代表的な生活習慣病のひとつとして知られている
糖尿病に関する発症原因のひとつに不規則な生活やストレス、
あるいは動脈硬化などが関係しているとされており、
糖尿病は働き盛りの若い世代から高齢者にかけてわが国でも罹患者が多い病気です。
糖尿病に罹患してから、これまで以上に手足が冷えやすくなった気がすると感じたことはありませんか。
この手足の冷え症状と糖尿病は直接的に関係があるのでしょうか。
糖尿病で手足が冷えやすい原因はどのようなものがあって、
症状が悪化したらどうなるのか心配な方々も多いと考えます。
糖尿病を発症してから、冷え性を改善したいがどのような対処策があるのでしょうか。
今回は、糖尿病で冷えやすい原因と冷え性を改善させる方法を中心に解説していきます。
監修者情報 名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長
糖尿病と冷え性の関係
糖尿病という病気は、体内の血糖値を下げる役割を有するインスリンというホルモンが
十分に機能しなくなった状態であり、慢性的に高血糖の状態が続く疾患であると認識されています。
生体の血糖値が高い状態が長期間継続して放置されると全身の血管が傷ついて手足の血流も悪くなり、
多彩な合併症を引き起こすことに繋がります。
手足が冷えてしびれるなどの症状は、四肢を含めた全身の血流が低下することが密接に関係しており、
糖尿病など深刻な病気が潜在していることもあると指摘されています。
糖尿病の罹患者において、日常的に血糖値のコントロールが悪い状態に陥ると、
全身レベルにおいて動脈硬化性変化が進行するだけでなく、
特に下腿動脈や足背動脈など膝部から末梢側の動脈が閉塞しやすくなると言われています1)。
基本的に、足周囲を走行している動脈は、
足の指先の方向に向かって血管を介して血流を送っており、
末梢組織に酸素と栄養分を常日頃から供給している役割を担っています。
特に、膝下部に関しては血流の迂回路が形成されにくく、
足部の虚血性変化が悪化して足の冷え性などの症状が重症化しやすいことが知られています。
全身をめぐる毛細血管は、各組織にとって必要な酸素や栄養分を運搬する重要なルートであり、
糖尿病によって毛細血管が障害を受けると、
全身組織に十分な酸素などが行き渡らなくなることで
足の冷えや痛みなどの症状を呈することが知られています。
また、糖尿病と強く関連している足の動脈疾患で多く認められる病気として、
血管組織が動脈硬化性変化に伴って途中段階で狭くなる、
あるいは閉塞して酸素不足や栄養供給減少を引き起こす
「末梢動脈疾患」や「下肢閉塞性動脈硬化症」が代表例として挙げられます。
下半身を流れる動脈は、骨盤部で左右に枝分かれして、大腿部および下腿部を通じて、
足先に向かって血液を供給していますが、これらの主要な血管が狭小化する、
もしくは閉塞をきたすことで血流を末梢組織に十分提供できずに
酸素不足に陥って足の冷え性に繋がります。
糖尿病患者が冷え性になる仕組み
糖尿病の患者さんでは、足の冷え性や足先の痛みは、
神経障害が原因で発症する場合が考えられます。
糖尿病における臨床症状は非常に多種多様に及びますが
、糖尿病に伴う神経障害の場合には、高血糖が持続することによる神経細胞の変化、
そして動脈硬化性変化による神経細胞への血流不足から症状を呈すると判明しています。
したがって、これらの神経障害に関連する症状を予防するためには、
普段からの血糖コントロール、および動脈硬化の進展を
予防する対策を講じることが重要なポイントです。
また、糖尿病を罹患すると全身の毛細血管が傷ついてダメージを受けることで、
手足の感覚や運動の機能を司っている自律神経系システムに悪影響を与えて、
手足がしびれて冷えやすくなる症状が出現することがあります。
足の冷え性だけでなく、足に違和感があって日々皮膚が乾燥しやすく
ひび割れを認めるなどの症状を自覚した際は、
足先にかけての血流停滞によって引き起こされていると想定されるので、
速やかに病院など専門医療機関で精密検査を受けてください。
悪化したら動脈硬化になるって本当?
動脈血管は、加齢や不規則な生活習慣などに伴って硬くなって閉塞することがあり、
これらの変化を「動脈硬化」と呼称しています。
糖尿病に関しては、これらの動脈硬化性変化が特に膝下部より
末梢側(足先側)に認められることが多いために、
足先の冷えや足領域の感覚鈍麻などの症状に繋がるものと考えられています。
糖尿病では血液中に血糖成分が増加しているため、
血中の活性酸素成分が多くなって血管壁を傷つけると同時に、
損傷してダメージを受けた血管の壁にコレステロール成分が入って
沈着しやすくなってしまい、動脈硬化を引き起こす直接的な原因になります。
また、全身の血管において動脈硬化性変化を認める場合には、
血管内部のプラークが破れて同部を修復するために
「血栓」と呼ばれるかさぶたのような組織を自然に作成しますが、
この血栓成分によって血管を詰まらせて急性動脈閉塞症などを発症する場合があります。
糖尿病による冷え性を改善する方法
動脈硬化の危険因子を改善する
糖尿病に随伴して末梢動脈疾患による手足の冷え症状を予防、
あるいは改善するために、日常的にバランスの優れた食事や適度な運動を心がけることが重要です。
また、普段から喫煙している場合には、禁煙することが必要であり、
糖尿病を始めとして高血圧、脂質異常症、過剰なストレス、肥満症など動脈硬化の危険因子となる
リスクファクターを出来る限り制御することが求められます。
薬物療法・運動療法
生活習慣の是正などでも手足の冷え症状が改善されない時には、
薬物治療と運動療法が実施されます。
例えば、薬物治療においては、
血液をサラサラにする作用を有する抗血小板薬を処方して服用を継続することで、
動脈硬化の病状進行を抑制して、全身における動脈の閉塞病変を予防する治療が推奨されています。
また、運動療法では、担当医やリハビリスタッフの指導のもとで
1日およそ30分以上のウォーキングを始めとする
歩行訓練週3回程度実施を数か月以上継続すると、
多くの場合、足の血流が改善して症状が軽快すると考えられています。
血行再建術
薬物治療や運動療法でも症状が顕著に改善しない場合は、
血管が狭窄あるいは閉塞して途絶えた血流を再開させるために
根治的な外科的血行再建術が実施されることもあります。
血行再建術の内容としては、
動脈硬化を引き起こしている血管を血管内腔から拡張させる血管内治療、
あるいは中枢側の主要血管から閉塞血管を迂回してその先の末梢血管に
人工血管などでつなげるバイパス手術が挙げられます。
具体的に、血管内治療においては、カテーテルを通じて風船(バルーン)を膨らませて、
血管を拡張させるバルーン治療、ならびに医療用の金属デバイス(ステント)を血管内で
拡張させて固定するステント留置術が主流となっています。
これらの血行再建術に関する治療手段は、ここ数年で飛躍的に医療技術や治療器具が進歩しており、
これまでは治療が困難であった病変部位に関しても、積極的な治療適応の幅が拡大してきています。
まとめ
これまで、糖尿病と冷え性の関係、冷え性に対する改善策を中心に解説してきました。
糖尿病を罹患していて、手足の痛みや冷え性を普段自覚している場合には、
もしかすると血管の老化現象である動脈硬化が進行している可能性が懸念されます。
糖尿病は全身の血管疾患であると認識されており、
日々の運動や食事などに関する生活習慣の是正のみならず
薬物治療などを含めたトータルケアが非常に重要なポイントです。
足の「冷え症」を軽微な症状だと考えて病院を受診しない糖尿病患者さんもいらっしゃいますが、
いったん症状が悪化すると足が壊死する危険性も危惧されますので、
心配であれば最寄りのクリニック、あるいは糖尿病内科、
循環器内科など専門医療機関に相談しましょう。
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今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。
【出典】