不妊治療をしていると、
治療と仕事の両立に悩む方は少なくありません。
傍からは、「大変だね」の一言で片付けられたり、
腫れ物に触るように扱われたりして、
その大変さは当事者でなければ
なかなか分からないものです。
特に見過ごされやすいのが、
「疲れているのに、休めない」という感覚です。
2025年に5カ国で実施された
「不妊治療と仕事との両立: 国際共同調査からの提言(※1)(※2)」では、
3,000人以上の従業員が回答し、
働きながら不妊治療を受けることが
精神的にも身体的にも大きな負担になっていることが、
数字として明らかになっています。
仕事と妊活の両立が「大変」といわれる理由
仕事と不妊治療の両立が難しいのは、
何か一つが原因というわけではなく、
さまざまな理由が重なり合っています。
- 通院や検査のタイミングが排卵周期に左右され、仕事の予定を自分で決められないこと
- ホルモン治療による体調の変化や、心身への負担が大きいこと
- 不妊治療をしていることを職場に伝えるかどうか、という心理的な負担があること
- 不妊治療のための休暇制度が整っていない職場があること
- 治療が長期化しやすく、時間的・経済的な負担が積み重なっていくこと
こうした負担の大きさから、退職や転職、
働き方を変えることを選ぶ人もいます。
実際、前述の国際共同調査でも39%が
「不妊治療を理由に退職した、または退職を検討したことがある」
と回答しています。
不妊治療で、慢性疲労がなぜ起きるのか

不妊治療中は、仕事や生活の疲労に加え、
治療による身体的・精神的な疲労が積み重なり、
回復する間もなく疲れが蓄積していく傾向があります。
身体面では、ホルモン治療による
吐き気・頭痛・腹部の張り・倦怠感といった
副作用が出ることもあります。
採卵や移植のような処置のある周期は
特に消耗が大きく、処置後も体の回復を待ちながら、
翌日には仕事に戻るというサイクルが繰り返されます。
精神面では、「今回はうまくいくだろうか」
「結果が出なかったらどうしよう」という不安が
常に頭のどこかにあります。
夜中に目が覚めてしまったり、
仕事中もどこか集中できなかったりすることもあります。
それでも職場では「いつも通り」を保とうとするため、
気力だけで乗り越えている状況の人もいます。
私自身も、不妊治療中は、精神的にも肉体的にも
疲れていることが多かったです。
「疲れた」と思っても、通院と仕事の日々で
ゆっくり体を休める時間があまりありませんでした。
また、私は、2人目の不妊治療も経験しましたが、
通院と仕事に加え、育児の疲労も重なり、
気づかないうちに慢性疲労に陥っていました。
また、前述の調査でも、
94%の人が「不妊治療がメンタルヘルスに影響した」と回答し、
80%が「不安や抑うつを経験した」と答えています。
また、69%が「仕事のパフォーマンスに影響した」と感じており、
疲労の影響が心身だけでなく、
仕事の質にまで及んでいることがわかります。
休みを取ることへのストレス
自分でスケジュールを調整しやすい職場であれば、
通院のための休みを取りやすかったり、
融通が利きやすかったりすることもあります。
ところが、シフト制で動いている人などは、
急な通院のために休むことが難しく、
「休みたい」ではなく「休めない」という状況に
置かれています。
そのため、思うように治療ができない場合もあります。
また、不妊治療をしていることを
職場に伝えていない場合、休暇の本当の理由を
説明できないまま無理をし続けることもあります。
誰にも気づかれないように、
いつも通りに振る舞いながら
通院の調整をすることも精神的疲労につながります。
調査でも
60%の人が「受診のための明確な休暇を取得する権利がない」と回答し、
67%が「職場が治療中の従業員への支援を提供していない」と感じています。
休みたいのに休めない、
無理して休みの調整をする状況は、
個人の頑張りでは解決できない職場環境ともいえます。
私自身の経験
私が不妊治療をしていたのは、
今から約10年前のことです。
地方在住で片道約5時間の通院、フルタイムの仕事、
そして、最終的に海外での
卵子提供による治療も経験しました。
我ながら、よくやっていたと思います。
不妊治療をスタートした頃は、管理職でしたが、
治療と仕事を両立する中で
管理職を外れるという選択をしました。
私の場合、役職を外れたことで責任が軽くなり、
結果的に働きやすくなりました。
ただ、キャリアダウンすることが
精神的な苦痛に感じる人も少なくないと思っています。
また、私は、不妊治療をしていることを
上司や同僚に伝えていました。
そのため、比較的休みも取りやすく、
治療に専念することができました。
日本の職場への開示率は57%と
英国(86%)など他国より低く、
言えない・言わないという選択をする方が
多いのも現実です。
伝えることで楽になる面もありますが、
どちらが正しいということではありません。
大切なのは、自分が何を守りたくて、
何を一時的に手放せるかを考えることだと思います。
自分の考えを整理するために、
カウンセラーの力を借りることも、一つの選択肢です。
会社側の課題は?

近年は、不妊治療への理解を深めるための研修を
実施する企業も少しずつ増えてきています。
治療がどのような身体的・精神的負担を伴うものか、
職場としてどう対応できるかを学ぶ機会が広がることは、
とても大切なことだと思います。
調査では、治療を職場に開示した従業員の67%が
「組織が前向きに対応してくれた」と感じており、
不妊治療支援を提供する職場に魅力を感じると
答えた従業員は73%にのぼります。
支援があると感じられることは、
治療をしながら働くための力になります。
制度をすぐに整えられない職場も多いと思います。
それでも、上司が配慮ある言葉をかけること、
職場全体で不妊治療への理解が広がること、
そうした小さな変化の積み重ねが、
当事者の精神的疲労を少しずつ和らげていきます。
社会全体で、不妊治療をしている人を
サポートできる環境に近づいていけたらと思います。
おわりに
今、現在、不妊治療をしている方は、
さまざまな思いを抱えながら
毎日を過ごしていると思います。
通院の調整、体調の管理、
職場での気遣い、感情の整理…、
それだけで、もう十分すぎるくらいのことをしています。
頑張る方法を探すことも大切ですが、
今の自分が何にエネルギーを使っていて、
どこに余白を作れそうか
目を向けてみてほしいと思います。
不妊治療をしていると、通院以外にも、漢方や鍼灸など
妊娠につながりそうなことに
チャレンジしている方も多いと思います。
つい足すことを考えがちですが、
「がんばらないこと」を「がんばる」ことを
意識することも時には大切です。
治療を続けること、立ち止まること、
ペースを落とすこと、誰かに頼ること、
どれも立派な選択です。
不妊治療をしている全ての方が、
体と心の声を聞きながら、
健康第一に過ごせることを願います。
(※1) NPO法人Fine.『The Impact of Fertility Challenges at Work: International Insights』(国際調査レポート・日本語まとめ資料)
(※2) NPO法人Fine「「仕事と不妊症・不育症治療の両立」に関する 5 ヵ国患者団体 国際共同調査結果」
