はじめに
妊娠期には、身体の大きな変化や
ホルモンバランスの影響などから
情緒が不安定になることがあります。
また、「マタニティブルー」や「産後うつ」など
産前産後のメンタルヘルスに関する話題を
耳にするようになりました。
「マタニティブルーを乗り越える方法」でも、
マタニティブルーと産後うつの違いや
発症時期や症状、対処法などについてお伝えしています。
出産を控えた妊婦さんやパートナーは、
産後を不安に感じられるかもしれません。
妊娠中から知っておくことで、
予防に取り組むことや
症状が現れた時に少しでも落ち着いて対処できるために、
こちらも参考に読んでみてください。
妊娠期に知っておこう!「産後うつ」の特徴
「産後うつ」とは?
「産後うつ」は、
産後に現れる心身の状態のことを言います。
出産後、ホルモンバランスの急激な変化や
出産による身体的ダメージ、
慣れない育児への不安や睡眠不足・疲労感が重なって
情緒不安定になりやすい、産後3~5日位に現れるものを
「マタニティブルー」といいます。
30~70%の発症率と言われており、
多くの妊産婦が経験します。
発症後、数日~数週間で落ち着くと言われています。
「産後うつ」は、更に深刻な気分の変動であり、
「マタニティブルー」から移行する場合もあります。
産後3-4週間以後に現れ、
2週間以上続くものを言います。
発症率は約10~15%と言われています。
極度の悲しみや怒りなど、気分の波が激しく、
子どもへの無関心や、子どもや自分を傷つけたい気持ちに
なるような場合があります。
親子関係の構築や子どもの発育等にも影響があるため、
早めの医療機関への受診が必要となります。
ママケリーは自分の気持ちを記録して
グラフで見ることが出来ます
【表1】マタニティブルーと産後うつの違い
マタニティブルー | 産後うつ | |
頻度 | 30~70% | 10%程度 |
発症時期 | 産後3~5日頃 | 3~6か月 |
持続期間 | 数日~数週間 | 数か月~数年 |
既往歴 | 関連性低い | 関連性高い |
症状
産後うつの主な症状には以下のようなものがあります。
- 非常に強い悲しみ、悲嘆の感情
- 自分でも理由が分からず頻繁に泣く
- 気分の波が激しく、怒り易く落ち込みやすい
- 通常では考えないような不合理な心配
- 子どもに対しての関心がなくなり、お世話が困難になる
- 子どもを傷つけることに対するおそれ
- 楽しい活動や性行為などの興味や喜びの喪失
- 不安発作またはパニック発作
- 食欲減退または過食
- 自殺念慮
また、下記のような身体的な不快症状を
示すこともあります。
- 重度の疲労感、倦怠感
- 睡眠障害(過眠または不眠)
- 頭痛および全身の痛み
- 集中力低下など
このような状態に対して「自分は母親失格だ」と、
自分を責める気持ちになることもあります。
症状の分類は下記のようになっています。
- 軽度
ある程度の家事・育児は可能(楽しめない状態) - 中等度
軽度と重度の間の状態 - 重度
家事・育児を行うことが困難で「赤ちゃんをかわいいと感じない」
「赤ちゃんが病気になっている」などの妄想
「赤ちゃんや自分を傷つけたい」と思うようになる
重度の場合は、精神科受診が必要となります。
ですが、その前に異変を感じたときには、
早めに地域の保健師・助産師に相談や受診をしましょう。
治療法
「産後うつ」の場合、医療機関への受診が
必要となりますが、多くの方が受診することに戸惑います。
受診するには、赤ちゃんを連れて行くのか預けるのか、
受診するための体制を整えることが難しい場合もあります。
また、当日に自分自身の身の回りや
赤ちゃんの準備をするということが
困難になる場合もあります。
症状が進行すると、受診が更に辛くなるため、
早めの相談、早めの受診がお勧めです。
受診や内服を躊躇してしまいがちですが、
受診することで今の自分自身の状態を
把握することができます。
ですが、受診の際の心配や気持ちが落ち込んでいる時には、
行動を起こすことも困難な場合があります。
そのようなときは、保健師や助産師に相談し、
今の気持ちを話すことや育児相談をすることによって、
気持ちが落ち着き安心できることもあります。
その上で受診のためのサポートや社会資源の紹介を
依頼することもできます。
お住いの地域の保健師や助産師に連絡をしてみましょう。
「産後うつ」の治療法は、
お薬の内服をする薬物療法が中心です。
薬は、主にうつ状態を抑える薬=抗うつ薬を用います。
症状に合わせて、睡眠導入剤や
不安を抑えるお薬も処方されます。
産後に内服するのは、母乳で授乳をされている場合、
抵抗を感じられる方も多いです。
お薬の中には、授乳中でも内服できるものもあれば、
内服するのであれば母乳をミルクに切り替えるよう
指導を受ける場合もあります。
母乳に対する考え方は、個々によって違いがあり、
自分自身が母乳をどうしたいのか、
内服するのであれば何が心配なのかを
医師に伝えて治療の方針を一緒に決めていきましょう。
また、抗うつ薬の中には、効果が出るまでは
2-3週間かかるが、
副作用は内服直後から出るものもあります。
副作用も個々によって違いますが、
吐き気などの消化器症状や倦怠感などによって、
赤ちゃんのお世話が困難になるため
内服を中断してしまう場合もあります。
お薬の効果や副作用は、内服してみないと分からないので、
期待していたのに効果がないと残念に思ったり、
副作用に耐えられないと思い、
そんな自分に落ち込むこともあるかもしれません。
内服を続けることが難しいと感じたときには、
内服の仕方や日常生活の過ごし方に
工夫できることがないか、
主治医や看護師、心理士等の専門家に相談してみましょう。
また、内服しながら在宅で過ごすために、
訪問看護という制度を利用することもできます。
主治医の指示によって看護師が自宅へ訪問し、
療養生活の相談に乗ったり、育児のサポートを行います。
訪問看護についても、地域の保健師や主治医に
相談してみましょう。
また、内服治療と併用して、カウンセリング等の
心理療法を行う医療機関もあります。
主に対話を中心として心の状態の回復を目指すもので、
医療機関の他にも地域でカウンセリングを
受けることもできます。
どのような心理療法が自分に合うのか、
またどんなカウンセラーが合うのかは、
会ってみないと分かりませんが、
まずはお話ししてみて安心できる場を選んでいきましょう。
産後うつは予防できるの?
産後うつの主な原因
様々な見解がありますが、「産後うつ」の直接的原因は、
- 感情をコントロールする脳の神経伝達物質
- 遺伝
- ホルモンの変化
- 環境
などが関連しているといわれています。
妊娠・出産・子育ての時期は、生物学的にも、
社会心理的にも、大きな変化がある時期です。
そこに複数のストレスが重なり、
適応することが難しくなるので発症するとも言われています。
「産後うつ」は決してママ本人の性格が
原因でおこるものではなく、
上記のような原因で起きているひとつの病気です。
下記のような場合が、誘因となると言われています。
- うつ病や気分障害の既往歴がある
- パートナーがいない、経済的な不安
- 育児のサポートが受けられない(家族や友人が近くにおらず、孤立している)
- 家庭内暴力を経験している
- 望まない妊娠
- 人間関係が良好でない状態
- 自分自身や赤ちゃんの健康問題(自身の体調不良や、早産や子どもの先天異常など)
産後うつを予防するために、心がけたいこと
産後うつを予防するために、
「マタニティブルーを乗り越える方法」もぜひ参考にください。
「マタニティブルーとは?産後うつとの違いは何?」で
述べている「マタニティブルーの乗りこえ方」では、
- マタニティブルーのことを具体的に知ること
- 休息をとること
- ママがラクと思えるセルフケア
をお勧めしています。
これらによって、マタニティブルーを乗り越えることは、
産後うつへ移行することを予防することにも繋がります。
これからママになる人へ
さらに、心がけたいこととして、
「これからママになる人へ」でお伝えしている
- 自分自身の気持ちを大切にし、それをお話しすること
- 甘え上手になること
- 産前から産後について話し合っていくこと
は、マタニティブルーや産後うつの予防に役立ちます。
ただ、気持ちを話すと言っても、どう表現していいのか、
どれが自分自身の気持ちなのかが
分からないというときもあります。
それは、決して悪いことではありませんので、
自身を責める必要はありません。
何も考えずに、ただただ
ゆっくり深呼吸を繰り返すことで楽になることも多いです。
妊娠中や産後は、気づかないうちに
心もからだも緊張して過ごしています。
深呼吸は、心と体をリラックスさせてくれます。
「なんだか、しんどい。なんだか、昔の私と違う。」
と思ったら、深呼吸してみてください。
今、あなたは、十分頑張っています。
目の前の赤ちゃんを抱っこして、オムツを変えて、
授乳して、十分に頑張っています。
自分自身へ「よくやってるね」と
声をかけてあげてください。
ゆっくり親になっていきましょう。
子育ては一人ではできません。
「甘え上手になろう」と言ってはいますが、
他の人と一緒に育児をしていくことは
決して「甘え」ではありません。
当然のことです。
いろんな人が関わることで、
赤ちゃんは多くの愛情を受け取っています。
赤ちゃんにとっても幸せなことです。
周囲の人たちと一緒に子育てしていきましょう。
これからパパになる人へ
そして「これからパパになる人へ」では、
- ママを支えるコミュニケーション
- 家事などの協力体制
- 赤ちゃんのお世話
などについて書いています。
このようなコミュニケーションや協力体制が
産後うつ予防に繋がります。
そして、産後1-2か月が過ぎたら、
赤ちゃんを見てくださるところを見つけて、
ぜひ、ママをデートに誘ってください。
二人で外食したり、映画を見たり、お買い物に出かけたり、
結婚前のような時間を過ごすのもいいでしょう。
赤ちゃんのことも気になるかと思いますが、
その気持ちも受け入れながら、
お互いに、妊娠・出産・育児を労う時間を作っていきましょう。
子育ては、これから先もいろいろなことが起きます。
それを二人で乗り越えていきながら
親として育っていきます。
そんなコミュニケーションが、気持ちをホッとさせ
子育ての重圧から少し開放され、
また赤ちゃんと過ごしていくことができます。
このような二人で過ごす時間を作り、
夫婦のコミュニケーションを大切にしていくことは、
パパの精神的安定にとっても非常に重要です。
近年、パパの育休取得率も上がり、
産後育児に取り組むパパも増えています。
育児休暇をとらない場合でも、仕事と育児の両立に努め、
疲労感が増し意欲減退、情緒不安定などの症状を
きたす場合があるとも言われています。
妊産婦の男性パートナーの
メンタルヘルスに関する研究もされており、
妊娠期や産後はパートナーの男性もメンタルヘルスに問題を
抱えるリスクが高まると言われています。
出産や育児は、パートナーの男性にとっても
大きなプレッシャーがかかる人生の一大事。
パパも慣れない育児にストレスが増すことは、
何ら不思議なことではありません。
休息をとることや、一人の時間を大切にするなど、
リラックスできる時間を作り、
深呼吸していくこともリフレッシュのために効果的です。
ママもパパも産後うつなどの予防のために、
お互いに協力し合って
コミュニケーションを密にとることを心がけ、
子育てに取り組んでいきましょう。
周囲の人たちも巻き込んでいこう
上記のようにママもパパも、産後うつなどの
精神的な不調をを引き起こす可能性は誰にでもあります。
その予防のために、パパ・ママだけでは限界があります。
二人だけで頑張ろうとせず、祖父母やご近所・友人など、
周囲の人たちも巻き込んで、
赤ちゃんを中心にチーム一丸となって
大変な時期を乗り越えるようにしましょう。
具体的には、ママやパパが、休息や一人になれる時間を
取れるよう赤ちゃんを預かったり、
ママと赤ちゃんと離れることが不安な場合は、
ママのそばで赤ちゃんのお世話をお手伝うと、
ママとパパはとても助かります。
祖父母や親せきなどの支援とともに、
保育園やファミリーサポートなどの
社会資源も活用しましょう。
「もしかして…?!」と思った時には?
自分で気が付いたとき
ご本人が、もしかして私・・・と思うようなときは、
家事や育児をそれまでのように行うことが
困難になることが多いです。
そこに赤ちゃんに対する重い責任感や、うつかもしれない
と思う罪悪感を抱いて苦しんでいることも多いです。
その状態を話すことは、
とても勇気のいることかと思いますが、
パートナーやご両親に話してみましょう。
治療のための受診に早めに行かれることも大事で、
ご家族に話すのも早い方がいいですね。
できれば、妊娠中や産後の間もない時期に
気分が滅入るなと思う時があったら、
その時から自分自身の調子を話して
理解してもらっておきましょう。
ママ自身が、不安感を感じた時には、
赤ちゃんと2人きりになることは避けて、
どなたかにサポートしていただきましょう。
そして、十分に休息をとるために、
赤ちゃんと離れて休むことが必要な時があります。
申し訳ないと思うかもしれませんが、
ママの回復が一番大切なので、
赤ちゃんを見てもらって、休息をとりましょう。
周りの人で気が付いたとき
なんとなくママの様子が変だなと感じたら、
とにかく休息が取れるように赤ちゃんを預かって
ママだけで休める時間を作るようにしていきましょう。
赤ちゃんの月齢によっては、
ママと離れると泣いてしまって、
他の方が預かることがとても大変になることも
あるかもしれません。
特に、6-7か月を越えるころには
人見知りをするようになり、
ママと離れると激しく泣く場合があります。
赤ちゃんは、それ以前の小さなころから慣れている人は、
預けられても大丈夫なことも多いです。
産後間もないころから、パートナーを始め
いろいろな人と関わることは
赤ちゃんと関わる人が増え、ママが不調な時の預け先が
確保されるということにもなります。
しかし、預けることやママ自身が休むことに
抵抗がある場合もあります。
そのような時は、ママの希望を聞いて、
ママのそばで赤ちゃんのお世話を一緒にしながら、
ママもパパも赤ちゃんと一緒に休むのもいいでしょう。
申し訳ないと思うママの気持ちも汲み取り、
ママがそう思うのも当たり前のことだけど、
今は赤ちゃんのために身体を休めよう。
と声をかけ、一晩でもいいので
ゆっくり休めるようにしましょう。
また、日頃から背中をさすったり、頭をなでたり、
手をマッサージしたり、
スキンシップをとって行きましょう。
心身が疲れているとき、さすってもらうことで
心がほぐれ泣いてしまうこともあります。
ママが泣いたときは、安心している証拠です。
そのままスキンシップをとって待ってあげてください。
疲れているとき、辛い時、
アドバイスがより辛くなる時があります。
大変な様子を見ると、解決策を提示したり、
何かしてあげたくなりますが、
「大変だね。よくやってるね。ありがとう」と、
ただ寄り添ってあげてください。
泣けたときは、少し心が軽くなるときもあります。
また、保健師・助産師などの相談先を
妊娠中からママやパパも共有し、
できれば一緒にお会いしておくと
困ったときに速やかに相談できるので安心です。
サポート体制について
パートナーの場合、お仕事をしていることも多く、
ママの不調にすぐにお休みをとることが
難しい場合もあるでしょう。
できれば、妊娠中から職場での
コミュニケーションを密にし、
調子を崩したときには、
サポートのために休みがとれるようにしておきましょう。
ですが、パパだけでは負担となることもあるので、
祖父母やご親戚など、困ったときに
協力していただけるところを決めておきましょう。
そして、不調な時だけではなく日頃から交流を持ち、
不調に感じた時に速やかにサポートできる体制を
確保しておきましょう。
ご家族などでのサポートのほかに、
社会資源の活用も大切です。
妊娠中から、保健師・助産師などの相談先を確保し、
産後ケア事業や一時保育などの
情報収集もしておきましょう。
特に、前述した産後うつの誘因をお持ちの場合は、
産後の早い段階から利用する計画を立て
予約をするといいでしょう。
それら社会資源の利用料や予約方法など、
市町村によって違いますので、
お住まいの地域のものを把握しておきましょう。
また、受診した場合に訪問看護という医療制度を
利用できる場合があります。
訪問看護は、主治医の指示によって看護職が自宅を訪問し、
ママのお話を聞いたり、心や身体についての相談や
赤ちゃんの育児相談に対応してくれます。
ご家族でのサポートや社会資源を上手に活用し、
大変な時を乗り越えていきましょう。
まとめ
産後うつと聞くと「産後なったらどうしよう」と
怖くなるかもしれませんが、
前述したように予防のためにできることもあります。
また、妊娠期から地域の相談先に繋がっておくことで、
速やかに対応することができます。
コミュニケーションが苦手と思われる方も
いるかもしれませんが、
子育ては一人や二人ではできません。
周囲の人たちや社会と繋がって子育てしていくことで、
子どもは様々なことを学びます。
コロナ禍で社会の繋がりが薄れたとも言われますが、
これからまた、繋がりを大事に
一緒に子育てしていっていだきたいと思います。
■プロフィール
認定NPO法人はっぴぃmama応援団
「ママの笑顔を応援したい!」という思いを持って、助産師・看護師などの専門職や保育士・アロマやヨガの講師・先輩ママなどと供に、親とよいこのサポートステーション『はっぴぃmamaはうす』を運営しています。
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