共働き家庭が半数を超えた今、
「育児を行うために休暇を取ること」は
多くの保護者にとって身近な選択肢となっています。
今回はこの選択肢を支える
「育児・介護休業法」について解説していきます。
※制度名は「育児・介護休業法」ですが、ここでは特筆すべき場合を除き、「育児」に焦点を当てて解説していきます。
育児・介護休業法とは
まず、「育児・介護休業法とは何か」について
解説していきます。
どんな法律? いつから始まった?
育児・介護休業法は、
働きながら子供を育てたり介護をしたりすることが
できるようにするための法律です。
仕事と家庭を両立させる手助けになるものであり、
福祉・経済の両方を促進することを
目的として制定されました。
育児・介護休業法の歴史は古く、
1972年の「勤労婦人福祉法」に
その原点を見ることができます。
そこには、
「育児のために仕事上の便宜を図ること」
が努力義務として制定されていました。
やがてこれは、男女雇用機会均等法へと
姿を変えていきますが、この考え方は残り続けます。
そして1992年には「育児休業法」として
ピックアップされるようになり、
1995年には「育児・介護休業法」というかたちで
広く利用されるようになりました。
改正前の制度
育児・介護休業法は、幾度もの改正を経てきた法律です。
育児・介護休業法は2022年の4月に改正されましたが、
その前は育児休業をとれるのは、
引き続き雇用された期間が1年以上前である
かつ、子どもが1歳半になるまでに仕事を辞めることが
決まっていない人のみが取得できる
などの制約がありました。
しかし2022年の4月には、
この点の見直しがかかっています。
(詳しくは後述します)
法改正の背景
それでは、なぜこのような見直しが
行われているのでしょうか。
2022年4月の改定に限った話ではありませんが、
見直しの理由には以下のようなものが挙げられます。
女性の出産後の離職率
データによって多少の違いはありますが、
出産後に離職する女性の割合が非常に多いというのが
育児・介護休業法見直しの理由のひとつだといえます。
少し古いものですが、
内閣府男女共同参画局がまとめたデータによれば、
有職女性が第1子出産後に退職する割合は
実に46.9%に上ります。
2009年まではもっと退職者の割合が大きかったので
改善したとはいえますが、
それでも、半分近くの女性が出産を機に
仕事を辞めているのです。
もちろん、これは単純に
「子どもと長く過ごしたいので辞める」
「もともと辞めたかった」
という個人の要望によるところもあるでしょう。
しかし「働きたいのに働けない」という
女性がいるのであれば、これは問題です。
「働きたいのに働けない」という
女性が働きやすい環境を作るために、
法律の改正が行われてきたのです。
出典:内閣府男女共同参画局「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について」
男性の育休取得率
男性の育休取得率は、多少の増減はあるものの、
基本的には右肩上がりで増えていっています。
1991年にはわずか0.12%にすぎなかったのに、
2020年には12.65%と実に100倍以上にも成長しています。
1993年には1000人に1人程度しか
育休を取得していなかったのに、
2020年には8人に1人程度は
育休を取得するようになったのです。
これは非常に大きな変化だといえます。
ただ、それでもまだ十分ではありません。
「子どもと多く触れ合いたいのに、育休がとれない」
「妻と交代で育休をとっていき、お互いのキャリアに影響がないようにしたいのに、なかなか休みがとれない」
などのような悩みを抱える男性も多くいます。
このような悩みも、法の改正によって
緩和されるものと思われます。
出典:厚生労働省「「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~」
雇用環境による制度の有無と取得率の差
独立行政法人の労働政策研究・研修機構が11年前に出した
「中小企業におけるワーク・ライフ・バランスの現状と課題」では
「企業では育児休業制度の規定があるところは、企業規模が
30人~49人の場合は70%程度、
50人~99人では81%程度、
100人~299人では90%程度、
それ以上は98%」
としています。
また、2016年に出されたデータでは、同じ設問に対して、
「企業規模が30人未満の場合は72%程度、
30人~99人では95%程度、
100人~499人では98%程度、
そして500人以上の場合はなんと100%」
という数字が出ています。
とられた年代によって多少異なりますが、
基本的には
「企業規模が大きければ大きいほど、
育児休業制度がきちんと整備されている」
といえるでしょう。
また、同データでは
「企業規模が大きければ大きいほど、
育児休暇の取得率も高い」
とされています。
育児・介護休業法の改正には、
「雇用環境によって育児休暇の取りやすさが大きく違うという現状の是正」
という目的もあります。
出典:独立行政法人の労働政策研究・研修機構「中小企業におけるワーク・ライフ・バランスの現状と課題」
順次変更!改正後のポイント5つ
さて、ここからは「それでは実際にどのように変わるの?」
という疑問に答えていきます。
育児・介護休業法の改正は、順次現場に反映されていきます。
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を義務化
(2022年4月1日施行)
事業主は、育児休業を取りやすくするために
産後パパ育休
(育休とは別に取得することができるもので、
子どもが生まれて8週間以内のうちに
最大4週間で取得できる休暇)
についての
研修を行ったり、相談窓口を設けたり、
事例の収集及び提供を行ったり、
周知したりしなければならないと定められました。
ちなみにここでは複数の対策を挙げましたが、
事業者はこのなかから最低1つ、
可能ならば複数個の対策をすることが
望ましいとされています。
育児休業の周知・取得意向の確認を義務化
(2022年4月1日施行)
上記にも関連するのですが、
事業者は、妊娠した本人あるいは配偶者が
これを申し出た場合、
個別に「育児・介護休業法を取得するかどうか?」を
聞いたり、周知したりしなければなりません。
なお、当然のことではありますが、
「取らないように」というプレシャーを
かけるようなかたちでの聞き取りは認められていません。
有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件を緩和
(2022年4月1日施行)
すでに述べた通り、かつては
「育児休業をとれるのは、引き続き雇用された期間が1年以上前である
かつ、
子どもが1歳半になるまでに仕事を辞めることが決まっていない人のみが取得できる」
と決まっていました。
しかし現在は、たとえ「引き続き雇用された期間」が
1年未満であっても、この制度を利用できるようになっています。
産後パパの育休の創設、育児休業の分割取得が可能に
(2022年10月1日施行)
先に挙げた「産後パパ育休」は、
2022年の10月1日に新しく制定された制度です。
また、今までは育児休業制度は分割での理由は
原則として認められていませんでしたが、
現行法に改正されたときに
分割での取得も可能になりました。
育児休業取得状況の公表を義務化
(2023年4月1日)
事業者側は2023年から
「自社の育児休業取得状況を公開すること」
を義務付けられるようになります。
これは従業員の数は1000人を超える企業にだけ
求められるものですが、
公表を「義務付けしたこと」には大きな意味があります。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和4年4月1日から3段階で施行」
育休の手続き方法
最後に、育休の手続き方法について解説していきます。
なおここでは、「企業に雇われている従業員の立場」で
お話していきます。
- 育休を取得したい日の1か月前までに、「育児・介護休業申請書」を出す。
また、出産後の場合は母子手帳の写しも出す。 - 企業側から、育児休業の期間や制度についての説明が行われる
- 育休取得にあたり、自分の仕事を引き継ぐ
- 育休をとる
なお、社会保険の免除手続きや給付金の手続きは
企業側で行ってくれます。
そのため、基本的にはお任せすればよいでしょう。
まとめ
仕事はお金のためにするものではありますが、
自己実現のために行うものでもあります。
子どもが生まれたからこそ、子どもが生まれても、
働くことをあきらめる必要はありません。
より多くの人が、子どもを育てながらも働き続けられるように、
育児・介護休業法があります。ぜひ利用してくださいね。
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