, No.1, 1-11