立ち上がる時の膝の痛みは「変形性膝関節症」かも…その治療法とは?

膝の痛み

 

歩き出す時、椅子から立ち上がる時…

 

「ピキ…!!」と膝に痛みが走ったことはありませんか?

 

もしかすると、それは「変形性膝関節症」かもしれません。

 

歳を取るにつれてその痛みや腫れの症状があらわれる変形性膝関節症は、

膝の悩みを訴える中高年に最も多い病気です。

 

本記事では、はじめに簡単な膝や関節の仕組みの説明から、

変形性膝関節症を起こす原因までを詳しく解説します。

また、病気の進行段階によって異なる、適切な治療法についてもご紹介します。

 

椅子から立ち上がるときに膝が痛むなら、変形性膝関節症かも……

 

「歩き出すときに膝が痛い」

「正座や椅子から立ち上がったりするときに膝が痛む」

「階段を上り下りすると膝が痛い」

 

こんな膝の痛みを訴える中高年にもっとも多い病気が

変形性膝関節症へんけいせいひざかんせつしょうです。

 

 

膝の関節は

太ももの骨(大腿骨だいたいこつ)とすねの骨(脛骨けいこつ)、お皿の骨(膝蓋骨しつがいこつ)の

3つの骨と、その周りを支える靱帯じんたいけん、筋肉によって

つくられています。

 

骨同士がじかに接していると、

ゴツゴツとして関節がスムーズに動きません。

 

そのため骨の表面は滑らかで、

弾力性に富む、厚さ3〜4㎜ほどの

軟骨(関節軟骨)に覆われています。

 

加えて、大腿骨と脛骨の隙間には、

半月板はんげつばんという軟骨組織も挟まっています。

関節軟骨や半月板は

歩いたり走ったりするときの衝撃を吸収する

クッションの役割を果たしています。

 

 

いずれも歳をとるに従って徐々にり減り、

その結果、痛みや腫れなどの症状を招くのが

変形性膝関節症です。

 

 

具体的には関節軟骨や半月板の表面が摩耗まもうして毛羽立けばだったり、

その一部が剥がれてかけらとなったりして、

関節内を刺激して炎症から痛みを引き起こしたりします。

 

さらに関節軟骨が擦りきれて消失し、骨と骨が直接ぶつかりあい、

骨がはみ出すように増殖して骨のトゲ(骨棘こっきょく)をつくったりするなど、

膝の変形を推し進めたりすると

いっそう激しい痛みが生じてしまうのです。

 

摩耗箇所によって3つのタイプに分けられる変形性膝関節症

 

変形性膝関節症は関節軟骨が摩耗する場所によって、

内側型ないそくがたと②外側型がいそくがた、③膝蓋型しつがいがたの3つのタイプに分けられます。

 

本来なら、骨と骨の接触面(関節軟骨)は、

均等に荷重がかからねばなりません。

しかし、変形性膝関節症の発症により、

関節軟骨にかかる荷重が偏ってかかるようになります。

 

そのため摩耗箇所が異なり、3つのタイプに分けられるのです。

 

 

内側型の変形性膝関節症は、

膝関節の内側の関節軟骨が擦り減っていくタイプです。

外側型は膝関節の外側の関節軟骨、

膝蓋型は膝蓋骨の裏側が擦り減っていくタイプです。

 

日本人は生まれつきO脚傾向の人が多いため、

内側型の患者が多数を占めます。

 

変形性膝関節症

 

グレード3に進行すると膝が横ブレを起こす

 

一方、変形性膝関節症の進行は、

グレード1〜5までの5段階(立位りついX線グレード分類)に分けられます。

 

変形性膝関節症

 

グレード1は骨棘が生じている段階です。

 

グレード2は大腿骨と脛骨の関節軟骨が擦り減り、

骨と骨の間の隙間(関節裂隙かんせつれつげき)が狭くなっているものの、

その狭小が3㎜未満で、

正常な場合の2分の1以上の隙間を残している段階です。

 

 

グレード3は関節裂隙がさらに狭まり、

それが正常な場合の2分の1以下になり、

部分的に隙間の消失・閉鎖が見られる段階です。

膝を支える靱帯などが緩み、

膝が横ブレを起こすようになります。

 

 

グレード4は関節裂隙の消失により

骨の荷重面が摩耗・欠損したものの、

その摩耗・欠損がまだ5㎜未満にとどまっている段階です。

 

そしてグレード5は骨の摩耗が5㎜以上に進み、

大腿骨と脛骨がずれて膝が傾いてしまった段階です。

 

軽傷の段階ならば保存的治療が基本

 

変形性膝関節症はその進行病期に応じて、

適切な治療を行うことが求められます。

 

治療は保存的治療外科的治療の2つに大きく分けられます。

 

保存的治療には日常生活の改善をはじめ、

運動療法や薬物療法、理学療法、装具療法などがあります。

 

一方、外科的治療には

関節鏡手術かんせつきょうしゅじゅつ高位脛骨骨切こういけいこつこつきじゅつ人工膝関節置換術じんこうひざかんせつちかんじゅつがあります。

 

 

グレード1や2のまだ軽症の段階では保存的治療が基本です。

そして、なによりも膝の負担を軽くするため、

生活スタイルの改善や減量が必要とされます。

 

 

畳や布団、和式トイレなどの生活から、

椅子やベッド、洋式トイレなどの生活に切り換えることで

膝の負担を軽減させます。

痛みが辛いときは、

坂道や階段をのぼらないように注意するといったことが大切です。

 

 

肥満の解消も膝の負担を大きく軽減させます。

肥満している場合は食事量を減らすと同時に運動に励み、

ダイエットを成功させることが不可欠といえるでしょう。

 

日々の運動療法がもっとも有効な保存的治療

 

変形性膝関節症の保存的治療の中で

もっとも有効なのが運動療法です。

 

膝の関節を支える筋肉を鍛え、

膝関節への負担を軽くすること、

同時に膝の動きをなめらかにすることが目的です。

 

運動療法によって膝の痛みや膝の運動機能が改善し、

症状の進行を抑えられることが、

さまざまな研究によって立証されています。

 

 

運動療法には

足上げ運動やハーフスクワットなどの筋力トレーニング、

太ももの大腿四頭筋だいたいしとうきんやハムストリング(大腿二頭筋だいたいにとうきん半膜様筋はんまくようきん半腱様筋はんけんようきんなど大腿後面だいたいこうめんにある筋肉の総称)などのストレッチング、

太極拳やウォーキングなどの有酸素運動などがあります。

 

医師と相談し、

適切な運動を日常生活のなかにうまく取り入れることが

長続きさせるコツです。

 

関節軟骨への十分な栄養補給には膝の曲げ伸ばしなどの運動療法が不可欠

 

変形性膝関節症の保存的治療の中で

運動療法がもっとも有効と認められているのは、

きちんとした理由があります。

 

 

実は、

変形性膝関節症で摩耗する関節軟骨は、血管も神経も通っていません

 

いわばスポンジのような組織で、

膝の曲げ伸ばしによって

軟骨の圧縮と膨張が繰り返されます。

 

軟骨が圧縮されるときにその中の老廃物を排出する一方、

圧縮された軟骨が膨張する際に

関節液を吸収し、

栄養分と水分が軟骨に補給されます。

 

 

軟骨への十分な栄養補給には、

膝の曲げ伸ばしなどの運動が不可欠であり、

それゆえに運動療法は保存的治療の基本とされるのです。

 

 

保存的治療は、ほかに薬物療法や理学療法、装具療法などもあります。

膝の痛みや腫れを抑えたり、

膝への負担を軽くしたりするため、

医師の指導に従い

適宜さまざまな保存的治療を組み合わせて

治療に取り組むことが大切です。

 

保存的治療で痛みなどが抑えられないときは外科的治療を…!

 

変形性膝関節症が進行すると、

関節軟骨の一部が剥がれて関節内を刺激したり、

半月板が断裂して変形したりします。

 

こうなると保存的治療だけでは痛みや腫れなどの症状が抑えられず、

日常生活に重大な支障をきたすので

関節鏡手術などの外科的治療が必要とされます。

 

 

関節鏡手術は膝のなかに直径約5㎜の関節鏡を挿入し、

剥がれた軟骨のかけら(遊離体ゆうりたい)を取り除いたり、

あるいは断裂して変形した半月板を修復したりします。

 

 

また、関節鏡手術の最中に生理食塩水で関節のなかを洗い流すため、

炎症を起こすサイトカインなどの物質が除去され、

痛みなどの症状もすみやかにとれることがあります。

 

グレード3の中等症ならば高位脛骨骨切り術が最適

 

変形性膝関節症がグレード3の中等症や、

グレード4や5の重症へ進行した場合は、

高位脛骨骨切り術(HTO手術)や

人工膝関節置換術が必要とされます。

 

とくに最近、改めて大きな注目を浴びているのが

高位脛骨骨切り術です。

 

 

高位脛骨骨切り術は内側の関節軟骨が擦り減り、

O脚となっている内側型変形性膝関節症の患者さんに適用されます。

 

膝下の脛の骨に内側から切りこみを入れ、

そこを広げて楔状くさびじょうの人工骨(β-TCP=βリン酸三カルシウム)を

挟みこむ手術です。

 

変形性膝関節症

 

いわばO脚をX脚気味の足に修正し、

膝関節の内側に偏っていた過重な負荷を、

軟骨がまだ十分に残っている外側へ移すことで、

痛みなどを解消させる治療法です。

 

 

高位脛骨骨切り術は患者さん自身の膝関節を残せるため、

後述する人工膝関節とは比べものにならないほど

体のバランスがうまくとれるのが大きな特長です。

 

ちょっとやそっとで倒れることはありません。

加えて、動きの激しいハイキングや山登りなど

可能なスポーツも幅広くなります。

 

人工膝関節では不可能な正座も、

約7割の患者さんができるようになります。

 

 

加えて、脛骨に挟みこんだ人工骨は、

月日の経過とともに本物の骨に置き換わっていきます。

 

さらに、擦り減った関節軟骨と同じような組織が

膝関節の内側に再生され、

変形性膝関節症の進行を抑えてくれるのです。

 

 

高位脛骨骨切り術は関節軟骨がまだ残存し、

膝関節を支える靱帯などがしっかりとしている中等症、

グレード3の変形性膝関節症の患者さんが対象となります。

 

かつては約2カ月の入院期間を要していましたが、

改良型の新手法の確立によって

約4週間で退院できるようになりました。

 

健やかな日常生活が取り戻せる人工膝関節置換術

 

膝関節の関節軟骨が摩耗して消失し、骨まで削り取られる

グレード4や5の重度の変形性膝関節症に進行した場合は、

膝の関節をすべて人工膝関節に置き換える

人工膝関節置換術が必要とされます。

 

痛みや変形などで動かせなくなった膝でも、

人工膝関節置換術を受けると

買い物や外出なども可能となり、

普通の日常生活が送れるようになります。

 

 

最近は人工膝関節の耐用年数が

20~25年前後まで延びています。

 

長期にわたる信頼性が高まり、

日本でも年間約8万人の患者さんが

人工膝関節置換術を受けています。

 

 

人工膝関節置換術の入院期間は約1カ月です。

膝の手術の中ではもっとも肉体的負担が大きいといえます。

人工物を体のなかに入れるため、

術後も感染症などに十分注意しなければなりません。

 

 

変形性膝関節症の治療は、

保存的治療から外科的治療までさまざまな方法があります。

 

進行病期に応じた適切な治療法を選ぶのはもちろん、

個々の患者さんの希望や

ライフスタイルに即した手術を選択することが大切です。

 

 

 

取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部

医療ジャーナリスト 松沢 実

mis医療機関支援機構 カルナの豆知識

 

※記事/図版等の無断使用(転載)、引用は禁止といたします。


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