定期接種のワクチンなのに、
接種率が異常に低いHPVワクチン。
2021年10月、厚生労働省の専門家部会において
積極的接種勧奨の「再開を妨げる要素はない」として、
今後、積極的なHPVワクチン接種勧奨が行われる可能性が
高まってきました。
そこで、積極的なワクチン接種が呼びかけられる前に
HPVワクチンに関する情報をおさらいしておきましょう。
そもそもHPVウイルスって何?
HPVとは、ヒトパピローマウイルスのこと。
「男女を問わず性交経験のある人の80%以上が生涯で一度は感染する」
一般的なウイルスとされています。
このHPVウイルスには
200種類以上の遺伝子型が存在します。
性感染症のひとつである尖圭コンジローマや
性器疣贅(いぼのこと)の原因となるのは、
6型と11型のHPVウイルスです。
この2つの遺伝子型は、がん化するリスクが低いため
低リスクHPVと呼ばれます。
※ごくまれに悪性化することも明らかになっています。
一方で感染するとがんになりやすい遺伝子型の
HPVウイルスを高リスクHPVと呼びます。
高リスクHPVには、
16・18・31・33・45・52・58・66・68型
が含まれます
これらの高リスクHPVは、
- 子宮頸がん
- 中咽頭がん
- 肛門がん
- 膣がん
- 外陰がん
- 陰茎がん
などの発症に関連します。
なかでも、高リスクHPVは
子宮頸がんの原因の約88.2%を占め、
そのうち16型と18型が約65.4%にものぼるそうです。
この子宮頸がんの発症リスクの高さから、
HPVワクチンに関する報道は、
子宮頸がんの予防であることが強調されます。
そのため女性特有かと思われがちですが、
男性ももちろん無関係ではありません!
HPVウイルスの感染から子宮頸がん発症の過程
ウイルス感染から子宮頸がん発症への経過は
以下の図のようになります。
【参照】Answers News「HPVワクチン変わり始めた風向き…9価の『シルガード9』申請から5年半後越しの発売」
HPVウイルスに感染した場合、
自然に排除されることもありますが、
そのまま留まることもあります。
子宮頸部の細胞がHPVウイルスに感染し、
ウイルスが排出されないまま、時間が経過すると
子宮頸がんとして発現します。
このHPVウイルスに感染してしまっても
がんや感染症を引き起こさないため、
予防としてHPVワクチンの接種が推奨されています。
HPVワクチンの種類や費用、副反応は?
では、HPVウイルス感染を予防するワクチンは
どのようなものがあるのでしょうか?
2021年10月現在、日本国内で承認されている
HPVワクチンは以下の表のとおりです!
【参照】
ワクチンの種類
国内で承認されているHPVワクチンは、
2価・4価・9価があります。
2価のワクチンであるサーバリックス®は2つのHPVウイルス、
4価のワクチンであるガーダシル®は4つのHPVウイルス、
9価のワクチンであるシルガード9®は9つのHPVウイルス
にそれぞれ予防効果を発揮します。
日本産科婦人科学会によると、
ワクチン接種によって作られる抗体は、
少なくとも10年以上は感染予防に必要な抗体を維持する
とされています。
また、3つのワクチンはともに
HPVウイルスに似た粒子を抗原としているため、
ワクチン自体にウイルスへの感染性や発がん性は無い
と示しています。
ワクチンの対象者
サーバリックス®とガーダシル®は
定期接種の対象となっているため、
対象者であれば無料で接種できます。
そのためワクチン接種のための費用はかかりません!
ワクチン接種は、
中学校1年生の間に3回接種するのが一般的で、
高校1年生の年度末(3月31日)までが無料接種の対象です。
したがって高校1年生の方は、
初回を10月中に接種できれば期間内に
3回接種を終えることが可能です。
ワクチンの副反応
ワクチン接種による副反応は、主に
- 発熱
- 接種した部位の痛み
- 腫れ
などが報告されています。
一方で、報告頻度は少ないものの
- アナフィラキシーショック
- ギランバレー症候群
- 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
など重篤な副反応も報告され、
過去に大きな話題となりました。
接種対象外の人もワクチン接種できる?
中学校1年生から高校1年生の女性以外の方も
もちろんHPVワクチンを接種することは可能です。
ただし「任意接種」の対象となるために
HPVワクチンを接種するために接種費用が必要です。
HPVワクチン接種のための費用は、
自治体や医療機関によってさまざまですが、
およそ15,000~20,000(円)×3(回)で
60,000円前後の出費とされています。
また接種対象女性の年齢制限は
添付文書に記載されていませんでした。
海外の報告にはなりますが、アメリカでは26歳まで
女性の接種が推奨されているそうです。
さらに接種年齢が45歳までは
ワクチンの効果が認められています。
男性の接種も、海外の事例になりますが、
21歳まで(免疫不全がある人や男性同士の性的接触がある人は26歳まで)
接種が推奨されています。
海外の状況
2017年の時点で、71か国(世界の37%)が
国家プロジェクトとして
女児に対するワクチン接種を行っています。
11か国(6%)では、男児に対しても
ワクチンを接種するよう推進しています。
2価、4価ワクチンよりも後に開発された9価ワクチンは、
アメリカやオーストラリアなどで、
すでに定期接種ワクチンとして
男女への接種が開始されています。
さらに、9~14歳の女児に対する接種回数に関しては、
WHOの考え方を示すPosithon Paperにおいて、
2回接種が推奨されています。
しかし、日本国内では依然として
2回接種は承認されていません(2021年10月時点)
子宮頸がんはHPVワクチンを接種すれば
発症予防ができるにもかかわらず、
日本では毎年約1万人が罹患し、
約3000人が亡くなっています。
にもかかわらず、接種対象女性のHPVワクチン接種率が
世界の中でも低いことから、
WHOは、日本の状況を危惧し批判しています。
日本はこれからどうなる?
日本では過去に、ワクチンの副反応に対して
センシティブな報道がなされました。
そのため、定期接種にはなっているものの、
国家レベルで接種を促している
とは言い難い状況になっています。
しかし、2021年10月に厚生労働省の専門家部会は、
安全性や有効性を示す結果が、
国内外で集まっていることなどから、
今後、積極的推奨を再開することを視野に入れることを
確認しています。
今後は男性や、接種年齢ではない女性に対しても
公費負担で接種できるような仕組みができて欲しいですね。
【この記事を読んだあなたにおすすめ】
【参照】
厚生労働省「ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がんとHPVワクチン」
厚生労働省 リーフレット「HPV ワクチンの接種に当たって医療従事者の方へ」参考資料
厚生労働省 「子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの副反応に関する論点整理」
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 「医薬品第二部会 議事要旨及びWeb会議議事録」
日本産科婦人科学会「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
国立がん研究センター がん情報サービス「子宮頸がんについて」
こどもとおとなのワクチンサイト「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン」
KNOW-VPD!「ワクチンで防げる子どもの病気 ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど)」