糖尿病と肥満の関連性や、肥満者が糖尿病を予防する方法を解説します!

普段から肥満を指摘されている人、あるいは健康診断の結果で血糖値が高めであり、

このままだといつか糖尿病になる恐れがあると注意された方は少なからずいらっしゃることでしょう。

 

肥満や糖尿病のことが気になって、今のうちに予防対策を講じるべきと考えて、

自分の肥満体形と糖尿病という病気に関連する知識を情報収集する必要性が高まっています。

 

果たして、糖尿病と肥満は何か関連性があるのか、

太っている人が糖尿病に罹患しやすいのは本当なのか、

すでに太っている方が糖尿病を予防するためにはどうすればいいか、

仮に肥満で糖尿病を発症してしまったらどのような治療を実践すべきかなど疑問は尽きません。

 

今回は、糖尿病と肥満の関連性や、

肥満者が糖尿病を予防する方法などを中心に解説していきます。

 

監修者情報

佐藤祐造

名古屋大学名誉教授・健康評価施設査定理事長

糖尿病と肥満の関連性

 

肥満とは、体脂肪が過剰に体内に蓄積した状態のことを指しており、

肥満症とは肥満に起因ないし関連する健康障害を生じている病態を意味しています。

 

肥満者の場合には、インスリンが通常より効きにくく、インスリン抵抗性が増大するため、

初期段階ではインスリン分泌量が増加しますが、

徐々にインスリン分泌能が枯渇することから、糖尿病状態を悪化させることが懸念されます。

 

したがって、肥満者が糖尿病を発症した際には、

病状に応じた減量目標を立てることが重要なポイントになります。

 

肥満のセルフチェック

 

体重が増加して肥満になる原因は、

様々な病気や遺伝など多くの要素が考えられますが、

ほとんどは日々の過食や運動不足、睡眠不足や不規則な生活リズム、

過労やストレスなどの生活習慣が関連して引き起こされます。

 

肥満とは、身体の内臓脂肪や皮下脂肪などの脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、

肥満度を簡便に判定するセルフチェック方法として、

体格指数(略称BMI:body mass index)が挙げられます。

 

BMIは、国際的に広く汎用されており、

常日頃から自分自身のBMIを測定して把握しておくことは、

自らの健康を維持して肥満を予防するために重要な観点となります。

 

BMIの計算式は、[体重(kg)]÷身長(m)の2乗]で求められ、

肥満の判定基準は国によって多少異なりますが、

わが国の日本肥満学会ではBMI 22を標準体重とし、

BMIが25以上の場合には「肥満」であると判定されます。

 

厚生労働省が過去に調査した国民健康・栄養調査の概要によれば、

肥満者(BMI 25以上)の割合は男性で約30%、女性で約22%であり、

直近の10年間で評価すると、男女ともに肥満者数の増減は認められていません。

 

本邦では、2005年に日本内科学会などが主導してメタボリックシンドロームの診断基準を策定し、

ウエストの周囲長(臍の高さの腹囲)が男性85cm、女性90cm以上、

かつ血圧、血糖、血中脂質の3要素のうち2つ以上の項目で

異常値を認める際に「メタボリックシンドローム」と診断されます。

 

肥満で糖尿病になる人は増えている

 

肥満は、特にインスリン抵抗性を主病態とする2型糖尿病の発症危険因子のひとつとして認識されており、

BMIが高ければ高いほど糖尿病の発症率が高くなることが判明しています。

 

特に、日本人を含むアジア人では欧米諸外国と比べて、

同じBMIでも糖尿病に罹患しやすく、

少しの体重増加でも糖尿病の発症リスクが高くなることがわかっているため、

より一層の注意を払う必要があります。

 

さらに、肥満は糖尿病、高血圧や脂質異常症を合併するだけでなく、

血管の動脈硬化を進行させて急性心筋梗塞や脳卒中など

脳血管障害を誘発する原因となることが知られています。

 

肥満で糖尿病になる原因

 

肥満による糖尿病は、血糖値を正常範囲に維持するために

過剰なインスリンを必要とする状態であるインスリン抵抗性に起因すると考えられています。

 

体内に存在する脂肪細胞は中性脂肪を蓄えているだけでなく、

善玉の生理活性物質として知られているアディポネクチンという物質を産生する働きがあります。

 

内臓脂肪が過剰に蓄積した状態では、アディポサイトカインの中でも、

インスリンの作用を阻害して動脈硬化を促進する作用を有する

TNF – αという物質が多く分泌されることに繋がります。

 

さらに、肥満が高度になればインスリンの作用を上昇させて、

高血糖を抑制するアディポネクチンの分泌量自体が低下することになるために、

膵臓ではインスリンの分泌量を増加させる方向に働くことになります。

 

このような状態が長期に続いて、膵臓が疲弊してインスリン分泌量が減少すると、

高血糖状態が続いてしまい、肥満に関連した糖尿病を発症することになります。

 

日々の食べ過ぎや運動不足が顕著であり、

摂取したエネルギーが消費するエネルギーを大幅に上回ると、

余剰となったエネルギーで脂肪細胞が内臓脂肪として体内に蓄えられて、肥満に陥ることになります。

 

人の身体の約2割は、脂肪成分で構成されており、その大半を占めているのが、

皮下に存在する皮下脂肪であり一方で、

内臓脂肪は肝臓や胃腸の周囲にある大網脂肪や腸間膜脂肪として体内に蓄えられています。

 

一般的に、男性では内臓脂肪、女性では皮下脂肪が多く貯留しやすいことが分かっていますが、

糖尿病を代表とする生活習慣病を引き起こす危険性が高いと指摘されているのは、

「皮下脂肪型肥満」よりも「内臓脂肪型肥満」の方であると考えられています。

 

肥満糖尿病の予防

 

減量のために運動している男性

 

普段から減量を意識する

 

糖尿病は、遺伝的な糖尿病の素因があったとしても、

肥満など後天的に規定される外的因子を作らなければ、発症を予防することが可能となります。

 

肥満の場合には、適正体重に減量することが必要であり、

インスリンの効果を減弱させている内臓脂肪を減らして、

常日頃から血糖コントロールを良好にすることが重要なポイントとなります。

 

肥満に伴った糖尿病を罹患している場合でも、

日常的に摂取する食事量や日々の運動量に注意して、

標準体重を目標にして生活習慣を改善し、肥満を予防することによって、

良好な血糖値のコントロールに結び付くことも考えられます。

 

日常的に運動習慣を持つ

 

肥満の方では、インスリン抵抗性を示すことによる糖尿病の発症が多いとされていますが、

正常体重の場合でも体脂肪率に注意して普段から歩行時間を増やすなど、

日常的に運動をする習慣を身につけることが重要です。

 

特に、2型糖尿病における発症要因として、

肥満体形、過食傾向、運動不足の関与が強く疑われており、

定期的に運動することでエネルギーを消費して肥満を解消できるだけでなく、

筋肉活動量が向上してインスリン作用を改善する効果が期待できます。

 

糖尿病の発症を防ぎ、肥満を改善させるために運動習慣を有することは効果的であり、

特に有酸素運動である歩行運動をする際には1日あたり1万歩以上を目標にして、

1週間に少なくとも3日以上の頻度でウォーキングを実行することが推奨されます。

 

肥満糖尿病の治療とそのポイント

 

糖尿病の治療

 

食事療法

 

肥満糖尿病患者の治療の基本は食事療法です。

 

肥満の原因はケースバイケースであり、複数の要因が関与していると考えられますが、

原発性(単純性)肥満では生活環境の中でも

特に日頃の食習慣を改善するような根本的な治療介入が必要となります。

 

食事量を調整して体重を減少することができれば、

糖尿病状態が改善することが大いに期待されますので、

減量指導や根気よく望ましい食生活を送り続けることは肥満糖尿病に対して重要な治療法に繋がります。

 

例えば、ご飯の量はお茶碗多めにするのではなく、

普通盛りにしてカロリーダウンを図ることで3ヶ月かけて1kg、

半年かけて2kgという具合に無理なく減量が実践できます。

 

ラーメンに半チャーハン、うどんにおにぎりという風に炭水化物の重ね食べをすると、

血中にブドウ糖が多く溢れて、エネルギーとして

消費されなかった余剰分のブドウ糖が内臓脂肪に変化してしまいますので、

出来るだけ回避することをお勧めします。

 

肥満の方は、短時間に多くのエネルギーを摂取する早食い習慣などがみられるだけでなく、

昼食後から夜間にかけて間食する機会が多いのも悪影響を及ぼす因子ですので、

望ましい食行動の確立のために、治療目標を具体的に設定することが重要です。

 

毎日の食事内容を日記として記録し、体重測定を日々欠かさずに実践するなど、

自分の食行動の変容を維持させるために

動機づけを高める工夫を行うことが有効的に働くと考えられます。

 

運動療法

 

運動を継続的に実行することは、食事療法と並んで肥満糖尿病における治療の基本です。

 

一般的に、糖尿病を抱えている患者の場合には、

筋力トレーニングに代表されるレジスタンス運動よりも、

無理なく簡便に実践できるようなウォーキングやジョギング、

水泳などを始めとする全身の筋肉を使う有酸素運動が適しています。

 

その背景には、有酸素運動を継続して実践することで、

インスリンの働きがよくなって血糖値を上手く調整しやすいと考えられており、

有酸素運動として少なくとも週に3回程度、

それぞれ30分から60分間行うように意識して実施することが重要なポイントとなります。

 

この有酸素運動は1週間当たりで150分以上かけて実施することがひとつの目標とされており1)、

運動を実践することで血液中のブドウ糖が筋肉にとり込まれやすくなって、

ブドウ糖などの利用が促進され血糖値が下がる現象が認められます。

 

また、運動自体は糖尿病のみならず高血圧や脂質異常症の改善にも役立つと考えられており、

エネルギー消費のバランスが安定化して減量に繋がって肥満を防止することができます。

 

注意:日本人は肥満じゃなくても糖尿病になりやすい傾向

 

日本人では、肥満はなくても糖尿病を含む生活習慣病に罹患する人が多いことが知られており、

その原因としては欧米人などと比較してアジア人である日本人ではインスリン分泌能が低下しており、

また、皮下脂肪に脂肪を十分に貯蔵できず、

リピッドスピルオーバーを生じやすいからだと考えられています。

 

今後は、正常体重である日本人の中にも、脂肪組織の貯蔵能力が低下して、

代謝異常として糖尿病を発症する場合が存在すると予想されることから、肥満でなくても、

脂肪の貯蔵能力に着目した新たな取り組みや対策を講じることが重要です。

 

まとめ

 

肥満は糖尿病の発症リスク因子のひとつであり、肥満度が高ければ高いほど、

糖尿病だけでなく高血圧や脂質異常症なども発症する可能性が高まって、

さらに病状が重症化する恐れが懸念されています。

 

そのために、肥満であれば減量して適正体重を保つことは、

糖尿病の予防と治療という観点から非常に重要な役割を持っています。

 

肥満が糖尿病の原因になるのは、肥満に伴って増加した内臓脂肪がインスリンの働きを妨害して、

血糖値が慢性的に高くなる状態に陥ってしまうからであり、

肥満に合併した糖尿病の基本治療は、

日々の食生活の見直しと定期的な運動を実践することによる減量です。

 

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

 

【出典】

細井 雅之, 薬師寺 洋介, 元山 宏華:糖尿病のリハビリテーションの進歩. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2021 年 58 巻 10 号 1128-1136.

 


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