高齢者と糖尿病

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    自分の親が医師から糖尿病と診断された方はいらっしゃいますでしょうか?

     

    これまでの生活習慣を後悔したり、この先の治療や自分がこれから何をすればいいのかと不安になることもあるでしょう。

    しかし、糖尿病と診断されてからも糖尿病の正しい知識を得て、

    しっかり治療をすれば糖尿病の進行を予防し、今までと同じような生活を送ることは可能です。

     

    今回は高齢者糖尿病の特徴とは何かという基本的なところから、

    高齢者の糖尿病の治療の注意点等実践的なお話しをさせて頂きます。

     

    監修者情報

    佐藤祐造 []

    名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

    内科医、医学博士。名古屋大学大学院医学研究科修了。専門は内科・糖尿病学・スポーツ医学など。日本糖尿病学会理事、日本臨床スポーツ医学会会長、日本肥満学会会長などを歴任。著書に『糖尿病教室』(新興医学出版)ほか。

     

    高齢者糖尿病の特徴

     

    糖尿病と一言に言っても、若い方と高齢者ではさまざまな違いがあります。

    まずは糖尿病とはどんな病気か・高齢者糖尿病の特徴を解説しましょう。

     

    糖尿病とはどんな病気か

     

    通常、食事をすると血糖値が上がります。

    この血糖値が高い状態が続くと、血管や臓器を傷めます。

    そのため血糖値を下げるために膵臓からインスリンというホルモンを分泌し、血糖値を下げるようにします。

     

    糖尿病とはインスリンが膵臓から分泌されない状態となることや、インスリンの効果が出にくい状態のことです。

    生活習慣病とも言われますが、このインスリンの分泌に関しては遺伝の影響があります。

    過去の疫学研究では、両親が糖尿病の場合その子供はそうでない場合の34倍発症するというデータがあります。

     

    出典:後藤田 貴也. 遺伝子異常に伴う糖尿病

     

    高齢者糖尿病の特徴、症状

     

    一般的に血糖値が高くなると、喉の渇きや尿の回数が増える、疲れやすい等の自覚症状が出てきます。

    しかし、高齢者の場合はこれらの症状が出にくい、進行しても気づきにくい特徴があり、検査で初めて指摘される事が多いです。

     

    高齢者糖尿病の合併症

     

    血糖値が高いと血管が痛みます。

    これにより糖尿病になると様々な臓器に影響が出ます。

    代表的な合併症は下記の3つですが、それ以外にも高齢者に特有の合併症があります。

     

    糖尿病性神経障害

     

    初期は運動神経より感覚神経の障害がされやすく、しびれや痛みを感じにくい等の症状があります。

    そのため怪我をしても気づきにくいこともあります。

     

    糖尿病網膜症

     

    網膜とは目の中にあり、この機能により私たちは外の景色を見ることができています。

    網膜は細い血管が多いため、この血管が障害されると視力が落ちます。

    最悪の場合は失明に至ります。

     

    糖尿病性腎症

     

    腎臓は血液の中から不要な老廃物を取り除くための臓器です。

    しかし、腎臓の血管が障害されると腎臓の働きが落ち、体の中に老廃物が溜まります。

     

    もし、十分に老廃物が取り除けず、溜まり続けると尿毒症という状態になり、最終的には死に至ります。

    そのため腎臓が働かなくなった場合、人工的に老廃物を体外に排泄する必要があります。

    それが人工透析(血液透析)です。

    透析は週に3回、1回あたり4-5時間程の時間が必要であり、日常生活に多くの影響があります。

     

    高齢者に特徴的な合併症

     

    高齢者の場合は糖尿病だけでなく、高齢に伴う病気のリスクを上げるという特徴があります。

     

    認知症や転倒による骨折、うつ、低栄養、サルコペニア(全身の筋肉、筋力の低下)などの

    老年症候群と言われる病気が糖尿病ではない人に比べて約2倍おこりやすくなります。

     

    出典:荒木 厚. 高齢者糖尿病. 臨床と研究. 98 (1). 2021

     

     

     

    高齢者の糖尿病治療の注意点

     

    診断されたとしても適切に治療をすれば合併症を予防する事が可能です。

    では親が糖尿病と診断された場合、糖尿病を進行させないためにはどのようにサポートすべきでしょうか。

    高齢者糖尿病の治療には注意点が主に2つあります。

    注意点とそれぞれの対処法について解説しましょう。

     

    薬の自己管理が難しい

     

    糖尿病は認知症になるリスクが高いと言われています。

    発症のメカニズムは不明ですが、糖尿病の場合そうでない方と比較し有意に発症率が高くなる報告があります。

     

    出典:横野浩一. 糖尿病と認知症. 日本内科学会雑誌. 99 (7). 1678-1684. 2010

     

    認知症になると薬の自己管理が難しくなり、

    糖尿病のコントロールが悪くなりさらに認知症のリスクも高まるという悪循環になります。

    そのためにも高齢者に対しては薬をきちんと飲めるようなサポートが必要です。

     

    薬を朝・昼・晩に分けて一袋にすること(薬局で1包化を依頼できます)や

    1週間分の薬を入れられるケースを用意することで薬の飲み忘れを予防しましょう。

     

    糖尿病薬の副作用が出やすい

     

    糖尿病の薬の作用は主に血糖値を下げることです。

    しかし、注意点として、高齢者の場合は血糖値が下がり過ぎる状態である「低血糖」が起きやすい事、

    またその自覚症状が出にくい事です。

     

    一般的に低血糖の症状は、動悸(胸がドキドキする)、手足の震えや、汗が出ることで、ひどい場合には意識がなくなることもあります。

    高齢者が低血糖になりやすい理由は高齢になると腎臓の働きが落ちるためです。

    腎臓の働きが悪くなると飲んだ薬が排泄されず、薬の効果が残ってしまうため、

    血糖を下げる働きが食事をしていない時にも残ってしまい、低血糖になります。

     

    さらに自律神経の機能も落ちやすくなるため、低血糖を脳が感知しにくくなります。

    低血糖は最悪命に関わる病態です。

    典型的な症状は出ていなくても、もし高齢者の糖尿病患者が普段と様子が違うと感じた場合はすぐに病院を受診しましょう。

     

    高齢者の低血糖の予防と対処方法

     

    低血糖は薬の副作用で血糖値が下がりすぎる結果で起こします。

    そこで高齢者の糖尿病患者の血糖コントロール目標値は若い人と違う目標値となっています。

     

    また低血糖には食事の量も関わってきます。

    高齢者の場合は食事に対し、若い糖尿病患者とは違う問題点があります。

    それぞれ解説しましょう。

     

    高齢糖尿病患者の血糖コントロール目標値

     

    血糖値を急激に下げる薬(インスリン、su薬など)を使用している場合、低血糖になる可能性があります。

    若い糖尿病患者の血糖値は合併症予防のためHbA1c 7%未満を目標とします。

    HbA1c とは過去1-2ヶ月間の血糖値を反映している数値です。6.5%以上が続くと糖尿病が疑われます。)

    高齢糖尿病患者の場合は認知症などを考慮し、低血糖にならないよう若い糖尿病患者よりも目標値が高くなります。

     

    高齢な糖尿病患者の血糖コントロール目標値

     

    加齢に伴い、低血糖の危険性が高くなることを十分に注意する必要があります。

     

    高齢糖尿病患者の食事の注意点

     

    高齢者は適切な食事をとっていない場合に低栄養や筋力の低下が問題となります。

    高齢者の場合、約25-35kcal/kg(体重)のエネルギー摂取が推奨されています。

    75歳以上の場合、29-34.7kcal/kg(体重)で死亡リスクが低下するとの報告もあり、

    糖質の摂取を抑えること以上に適正なエネルギー摂取をすることが重要となります。

     

    また、高齢者は筋肉が落ちないように1.0-1.2g/kg(体重)のタンパク質を摂取することが欧州栄養代謝学会から推奨されています。

     

    しかし、タンパク質の摂りすぎは腎臓に負担をかけます。

    高齢糖尿病患者は糖尿病性腎症により腎臓の働きが落ちていることがあるため、糖尿病性腎症が進行している場合、

    タンパク質の量を減らさないと腎機能が低下し、血液透析が必要になることがあります。

    腎臓の状態を把握した上でタンパク質の摂取量を考える必要があります。

     

    出典:荒木 厚. 高齢者糖尿病. 臨床と研究. 98 (1). 2021

     

    高齢糖尿病患者に対する食事の対策

     

    高齢になると食事を上記のように細かく調整することが難しくなります。

    または現時点では問題がなくても今後、難しくなることが想定されます。

    その場合は周りの人のサポートが必要になります。

     

    しかし自分の仕事が忙しく、糖尿病患者の食事を管理する時間を取れない方も多いでしょう。

    そのような時は特定保健指導の申し込みをしましょう。

    保健師、管理栄養士等の専門スタッフから生活習慣を見直すサポートを無料で受ける事ができます(ただしこちらは40-74歳の被保険者が対象です)。

     

    75歳以上の後期高齢者では介護保険を申請し、介護サービスを利用することで食事の用意や薬の管理などをしていただけるため、

    介護サービスの利用を視野に入れましょう。

     

     

     

     

    まとめ

     

    今回は高齢者糖尿病の症状、合併症、治療の注意点、合併症の予防について解説しました。

    主な特徴としては自覚症状が出にくい、進行しても気付きにくい、薬の副作用が出やすいことです。

     

    糖尿病は進行すると糖尿病性神経症、網膜症、腎症など日常生活に多くの影響を与える病気になります。

    確かに糖尿病と診断されても適切に治療を行えば今までと変わらない日常生活を送ることが可能です。

     

    しかし、高齢者の場合は患者自身だけで糖尿病の治療が適切に行えないことがあります。

    周囲の人の助けが必要です。

     

    そしてそれは家族だけで頑張る必要はありません。

    行政のサービス等を利用し、無理なくサポートをするようにしましょう。

    最後まで読んでくださりありがとうございます。

    今回の記事を通して皆様の参考になれば幸いです。

     

     

    【出典】

    後藤田 貴也. 遺伝子異常に伴う糖尿病

    荒木 厚. 高齢者糖尿病. 臨床と研究. 98 (1). 2021

    横野浩一. 糖尿病と認知症. 日本内科学会雑誌. 99 (7). 1678-1684. 2010