日中に突然、眠くなる…それは、睡眠に関する病気かも

眠い男性

 

「最近、日中眠くて、仕事に集中できない…」
「睡眠時間を多く取っているのに、
なんだか寝不足の状態が続いている」

 

このような状況に心当たりはありませんか?

もしかすると、その原因は

「睡眠時無呼吸症候群」かもしれません。

 

「睡眠時無呼吸症候群」は、40~50歳代の患者が

半数以上を占めると言われている病気です。

生活習慣病を患っている方は、

「睡眠時無呼吸症候群」を合併している可能性もあります。

 

睡眠に満足していない方は、

一度、本記事にあるセルフチェックを試すことや、

医療機関へ受診してみたりするのが良いでしょう。

 

他人事ではない!大勢の死傷者を出したバスの事故

 

かつて(2014年)、北陸自動車道上り線の

小矢部川サービスエリアで、

宮城交通の夜行バスが

駐車中の大型トラック2台に相次いで衝突。

バスの運転手と乗客1名が死亡し、

24名が重軽傷を負いました。

 

衝撃的なのは運転手が

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の簡易検査で

「要経過観察」と診断されていたことです。

同症候群による眠気が関与していた

可能性が大きいといわれます。

 

一方、その2年前の2012年、

関越自動車道を走行中、道路沿いの防音壁に衝突し、

死者7名、重軽傷者38名の出した

高速ツアーバスの運転手に、

群馬県前橋地方裁判所で

懲役9年6ヵ月等の有罪判決が下されました。

 

この運転手も前橋地裁の鑑定留置で

「中等症の睡眠時無呼吸症候群」と診断されていました。

 

夜間の睡眠中に呼吸が停止する無呼吸や、

呼吸の回数が減少する低呼吸を繰り返し、

質のよい睡眠がとれないことから睡眠不足に陥り、

昼日中に過度の眠気や集中力の低下などを招くのが

睡眠時無呼吸症候群です。

 

患者さんは全国で500万人以上。

成人男性の3〜7%、成人女性の2〜5%が

睡眠時無呼吸症候群であるとの報告もあります。

 

そして男性では患者さんの半数以上を40〜50歳代が占め、

女性では閉経後に急増するとの特徴があるといわれます。

 

睡眠時無呼吸症候群は決して他人事ではない、と

肝に銘じなければなりません。

 

大半を占める閉塞性睡眠時無呼吸症候群

 

睡眠時無呼吸症候群は

閉塞性睡眠時無呼吸症候群と

中枢性睡眠時無呼吸症候群の

2つのタイプがあります。

 

そのうちの大半は睡眠中に喉(上気道)が

閉じたり狭くなったりして、

無呼吸や低呼吸に陥る

前者の閉塞性の睡眠時無呼吸症候群です。

 

睡眠中は喉の周囲の筋肉が緩みます。

息を吸った拍子に、緩んだ喉の壁や

舌の付け根(舌根)が奥のほうへ引きこまれ、

喉を閉じてしまったり、

喉を狭めてしまったりするのが原因です。

 

なぜ喉が閉塞したり狭まったりするのか…。

 

主な要因は肥満による首や喉周りの脂肪の付きすぎです。

 

喉は鼻や口から肺に至る空気の通り道です。

 

喉が閉塞し、呼吸が10秒以上止まった状態を

「無呼吸」と呼びます。

 

そして喉が狭まり、呼吸の回数が減る状態を
「低呼吸」と呼びます。

 

とりわけ無呼吸の重症の患者さんの場合、

呼吸が1分以上止まることもあります。

 

夜間の睡眠中に無呼吸や低呼吸が生じると、

そのたびに脳が覚醒し、質のよい睡眠が得られません。

 

厄介なのは無呼吸や低呼吸による脳の中途覚醒に、

ほとんど気づかない患者さんが多いことです。

 

そのため無自覚のまま日中、

突然、過度の眠気に襲われたり、

集中力や記憶力の低下、疲労感などに悩まされるなど

生活の質の低下を招いたりします。

 

事実、車の運転中に突然睡魔に襲われ

交通事故を起こしてしまったり、

会議中に突然眠ってしまったりする

睡眠時無呼吸症候群の患者さんが後を絶ちません。

 

睡眠中の呼吸停止や大きないびきなどが特徴

 

では、どのようなときに私たちは

睡眠時無呼吸症候群を疑えばよいのでしょうか。

 

まず家族から、次のようなことを注意されたときです。

①夜間の睡眠中に息が止まる、

②大きないびきをかく、

③寝返りが多い

などです。

 

ちなみに息を吸ったり吐いたりするときに

喉の壁が振動し、その振動によって

発せられる音がいびきです。

いびきは睡眠時無呼吸症候群の大きな特徴です。

 

次に

④熟睡感がない、
⑤睡眠中に苦しくて眼が醒める、
⑥夜トイレに立つことが多い、
⑦朝の起床時に頭痛や頭重感を覚える、
⑧性欲の減退、
⑨居眠り、
⑩記憶力・集中力の低下、
⑪労作時の息切れなどを覚える

のような状態が起こるときは

睡眠時無呼吸症候群を疑ったほうがよいでしょう。

 

セルフチェック

 

重要なのは昼間強い眠気に襲われたことがなくても、

睡眠時無呼吸症候群の可能性が捨てきれないことです。

 

なぜならば重度の睡眠時無呼吸症候群の患者さんのうち、

強い眠気を自覚している人は24%のみ。

軽度の眠気の人が76%だった、

という報告もあるからです 。

 

簡易睡眠ポリグラフィと終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)

 

現在、睡眠時無呼吸症候群か否かの検査や診断・治療は、

内科や呼吸器科、循環器科、耳鼻咽喉科などの

診療所や病院で広く行われています。

 

通常、まずコンパクトな簡易睡眠ポリグラフィの

検査機器を患者さんにお持ち帰りいただき、

ご自宅で夜寝るときに

鼻や喉、指先、胸などにセンサーをつけ、

睡眠中の鼻や口の空気の流れをはじめ、いびきの音や

血中酸索飽和度(酸素と結合したヘモグロビンの割合)、

胸部の呼吸運動などの記録を

二晩くらいとってもらいます。

 

その結果から1時間あたりの

無呼吸・低呼吸指数(AHI)を導き出し、

睡眠時無呼吸症候群の有無やその程度を明らかにします。

 

①昼間の眠気が伴うと同時にAHIが5以上のとき
②眠気などの自槌症状がなくてもAHIが15以上のとき

①②の場合は
睡眠時無呼吸症候群と診断されます。

 

また、
①AHIが5~15未満を軽症、
②AHIが15~30未満を中等症、
③AHIが30回以上を重症
と判別します。

 

AHIが低値でも、眠気などの自覚症状が強いときは、

1~2泊の入院で、夜間睡眠中の脳波や眼球運動、

顎の筋電図、心電図なども記録できる

終夜睡眠ポリグラフィ(PSG) と呼ばれる

精密検査を受けてもらいます。

 

PSGによって個々の患者さんの睡眠の質などを

より正確に判定することができます。

 

終夜睡眠ポリグラフィ・簡易睡眠ポリグラフィ

 

CPAP療法はもっとも有効で安全性の確立した治療法

 

睡眠時無呼吸症候群に対する第一選択肢の治療法は、

鼻マスク式経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)です。

 

就寝時に鼻マスクを鼻に装着し、

常時、一定の圧に加圧した空気(陽圧空気)を

鼻から喉→気管→肺へ持続的に送りこみ、

閉塞しがちな喉を広げ、

睡眠時の無呼吸を防止する治療法です。

 

CPAP療法

 

近年は息を吐くときに加圧空気の圧が自動的に下がり

息苦しさの改善がはかれたり、

鼻や喉の乾燥を防ぐ加温加湿機能を備えたりしたりした

CPAP治療機器が登場しています。

 

あるいは、鼻マスクで皮膚がかぶれたりしたときは、

素材(接触部分)の異なったものも用意されています。

 

CPAPの治療機器は驚くほど進化しています。

かつてCPAP療法を続けられず諦めてしまった患者さんも、

ぜひ新たな治療機器でCPAP療法に

再びトライしてみてください。

 

CPAP療法は眠気などの自覚症状が伴う

AHI20以上の患者さんの場合、

健康保険が適用され

安価(3割自己負担で月に約5000円)に使用できます 。

 

軽症から中等症までならば上下完全分離型のマウスピース

 

CPAP療法が継続できない患者さんや、

AHIが30未満までの軽症や中等症の患者さんの場合、

夜間の睡眠中、口の中に

マウスピースを装着する治療法も効果的です。

 

マウスピース療法はマウスピースで

下顎骨を前下方へずらして固定し、

舌や舌根部を前下方へ少し移動させることで喉を広げ、

その閉塞を防止する治療法です。

 

マウスピースは上下一体型マウスピースだけではなく、

近頃は装着中でも会話や咳、水が飲める

上下完全分離型のマウスピースも登場し

患者さんに喜ばれています。

 

上下完全分離型のマウスピースは

「ソムノデントMAS」といいます。

 

下顎を前方へずらす距離が細かく調整できることや、

上下完全分離型なので下顎を動かせるため

使用感に優れているなどの特長があります 。

 

ソノムデント

 

「ソムノデントMAS」は

ソムノメッド社認定歯科医療機関

(同社ホームページhttps://somnomed.com/jp/を参照)で

依頼すればつくることができます。

 

ただし 、上下一体型のマウスピースは

健康保険が適用され安価につくれますが、

いまのところ欧米で主流の

上下完全分離型のマウスピースには

健康保険が適用されません。

 

「ソムノデントMAS」は全額自己負担となり、

通常は15万円前後を要します。

 

高血圧の患者さんの約3割は睡眠時無呼吸症候群を合併

 

一方 、睡眠時無呼吸症候群は

高血圧や糖尿病、不整脈などの生活習慣病をはじめ、

狭心症・心筋梗塞、脳梗塞、

うつ病、認知症と深く関連し、

病状を増悪させる重大な要因として

大きな注目を浴びています。

 

事実、高血圧の患者さんの約3割は

睡眠時無呼吸症候群を同時に患っています。

 

とりわけ「薬(降圧薬)を3種類も服用しているのに、

なかなか血圧を下げられない」など

コントロール不良の患者さんは、

睡眠時無呼吸症候群を患っている

ケースが多いといえます。

 

また、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすい

早朝高血圧の患者さんも、

睡眠時無呼吸症候群を合併していることが多いと

判明しています。

 

睡眠時無呼吸症候群を合併している

生活習慣病の患者さんの場合、

CPAP療法やマウスピース療法などの治療を

積極的に取り組むことで、しばしば生活習慣病の

めざましい改善がはかれることもあります。

 

決して睡眠時無呼吸症候群を侮ってはいけません。

その可能性があると気づいたときは、

すみやかに専門医を受診し、診断と治療を受け、

病状の改善に努めてください。

 

 

取材・文:NPO法人 医療機関支援機構 カルナの豆知識 編集部

医療ジャーナリスト 松沢 実

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