不妊や不育にまつわる体験は、
誰一人として同じ体験はありません。
今回は、不妊治療を卒業し夫婦二人の生活を選んだ
女性当事者の体験談をご紹介します。
「妊活中は、お互いにパートナーの存在価値を再認識 〜豊かな人生の一歩を〜」
母になりたいという思い
「母になることが女性の幸せ」と信じて疑わず、
進学も就職も進めてきた私は、
結婚してから約10年赤ちゃんを望み続けたものの授からず、
現在は夫婦ふたりの生活を過ごしています。
なぜ私が「母になることが女性の幸せ」と
思うようになったのかをさかのぼってみると、
育った家庭環境が大きかったと思います。
祖父母と両親と兄弟3人の7人家族で育ち、
母のことが大好きでした。
いつかこんなにぎやかな家庭を築きたいと
「母になることが女性の幸せ」という思いは
無意識に育まれていきました。
妊活への焦り~年齢のタイムリミット~
妊活は結婚した34歳に開始しました。
避妊をやめればすぐに授かるだろうと
夫婦ともに思っていましたが、
そうでもない結果が続く現実に
だんだん焦りや不安が募ってくるようになりました。
タイミング法での妊娠は
自然妊娠とあまり変わりないとは言いますが、
医師から指導されて行なう性交渉は、
長期化してくると、夫婦関係はギクシャクしていきました。
治療開始から2年後、
36歳になって不妊専門クリニックへ転院し、
人工授精を繰り返すものの妊娠しませんでした。
そしてさらに2年後、ようやく体外受精に進みます。
お金の負担も大きいですが、
それ以上に自然に授かりたいという気持ちが
強かったことから、最初は体外受精には抵抗がありました。
しかし治療を受けてみると、
なぜもっと早くやらなかったのかと後悔しました。
それは、
年齢が想像以上に治療の結果に影響していたためです。
「母になること」がここまで大変な思いをするとは
思いもよりませんでした。
妊活中の悩みと落ち込み、そして心の回復
誰にも悩みを相談できず、引きこもりがちになりました。
周囲の妊娠や出産を素直に喜べないなどの
味わったことがない種類の黒い感情に、
心の中が支配されていくようでした。
相談できる相手がいたら
自分をここまで追い詰めずに済んだかもしれません。
夫は、うつ状態にも近くやつれていく私を見ながら、
生まれてくるかもしれない子どものことや、
私の精神状態を心配し、
治療をやめてほしいと思うことが何度もあったそうです。
そして、42歳の時に転機が訪れました。
医師から子どもを望むのは難しいと告げられたのです。
私にとって、子どものいない人生が
幸せだとは想像できませんでしたし、
到底受け入れられませんでした。
そこで、夫と相談し最後にもう1回、
体外受精にチャレンジすることにしました。
一旦治療はお休みし、心身を整えようと
週1回続けていたヨガを、
毎日自宅で行なうようになりました。
ヨガを通して自分の気持ちと向き合うことができ、
落ち着きを取り戻し、
心身に良い変化を感じることができました。
すると、自然に妊娠したのです。
しかし、喜ぶのも束の間で流産となり、
落ち込みましたが、妊娠できたことで
少し自信を取り戻せました。
さらにヨガを深め、1年後にまた自然に妊娠したものの
流産、44歳でした。
年齢が高くなるにつれて流産のリスクも上がるのです。
自分を受け入れること。夫婦2人、豊かな生活を探していく
その後、ヨガインストラクターの資格を取得し、
同時に不妊で悩む人をサポートしたいという
思いも芽生えていき、
NPO法人Fineの不妊ピア・カウンセラー養成講座を
受講しました。
その講座で不妊特有の心理を学び、
自分が抱いていた黒い感情は、妊娠を望み、
がんばっている時期には特有の自然なものだということを
知ることができました。
そして、治療中の過去の記憶を思い返し、
当時の体験や感情と向き合いました。
自分のつらい記憶を受け止める度に、
心の傷が和らいでいくことを感じました。
ふとした瞬間、「今のままでも悪くない」
そう思えたのです。
母になる夢をあきらめるのではなくて、
今の自分を受け入れることができ、
母になりたかった思いこそが
自分を追い詰めていたことに気づきました。
夫婦で「子どものいない人生でも幸せになろう」
という話もできるようになりました。
治療中はぶつかり合いながらも
夫婦の絆ができていたのだと感じています。
夫は、
「治療の体験は、子どもを授かることを目標として考えると失敗になるかもしれないけど、妊活中はパートナーの存在価値を再認識できた。つらいだけの経験ではなかった。」
と振り返ります。
妊活を始めた頃から、妊活の正しい知識を得る機会や、
治療の状況ごとに信頼できる相談先があれば、
人生変わっていたかもしれません。
子どもが欲しかった思いはありますが、
つらいという感情は、今はもうありません。
最近は自然が豊かな場所に移住し、
「豊かに生きる」とは何かを夫婦ふたりで楽しみながら
模索しているところです。
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