不妊治療を開始するのも検討や勇気を伴うものですが、
それとは比べものにならないくらい悩むのは、
不妊治療のやめ時の決断です。
医師は治療に関するアドバイスはしますが、
やめ時は誰も決めてはくれません。
やめ時の決断は、最終的に夫婦(カップル)の
判断にゆだねられます。
今回は、夫婦二人での人生を選択し、
その道を歩んでいる私の経験も一部入れながら、
不妊治療の終結と夫婦二人の生活について取り上げます。
不妊治療の終結はなぜ難しい?
不妊治療をしている人は「子どもがほしい」
という強い思いを持ちながら、
子どものいる人生を思い描いてきた人がほとんどです。
治療をやめて自然に妊娠したという人もいますが、
治療をステップアップしてきた人や
高齢の人が治療をやめるということは、
子どもを持つことを諦めることにつながることが多いため、
人生を左右する大きな決断になります。
ずっと治療をがんばってきた人にとって、
やめる決断は容易なことではありません。
やめ時に悩んだときには
なぜ治療を続けるか、なぜ子どもがほしいのかをあらためて考える
治療を続ける想いには、
「子どもがいる人生しか思い描いてきていないから」や
「今さらやめられないから」
「夫を父親にしてあげたいから」
「周囲は皆、子どもがいて幸せそうだから」
などさまざまだと思います。
私も子どもがいる人生しか考えていませんでした。
また、「子どもがいれば、幸せな人生を歩めるに違いない」
という思いがありました。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
治療をしているときは、「妊娠=人生のゴール」
「子どもさえいれば幸せ」と思いがちです。
が、しかし、あらためて考えてみてください。
子どもがいたらどう生きていきたいのか、
子どもがいなかったらどう生きていくのか、
具体的にイメージしてみてください。
しっくりきたイメージが、自分が望むことかもしれません。
これらは自身で考えると同時に、
夫婦(カップル)で話し合うことがとても大事です。
子どもを産みたいのか育てたいのか考える
あなたは子どもを産みたいのですか?
それとも育てたいのでしょうか?
もし育てたいという思いが強い場合は、
特別養子縁組や里親などを
検討の一つにしても良いでしょう。
不妊治療中はそんなことまで考えられなかった
という声もよく聞きますが、
あらかじめ知っていれば選択肢を増やすことができます。
無理にやめると決めずに休む
「何歳まで治療をしよう」
「治療費がいくらになるまで治療をしよう」など
あらかじめ決めていたとしても、
いざ決断をする段階になると迷うものです。
治療をやめたら、ずっと思い描いてきた人生が
閉ざされるのだと考えると怖くもなります。
そんなときは、「治療をやめるのではなく、休む」
という選択肢もあります。
焦らず自分の心の声にしたがってみると、
自ずと答えが出るかもしれません。
後悔しないためには、自分が納得するまで
治療を続けることが重要だと思っています。
抱えている思いや悩みを相談する
治療のやめ時に悩んだら、
当事者同士の交流会に参加してみてはどうでしょうか。
当事者を支援するNPO法人Fineでは1年に一度、
当事者のためのイベント『Fine祭り』を実施しています。
(2022年はオンライン開催)
不妊体験者の体験談を聞くことや、
関心のあるテーマのおしゃべり会に
参加することができます。
「不妊治療のやめ時」に関するテーマもあります。
悩みを共有することで、
「悩んでいるのは自分だけではないのだ」
「諦めきれずに次に進めないでいる当事者はたくさんいる」
ということに気付くことができます。
そして、それだけで心強く感じられます。
また、専門家のカウンセリングを受けることを
検討してみるのもよいと思います。
心理士やカウンセラーがいる不妊治療専門クリニックも
ありますし、自治体の不妊相談センターなどもあります。
さらに、Fineでは、
- 生殖心理の専門家への相談
- 不妊体験者である不妊ピア・カウンセラーへの相談
を受け付けています。
お役立ていただければ幸いです。
(Fine 不妊ピアオンライン面接カウンセリングのイメージ画像)
いずれにしても自分の気持ちを一人で抱え込まず、
はき出してみることは大事なことです。
話すことで心が軽くなりますし、
自分のことを俯瞰して見ることにもつながります。
ロールモデルを探してみる
子どもがいるのが当たり前、
夫婦二人の人生なんて考えられないと思うときは、
夫婦二人で幸せに暮らしているロールモデルを
探してみるとよいかもしれません。
夫婦二人でも幸せな人生があるのだと思えるだけで、
新たな見方ができます。
不妊治療をやめても人生は続く
自分を認められるように
治療をやめると、人生の目標がなくなり、
今後どうしてよいのかわからなくなりがちです。
治療をしたのに結果を出すことができなかったと
自分を責め、自分には価値がない
と思ってしまう人も多いです。
そんなときは、
- 自分の好きなこと
- 楽しいこと
- 心地よいこと
- やりがいを感じること
を思い出してみてください。
きっと皆さんあるはずです。
趣味やボランティア、仕事など何でもよいと思います。
私は仕事と不妊治療を両立してきたことから、
子どもがいないなら仕事をがんばろう
と思えたことが大きかったです。
不妊治療を続けていると、
妊娠がすべてになってしまいますが、
選択肢を持っておくと自分が楽になれます。
今はないという人もこれからゆっくり見つけていけば
よいのではないでしょうか。
人生100年時代、これからの人生のほうが長いですから。
やりたいことをやって過ごしていくことが、
結果的に自分を認めることにつながると思います。
不妊治療をした経験から
不妊治療をして、結局子どもを授からなかった。
この経験は無駄になってしまうのでしょうか。
私はそうでないと思っています。
結局子どもを授からなかった方からは
「夫婦とは何かを考えるいい機会になった」
「妊娠出産は当たり前でないことを実感した」
などの声が届いています。
また、先に相談先としてあげましたが、
Fineでは不妊ピア・カウンセラーを養成しています。
養成講座を受講することで、
自分の気持ちを整理していきます。
認定後は、自分の経験をいかしたピア・カウンセラーとして
不妊当事者に寄り添うことで、
やりがいを感じている方が多くいます。
私は不妊治療を通して、
がんばっても叶わないことがあることを学びました。
また仕事と不妊治療の両立にあたって、
支援される側の申し訳ない気持ちや
周囲のサポートがありがたいと思う気持ちを
初めて感じることができました。
今振り返ると
夫婦でがんばったかけがいのない時間でもあります。
私は、一生不妊であることに変わりはありません。
子どもがいたらどんな人生だったかと思うこともあります。
けれど、それなりに楽しく充実した毎日を送れています。
ずっと当たり前に考えてきた家族のかたちを
再構築するのは大変なことです。
しかし、自分の未来を開いていくには、
夫婦二人で家族のかたちを
再構築していくほかないのだと考えています。
家族のかたちは一つではない
皆さんに最後にお伝えしたいメッセージは、
「家族のかたちはさまざまでいい」ということ、
そして「子どもがいなくても、
夫婦二人でも幸せな人生を歩むことはできる」
ということです。
焦らずゆっくりと、ご自身の気持ちに向き合い、
家族のかたちを再構築していってほしいと思います。
【そのほか、NPO法人Fineの記事についてはこちら】