「高齢者である母親が転倒により
大腿骨近位部を骨折し、どうしたらいいか悩んでいる」
このようなお困りごとはありませんか?
大腿骨近位部骨折の治療は、歩行等が早く可能となる
すみやかな手術を行うことが重要です。
なぜなら骨折によりベッドで動けない状態が長く続くと、
全身の筋肉が瘦せ衰え、寝たきり(要介護状態)に
なってしまう可能性があります。
本記事を読んで、「大腿骨近位部骨折」の
治療方法を詳しく知り、
すみやかな手術ができるように準備しましょう。
年間20万人以上にのぼる高齢者の大腿骨近位部骨折
近年、太ももの付け根の骨を折る
65歳以上の高齢者が急増しています 。
年間20万人以上にのぽる
という報告もあるから衝撃的です。
太ももの付け根の骨とは大腿骨の上端付近を意味し、
医学的には大腿骨近位部と呼びます。
大腿骨近位部骨折は、主に
①大腿骨の上端の骨頭と隣接する湾曲箇所(頚部)の骨折=大腿骨頸部骨折
②そのすぐ下の転子部の骨折=大腿骨転子部骨折
の2つに大きく分けられます。
実は、大腿骨近位部骨折の原因は9割以上が転倒です。
転倒といっても派手なものではありません。
「部屋の中でつまずいた」
「尻もちをついた」
「廊下と和室の段差に足を引っかけてしまった」
こういったちょっとしたきっかけから倒れ、
大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折を招く
ケースがほとんどなのです。
高齢になると筋力などの低下から
転びやすくなっている方や、
骨が脆くなる骨粗鬆症を進行させている方が
少なくありません。
そのため些細な転倒から大腿骨頚部骨折や
大腿骨転子部骨折を引き起こしてしまうのです。
女性高齢者の約17%が骨折・転倒がきっかけで寝たきり=要介護状態に
大腿骨近位部骨折は
①手首の骨折(撓骨遠位端骨折)
②腕の付け根の骨折(上腕骨頚部骨折)
③背骨の骨折(脊椎圧迫骨折)
と並び、高齢者の4大骨折の1つです。
中でも痛みから歩行が困難になる大腿骨近位部骨折は、
寝たきり=要介護状態に陥る重大な骨折として今日、
社会的に大きな注目を浴びています。
高齢者が要介護状態となった原因の
第1位は認知症(18.1%)、
第2位は脳卒中(15.0%)、
第3位は高齢による衰弱(13.3%)で、
骨折・転倒(13.0%)が第4位にランクされています。
とりわけ女性の高齢者の場合、
第1位の認知症(19.9%)に次いで、
骨折・転倒(16.5%)が第2位にランクされているのです。
しかも大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折が、
この要介護状態に陥る「骨折・転倒」の
大半を占めています。
骨折が治っても筋力低下から寝たきりになるケースも…
大腿骨近位部骨折を招くと
太ももの付け根の部分に痛みが生じます。
骨折箇所があまりずれていないと、
痛くても歩けることがあります。
しかし、その多くは
立つことや歩くことができなくなります。
大腿骨近位部骨折の治療で重要なのは、
なによりも患者さんを出来るだけ
早く立ったり歩けたりするように努めることです。
なぜならば骨折で
ベッドに高齢者を寝かせたままにさせていると、
足の筋肉をはじめ全身の筋肉が時々刻々痩せ衰え、
筋力の急速な低下などから
寝たきり=要介護状態に陥ってしまうからです。
事実、高齢者がベッドで
1週間寝ていると筋力は20%低下します。
2週間で36%、3週間で68%低下し、
骨折が治ったとしても
寝たきりとなるケースが後を絶たないのです。
受傷後48時間以内の早期手術が普及する欧米
大腿骨近位部骨折の治療は歩行などが早く可能となる
早期手術を基本とします。
大腿骨の上端=骨頭と隣接する湾曲箇所(頚部)が
骨折した大腿骨頚部骨折には、
主に骨頭を人工のものに置き換える
人工骨頭置換術を行います。
一方、大腿骨頚部のすぐ下の転子部が
骨折した大腿骨転子部骨折には、
主に髄内釘(ガンマネイル等)や金属プレート、
ネジ(スクリュー)などで固定する
骨接合術で治すことが多いといえます。
重要なのは大腿骨近位部骨折を招いて受傷したら、
すみやかに手術を行うことです。
米国をはじめとした欧米のガイドラインでは
受傷後48時間以内の早期手術が推奨され、
寝たきり=要介護状態の防止に大きな成果をあげています。
とりわけ北欧のスウェーデンでは、
大腿骨近位部骨折は受傷後24時間以内の
超早期手術が徹底されています。
甚だしく立ち遅れている わが国日本の現状
一方、わが国ではどうなのでしょうか。
『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン 2021改訂第3版』
(監修・日本整形外科学会等)では、
「できるだけ早期に手術を行うべきである。
早期手術は合併症が少なく、生存率が高く、
入院期間が短い」
と早期手術が推奨されています。
しかし、残念なことに、
「現在の医療体制では欧米並みの
早期手術を行うことは困難なことが多い」
「日本の手術待機期間は平均4.5日
(頚部骨折は平均4.9日、転子部骨折は平均4.1日)
であり、欧米に比べ長い」
と併記されているのです。
実際 、日本の現状は甚だしく立ち遅れています。
大腿骨近位部骨折で病院へ
救急搬送されてきた患者さんでも、
手術を受けるまで何日も待たされる
ケースが少なくありません。
しかし、そんな負の現実を克服するべく、
患者さんが救急搬送されてきたら
すみやかに早期手術を行うという
患者とその家族に寄り添った病院も存在します。
神奈川県横浜市戸塚区にある
東戸塚記念病院もその一つです。
人工骨頭置換術は30分以内、骨接合術は5~10分で可能とする医師も…
では、糖尿病や心臓病など
複数の病気=合併症を抱えるなど、
手術のリスクが大きい高齢の患者さんなどの場合でも、
大腿骨近位部骨折ですみやかな
早期手術が可能なのでしょうか。
実は可能なのです。
1つは患者さんの肉体的負担を軽くするため、
最小の傷(切開創)で、かつより短時間で
手術を完遂できるように手術手技に工夫を凝らし、
その訓練を日夜積み重ねている医師ならば可能なのです。
大腿骨頚部骨折の人工骨頭置換術は
①従来の後方アプローチ
②脱臼がしにくい前方アプローチ
の2つの方法があります。
後方アプローチならば30分以内、
前方アプローチでも1時間以内に終えてしまう
という医師もいるくらいです。
大腿骨転子部骨折の骨接合術の場合、
主にガンマネイル固定術などで手術しますが、
5~10分で手術を終えてしまうというケースもあります。
手術時間が短いほど患者さんの
肉体的負担は少なくなります。
それだけ合併症の重い患者さんでも
手術が可能となるわけです。
整形外科や麻酔科の医師、看護師など手術室スタッフの献身的な一致協力で実現
すみやかな早期手術を可能とするもう1つの要因は、
整形外科や麻酔科の医師をはじめ、
手術室の看護師などのスタッフが献身的に一致協力して
手術にあたっていることです。
麻酔科の医師は患者さんの
全身状態などをすみやかに把握し、
通常は患者さんにとってより負担の少ない
脊椎・硬膜外麻酔(意識が消失しない局所麻酔の1種)
をかけるケースが多いといわれます。
ただし 、心臓病や脳梗塞などで血を固まりにくくする
抗血小板薬や抗凝固薬を服用中の患者さんの場合、
針を刺し入れる脊椎・硬膜外麻酔は
出血→血腫(血の塊)が生じやすいことから
全身麻酔を選択して手術することになります。
日本で大腿骨近位部骨折の早期手術が難しいのは、
麻酔科の医師が少ない
というのも大きな要因といわれます。
早期手術を可能とする病院は麻酔科の医師がフル稼働し、
手術に積極的に協力しているからこそといえるでしょう 。
人工骨頭やガンマネイルなどのすばらしいインプラントの進歩
すみやかな早期手術を可能とするあと1つの要因は、
人工骨頭置換術や骨接合術に用いる
人工骨頭やガンマネイル、スクリューなどの
固定材料(インプラント)や、それらを患部に挿入する
医療機器(デバイス)が進化し、すみやかに手術を
完遂できるようになったこともあげられます。
大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折に用いる
インプラントやデバイスの進歩は
すばらしいものがあります。
その結果 、患者さんの肉体的負担も軽くなり、
すみやかな早期手術が可能になったのです。
先の東戸塚記念病院は
大腿骨近位部骨折の手術件数では
全国でも有数の数を誇り、
高齢者の命と生活を守る地域に密着した病院として
厚い信頼が寄せられています。
普段から早期手術が可能な近くの病院をさがしておくこと
大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折は
40歳頃から徐々に増え始め、
60歳を超えるとさらに増加していきます。
とりわけ骨粗鬆症を進行させやすい
閉経後の女性は注意を要します。
怖いのは患者さんの生活の質が脅かされるだけではなく、
生命予後にも大きな影響が出てくることです。
ちなみに、大腿骨近位部骨折の患者さんの
受傷1年後の生存率は80~90%、
受傷3年後の生存率は約75%
という報告もあるくらいです。
だからこそ可能な限り早く手術を受け、
すみやかに歩行などの機能の回復をはかり、
寝たきりなどを予防することが求められるのです。
ある報告によると、65歳以上の高齢者の20~25%が
毎年転倒するといわれています。
老親はもちろん、あなた自身も高齢になれば、
いつ大腿骨近位部骨折を招いてもおかしくありません。
大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折の
すみやかな早期手術を受けられる病院を、
ご自宅の近くで普段から探しておくとよいでしょう。
取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部
医療ジャーナリスト 松沢 実
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