傷のケア

    特定感染症保険

     

    糖尿病患者さんの中で、

    最近体に傷が付いたらその傷の治りが遅いと感じて気になっている方も少なからずいらっしゃるかもしれませんね。

     

    糖尿病になると、傷の治りが遅くなるって言うけど本当なのでしょうか。

     

    健常人の場合には傷の治りは大体どのぐらいで、果たして糖尿病患者と比較してどうなのか、

    あるいは糖尿病患者さんでは傷の治りが遅くなる明確な理由があるのか等、疑問に思う人も多いかと想像します。

     

    医学的視点から見た創傷治癒のメカニズム、その治癒過程に影響を与える要素は何なのか、

    あるいはそれらの要因によって他に合併症や病変が起こることになるのかを紹介します。

     

    また、傷の治癒のみならず傷跡も残りやすいのか、

    そして残りやすいとすればそれらに対する対策はないかなどに関して説明していきます。

     

    監修者情報

    佐藤祐造 []

    名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

    内科医、医学博士。名古屋大学大学院医学研究科修了。専門は内科・糖尿病学・スポーツ医学など。日本糖尿病学会理事、日本臨床スポーツ医学会会長、日本肥満学会会長などを歴任。著書に『糖尿病教室』(新興医学出版)ほか。

     

    糖尿病と傷の治りとの関係

     

    糖尿病患者では傷の治りが遅い?

     

    糖尿病は、インスリンと呼ばれる血糖を一定の範囲におさめる働きを担っているホルモンが

    十分に働かないために血液中に存在するブドウ糖(濃度)が増加する(高血糖)病気です。

     

    出典:国立国際医療研究センターHP 糖尿病情報センター 糖尿病とは

     

    糖尿病に罹患すると、その代表的な合併症としては四肢のしびれや痛覚が鈍くなる神経障害、

    あるいは手足への血流が悪くなる末梢循環障害が引き起こされやすくなることが知られています。

     

    このように、四肢末梢部などにおける神経障害が悪化すると、

    感覚そのものが鈍くなってしまうために小さな傷を作ったとしても

    それに気付かずに大きな傷に悪化して初めて発見するということも往々にして経験されます。

     

    また、患部への血流が悪いと、傷が仮に形成されたとしても治癒しにくい、あるいは一向に治らない、

    そしてひどい場合には、傷の周りが黒ずんで壊死を起こしてしまうことも認められます。

     

    傷が治った後傷跡残りやすいことがある?

     

    糖尿病を始めとして手足の血流が悪くなる基礎疾患を有している患者の場合には、

    足などに傷ができやすく、仮に治ったとしても慢性化して傷跡が残りやすくなると言われています。

     

    特に、手足は心臓から遠い場所に位置しており、

    血流が相対的に低下しやすく患部に十分栄養が行き渡らないことがその主たる原因と考えられています。

     

    足の傷が慢性化して傷跡が残りやすくなる背景としては、まずは糖尿病特有の神経障害が挙げられます。

     

    糖尿病の合併症の一つである末梢神経障害が併発すると、

    患部の痛み自体を自覚しにくくなるために万が一傷ができても患者さん本人が気付かずに重症化して

    仮に治癒しても傷跡として残ってしまう傾向が指摘されています。

     

    次に、糖尿病と合併しやすい閉塞性動脈硬化症を併発しているケースでは、

    特に下肢の血管が詰まって末梢の血行動態が悪くなり傷が治りにくくなりますし、

    長い期間をかけて治ったとしても傷跡として残る例も散見されます。

     

     

     

     

    糖尿病患者の傷の治りが遅い理由とは

     

    創傷治癒のメカニズム

     

    さて、糖尿病という病気は生体内にインスリンというホルモンが足りなくなる、

    あるいはインスリンの作用が低下し、抵抗性を示す病態であると考えられていますが、

    創傷を治癒させる過程においてはどのようなメカニズムがあるのでしょうか。

     

    糖尿病患者さんにおいて傷の治りが遅くなる原因は、

    いわゆる高血糖状態が長期に続くことによって引き起こされる血流障害、末梢神経障害、

    免疫機能低下の3つのファクターが複雑に絡み合っていると考えられています。

     

    特に血流障害は創傷治癒に最も悪影響を与える要素と言っても過言ではなく、高血糖が続いて動脈硬化が進行すると、

    血管が細くなって自然と血流自体が悪くなることで傷が治るために必要とされる酸素や栄養分が十分に行き渡らなくなることに繋がります。

     

    また、インスリン不足の状態では、蛋白質がどんどん分解され、異化反応が亢進する状態に陥りやすいことが知られています。

     

    一般的に、創傷が治癒していく過程では創傷内で蛋白合成が進む必要がありますが、

    糖尿病発症者においては蛋白合成が低下して蛋白分解がより亢進した異化亢進状態となるために

    どうしても創傷の治癒速度は遅延してしまう傾向になってしまうのです。

     

    創傷治癒の影響要素

     

    糖尿病における高血糖が持続する状態というのは、末梢神経にも悪影響を与えることが指摘されています。

     

    長く延びた神経突起を被う神経鞘の内部にソルビトールが貯留して浸透圧が上昇する結果、

    神経細胞が障害を受けて神経細胞内で電気信号が伝わらなくなることで

    糖尿病性末梢神経障害が合併することが知られています。

     

    この末梢神経障害が引き起こされると知覚神経、運動神経、自律神経全ての神経回路で障害が起こり、

    特に四肢末端での知覚障害を併発して、足先に病変が出現したとしても患部の痛みを自覚できずに傷口が深い潰瘍へと進行悪化することになります。

     

    また、糖尿病性末梢神経障害の病態では、

    皮下の動静脈シャントが常に開放されているために皮膚はいつも暖かい状態が維持されますが、

    真皮への血流減少が起こり真皮の厚さが薄くなるのみならず

    表皮への酸素供給が低下して乾燥肌となって表皮が剥離しやすくなります。

     

     

    傷の治りが遅いことでどんな影響が出るか

     

    糖尿病という病気は、インスリンの作用不足により高血糖が慢性的に続き、

    網膜症、腎症にとどまらず末梢神経障害の合併をしばしば伴うことは周知のとおりです。

     

    本疾患は、血糖値を降下させる作用のあるインスリンと呼ばれるホルモンの分泌量が低下したり、

    働きが悪くなったりすることで発症すると言われています。

     

    インスリン不足による細胞レベルの活動低下は、免疫細胞である好中球やリンパ球にも少なからず影響を与え、

    これらの細胞活性の低下は免疫能と直結することが知られています。

     

    そのため、糖尿病患者さんでは創部の感染がおこりやすく、一旦引き起こされた感染創は治りにくく、

    当然のことながら感染を合併した創傷部位は、感染していない傷と比較して、自然と治癒するに時間がかかってしまいます。

     

     

    防ぐための注意事項と傷跡残らないための対策

     

    それでは糖尿病患者さんにおいて、創傷治癒を改善する方法、

    あるいは傷が感染しないための工夫策、そして傷跡が残らないための対策はどういったものが挙げられるのでしょうか。

     

    まずは、経口糖尿病薬を服用したりインスリンを注射することによって血糖値を正常化することが考えられ、

    仮に糖尿病を罹患した人に侵襲的な傷を作る手術を実施する際などには、

    インスリン注射など血糖値の正常化が原則となっています。

     

    インスリン注射

     

    もちろん、食事療法・運動療法の実施による血糖値のコントロールも重要な観点となります。

     

    インスリンが不足した状態に応じて、食後の高血糖を引き起こしにくい食事内容に変更する、

    あるいは間食や過剰カロリー摂取を制限して膵臓のβ細胞を休息させる、

    また食後に運動をして摂取したカロリーを消費するなどの対策を実践しましょう。

     

    特に、肥満者では脂肪細胞が巨大化してインスリン抵抗性に繋がっており、

    食後の運動療法がキーポイントとして注目されています。

     

    これらの治療策を組み合わせることで、総合的蛋白に異化亢進状態を改善させることができて

    創傷内部での蛋白合成が正常に機能して創傷治癒に貢献させることが可能となります。

     

    これまで述べた対策に加えて、医療従事者による手足の患部などを定期的にチェックしてもらうフットケアを受ける、

    または患者さん自身が意識して実行するセルフケアを心がけることも重要です。

     

    そして様々な専門家の知見を集結した集学的な治療によって、

    糖尿病患者さんに起こりやすい創傷治癒の悪化を予防することができると考えられています。

     

    もっとも注目すべき注意点は、患者さん本人がよりよい血糖値のコントロールを目指すとともに、

    常日頃から傷の箇所に関心を持ち詳細に患部を観察してケアを行うことであり、

    もし異変に気付いたらどんなに小さな傷でも迅速に医療従事者に相談する姿勢が大切です。

     

     

     

     

    まとめ

     

    糖尿病における創傷治癒に関する話題を中心に解説してきました。

     

    現在のところ、わが国では1000万人程度の方が糖尿病に罹患していると推定されており、

    生活習慣病とも深く関連しており合併症を多数認める注意すべき病気のひとつです。

     

    我々の血液中には、傷を治すために必要な成分が豊富に含まれており、

    細菌などの病原体と戦って感染を生じさせない細胞免疫に関する活性機構が存在し、

    なおかつ創傷部から老廃物などを除去する重要な役割があります。

     

    糖尿病を罹患している患者さんの場合には、

    末梢神経障害を合併しやすいだけでなく特に下肢の血管が詰まりやすく、

    足先への血流が悪くなる傾向が多いことが指摘されています。

     

    したがって、そのような患者さんでは仮に足の部分に傷ができても気づかずに放置される危険性も懸念されますし、

    その創傷を治癒するために必要な血液が足りないせいで傷が治るのが遅くなるばかりか、

    傷の周りの健康な皮膚までもが壊死することも危惧されます。

     

    このように、糖尿病におけるインスリン不足状態や高血糖が持続する状況下では、

    多種多様なメカニズムで創傷治癒に悪影響を与えることが知られていますので、

    日常的に糖尿病の病状を制御して良好にコントロールしておくことが最善策であると提言させて頂きます。

     

    今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。

     

     

    【出典】

    国立国際医療研究センターHP 糖尿病情報センター 糖尿病とは